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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その9 ~お子様ダンジョンに挑戦!~

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~お子様ダンジョンに挑戦!~ 2

 情報屋とは、そのまま文字通りの職業だ。

 多種多様な情報を商売としており、商人を相手する者や冒険者を相手する者、とそれぞれ得意な情報を持っており、盗賊ギルドに所属する情報屋も多数いる。


「こんにちは、リルナ・ファーレンスさん。あと、メロディ・サヤマ様とサクラさん。で合ってますよね?」


 ルルに案内された情報屋の女性はリルナたちを前に人懐きの良い笑顔を浮かべた。

 まるで狐のような笑顔、とリルナは思うのだが、それも仕方がない。彼女は獣耳種であり、その頭から生えている耳は黄色く尖っていた。お尻から生えている尻尾はふわりと大きく、狐らしいふっくらとしていた。


「はじめまして、情報屋のココル・ロックワーカーと申します」


 ココルはそう名乗ると丁寧に腰を折った。と、同時に狐耳がピコピコと揺れる。彼女の癖なのかもしれない。

 年齢は成人にはまだ届かない、まだまだ子供らしさが残っている頃合。およそ16歳ぐらいか、とリルナは思った。

 茶色と黄色の間のような髪色で、ロングヘアー。さすがにメロディほど綺麗な髪質ではない。それでも、狐の獣耳種たる彼女には良く似合う髪形で、美人というよりも可愛らしい。胸は少しばかり大きく、丈の短いシャツで隠れているがそれなりに主張していた。シャツの上からはジャケットを羽織っているが、胸から下は肌が露出しており、腰まわりは丸見え。下はホットパンツなので、なんとも大胆に見える格好をしていた。


「えっと、はじめまして、ココルさん」


 リルナは椅子に座ったまま頭を下げた。それから、テーブルを挟んだ反対側の席をココルに勧めた。


「ありがとうございます。あ、えっと、私も紅茶をもらっていいですか?」

「は~い」


 ココルの注文にルルは返事をして一階へと降りた。


「えっと、それで、ココルさんはどんな用があって来たのですか?」

「あ~、そんな警戒しないでください。といっても、現状は怪しさしか無いと思いますが」


 えへへ、とココルは頬をかいた。


「リルナさんたちは、情報屋を利用したことはありますか?」


 ココルの言葉にリルナとメロディは首を横にふる。ソファで寝転ぶサクラだけは、あるで~、と手を振った。


「情報屋は情報を売るだけや。もちろん、買いもするけどな。今日は買いに来たんか、それとも売りに来たんか、どっちや? 召喚士の情報やったら高いで」


 ココルは、いえいえ、と手を振った。


「今日は売りに来ました。私は冒険者専門で、ダンジョン情報を売っています」

「ダンジョンじゃと!?」


 ココルの言葉に目を輝かせたのはメロディだった。


「はい。つい先日、ゲリラダンジョンの情報を得ました。それをリルナさんたちに買ってもらおうと思いまして」


 ゲリラダンジョン。突如現れるダンジョンに付けられた名前だ。その正体はマジックアイテムが持ち主を探す、もしくは選別するために展開する特殊な空間だった。ダンジョン、と呼ばれてはいるが、迷宮が形成されているとは限らない。例えば、永遠と暗闇を歩かされたり、広大な海の中の小さな島だったり、と多種多様である。

 その入り口もまた多種多様であり、門であったり穴であったり、塔が建っていたり、と一つとして同じ物は無い。

 ダンジョンを踏破した者は、必ずマジックアイテムを手に入れることが出来る。それもゲリラダンジョンを展開できるほどの強いマジックアイテムともなれば強力な物も多く、冒険者の憧れでもあった。


「で、でも高いんじゃないですか?」


 強力なマジックアイテムが手に入る情報。

 もしそれが旧神話時代の物にでもなれば一生遊んで暮らせるお金が手に入る可能性もある。そんな超有益な情報を売り買いしているのが、目の前のココル・ロックワーカーの仕事だった。

