フキの弟子
「守るって、具体的にどのようなことがこれから起こると想定しての言葉ですか?」
余裕綽々のタラキの雰囲気に少しものまれず、やけにはっきりとした口調で質問した。日頃の気弱な物腰は消えている。タラキは当惑したようだった。
「ほんっとに朝と雰囲気が違うな……いてっ」
タラキの頭を突然誰かが殴った。サクラはすぐさま立ち上がってその骨鬼との距離をとる。
「ってえな………フキかよ」
無愛想な老婆が毅然たる態度でこぶしを固めている。
「目を離すとこれか。野次馬根性丸出しで、みっともないこと」
タラキは相好を崩し、ご機嫌な笑い声をあげた。
「みつかっちまった、な」
反省した様子のないタラキをいまいましげににらみ、フキはサクラに目を移した。
「そこの老いぼれ桜のなりそこないになりたいのかい?」
「いいえ」
「なら、すがりついているものを振り払うんだね」
サクラは目をしばたき、口を押さえた。
「あの……私、逃げたりしてすみませんでしたっ」
「ほら、許してやれよフキ」
老いた眉間にしわがよる。
「おだまり!サクラは、風裂きの刑だ。」
風裂きの刑というものがなんなのか、サクラは知らない。でも、なんだか恐ろしい言葉に思えた。
「山の外へ散歩に行ったくらいで大袈裟な。許してやれよ」
フキがふと表情を和らげ、真顔でタラキを見た。
「お前、未熟なものは嫌いだろう。…サクラをかばうなんていったい何をたくらんでいるんだい?善意だとは言わせないよ」
タラキの目が一瞬ひえびえと光り、すぐにくだけた微笑が浮かんだ。
「親愛なるフキに、かわいい弟子から贈り物」