逃げよう
タラキという骨鬼から離れたくて、やみくもに走った。
ようやくサクラが走るのをやめたのは、地面にもりあがる木の根に足をとられて転んだ時だった。転んだまま、ぼんやりと上を向き、十文字のしるしのはいった木を見つけ、青ざめる。
危うく、山を出てしまう所だったらしい。
もしも今、私が山を出ていたらどうなっていただろう。サクラは倒れたまま考えた。
きっと、師がつかないことに業を煮やし一族を裏切って山から逃げ出したと思われて、フキを筆頭にみなが怒り狂っていただろう。
納得して、起き上がる。そこで、妙な考えが浮かんだ。
もし、誰も脱走に気がつかなかったら?
サクラを気にかけている者はいない。今だって、一人でいるけれど誰も探したりしていないだろう。
いなくなればむしろ、せいせいするんじゃないかな?
「逃げよう」
口に出していってみる。怖くなって誰かが聞いていないか確かめる。
誰もいない。
「逃げよう!」
目の前に光が差した気がした。おもかった胸も軽くなり、枯れ葉が燃えるように輝く。
腰にぶら下げた袋に入っている骨を数えた。…多分、しばらくはもつ。
骨鬼には桜以外にも弱点は多いという話を聞いた。でも、具体的になにが危険なのかわからない。そういうことは師に教えてもらうものだから。
それを知らなくても、生きていけるのだろうか。師さえいればよかったのに。
「そうだ」
山を出て、自分で師を探せばいい。すばらしい思いつきに胸が躍る。
サクラは深呼吸して、ついに山から出た。そしてなんとなく、後ろを振り返ったサクラは笑みを凍りつかせた。恐ろしい形相でフキが山を駆け下り、こちらへ向かってくる。
あやまろうか。
でも、もう遅いかも。
「お待ちィ!サクラァァ!」
その声を聞いてサクラの足が勝手に走り出し逃げてしまった。