第七話
(夜に盗むんじゃなかったのか?)
「かもしれません、って書いておいたもん。油断するほうが悪い」
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まんまと人工勇者を作る魔道具、アーティファクトっていうんだっけ、それを盗むことに成功した。
腕輪型遁走用のアイテム。これは姿を一定時間消すことができる魔道具だ。
使用時間は一分程度で、一度使えば二十四時間使えなくなる。
でも一分もあれば、ブランの力を解放させたあたしなら、結構遠くまで逃げることができる。
レオナードって強いんだよね。
ブラン強化のあたしでも、正面から戦っても勝てないんだもん。
くやしいけど、だからこそ逃げるのだ。
目的のものを手に入れて、逃げ切ればあたしの勝ちだからね。
また、ブラン強化した場合、ブランが持つ炎属性を操ることができる。
あたしは水属性であり、この世界では一人一つしか属性を持てないので、疑われる心配はない。
わざと目立つように、これでもかと言わんばかりに炎を巻き散らかしていたのも、それを隠すためなのだ。
うんうん、予告状作戦、完璧じゃなかった?
もう自画自賛しちゃうよ!
家に帰ってさっそく盗んだアーティファクトを分析してみたところ……。
「……なによこれ。電池がない?」
詳しく調べたところ、本体は盗んだけど、電池がない状態だった。
ええ? どういうこと?
当たり前だけど、電池がなければ動かない、ただの箱だ。
(ほう、本体と動力源を分けていたのか。教会もなかなかやるではないか。これはやられたな)
「ブランだって気が付かなかったのに!」
(残り香みたいなものはあるからな。勘違いもするわ。やはり下手に予告などせず、全部盗んでおけばよかったのだ)
「むーー!!」
くやしいっ!
あの大司教、次に会ったら、絶対ハゲ頭に落書きしてやる!
(で、どうするのだ?)
「教会だって電池だけあっても、今後人工勇者は作れない。だから一応目的は達したんだけど……」
(既に作られた人工勇者はいるぞ)
そうなんだよね。
本体を分析した結果、電池があれば人工勇者は動くことができる。
既に作られた人工勇者には、本体だけ盗んでマジックバッグへ隔離したとしても、なんら影響はないのだ。
電池をマジックバッグへ隔離する必要がある。
なおマジックバッグは他の次元と繋がっているせいか、この中に入れて閉めておけば、この世界から一切の干渉を受けなくなるんだよね。
土属性や風属性が持っている探知探索系の魔法も効かなくなるし、おそらく人工勇者と電池の繋がりも消えると思う。
まあ最悪、電池を壊せばいいからね。
問題は、既に作られた人工勇者の中に、レオナードクラスの人間がいないとも限らない。
この迷宮都市ではなく、教会本国に移っているかも知れない。
それが怖いんだよね。
念のために電池も盗んだほうがいい……かな。
「ちょっと考える」
(そうか。まあ今後人工勇者は増えないと思えば、悪くはない手だったぞ)
ブランが慰めてくれた。
これは明日、雪が降るかな。
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ここは迷宮都市にある勇者教会、その一番奥の部屋だ。
そこには一人の男が、水晶球を机の上に置き、頭を下げている。
勇者教会迷宮都市支部のトップ、アルバ大司教だ。
「アルバ大司教」
「……はっ」
水晶球の向こう側には、まだ若い男が座っている。
その男は冷めた口調で、アルバ大司教を問い詰めた。
「それで、おめおめとコソ泥に盗まれたという訳か」
「申し訳ございません、モンロイ枢機卿猊下 ! 動力源はこちらにあります。賊はおそらく再び侵入していくると思われます。その時に必ず取り戻してみせ……」
アルバ大司教の言葉を、手で遮ったモンロイ枢機卿は、どうでもよさそうに言葉を吐いた。
「放置しておけ」
「……は?」
「あれは使えん。四~五回も力を使えば、すぐに死んでしまうではないか。それでは役に立たぬ」
「しかし勇者は我らの悲願では!」
「あれのどこが勇者だ。聞いたぞ、第二級探索者にあっという間に捕らえられたそうだな」
「…………」
「はっ、勇者が聞いて呆れるわ」
制御を外れた人工勇者が、よりにもよってミサの時に暴れたのは失態だった。
それに加え、ミサに参加していたレオナードにあっさり捕まったのだ。
あれでは、どうあがいても言い逃れはできない。
「しかしあれは、元の能力を底上げするものです。もっと強い者に使えば!」
「せっかく育て上げたものを、四~五回の戦闘で使い潰す? そのような使い方など、出来るはずがなかろう」
人を育成するには時間と金がかかる。
ましてや、上位の探索者に匹敵するほどまで育ったものを、使い捨てにするなど、不可能だ。
人類が危機に陥ったのならばともかく、平時でそれは許されない。
「それにあまり強いと、制御できなくなるのだろう? これを造った者も、兵士を集めるためだったのではないか?」
第二級探索者に、あっさり捕まえられたとはいえ、一般人よりは遥かに強力だ。
それを兵士として数多く揃えれば、戦争には強くなるだろう。
それはそれで使い道があるとはいえ、現状必要とは言えない。勇者がいた時と異なり、今代魔王は穏健派と言われているからだ。
事実、魔王が現れてから二百年、一度も魔族から攻めてきたことはない。
「それでは、今後私は何を……」
「むろん、今回の失態をどう回復するかだ。いくら使えぬアーティファクトとはいえ、盗まれたことは事実。教会の失墜は避けられん」
いわば、誰が責任を取るのか。
それを問いているのだ。
「いいか? 君の代わりなどいくらでもいる。切られたくなければ、自分で何とかするんだな」
それを最後に水晶球が沈黙する。
「お、お待ちください猊下! 猊下!!」
アルバ大司教は、水晶球に向かって叫ぶが、何の反応も返ってこない。
暫く水晶球を見つめていたが、その形相が怒りに満ちていった。
「くっ、そ……許さんぞ、盗人が!」




