第五話
コンッ……コンッ……。
今日も今日とて、迷宮に潜って鉱石掘りだ。
もう少しバイトを増やしてもいいんだけど、あたしは探索者だからね。
本業はこちらなのだ。
バーガージャックも楽しいから、困るんだけどさ。
「ん-、次はどこかな」
さっと魔眼を使って、周囲の岩を分析する。
あ、あった。鉄みっけ。
ちょっと休憩を挟んで、見つけた鉄を掘る。
コンッ……コンッ……。
単調作業、つらいわー。
「ブラン。人工勇者を作るやつ、どうすればいいかな」
(教会に忍び込んで調べるしかなかろう?)
「だよね」
突然、教会に人工勇者が現れて暴れるってのが、そもそも怪しい。
寿命を削るリスクがあるような、魔改造をされたんだし、そりゃお怒りモードになって暴れてもおかしくないからね。
ということは、教会内部のどこかで人工勇者が作られていて、そこから一人どうにか抜け出せた感じかな。
自分で推測したけど、それだと実験動物扱いじゃん。
酷いよね。
じゃあ、あたしはどうするべきか?
ブランの言う通り、教会に忍び込んで調べるのが正解なんだろうね。
前のミサで聖堂までの道は分かったけど、それ以外の通路やら逃走経路も調べる必要がある。
まずはマッピングからか。
あ、鉄掘れた。バッグに入れて……と。
さて、次だ。
分析っと。
この魔眼は便利なんだけど、連続で十秒も使えば疲れすぎて動けなくなる。
だから使う時間はその半分、五~六秒程度までにしているんだよね。
でもそんな時間じゃ、周囲の石全体を細かく調べるなんて無理。
だから、ささっと周りを一瞥して、他と違っている部分だけを間違い探しのようにやるのがポイントだ。
そんな感じで、調子よく鉱石を掘っていたときだ。
「おい、ねーちゃん」
こんこんっと。
何やら声をかけられた気がしたけど、無視だ。
話している暇があるなら、一つでも多くの鉱石を掘りたい。
こちとら生活費がかかっているのだ。
「おい!」
もう、うるさいなぁ。
不機嫌そうな顔をしながら、声の持ち主を見る。
二十歳くらいの……どう見てもごろつき風の男四人が、あたしを睨みつけていた。
「なに?」
「おいお前、どうやればそんなに鉱石が掘れるんだよ」
「さあ」
不機嫌そのものの口調で答えた。
だって本当にくだらないんだもん。誰が教えるもんか。
(ゴミだな)
ブラン先生からすれば、第二級探索者ですら、まあまあだからね。
たぶんあたしと同じくらいの、第八級だとゴミ扱いになってしまうのも、仕方がない。
……ん? それってつまり、あたしもゴミってこと?
ひっど!
「お前、なめてんのか!?」
「そんな汚いもの舐められるわけないでしょ」
「はぁ!?」
どう見ても、何日もお風呂に入っていない姿だ。
あちこち汚れていて、何となく臭いも鼻につく。
ばっちい。病気が移ったらどうするの。
「ちっ、お前一人で俺ら四人に勝てると思ってんのか? 大人しく情報をよこせ!」
「情報なんてないよ。あんたたちも、こんなところでサボってないで、一つでも多く掘ったら?」
「やかましい! お前らやるぞ!!」
それと同時に、四人が一斉に魔法を展開し始めた。
でも、正直遅すぎる。
よっと。
あたしは魔法を展開すらせずに、さきほどわめいていた男の顎付近を、つるはしの柄で下から上へと殴った。
脳震盪が起こり、男がダウンする。
あっという間に、しかもつるはしで倒したことに驚いたのだろう。
残りの三人の魔法展開が止まり、霧散した。
うわー、こいつら素人だ。
動揺している間に、次の男へ駆け寄り、同じくつるはしの柄で側頭部を打った。
それで崩れ落ちる男。
「なっ、てめえ卑怯だぞ!」
「四人でかかってきておいて、卑怯も何もないよ」
「ちっ」
残り二人が、魔法を展開もせずに襲い掛かってきた。
でも正直、力任せで技が全くない。
こう見えても、あたしは幼少の頃からお父様に鍛えてもらっているのだ。
お父様ってば、ほんとに容赦ないんだよね。何度死ぬかと思ったことか。
でも、そのおかげで剣術はそれなりに上達したと思う。
こうして、魔法を展開しなくとも二人を昏倒させたのだ。
あたしってば、強くない?
