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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第一章

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第四話


「教会って広いんだ」


 今日は本当なら迷宮に潜る予定だったけど、急遽教会にやってきた。

 その理由は、ミサがあるからだ。

 人口の半数は勇者教徒で占められているからか、ミサに参加する人はとても多い。


 そう、この人の多さなら紛れ込むなんて簡単なこと。

 うふふ、あたしってばあったまいー。


(趣味の悪い内装だな)


 うん、それはあたしも思った。

 教会の聖堂は映画などで見たような左右に横椅子が並んでいて、そこはすでに満席だった。

 窓や天井のあちこちには、ステンドグラスが飾られていて、そこから差し込む光が室内を照らし、ランプがなくてもものすごく明るかった。

 確かにこの聖堂なら、神々しいと思える。

 油代の節約にもなるからね。


 ここまではいい。


 聖堂の一番奥には銅像が鎮座している。たぶんこの像が勇者だと思うんだけど、ちょっとあたしの思ってたものとは違ってた。

 上半身裸で、ぼろぼろの服を着た筋肉ムキムキな髭面のおじさんが、でっかい剣を持って構えているんだよね。

 勇者はイケメンじゃないとダメって訳じゃないんだけどさ。

 うーん。

 あたしの美的感覚が違うのかな?


(お前が何を考えているのか、簡単に分かるようになってしまったな。違う、そうじゃない。勇者の外見などどうでもよいわ)


 違ったの!?

 じゃあなによ?


(壁に添えられている像の視線は、奥の勇者像ではなく、天井に描かれている訳の分からないものを見ているではないか)


 あ、そういえばそうだよね。

 小さな羽を生やしたちびっこの像が、壁の側に等間隔で置かれているけど、天使なのかな?

 でもその天使たちが拝んでいる先は、勇者ではなく天井に描かれている女性を見つめている。

 もしかして、あれが神様ってことかな。


 なんだ、勇者教会だから勇者を讃えてると思ったけど、実際は神様を讃えている造りになってるんだね。


(また柱に刻まれている文字、あれは我ら魔族が使う文字だな)


 ……え?


(書かれている内容は、魔族に対する宣戦布告のようなものだ。くだらぬな。いちいち宣戦布告などせず、さっさとかかって来ればいいものを)


 戦争には大義名分ってのが大事って聞いたことがあるんだけどさ。

 御託を並べる暇があるなら、さっさとこいよ、ってのが魔族なんだよね。

 お父様もそうだったな。


(勇者教なのに、勇者じゃないものを讃えているなど、趣味が悪いと思わぬのか?)


 そういえば、勇者像が構えている先って、天井の神様っぽいよね。


 ……ん? 勇者が神様を倒そうとしているの?

 どういうこと?

 それともあれは、魔王を倒してきますっ、と神様に誓ってるシーンなのかな。


 うん、考えてもわかんない。


(考えるのを諦めたか。まあ今は重要ではないだろうし、どうでもいいか)


 長年付き合っているせいか、最近ブランの指摘が的確になってきたね。



「ミサにご参加のみなさま、こちらにお並びください」


 おっと、入口付近で止まっていたせいか、教会のシスターっぽい人に呼ばれちゃった。


「すみません。あまりにご立派な内装で感動していました」


 すみませんねぇ、こちとら田舎者でして、へっへっへ。


「初めてですと、殆どの人が驚かれますからね。探索者の方でしょうか?」

「はい、そうです。えっと、探索者だとダメでしょうか?」

「いいえ、そのようなことはございません。第二級探索者のレオナード殿も熱心な信徒で、ミサにも必ず出席なさっておられますわ」


 第二級のレオナード?

 あー、あのうざい人か。

 以前スパイ活動していたとき、二回ほどかち合ったことがあったっけ。

 普段はこっそり情報収集だけしているんだけど、内容的にどうしても忍び込んだり盗んだりする場合もある。

 そういった時は、ばれないよう変装してるんだけど、なぜかレオナードと名乗る人にウザ絡みされたんだよね。


 へー、第二級だったんだ。


 ブランの見た目はどこにでも売ってそうな普通の剣だけど、力を解放すると、見た目からして炎の魔剣のようなものへと変化する。

 それと、お父様から頂いた魔眼を組み合わせることで、結構強くなるんだけど……。

 それでも正直、正面からかかれば勝てないと思う。


 さすが第二級。この都市最強クラスの探索者だよね。くやしい。


「そうでしたか! 第二級の探索者まで信徒になるなんて、さすが勇者教ですね」

「ええ、ですから貴女……」

「第八級探索者のフィーリアです」

「フィーリア殿ですね。ええ、ぜひフィーリア殿も今日のミサで勇者教を感じ取ってください」

「はい!」


 よいしょっと。

 生きていく上で、小者感を出しつつよいしょすることで、スムーズに回ることを学んだのだ。

 どんどん自分が悪い子になっていく。

 でも魔族のスパイだからそれでいいか。


「ではフィーリア殿、こちらへどうぞ。間もなく大司教様が参られますので、ぜひ説法をお聞きください」

「楽しみです」


===


 偉そうな服をきたおじさんが、なんかうだうだ説明してくれた。

 そのあと、みなで勇者様にお祈りしましょう、で両ひざを立ててお祈りポーズまでさせられました。

 内容?

