第六話
強化種オーガのハンマーが迫ってくる。
でもお父さまの迫力に比べれば、大人と子供だ。なぜ今まで、破壊力だけを見てきたんだろうか。
確かに当たれば、確実に一発で死んじゃう。
でもそれは、お父さまとの訓練だってそうだったからね。
それに速度も速いことは速いけど、お父さまに比べれば……。
二歩横へずれる。それだけで、あたしのすぐ側をハンマーが通っていった。
風圧で髪が揺れるものの、水魔法の防御とローゼちゃんの岩の保護魔法で、ダメージはほぼない。
すかさず強化種オーガが伸ばした腕へと、斬りつける。
でも、そのまままともに攻撃したところで、硬すぎて斬れない。
だからじゃがいもの皮を剥くように、剣を滑らせながら薄く斬りつけた。
土の鎧がスライスされるように、剥がれていく。
おまけに剣から水を出した。相手は土の鎧、つまり水を染み込ませることも可能だ。
表面は硬いが、スライスして表面を削れば、ただの泥に変わる。
お父さまなら、こんな攻撃なんて当たらない。というより、過去一度も当てたことはなかった。
あたしの攻撃が当たるだけで、十分勝ち目はあるのだ。
「GURU!?」
慌ててハンマーを持った右腕を、引っ込める強化種オーガ。
すかさず相手の懐へ潜り込み、薄皮斬りで脇腹を削り、同じように泥へと変えた。
相手の体格は大きく、あたしの二倍くらいはある。超接近戦なら、小柄なあたしのほうが有利だ。
しかもあんなでかいハンマーを持ってるなら、なおさらだ。
徹底的に相手の鎧を泥へ変えていく。まずはあの強固な鎧を無効にする。
あっ、また土魔法使って、鎧を造り直しやがった!
卑怯な!
これはキリがない。
(繋ぎを視ろ。お前の魔眼は飾りか?)
と、そこへブランからアドバイスが飛んできた。
魔眼!
そうだ、あたし分析の魔眼を使えるんだった。普段、鉱石掘りで鉄探ししかしてなかったから、忘れてた。
連続で使用すると、疲れるのでできないけど、一瞬なら大丈夫だ。
土魔法、土の加護、鎧の成分……そして、ムラがある。
強度は一定ではなく、ムラがあるところを狙って力を加えれば――斬れる!
魔眼で分析したムラの部分を狙って斬りつけると、一気に土の鎧が崩れた。
そうか、ブランはこれを見ていたのか。
筋肉だってそうだ。腱や、筋肉の繊維を垂直に斬ればいいのだ。
言うは易しだけどね。
いきなり土の鎧が剥がれたことに、驚く強化種オーガ。
再び土魔法を使うが――そんな暇は与えない!
魔眼を使いながら、右腕の筋肉の繊維を断ち切……れずに、途中で止まった。
僅かにずれたらしい。
でも今まで弾かれるだけだったのに、三割くらい斬れたのは大成果だ。
血しぶきが舞う。
そこから、強化種オーガはあたしの練習台へと変わった。
強化種オーガの攻撃は当たらず、でもあたしの攻撃は的確にダメージを与えていく。
なんだ、簡単じゃない。
確かに、こんな力だけの敵に、なぜ苦戦していたのか。
ただし、強化種オーガはタフだった。何度斬りつけても、倒れなかった。
それでも限界はある。
十分ほど戦い続けたのち、とうとう地響きを立てて強化種オーガが沈んだ。
そのころには、あたしも満身創痍だった。主に魔眼の使い過ぎで。
強化種オーガと同じように、あたしもその場に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!」
「うん……魔石おねがい」
慌てて駆け寄ってくるローゼちゃん。
でも、せっかく強化種を倒したのだ。魔石はしっかり取っておきたい。
「あ……はい。大丈夫そうですね」
ローゼちゃんは、呆れた口調で魔石を取り始めた。
意識を失いそうになるところを、堪えながらローゼちゃんの作業を見ていると、不意に自分の中の何かが広がった……気がした。
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それから数日後。
あたしとローゼちゃんは、めでたく第七級へとあがった。
コンッ……コンッ……。
でも第八級のときと同じく、生活パターンに変化はなく、八階層で鉱石掘りをしていた。
なぜ!?