(遅い。こんなゴミ相手にいつまで手間取っているのだ)
あっはい。
ブラン先生、評価が厳しすぎ。
「おい! そこで何をやっている!!」
ブラン先生に発破をかけられたので、そろそろ真面目にやるかと思った時だ。
また誰かが乱入してきた。
「俺は探索者協会の巡回員だ。お前ら、探索者同士の争いごとは禁止だ!」
「ちっ、やべぇ。ずらかるぞ!」
気絶していた男二人を放っておいて、残りの二人が逃げた。
でも巡回員は手練れだったのだろう、一瞬で逃げた二人に追いつくと、あっという間に拘束していく。
そして気絶していた男二人も、同様に拘束したあと、あたしに詰問してきた。
「で、何が起こったんだ?」
「あたしが、もくもくと鉱石を掘っていたら、その四人が絡んできたんです」
「ふむ?」
「そいつ、なんかずるしてやがるんだよ! 何でそんなに鉱石が掘れるんだ! おかしいだろ!!」
ずるって何よ。
あたしは、正当に自分の力を使って鉱石を掘っていただけです。
あたしの力だもん。あたしが使っても悪くないし、ずるでも何でもないもん。
「なるほど。つまり君……」
「第八級探索者のフィーリアです」
「フィーリアが鉱石をうまく掘り当てているから、それを探ろうとこの男たちが絡んで、トラブルになったと」
「はい」
「つまらん理由だな」
あたしもそう思う。
そんなことやる暇があるなら、
「しかし女一人に男が四人も絡んで、うち二人が昏倒か。なかなか強いな」
「小さいころから剣を習っていたので」
「なるほどな……まあ事情は分かった。状況から見てもフィーリアの言う通りだろう。お前らを連行する」
そして巡回員が男四人を連行していった。
捕まった男たちは、何やらわめいていたけど、そんなもの聞く価値もないから、スルーだ。
しかし巡回員なんて居たんだ。初めて見たかも。
結構な手練れだったし、もしかして人工勇者関連で巡回しているのかな。
(早く掘れ。我は風呂に入りたいのだ)
まったくもう、この剣は。
あたしがバイトしている間、お湯にずっと漬けてやろうかな。
===
「うーん、銅貨三枚と鉄貨六枚か」
迷宮から戻ったあと、協会に鉱石を売ったけど、銅貨四枚弱という微妙な値段だった。
変に絡まれたから運が減ったのか、あのあと魔眼を使ってもなかなか鉱石が見つからなかったんだよね。
踏んだり蹴ったりだ。今日はふて寝だね。
「フィーリアではないか」
そう思って帰ろうとしたところ、名前を呼ばれてしまった。
誰だと思って相手を見てみると、さっき迷宮で巡回していた人だ。
まあ巡回員だし、協会にいても不思議じゃないか。
「あ、その節はお世話になりました」
「俺の仕事だからな」
「ところで、あの人たちはどうなりましたか?」
「懲罰だ。ランクダウンに加えて、一か月の奉仕活動だ」
ランクダウンなんてあるんだ。
なんでも協会には、強制的に体内の魔素を抜き出すアーティファクトがあるんだって。
うわー、怖いねぇ。
「そんなものがあるんですね」
「高ランク探索者を相手にするとなると、厄介だからな」
あー、なるほど。
それで力を吸い取って弱くしちゃうのか。
そして話し込んでみると、彼は第五級探索者なんだって。
探索者は第六級以上になると、定期的に協会からの依頼を受ける必要があるそうだ。しかも格安で。
うわー、めんどくさ。
「ああそうだ。最近、迷宮で色々厄介ごとが起こっている。四人に囲まれても一蹴できる強さがあるとはいえ、気を付けておけ」
だから俺まで巡回員の依頼を受けなきゃいけなくなったんだよ、とぼやきながら去っていく。
別れ際、嫌なことを聞かされてしまったなぁ。
厄介ごとね。
やっぱり教会とか勇者の件なんだろうな。
面倒くさいけど、これもお父様のため。
今夜辺りにでも、忍び込んでみるか。