 全然頭に入っていきませんでした。ごめんね。


 だって、お父様から聞いてた勇者と、全然違うんだもん。

 どちらかといえば、戦闘狂みたいだったし。

 魔族もお父様やブランみたいな戦闘狂が多そうだけど、勇者も大差ないってことだね。


(おい、何か来るぞ)


 一応、ミサに参加して教会ということを知ったあたしは、これからどう調査しようかと思っていたときだ。

 ブランが警戒の言葉を発した。


 がしゃーん。


 その直後、大きな音を立ててステンドグラスが割られ、そこから一人の男が中へと侵入してきた。

 ちょうどミサも終わり、参加していた人たちが順序良く聖堂から出ようとしたときだったし、あっという間に混乱の坩堝るつぼと化した。


 そしてその男は、逃げ戸惑う人たちを無視して、聖堂内部をあちこち破壊しはじめた。


 そんなあたしは、特別焦ったりはしてなかった。

 いざとなれば、遁走用の魔道具を使えばいいからね。


(あの男、何か変だな)


 教会に襲撃をかけてくる時点で、変なのはわかる。

 そうじゃないって?


(変な力が作用しているぞ。分析してみたらどうだ?)


 分析?

 あれ疲れるから、あまり使いたくないんだけど……。


 一呼吸おいて、左目に力を籠める。ここには、お父様から頂いた魔眼が埋め込まれているのだ。


 それは分析の魔眼。

 ありとあらゆる物体の本質を見抜く……は大げさだけど、まあそれなりには分析できる微妙な魔眼だ。

 お父様も、ちょっと微妙だけど、それなりには便利だから使えって言ってた。


 そして分析した結果。


「人工勇者?」


 思わずぼそっと口に出してしまった。


(黙ってろ)


 あっ、しまった。誰も聞いてないよね?

 幸い周囲は混乱状態であり、誰一人としてあたしを見ているものはいなかった。

 ふー、あぶないあぶない。


 えっと、内容は人工勇者。十分間、身体能力が驚異的に向上するが、十年寿命が縮む。


 ……ふぅ。ここまでで魔眼使用時間は六秒くらいか。ちょっと限界。


 目を閉じて休ませる。

 でもその間に、さっき読み取った情報を振り返った。


 十分間無敵モードになれるけど、十年も寿命が削れるの?

 ひっど。


 それで、人工勇者ってなんだろう?

 人工だから、誰かに作られたんだよね。

 もしかして、そういったアーティファクトがあるのかな。

 そして教会がなんらか関わりがある。


 ありえそう。


「待て! 不届きものめ!」


 騒ぎになってから数分後、ようやく教会の治安部隊みたいなのが到着した。


 あれ、あの先頭にいる人って、レオナード?

 そういやさっきシスターが、レオナードはミサに必ず出席していると言ってたっけ。

 ミサが終わって速攻帰ろうとして、中で騒ぎになったから戻ってきたってところかな。


 あれ? いつもウザ絡みされてたし、これっていい機会じゃない?

 第二級探索者をじっくり拝見させてもらおう。


 レオナードが、一瞬で雷を纏った。

 この世界での戦い方の基本は、自分の属性を周囲に展開し、場を整えることから始まる。

 お父様にしつこいくらい覚えさせられた。


 そして、これが意外と難しいんだよね。


 集中しないとすぐ霧散するし、魔法に集中しすぎると却って戦いが疎かになってしまう。

 この両立が難しいのよ。

 でもレオナードは、一瞬でそれを成しえた。むー、くやしいけど上手いなぁ。


(ふむ、まあまあだな)


 ブラン先生は、あれを見てまあまあと思った様子です。

 あれ? そんなにダメだったの?


(魔法の制御は出来ているが、展開した一瞬、意識が魔法に寄っていた。上級になるとそこを狙われるぞ)


 雲上の技術を、語られております。

 どうしよう。あたし、あんなに上手くないんですけど。


「はぁ!」


 レオナードが剣を振ると、刃から紫色をした衝撃波が飛んでいく。

 あー、あれってあんな風に飛ばしていたんだ。

 あたしも、度々あれで攻撃されてたんだよね。レオナードの得意技なのかな。


(これはダメだな)


 ダメなんですか先生。


(せっかく纏った魔法を、即座に飛ばして消してしまうのは減点だ。ほら、もう一度展開している。時間の無駄だ)


 けん制には便利だと思うんだけどな。


(百や二百ほど、あれを飛ばせるなら別だが、一つではけん制すらならない。魔力の無駄だ。第一初手でけん制してどうする。互いに知らない相手ならば、初手が一番攻め時だ)


 ブラン先生、それって初見殺しってやつですか。

 へー、タメになります!


 レオナードが飛ばした衝撃波を追いかけるように、人工勇者へと迫る。

 相手は、それにいま気が付いたのか、慌てたように衝撃波を避けた。

 そこを襲い掛かるレオナード。


(なんだあれは? まるでなっとらんな。素人ではないか)


 おおっと、ブラン先生が人工勇者に呆れ口調です。


 レオナードの剣を、どうにか受け止める人工勇者。

 おおっと、レオナードの蹴りが入った! 吹き飛ばされたぞ!


(アレに比べれば、お前のほうが十倍は上手いぞ)


 おほめ頂き恐縮です、先生。


(パワーは人間にしてはあるが、使い方が下手すぎて、一から鍛え直せとしか言えぬな)


 壁に激突した人工勇者を、あっさりレオナードが捕縛した。

 えぇ、弱くない? あれで勇者?

 あれなら十人や二十人が束になってかかっても、お父様に傷一つつけられないと思う。


 でも使った相手が悪かっただけで、もしレオナードが人工勇者になったとしたら?


 もしかすると脅威になるかもしれない。

 十分で十年の寿命が縮むとはいえ、レオナードはまだ二十代真ん中くらいだと思うし、三回くらいは使えるだろう。


 その人工勇者を作る技術、もしくは何らかの道具があるなら、それをどうにかしなければならない。


 混乱も収まったし、そろそろお暇しよう。

 教会を出て行こうとしたその瞬間、レオナードの視線があたしを見ていた……気がした。




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