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私の近くに自サバ女がいる

掲載日:2026/08/21

学園の昼下がり、ランチを楽しむ学生でテラスはいっぱいだ。

そんな中、一際大きい声。

「だから、気にすることないって。同じ騎士クラスの友達。そう、男友達だと思って安心してね?ご令嬢。細っ!何食べてたらそんな細いのかね〜」


同じ騎士クラスのアルス子爵家のキャシーの声だ。騎士クラスが多く利用するガッツリ食堂ではなく、淑女クラスがほとんどを占める素敵テラスに来たのに台無しな気分になる。


キャシーは騎士クラスの中でも有名な「自サバ女」だ。ただし、騎士クラスの女性の中でのみ有名。


同じく騎士を目指しているクラスメイト達は発育してきた胸にサラシを巻き、服装にも気を使い、将来、主人となる令嬢や夫人へ失礼のないように礼儀作法を学び、時にはドレス姿でも護衛ができるように、戦えるだけでなく剣の技術以外、淑女教育にも努力を惜しまないのだ。


私も見習って胸にサラシを巻こうとしたら、侍女に「お嬢様には必要ないかと」と言われたのはもはや、黒歴史。


そんなクラスメイトの中で、キャシーは女性らしい体つきを魅せんとばかりに制服を着崩し、胸も強調させている。強調する胸がない私の偏見ではないと思っている。


「武のイージス伯爵家」に生まれたからには騎士を目指したい。兄達からの女に何が出来ると鼻で笑われたが、両親は女性騎士の重要性をしっかり理解して応援してくれている。

なのに、なぜか婚約者となったのは同じ年の文官クラスのアラン様だ。


アラン様は伯爵家の次男だが、王城の文官登用を目指していて、「クラリスが女性騎士となって王城で採用されて、僕も文官試験に受かって結婚したら、王城近くに家を持とう」など嬉しい言葉をくれる。


今日は、そのアラン様との昼食の約束があったのでテラスに来たのに。あのキャシーがいる。


「だーかーら、大丈夫!アタシらは騎士として鍛錬する仲間だから、男同士みたいなもんだって!距離が近い?みんなもそんなもんだよ〜」


その声に近くで食事をしている女生徒たちが、私のこともチラチラ見ているのがわかる。みんなもそんなもん?そんなことある訳ないだろう!と立ち上がり怒鳴りたい衝動を我慢する。

アラン様は、そんな私の様子を見てそっとカトラリーを握りしめ過ぎて白くなった私の手を取った。


「落ち着いて。君があの『自サバ女』などふざけた存在でないのは僕が良く知っている。君と君のクラスメイトの努力もね」


ほっと力を抜いたその時


「キャシー様、こちらのテラスには、貴女のおっしゃる『みんなそんなもん』な騎士クラスの女性の皆さまが揃っていらっしゃっています。その方々の前で同じことをおっしゃってみたらいかがでしょうか」


えっ!私?


アラン様がエスコートするように私を立ち上がらせ、キャシーたちの席の近くへ進む。

驚いたことに、いつもキャシーのせいで嫌な思いしている騎士クラスの女子が、それぞれ婚約者らしき男子生徒にエスコートされ同じくキャシーのいるテーブルを囲んだ。

あっ、クラフト伯爵家のジークが今回のキャシーの標的だったのか。


「この方々も同じ騎士クラスの女生徒の皆さまですわ。貴女と大違いですわね。婚約者様との距離感、キッチリ着こなした制服、姿勢。見てわかりますわ、淑女マナーも洗練されていますわ」


ああ、わかってくれている。


その女生徒(後で、侯爵家のクリスティーナ様と伺った)はキャシーと隣同士で並び、青ざめたジーク様へ毅然とおっしゃった。


「キャシー様に邪魔されたデートの数々はレポートにして両家に報告されています。ジーク様の有責で婚約は破棄されましたわ。もちろん、当家への婿入りも無しになりました。騎士クラスの女生徒の皆さまの、鍛錬だけではない隠れた努力も教わりましたわ。キャシー様をお雇いになる高位貴族、ましてや城の騎士団の採用もないと両親から言われましたの」


キャシーは囲んだ形になっている私たちを見ながら

「な、何言って。ジークとは友達で男友達みたいなものだって!」

と叫んだ。


クリスティーナ様は少しため息をつかれて

「ジーク様、男友達に胸はだけで胸筋みせられながら、すり寄られたことはございまして?」

ジーク様はとんでもないとばかりにふるふる首をふる。気持ち悪いみたいね。私も嫌だわ。


いつも女性騎士を目指して切磋琢磨している侯爵家の畏れ多くも友人のジャクリーンが

「キャシー様、そろそろ自サバを自称されるのは止め、春を売る女性のように、いっそのこと媚びを売りにされたら?ああ、春を売る方々はご商売でしたわね、なら、キャシー様はボランティアでお体をご提供なさってるのね?」


はくはくと言い返せないキャシーは立ち上がり、走ってどこかへ行ってしまった。


残された私たち。残されたジーク様。青ざめを通り越してお顔が真っ白。日焼けしてても白くなるって初めて知ったわ。


後日、ジャクリーンからクリスティーナ様の相談に今回、婚約者も巻き込み、騎士クラスの女生徒が集まるように計らったとのことを明かされた。

ジャクリーンは「計画たてたのは、クラリスの婚約者、アラン殿だよ。クラリスが同じように見られるのが許されなかったみたい。愛されてるね」

とクリスティーナ様と微笑んだ。

私は真っ赤だったに違いない。


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