第五話
バイトにいって、鉱石を掘って、十五階層で必死になって戦う。その後一日休憩を挟んで……。
このループを一カ月ほど繰り返してたら、いつの間にか迷宮都市にきてから一年が過ぎていた。
時間が経つのは速いなぁ。
とうとう年齢も十七歳になってしまった。この一年でどれくらい成長があったのかな。
少なくとも生活基盤を作って、曲がりなりにも生きていけるし、探索者になって第八級まであがった。
そして今は……。
ブランに叱咤されながら、オーガとタイマンしてます。
とにかくでかく、力が強い。
相手の攻撃を避けたとき、すぐそばにこん棒が通過していくんだけど、その音が、ぶおん! という感じなのだ。
掠っただけでも、大ダメージ食らいそう。でも、それに臆してたら勝てない。
以前、ブランに身体を乗っ取られたときの感覚を元に、まず右腕を切り落と……せなかった。
魔剣ブランの切れ味は鋭いが、オーガの筋肉が邪魔をして、途中で止まってしまった。
かったいな!?
慌てて体重をかけるように、後ろへ飛びのいた。こうしないと、剣が抜けなくなってしまうのだ。
すかさず、けん制のつもりで相手の顔に水をかけた。
(何をやっておる。下手くそめ)
どうせ下手ですよ。どうやったらいいのか、コツを教えてよ。
しかしブランのように、綺麗に切り落とせないよね。
でも半分くらい腕を切っているので、オーガはうまく武器を使えなくなってるようだ。
ちらと横目で、ローゼちゃんを確かめる。
彼女は敵が直線に並ぶ様に逃げ、そこから地面を柔らかくしていた。
敵がはまったところで、硬くしなおす。これで時間を稼いでいた。
上手になったね。あたしも、手っ取り早くオーガを片づけないと。
オーガの筋肉は硬く、一見裸のくせに鎧を着ているくらいに、刃が通らない。
でも魔剣ブランの刀身は長い。振り回し、遠心力をつけて勢いよく振り下ろす。
今度はちゃんと足を切り落とした。
「GRUAA!?」
(はぁ……)
ブランが溜息をつく。
これって、力任せに切ってるようなものだからね。
でも仕方ないじゃない。ブランのように、切れないんだもん。
足を切ったことにより、バランスが崩れ膝をつき、ようやく頭に剣が届くようになった。
そこへ首を狙って、遠心力切り(あたし命名)で切り落とした。
よし、あとはローゼちゃんを助けないとね。
さすがに一カ月も戦っていれば、慣れてくる。
しかもオーガたちって、毎回オーガがあたしと対峙し、残りがローゼちゃんを狙うという戦法をとってくるのだ。
こちらも、だいたい同じように対策をするので、作業に近くなってきた。
というより、オーガを切る練習をしていると言ってもいい。
(さあ、次だ)
敵を全滅させて、ローゼちゃんとハイタッチしてたら、ブランが無情の言葉を吐いた。
もうちょっと休ませて……。
====
このような感じで、十五階層を探索していたときだった。
(そこの角を曲がると、敵がいるぞ。しかも単体だ)
ブランの索敵に引っかかった敵がいたようだ。
でも単体? それは珍しい。
この階層で単体ってのは初めてだ。
「ローゼちゃ……」
「何か嫌な気配を感じます」
敵がいることを知らせようとしたより先に、ローゼちゃんがあたしの肩を掴んできた。
どうやら、ローゼちゃんはこの階層で戦っていくうちに、何となく気配を読めるようになってきたらしい。
まあ正直、索敵に関してはブランが凄すぎて、必要はあまりないんだけどね。
でも嫌な気配か。
ローゼちゃんとしては強敵だが、ブランにとっては大したことないってことかな。
「一匹だけみたいだよ」
「そうなんですか? でも……逃げたほうがいいような」
「うーん……」
ちょっと悩む。でも一匹だけなんだよね。
試しに戦ってみてもいいかも。
「ブランはどう思う?」
(ん? まあ、倒せるだろう)
軽いな。
でもブランがそう判断したのなら、あたしが失敗しない限りは、勝てるだろう。
「倒せるって」
「うーん……怖いですね。でもブランさんがそういうなら……大丈夫だと」
そして角を曲がった時、敵を見て後悔をした。
真っ赤な肉体に、吐く息が毒々しい。右腕に持つはこん棒ではなく、巨大なハンマー。
それを肩の上に乗せ、静かに佇んでいた。
……オーガの強化種じゃん。
強化種は滅多に生まれない。
それこそ探索者協会にも、年に一~二回ほどしか報告がないくらいだ。
もっとも強化種と遭遇してしまい、全滅して報告できなかった、というケースもあるだろうから、もう少し多いとは思うけどね。
それでも以前、八階層でローゼちゃんがコボルトの強化種と戦っていたけど、こんな短期間に二度も出会うようなものじゃないと思う。
何かの呪いかな。
さて、ブランは倒せると言った。
でも強化種のオーガから感じる覇気というか、気配は通常のオーガとは比べ物にならない。
本当に勝てるの?
