第六話
こんばんは、フィーリアです。
今は夜中、みんなが寝ているだろう時間帯にあたしは教会へと忍び込んでいます。
……何が楽しくてうら若き乙女が、夜中にこそこそ盗みの準備をやらなきゃいけないんだろう。
ちなみに、ちゃんと正体を隠すため、ローブを深くかぶっている。
(ほら、さっさと済ますぞ。せっかく温まったのに刀身が冷えてしまう)
湯冷めならぬ、刀身冷め? いや、湯冷めでいいのか。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
お邪魔しまーす。
深夜帯、みんなが寝静まっている。
ただ警備はいるようで、遠くから足音が響いている。
そんな中、あたしはクモのように天井へ張り付いて、ぺたぺたと移動している。
……あたし、クモってすっごく苦手なんだよね。気色が悪い。
なら言うなよっ。
と、自分へツッコミを入れてしまうくらいには、順調だ。
なお、天井にくっついているのは、単にアイテムのおかげだ。
お父様から貰ったマジックバックの中には、色々と便利アイテムが入っているんだよね。
むしろ、お父様が集めたアイテムを、適当にマジックバックの中へ放り込んだ、といった方が正しい。
もうちょっと整理しようよ。
おっと、下に警備の人がいる。
そろりそろり……教会って無駄に天井が高いせいか、まったく気が付かれない。
普通の屋内だと、こうはいかないからね。助かった。
そして三十分ほどで、ぐるっと教会内部を一回りした。
聖堂を中心に奥へいくほど、何らかの魔法鍵みたいなのがかかっている。
たぶん、お偉いさんしか入れない区画なんだろう。
まあ調査するとすれば、そこだよね。
教会以外にも建物はあるけど、おそらくあれらは教会で働いている人たちの寮だと思う。
だからそっちは、今のところ無視でいいや。
よし、奥へいくか。
鍵は?
あたしには、ブラン先生がついている。
ということでブラン先生、任せた。
(無言で我をドアに突きつけるのは、止めて欲しいものだな)
潜入中に会話なんてできないから、態度で示すしかないのだ。
ほらほら、さっさと解除お願いします!
(わかったわかった。まったく、我は魔剣だというのに、剣として使われたことが殆どないぞ。たまには血の雨を降らせたいわ)
恐ろしいことを言わないで。
そんな事態へ陥る前に、逃げるに決まってるじゃない。
(ふむ、これは……なんだ単純だな。ほら、開いた)
あっという間に解錠するブラン。
さすが!
物理的に鍵が必要な場合は使えないけど、魔法的に施錠されているなら、ブランの得意分野だ。
まあ物理的に閉まってるなら、ブランでドアノブを切ればいいだけなんだけどさ。
でもそれをやっちゃうと、あとで閉められなくなるから、調査の段階ではできないけどね。
さて、ここからが本番だ。
ブラン、ちゃんと閉めといて。よし。
それじゃ、天井へぺたり……と。
んー、思ったより広い?
建物の外から見る限り、そこまで大きくはなかったはずなんだけどな。
(少しずつ廊下の角度が変わっているぞ)
え? まじで?
じゃあまっすぐな廊下だと思ってても、いつの間にか九十度曲がってたとか、そんな感じなのか。
しかも十字路が割とある。
これはしっかりマッピングする必要がありそうだ。
ただし内部は警備の人がいない。
おそらく魔法で施錠しているから、必要ないと思ってるんだろう。
もしくは、重要区画だから入れる人がお偉いさんに限定されてる?
でも、それなら誰が掃除しているんだろ。
昼間に、お偉いさんとお掃除担当の人が共同でやってるのかな。
ふーむ、ここがこうなって、うーん。
紙に書いているけど、なんかちょっとおかしい。
ブランの言う通り角度が少しずつ変わっているせいか、マッピングしにくい。
しかもこの区画、窓が一切ないのだ。暗くて仕方がない。
まあ暗視ゴーグルのような眼鏡をかけているから、見えることは見えるけどね。
そして二時間ほどかけて、一応マッピングを終えた。
ややこしいな、これ。
そして、そろそろ夜明けが近くなってきた。
今日はいったん戻るか。
そして三日後、再び教会に侵入した。お邪魔しまーす。
さすがに連続で夜中に侵入はできなかった。眠くてバイトに影響が出てしまったからね。
ごめんなさい。
前回マッピングしたので、今日はその続きからだ。
簡単に重要区画へと入り、書いた地図を元に再度チェックしてみる。
形がいびつだよね。建物と通路が合ってないもん。
あれ、ここの通路とここの通路って、本当に繋がっているの?
んー、なんかおかしくない?