 誰かが偶然に見つけたゲリラダンジョンの情報を買い、冒険者に売る。単純ながら、危険な仕事とも言えた。


「あ~、それなんですが……こほん、ん、ん~」


 ココルは少しばかり咳をして、喉の調子を整える。


「?」


 そんなココルの様子にリルナとメロディは頭の上にはてなマークを浮かべた。


「くふふ、こういう交渉はウチの出番のようやな」


 サクラはソファから立ち上がるとテーブル横の席に座る。その際に五枚のギル硬貨をココルの前に置いた。


「えへへ、ありがとうございます。私が売りたいダンジョンなんですけどね、リルナさんたちにピッタリなんですよ。というか、リルナさんたち以外には売れない感じですかね」

「どういうこと?」


 リルナの疑問に、にっこりと笑ってココルは答えた。


「ゲリラダンジョンの名前です」

「なまえ?」


 ダンジョンに名前があることを知ったリルナとメロディは素直に、へ~、と頷いた。


「どんな名前なのじゃ?」

「あ~、え~っとどんな名前だったかな~。ここまで出てきてるんだけどな~」


 と、ルルが紅茶をお盆に乗せて戻ってきた。


「お待たせしました~、紅茶ですぅ」


 ありがとう、とココルは受け取り、ちらりちらりとサクラに視線を送った。


「しっかりしとるなぁ」


 ココルの代わりにサクラがルルのお盆に代金を乗せた。ありがとうございます~、とルルは階下に下りていくのを確認してからココルは続きを話し始めた。


「ダンジョンの名前は『お子様ダンジョン』といいます。あ、そんな嫌な顔をしないでくださいよ、メロディ様。え~え~分かります。そんなダンジョン、挑む気にもなれないですよね。という訳で、私も格安で買い付けた情報なので、リルナさんたちに格安で売りたいと思いまして」


 お子様ダンジョン。

 そう名づけられたゲリラダンジョンに、屈強な成人男性たちが攻略する姿は逆に見たくは無いな、とリルナは思った。同時にお子様ランチに群がる冒険者のおっさんの姿を想像して、なんとも奇妙な気分になる。


「正直、買ったはいいけどどうしようか、と思ってた情報なんですよ。ところが私にも運が巡ってきたのか、近頃有名な冒険者のパーティがいるじゃないですか。龍喚士とお姫様、そして東方の少女剣士の三人組。平均目測年齢12歳だったらお子様ダンジョンに挑戦できると思いません?」

「う、う~ん……ギリギリ?」


 リルナの言葉にメロディは首を横に振る。サクラは相変わらずケラケラと笑うばかりだった。


「ちなみに値段はいくらですか?」

「50ギルで! どうでしょう?」


 ゲリラダンジョンの相場としては一桁安い値段だった。


「ん~、しばらく依頼も受けにくいだろうし、わたしは挑戦してみたいけど。サクラはどう?」

「ええで。暇つぶしにもなるし、そもそも経験を積むにはちょうどいいんちゃうか」

「確かに。いきなり本格的なダンジョンよりも、安全そうだし」


 強力なマジックアイテムほど危険なダンジョンを形成するらしい。せっかく高い金額で買ったゲリラダンジョンの情報も、攻略できないのならば意味が無い。そもそもにしてレベル一桁が挑めるゲリラダンジョンなど滅多に存在しないのが現実だ。


「じゃぁ、わたしとサクラで20ギルだすから、メロディは10ギルでどう?」

「う~む……まぁ、その条件で良いか。しかし妾の初体験が『お子様』とはのぅ……」


 パーティの意見がそろったこともあり、ココルは人懐こい笑顔を浮かべた。


「ありがとう。リルナさんたちのパーティとは今度も懇意にさせてもらうわ。狐だけに。コンコン」


 と、鉄板ネタであろうココルの言葉にサクラが強烈なダメだしをした後、無事にゲリラダンジョンの情報を購入できたのであった。


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