~お子様ダンジョンに挑戦!~ 1
●リルナ・ファーレンス(12歳)♀
召喚士:レベル4 剣士:レベル0(見習い以下)
心:普通 技:多い 体:少ない
装備・旅人の服 ポイントアーマー アクセルの腕輪 倭刀『キオウマル』
召喚獣:5体
●サクラ(212歳)♀(♂)
旅人:レベル90 剣士:レベル4
心:凄く多い 技:凄く多い 体:多い
装備:倭刀『クジカネサダ』 サムライの鎧 サムライの篭手
●メローディア・サヤマ(10歳)♀
剣士:レベル4
心:多い 技:少ない 体:少ない
装備:ヴァルキュリアシリーズ・リメイク バスタードソード バックラー
召喚士リルナ・ファーレンスはここ数日、街を歩くたびに辟易としていた。
それというのも、すっかりと有名人になってしまったから。もちろん、一般の人々はリルナのことなんか、明日の夕飯のメニュー以下の存在だ。奥様方の井戸端会議にだって登場はしない。
では、一体どういう有名なのか。
それは冒険者たちの間で、有名となり話題になっていた。今となっては『龍喚士』なんてご大層な二つ名まで出来上がってしまったぐらいだ。
「よう、龍喚士。まだまだ頑張れよ~」
と、声をかけてくる冒険者はまだマシだった。
「あ~……リルナ・ファーレンスさん? 良かったら一杯奢らせて頂けませんか? 我がパーティ全員で歓迎しますよ」
と、声をかけてくる冒険者が厄介だ。ほいほいと付いて行くと、執拗なパーティ加入要請が待っており、おいそれと帰れなくなってしまうのだ。
目的はもちろん、リルナの持つ召喚術。ホワイトドラゴンを呼び出せるだけでなく、大精霊まで呼び出すことができるのだ。遠征時にこれほど役に立つ能力は無い。
すこし前なら当たり前にいた召喚士という存在だが、今となっては現役で活躍するのはリルナのみ。需要と供給のバランスがすでに崩壊しており、リルナの両手はおろか両足ともども引っ張られている状態だった。
「ふへ~……」
ということもあって、冒険者の宿『イフリート・キッス』の二階にある談話スペースでリルナはテーブルに突っ伏していた。
「なにを落ち込む必要があるのじゃ、我が友人よ。召喚士という職業復興の第一歩ではないか」
「ご機嫌だね、お姫様は」
テーブルに突っ伏すリルナの横で、メロディはアップルパイを食べていた。ちなみにサクラはソファで寝転んで読書中。本のタイトルを見る限り、お子様向けでは無さそうだ。
「ふっふっふ。実は妾にもパーティ加入の要請がきた」
「え!? 抜けちゃうの?」
「ついでにリルナちゃんも一緒にどう? と言われたからのぅ。お姫様はどうやらオマケらしいぞ」
かっかっか、とメロディは笑う。お姫様でリルナを釣るつもりだったのだろう。相手を十歳児と舐めすぎだった。
「サヤマ女王には聞かせられない話だね」
「母上なら嬉々として付いて行って内部破壊を楽しみそうじゃ」
確かに、とリルナは呟き、よくよく考えてゾッとした。
「しばらくは依頼も受けられそうにないな」
話を聞いていたのか、サクラがソファから声をかけてきた。ちらりと覗く本の中身は文字ばかりで、どうやら英雄譚か何か、文字ばかりのお話のようだ。
「わたし抜きで何か受けてもいいよ」
「そういう訳にも行かんやろ。どうや、お姫様。ウチと一緒に娼館の受付嬢でもやるか?」
「おもしろそうじゃな」
「絶対にダメ!」
リルナの一声にサクラは肩をすくめ、再び読書へと戻った。やたらとニヤニヤしているのは、本の内容が面白いのか、リルナの現状が面白いのか。判断はつかない。
「何故じゃ? 別に男と寝る訳ではないぞ」
「いやいや、仮にも領主の一人娘が娼館の受付してるなんて話が広がったら、サヤマ女王にいい迷惑だよ。きっとたぶんっ」
なんかこう政治的に悪い気がする、と十二歳の頭で直感的に感じたことをメロディに説明する。
「しかしのぅ、いつまでもダラダラしておってはいずれお金は無くなるぞ? となれば、妾の実家に案内するが、それでも良いのか?」
「それは嫌だなぁ」
メロディの実家は、そのままお城を意味する。サヤマ城に寝泊りしている冒険者、なんて情報は龍喚士以上の何だか申し訳ない付加価値だ。リルナとしては全力で遠慮したいところではある。
「おっと、ルル殿。紅茶のおかわりを一杯」
「あ、は~い」
通りかかったルルにメロディは紅茶のおかわりを注文し、再びアップルパイに手を伸ばす。
「リルナも食べるか? やはりハーベルクのつくるお菓子は美味しいのぅ」
トロリとこぼれそうになるリンゴの蜜をチロリと舌でうけとめて、メロディはアップルパイを頬張る。シャクリ、とまだ硬さが残るリンゴがおいしそうな音をたてた。
「……一切れちょうだい」
「うむ。乙女たる者、甘いものと可愛いものには勝てぬ」
「あはは……ありがとう。サクラもいる?」
ソファで寝転ぶサクラはヒラヒラと手を振った。
「ウチは爺やからな。甘いものより、甘い誘惑が好きじゃ。ハニートラップに一度はかかってみたいもんや」
「レナちゃんに殺されてもしらないよ」
サクラはケラケラと笑うのみ。数百年生きているだけに、美味しいものはすでに食べつくしたのかもしれない。
「お待たせしました~」
ルルが紅茶をお盆にのせて一階から上がってきた。相変わらず冒険者たちが今日も今日とて押し寄せており、酒場兼食事処は大賑わいだ。
「うむ、ありがとう」
メロディは紅茶のカップを受け取ると、かわりに紅茶の代金分のガメル硬貨をお盆に乗せた。
「あと、お客様が来ているんですけど、どうします~?」
「お客さん?」
リルナの疑問にルルはこたえる。
「はい~。下で待ってもらってますよ~」
「どうせパーティの引き抜きでしょ? 断っていいよ~」
ここ数日、イフリートキッスに直接パーティ勧誘に来る猛者もいることにはいた。最初の数人は相手をしたが、その後はカーラやルルに門前払いをしてもらっている。
「いえ~、それが……」
少しばかり歯切れの悪いルルに、リルナはアップルパイから顔をあげて、どうしたの、と聞いた。
「情報屋さんなのです」
「情報屋?」
聞きなれない名前に、リルナは鸚鵡返しに聞き返すのだった。