ちょっとだけ、天井に傷をつけてチェックしよう。
そして一周してみて確認する。
やっぱり、ここ違ってるね。書き直しだ……。
ついでに、ドアの鍵も調べておこうかな。ここは魔法鍵、ここは物理鍵……と。
そして夜明けまでマッピングをしたのだった。
===
帰宅したあと、仮眠を取ってから迷宮に潜り、鉱石掘り。
眠くて、結局あまり鉱石も掘れなかった。ちょっと生活費がやばいかも。
夜明けまでの作業は控えよう。
そして、更に一晩寝た翌朝に完成した地図をようやく、じっくり見ることが出来た。
(ほう、こうなっていたのか)
「通路がいびつだよね。変な作りだ」
(そうだな、この部屋が怪しいと思うぞ)
「この部屋ってどれ?」
(ちょうど真ん中辺りの通路沿いにある部屋だ。ここだと外からも内からも、一番遠くなる。また鍵も物理と魔法の両方がかかっていたしな)
あっそうか。外側に怪しい部屋があるなら、壁をぶち壊せばすぐに侵入できるもんね。
一番奥はたぶん一番偉い人、大司教だっけ。その人の部屋だろうし。
そして手前の部屋は幹部でも下のほうだ。
それ以上に、物理と魔法、両方で施錠されていた部屋はここしかない。
「ここに何があるんだろ?」
(魔道具が格納されている部屋だろう)
「なんで分かるの?」
(人工勇者を何人も閉じ込められるような、広い部屋はない。もしかすると、どこかの部屋から地下室へ行く階段がある可能性もあるが……)
ふむふむ。
地下室か、確かにありそうだよね。
(それ以上に、この部屋から怪しい気配を感じた。人工勇者から感じたのと同じだな。おそらくそれに関する魔道具があると思われる)
「調べてるときに言ってよ!!」
(どうせ、逃走経路も調べる必要があるだろう? 完成したあとで良いではないか。それに貴重な魔道具がある部屋だ、守りも固いに決まっておる)
魔道具さえ見ることができれば、魔眼で調べられる。
しかし魔眼といっても、便利に使えるわけじゃない。鉱石掘りでは便利に使ってるけどさ。
魔眼の使用限界は十秒だ。それ以上使えば数時間くらい寝込むほど疲れてしまう。
だから普段は五~六秒までにして、そのあと数分休憩を挟んでいる。
これくらいが、一番負担が軽いんだよね。ちゃんと経験を積んで学んだのだ。
無理やりドアを破壊して、何かの警報装置が鳴り響いたとしよう。
悠長に何十分も時間をかけて調べるなんてことは、不可能だよね。
どうすればいいかな?
陽動?
でももう一人協力者が必要だよね。
……ん?
協力者ね。こんな手はどうかな?
そして一枚の紙を取ってきて、書き始めた。
(何を書いておるのだ?)
「盗みの予告状」
(は? 盗みに入るのに、わざわざ事前に伝えるのか?)
「うん。予告しておけば、きっと大切な魔道具を守るために警戒するでしょ」
(ふむ?)
「もちろん警備の人も多くなる。たぶん探索者協会にも要請が行くと思うんだ。そして探索者の私が、そこに混じっててもおかしくないよね」
(まあそうだな)
「で、その時魔眼でどの魔道具が人工勇者に関係あるのかを、じっくり調べられるよね」
(探索者協会へ要請がいかなければどうするのだ?)
「……ドアを壊して、中にある魔道具を全部盗む」
(今から、その手で盗みに行ったほうが良くないか?)
そうなんだけどね。
でも、人のものを盗むのはよくないし、壁とかドアを壊すのもよくないと思うんだ。
過去何度か盗んだことがあるし、いまさらこいつは何を言っているんだって話なんだけどね。
でもあたしが盗むのは、お父様のためになるようなものだけだ。
なんといってもスパイですから。自称ですけど。
今回だって、万が一レオナードくらい強い人が人工勇者になった場合、魔族が危機に陥る可能性は高いと思う。
だから目的の人工勇者を作れる魔道具だけ、盗むんだよ。
「それに全部盗んでも、いらないし……だから、これは最終手段なの!」
教会から盗んだ魔道具を、どうどうと使えるはずがない。
全部盗んだところで、どうせ全てマジックバッグの肥やしになるだけだ。
(わかった、わかった。ではその手でいこう。ところで予告状はどこに出すのだ?)
「そりゃもちろん、あの区画の一番奥にあった部屋だよ。たぶんお偉いさんの部屋だと思うからね」
よし書けた。
じゃあさっそく忍び込んで、紙を置きにいくか。
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──明日の夜、宝具を頂戴しに参る……かもしれません。
──謎の剣士。




