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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第一章

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第七話


(夜に盗むんじゃなかったのか?)


「かもしれません、って書いておいたもん。油断するほうが悪い」


===


 まんまと人工勇者を作る魔道具、アーティファクトっていうんだっけ、それを盗むことに成功した。


 腕輪型遁走用のアイテム。これは姿を一定時間消すことができる魔道具だ。

 使用時間は一分程度で、一度使えば二十四時間使えなくなる。

 でも一分もあれば、ブランの力を解放させたあたしなら、結構遠くまで逃げることができる。


 レオナードって強いんだよね。

 ブラン強化のあたしでも、正面から戦っても勝てないんだもん。

 くやしいけど、だからこそ逃げるのだ。


 目的のものを手に入れて、逃げ切ればあたしの勝ちだからね。


 また、ブラン強化した場合、ブランが持つ炎属性を操ることができる。

 あたしは水属性であり、この世界では一人一つしか属性を持てないので、疑われる心配はない。

 わざと目立つように、これでもかと言わんばかりに炎を巻き散らかしていたのも、それを隠すためなのだ。


 うんうん、予告状作戦、完璧じゃなかった?

 もう自画自賛しちゃうよ!




 家に帰ってさっそく盗んだアーティファクトを分析してみたところ……。


「……なによこれ。電池がない?」


 詳しく調べたところ、本体は盗んだけど、電池がない状態だった。

 ええ? どういうこと?

 当たり前だけど、電池がなければ動かない、ただの箱だ。


(ほう、本体と動力源を分けていたのか。教会もなかなかやるではないか。これはやられたな)


「ブランだって気が付かなかったのに!」


(残り香みたいなものはあるからな。勘違いもするわ。やはり下手に予告などせず、全部盗んでおけばよかったのだ)


「むーー!!」


 くやしいっ!

 あの大司教、次に会ったら、絶対ハゲ頭に落書きしてやる!


(で、どうするのだ?)


「教会だって電池だけあっても、今後人工勇者は作れない。だから一応目的は達したんだけど……」


(既に作られた人工勇者はいるぞ)


 そうなんだよね。


 本体を分析した結果、電池があれば人工勇者は動くことができる。

 既に作られた人工勇者には、本体だけ盗んでマジックバッグへ隔離したとしても、なんら影響はないのだ。

 電池をマジックバッグへ隔離する必要がある。


 なおマジックバッグは他の次元と繋がっているせいか、この中に入れて閉めておけば、この世界から一切の干渉を受けなくなるんだよね。

 土属性や風属性が持っている探知探索系の魔法も効かなくなるし、おそらく人工勇者と電池の繋がりも消えると思う。

 まあ最悪、電池を壊せばいいからね。


 問題は、既に作られた人工勇者の中に、レオナードクラスの人間がいないとも限らない。

 この迷宮都市ではなく、教会本国に移っているかも知れない。

 それが怖いんだよね。

 念のために電池も盗んだほうがいい……かな。


「ちょっと考える」


(そうか。まあ今後人工勇者は増えないと思えば、悪くはない手だったぞ)


 ブランが慰めてくれた。

 これは明日、雪が降るかな。


===


 ここは迷宮都市にある勇者教会、その一番奥の部屋だ。


 そこには一人の男が、水晶球を机の上に置き、頭を下げている。

 勇者教会迷宮都市支部のトップ、アルバ大司教だ。


「アルバ大司教」

「……はっ」


 水晶球の向こう側には、まだ若い男が座っている。

 その男は冷めた口調で、アルバ大司教を問い詰めた。


「それで、おめおめとコソ泥に盗まれたという訳か」

「申し訳ございません、モンロイ枢機卿猊下 ! 動力源はこちらにあります。賊はおそらく再び侵入していくると思われます。その時に必ず取り戻してみせ……」


 アルバ大司教の言葉を、手で遮ったモンロイ枢機卿は、どうでもよさそうに言葉を吐いた。


「放置しておけ」

「……は?」

「あれは使えん。四~五回も力を使えば、すぐに死んでしまうではないか。それでは役に立たぬ」

「しかし勇者は我らの悲願では!」

「あれのどこが勇者だ。聞いたぞ、第二級探索者にあっという間に捕らえられたそうだな」

「…………」

「はっ、勇者が聞いて呆れるわ」


 制御を外れた人工勇者が、よりにもよってミサの時に暴れたのは失態だった。

 それに加え、ミサに参加していたレオナードにあっさり捕まったのだ。

 あれでは、どうあがいても言い逃れはできない。


「しかしあれは、元の能力を底上げするものです。もっと強い者に使えば!」

「せっかく育て上げたものを、四~五回の戦闘で使い潰す? そのような使い方など、出来るはずがなかろう」


 人を育成するには時間と金がかかる。

 ましてや、上位の探索者に匹敵するほどまで育ったものを、使い捨てにするなど、不可能だ。

 人類が危機に陥ったのならばともかく、平時でそれは許されない。


「それにあまり強いと、制御できなくなるのだろう? これを造った者も、兵士を集めるためだったのではないか?」


 第二級探索者に、あっさり捕まえられたとはいえ、一般人よりは遥かに強力だ。

 それを兵士として数多く揃えれば、戦争には強くなるだろう。

 それはそれで使い道があるとはいえ、現状必要とは言えない。勇者がいた時と異なり、今代魔王は穏健派と言われているからだ。

 事実、魔王が現れてから二百年、一度も魔族から攻めてきたことはない。


「それでは、今後私は何を……」

「むろん、今回の失態をどう回復するかだ。いくら使えぬアーティファクトとはいえ、盗まれたことは事実。教会の失墜は避けられん」


 いわば、誰が責任を取るのか。

 それを問いているのだ。


「いいか? 君の代わりなどいくらでもいる。切られたくなければ、自分で何とかするんだな」


 それを最後に水晶球が沈黙する。


「お、お待ちください猊下! 猊下!!」


 アルバ大司教は、水晶球に向かって叫ぶが、何の反応も返ってこない。 

 暫く水晶球を見つめていたが、その形相が怒りに満ちていった。


「くっ、そ……許さんぞ、盗人が!」




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