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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その9 ~お子様ダンジョンに挑戦!~

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~お子様ダンジョンに挑戦!~ 8

 その人形は、まるで生きているように自由に動いていた。操られているのではなく、自分の意思であるかのように、あっちへこっちへとウロウロと走り回っている。

 まるで子供みたい……というのも、事実かもしれない。人形はそれこそ、子供のような姿をしており、顔は常に笑顔だった。

 人形の身なり、というには少し妙な話だが……きちんとした服ではなくラフな格好といえるかもしれない。それでも、ちゃんとした布で作られた服を着ており、深い色の緑色の服だ。また靴も革で作られているらしく、それらをきっちりと着こなしていた。


「に、人形だ……」

「はいはい、いかにも僕は人形だよ! でも、ただの人形じゃないよ!」


 リルナの言葉に、走り回っていた人形はピタリと止まって返事をした。ちゃんと言葉が聞こえているらしく、三人に向かって慇懃に礼をした。


「はじめまして、冒険者の皆様。僕はドールゴーレム。人形を材料に作られたゴーレムさ」


 人形は、そう自己紹介した。


「ゴーレムというこは、お主は魔法で作られたわけか」


 メロディの言葉に、人形は頷く。


「木とか土でゴーレムが作れるんだったら、人形でもゴーレムが作れるよね! もしかしたら、布かもしれないけど」

「あ、確かに」


 どちらかといえば、人形ドールゴーレムというよりクロスゴーレムと呼ぶほうが正しいのかもしれない。


「でも、クロスゴーレムってすっごく強そうじゃない?」

「あ、うんうん、わかるわかるっ」

「だから僕はドールゴーレムって呼ばれるほうが似合ってると思うんだよね~」


 あっはっは、と人形は笑った。真夜中で一人、街中で彼と出会ったとしたら悲鳴をあげて逃げたかもしれないが、今はダンジョンの中。なにが起こっても不思議ではない状況においては、彼の存在は不気味よりも可愛らしいといえた。


「それで、お前さんは何なんや? 敵か?」

「僕は案内人だよ。このダンジョンを案内するのが僕の役目! ヒントも出すよ!」


 ドールは、よろしくお願いします、と今度は丁寧に腰を折った。


「さぁ冒険者のお姉さんたち! お子様ダンジョンに挑戦する? それとも、今日は止めとく? 挑戦するとリタイアするまで外には出られないから注意してね」

「リタイアできるのか?」


 メロディの質問に、できるよ~、とドール。


「再挑戦してもいいけど、内容が変わるから注意! でも、運が良かったら簡単になるよ。頑張れば、赤ちゃん向けダンジョンになっちゃうかもね」

「それはそれで、何か嫌じゃのぅ」

「どれくらいでクリアできるの? ちょっとだけ見ていくっていい?」

「時間は人それぞれだね。それはお姉さん次第さ! 見学は無理だよ、中に入れば、みんなが挑戦者さ!」


 ドールはそういうと、自らが出てきた鉄門を示した。どうやら、鉄門をくぐった瞬間からダンジョン攻略開始とみなされるらしい。

 どうする? とばかりにリルナはサクラとメロディを見る。メロディは腕を組み、なにやら鉄門の向こうを睨み付けている。

 サクラは手に持ったランタンの火を消していた。ダンジョンがみずから照らしてくれるのならば、ランタンの油がもったいない。しっかりと消火を確認してからバッグへとしまった。