「ローゼちゃん、あっちに鉄あるよ」
「はい、フィーリアさん」
二人で黙々と鉱石掘り。
そろそろあたしのつるはしが、寿命に近づいてきている。
これも買い替えなきゃなぁ。
じゃなくって!
なんで七級へ上がったのに、鉱石掘りをしているのか。
それは、探索者は第七級まで初級ランクであり、そこまで収入に大差はないからだ。
魔物を狩って生活できるようになるのは第六級、中級ランクからだ。
そんなぁ……。
そういえば以前パンチョさんも、六級からバイトしなくてもよくなる、とか言ってたね。
はぁ……。
しかもだよ!
強化種オーガの魔石を売ったところ、銀貨五枚でした。バイト五日分と同じ。
死ぬ思いで倒したのに、マジか!?
しかも、お二人でよく倒せましたね、としか言われませんでした。
低級の探索者にも、救いの手をください。
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ここは人類が住む大陸から遠く離れた列島だ。
この列島は人類が言うところの魔族の国であり、その中心都市に建つ城には魔王と呼ばれる存在がいる。
その城の一室で、魔王と主人公がお父様と呼んでいるカイン、この二人がミニテレビの魔道具を見ていた。
「お前の娘のランクがあがったようだぞ?」
「ランク? ああ、探索者とかいう変なやつか」
「第八級から第七級へとあがったらしい。強化種のオーガを倒したそうだ」
「オーガ? ならば、それくらい簡単だろう。一年前まで、俺自身が手ほどきしてたんだ。力しか取柄のないやつなど、敵じゃない」
魔王は強化種オーガとの戦いを見ていたが、あまりに自慢しているカインの態度に、ものすごく苦戦していたとは言えなかった。
もし言ってしまえば、カインはフィーリアをさらって、また数年間、修行だ何だといって、戻ってこなくなるからだ。
慌てて、別の話題を出す魔王。
「そろそろさ、以前言っていたフィーリアの作ったメシ、これを食ってみたいな」
「アルピネス経由で伝言でもしろ。俺が食いたいと言ってた、と伝えれば作ってくれるだろう」
アルピネスはガーゴイル族の腕利きであり、現在迷宮都市の転移魔法陣近くで待機させている。
伝言を頼むのも手だが……今は石になって、休憩している状態だ。
たかが伝言だけに使うのは、少々もったいない。しかも内容が、メシを作れだ。
さすがに断られるだろう。
またガーゴイル族から、苦情が届いているので、そろそろアルピネスもこちらへ戻さないとダメなのだ。
と、そこへ勇者教会の本国に忍ばせてるものから、情報が届いた。
その内容を確認しながら、カインへと伝える。
「迷宮都市の勇者教会が、新しく変わったそうだ」
「ふーん。上層部が総入れ替えしたんだったな」
「上層部が一新され、新たに聖女候補数人が派遣されたそうだ。例のアーティファクトを持ってな」
「聖女? まだ、聖女の記憶継承なんて続いてたのか。正直どうでもいいが……」
聖女。
癒の属性を持つものを、教会は聖女候補と呼んでいる。
回復特化のレア属性であり、現在確認できるだけでも、四人しかいない。
ただ魔族としては、聖女は特段興味を持っていない。
いれば面倒な相手ではあるものの、結局は回復特化型であり、強くないからだ。
「癒しや防御系の魔法に特化しているからな。浄化できるといっても、不死者以外には効き目がないし」
「吸血鬼族のトールヴァルドが困るくらいだろ? あー、あとはリッチ連中ぐらいか」
「放置しててもいいが……お前の娘に何か任せてみようか。自称とはいえ、魔王軍のスパイだからな。はっはっはっは!」
回復特化なら、わざわざ対処する必要は薄い。
それよりも聖女候補をこちらへ引き込ませ、埋伏の毒として使うほうがいいかもしれない。
何かに使えるか、少々考えてみるか。
「……あまり使うなよ。あれは俺のものだ」
考え込む魔王へ、カインは嫌そうに吐き捨てた。




