新しい骨鬼
サクラは朝の仕事をすべて終え、木陰で休んでいた。
もう、皆起きて骨の蔵で食事でもしているだろう。無愛想な骨鬼と食事するのを疎み、サクラはいつも昼ごろに一人で骨の蔵へ行く。それまでは貴重な休養時間だ。
「ナクナク鳥が鳴く 骨を返せと鳥が鳴く 返しはしない 夜明けよ鳥よ」
サクラは歌ってみた。誰にも気兼ねなく声をはらすのは気持ちがいい。
「ナクナク人が泣く 骨がないよと人が泣く…」
この歌は、ほかの骨鬼が歌っているのを聞いて覚えた。だから、一人のときしか歌わない。泥棒だ、歌をまねられた、と責められるのは嫌だ。
「ナクナク―――――」
「小娘が。意味をわかって歌っているのか?」
突然背後で声がした。驚いて振り返る。
見覚えのない骨鬼が口元に苦笑を浮かべて、サクラを見下ろしている。
「歌の、意味?」
「知らねえなら、その歌はやめときな。まったく。どこの馬鹿が教えたんだか」
文句言ってやらなきゃな、とその骨鬼がつぶやいたのを聞いて、サクラは慌てた。
「あ、私が、勝手に覚えてしまったんです」
「そうか?俺はタラキだ。」
タラキに見つめられて、居心地悪くもじもじした。名乗るのは嫌だ。
山にいるものは皆、サクラの名前を知っているはずだから、師の任を終えて帰ってきたばかりなのだろう。
「お前は?」
いつまでも名乗らないのでタラキの目にかすかな疑惑がにじんだ。
「サクラ」
「うえっ、どこだ?」
タラキが辺りを見回す。サクラは胸が苦しくなった。
「私の名前が……サクラ、なんです」
タラキは目を見開き、体をひく。
自分の名に対してどう思われたかをさとり、サクラはその場を去った。