「ウチは挑戦してもええと思う。失敗しても大丈夫っぽいしな。なんか、順調に行き過ぎて怖い感じがするけど」

「わたしも挑戦するに賛成っ。メロディは?」

「妾も賛成じゃが……どうにも緊張感が足らん気がするのじゃ」


 確かに、とリルナも思う。でも、ダンジョンの名前に『お子様』が付いているので、それもまた仕方がない気がしないでもない。

 というわけで、


「まぁまぁ」


 と、リルナはメロディの背中を押しながら鉄門をくぐるのだった。

 その先の部屋は先の部屋と変わりなく、ただただ広いだけの部屋。しかし、床となっているブロックの一部が白色で、部屋を横切るラインとなっていた。

 三人とドールは、自然とその白い線で足を止める。見れば向こう側の壁には同じような鉄門があった。


「さぁ、ここからが第一ステージ! バランス崩さず真っ直ぐに進めるかなゲーム!」


 ドールが小さな腕をちょこんと上げると、部屋が少しばかり揺れる。


「わ、なになに?」

「地震か?」

「いや、床が開いていきよる」


 サクラが示した通り、床が左右に開いていった。魔法で動いているのか、何か仕掛けがあるのかさっぱりと分からないが、床は左右の壁に引っ込むように開いていく。やがて、真ん中に細い通路だけを残して、完全に床がなくなってしまった。


「ルールは簡単! 向こうに渡ればいいだけだよ! ただし、このステージは全員がクリアしなきゃダメだからね」


 ドールの説明に、リルナは思わず開いた床の空間を覗き込む。その先はすぐに真っ暗になっていて、どれくらい深いかサッパリと見当もつかなかった。


「ねぇねぇ、これって落ちたらどうなるの?」

「死にはしないよ。 魔法でスタート地点に戻されるだけ」

「魔法で? 本当かのぅ」

「嘘だと思うなら、僕で試してもいいよ」

「ほな遠慮なく」


 サクラはドールを遠慮なく掴むと、これまた遠慮なく部屋の真ん中あたりの空間を狙って放り投げた。


「ああああぁぁぁぁ、お慈悲をををおおおおぉぉぉぉ……」


 ドールはそんな悲鳴を残しながら闇へと消えていった。


「……ぁぁぁぁあああああああああ!」


 と、思ったら、天井から降ってきた。しかし、その勢いは中々に強烈で、布である彼の体でさえビターンという形で叩きつけられるのだった。


「……うむ。落ちたら死ぬようじゃ」


 スタート地点に戻されるだけで、人間の体がどうなろうが知ったことではない。子供特有の残虐さが少し見えたような気がして、リルナは少しだけ嫌になった。


「で、どうする?」


 サクラの言葉に手をあげたのはリルナだった。


「バランスには自身があるよ。ていうか、身体制御呪文があったら、絶対にバランスを崩さない」

「なるほど、さすがはリルナじゃ」

「えっへん! というわけで行きますっ」


 リルナはマキナの魔法を発動させる。まるでピッチリと固まったかのような彼女の体は恐れることなく細い床へと足をかけた。

 通れる幅はおよそ靴が二つ分。リルナが気をつけをすると、ちょうどの幅だった。そんな幅をふらつくことなく歩いていく。

 そして、半分ほど渡った頃――、パシュ、という短い音が部屋に響く。

 次の瞬間、リルナの額に矢が刺さった。


「は?」


 思わず出てしまうマヌケの声。と、共に見える自分の額の矢羽。


「え、あ、ひゃ、ああぁぁ! 刺された!? でも痛くない!? え、きゃぁ!?」


 思わずマキナを解いてしまったリルナは混乱の勢いも余ってバランスを崩す。右足が床から外れ、左足も踏み外した。そのままトスンと細い床に股間を痛打する。


「だ――……っ!?」


 声なき悲鳴。しかし、落ちるわけにもいかないので、必死にその姿のまま体を固定した。


「り、リルナ……だいじょぶ?」

「うぅ、わ、わたし生きてる……?」


 いろいろなものに耐えながら振り返ったリルナの額には、矢が刺さっていた。ただし、矢の先端にはやじりではなく、吸盤が付いていた。それはしっかりとリルナの額にくっ付いており、なんとも情けない姿で涙目のリルナだった。


「ぷ、く、な、なんというマヌケな姿! あははははは、ははははははは!」

「おいしいなぁ、リルナ。大道芸人ならば百点や。1ギル恵んだるわ」

「え~、なに~、なんなの~、ねぇ~。うわーん、あそこが痛いよ~」


 その後、四つん這いで何とか渡り切るリルナだった。


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