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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その9 ~お子様ダンジョンに挑戦!~

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~お子様ダンジョンに挑戦!~ 4

 商人たちの馬車に揺られる日中。リルナたちは護衛に雇われたわけではないので、馬車の中でのんびりと過ごしていた。

 比較的荷物が少ない馬車であり、少しの木箱が乗っている程度。それらを椅子にしてリルナとメロディは幌の中から外の風景を眺めていた。サクラはというと相変わらず寝転がっている。魔女の呪いのお陰か、はたまた特殊な肉体なのか、食っちゃ寝してても体型は変わらないらしい。


「うらやましい呪いだわ」

「しかし、性が反転して若返りつつ成長停止の呪いじゃろ? いまさら男には成れんし、慣れんじゃろう」


 二百年以上生きると、こうもグータラになってしまうんだろうか、とリルナとメロディは肩をすくめるしかない。

 朝、昼と過ぎれば残るは夜だけ。この時間だけはリルナたちのパーティに仕事が与えられた。つまり、見張りである。商人たちが集まっている商隊は、比較的目立ちやすい。よって蛮族に襲われる可能性も高いわけだ。

 パチパチと爆ぜる音がする焚き火を前にして、リルナとメロディはこれまた談笑に興じている。昼間とは変わってサクラは寝転ぶことなく、呆、と真っ暗な平原を見渡していた。

 現在の場所は、集落も村もない地図にはぽっかりと空欄ができてしまっている。それもそのはず、本当に何も無い場所だった。山も無ければ森もない。見渡す限り、見渡せる。そんな場所であり、不意打ちを喰らう可能性はほぼゼロともいうべき場所。


「サクラは仕事熱心じゃのぅ」

「そうか?」

「山や森はまだしも、こんな平原だと大丈夫じゃない?」


 まぁなぁ~、とサクラは苦笑する。


「みんなが油断しとる時が一番怖いだけや。まぁ、何にもないやろうけどな」


 と、警戒を続けるサクラに、リルナとメロディは頷いた。

 結局のところ、夜間に襲撃はなく朝を向かえ旅は続く。夜の真面目さはどこへやら、サクラはまた幌の中でゴロゴロと日中を過ごしていた。

 そんなことを繰り返した五日目のお昼。商隊は予定通りにヒューゴ城下街ダサンへと到着した。


「うわぁ、すごいっ」


 馬車から飛び降りたリルナは思わず声をあげた。そこにはサヤマ城よりも立派な城壁があり、その手前には大きな堀まであった。川と連動しているのか、静かに水が流れる川には魚の姿も見え、生活用水として使われているのだろう、水路がカンドの街中へ伸びているのが分かる。


「何度来ても見応えはあるのぅ」

「うむ」


 メロディとサクラも城壁を見上げながら言う。リルナほど興奮している訳ではないが、五日も馬車に揺られっぱなしだったので、それなりの達成感を得られた。

 商隊と共に自警団のチェックを受け、冒険者としてカンドの街へと入る。そこはお城へと続く大きな一本道で、幾人もの人々であふれる中央通りだった。


「すっごい人の数だね」

「妾の街とは雰囲気も違うしな」


 うひょー、と感嘆な声をあげていると、二人の後ろへ大柄な男が迫る。


「おいおいお譲ちゃんたち。道の真ん中でぼ~っとしてると、馬に踏んづけられちまうぜ」


 その声に振り返れば、筋骨隆々のおじさんが大荷物を両手で持ち上げていた。


「うわっとっと、ごめんなさいっ」

「カンドの街は初めてかい? なんなら良い宿を紹介してるよ」

「ほんと?」


 おじさんはにっこりと笑って、大きく頷いた。ちなみに、中央通りは馬車の往来が激しいので隅っこを歩くことが暗黙のルールになっているとも教えてくれる。そんなおじさんの話にすでに道の端っこにいたサクラは頷いた。


「って、知ってたら教えてよ、サクラ!」

「いやいや、道のど真ん中で瞳をキラキラさせとる若者に、こっちに来いなんて言えへんよ」

「がっはっは、確かにな! だが俺は親切を超えたお節介で有名だからな。ほら、こっちだぜ」


 麦袋を両肩に抱えたおじさんにそのまま付いて行くと、外壁からお城までの中間地点である広場までやってくる。広場には四本の大きな通りが交差しており、まさに街の中間となっていた。

 そんな中央広場に面している一角にテーブルと椅子が並べたお店があった。どうやら軽く食事ができるカフェらしき店なのだが、おじさんはそこへ迷いなく入っていった。

 続いてリルナたちも入店する。店内は木造で少し薄暗いが、静かな雰囲気が漂っていた。お昼を過ぎた時間帯ということもあってか、お客さんは少なくまったりとした空気が流れている。


「はいよ、注文の麦だ。あとお客さんも連れてきたぜ」

「相変わらずうるさいおっちゃんだな~。あ、いらっしゃいませ」


 おじさんに毒を吐きつつ、リルナたちに営業スマイルをおくったのは、獣耳種の少女だった。種族はネコで、赤銅色の髪から黒いネコ耳がピョコンとはえている。尻尾も黒色で、その先には赤いリボンを結われていた。年齢はリルナと変わらないぐらいで、エプロンドレスが良く似合う少女だった。


「ここって泊まれるの?」

「うんうん、泊まれるよ~。三人? 女の子同士? もしかして冒険者?」

「その質問は全て、うむ、じゃな。お主は従業員かのぅ?」


 メロディの質問に、ネコ少女は首を横にふって、少しばかり目を薄くする。ちょっとしたジト~っという感じで少女は言った。


「店の看板娘をやれ、ってパパに言われてさ。毎日まいにちドタバタで疲れちゃうのよ。しかも、優しくしてくれるのはおじさんばっかり! かっこいい冒険者が来て、私にホレてそのままどこか遠くへ連れてってくれないかしら」

「それは誘拐じゃない?」

「むぅ、夢が無いな~冒険者。あ、おじさんありがとう。お金は末にまとめて払うわ。冒険者のみんなは三人部屋? それとも個別にする? 私のオススメは三階の特別ルームよ」

「どう特別なんや? 安いん?」


 サクラの質問に、看板娘は、逆よ、と答えた。


「一番高いの! そのかわりめっちゃ広くていい部屋よ! しかも私がメイドになってご奉仕するオプション付き! どうかしら?」

「ほう、いくらじゃ?」

「一泊300ギル!」

「さようなら」

「縁が無かったようじゃの」

「ほなな~」

「あ~ん! 嘘です! 三人部屋で一泊15ギルです! お客さんに逃げられたってパパにバレたら叱られちゃうの~!」


 看板娘のネコ少女の必死の営業に屈してか。

 リルナたちは見晴らしの良い中央広場に面するカフェ兼宿『ルール・キャットランタン』を一時的な拠点とすることにした。


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