「GUAAAA!!」
強化種オーガが吠えた。びりびりと空気が振動する。
そして、一気にあたしたちへと突っ込んできた。
はやい!
慌ててローゼちゃんを後ろへ蹴っ飛ばし、その反動であたしもその場から飛び退いた。
その瞬間、強化種オーガの持つハンマーが、先ほどまであたしたちがいた場所へと、振り下ろされる。
どーーーーん、という音と共に床が陥没し、土煙が吹きあがった。
なに、あの破壊力。
あんなの喰らったら、欠片すら残らないかもしれない。
「……ちょっとブラン、本当に勝てるの?」
(あんなもの力だけだ)
ブランに聞くと、みんな弱く思えてくるわ。
しかし、あの巨体に似合わない速度だった。あれだけ早いなら、逃げることはできなさそう。
ということは、やるしかない。
「ローゼちゃんはけん制おねがい」
覚悟を決めて、あたしは強化種オーガ目指して突っ込んだ。
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強い。
通常のオーガとは比べ物にならないほど、速い。
全神経を集中して攻撃を予測、見切らないとやばい。掠っただけでも、着ていた鎧が軋んだ音を立てた。
水を纏っていなければ、それだけで痛みに悶えてたかもしれない。
「援護します!」
ローゼちゃんから、岩の保護が飛んできた。
正直、鎧が悲鳴をあげてたから、ものすごく助かる!
その間にも休む暇もなく、攻撃が次々と飛んでくる。
こっちが攻撃する隙すらないくらいだ。
あんなでかいハンマーを振り回しても、息切れ一つしないのは、さすが魔物というべきか。
でもこれじゃ、何時までたっても倒せない。
強引にでも攻撃するべきか。
(何をやっておる。攻撃を避けながら剣を振れ)
そんな器用なこと、できるかっ!
それでも攻撃を受けるとみせかけ、剣の重さを利用しつつオーガのほうへ避けてみた。
そして足を狙って遠心力切り。
がきんっ!
到底足を剣で切ったような音ではない、硬化質音が鳴り響き、攻撃が弾かれた。
めちゃくちゃ硬い!
通常種のオーガなら切り落とすことはできなくても、多少は切れたのに、こいつには弾かれた。
あたしが、足元にいたからか、軽い蹴りが飛んでくる。
後ろへジャンプして避けた途端、ローゼちゃんから砂の目つぶしが飛んできた。
ナイスサポート!
「はあぁぁぁぁ!」
目つぶしで一瞬怯んだ隙に、今度は避けたついでの攻撃ではなく、本当に力を籠めた遠心力切りをお見舞いした。
オーガならこれで、腕を半分切った。
――しかし。
がきんっ!
先ほどと全く同じだった。傷一つついていない。
全力で切っても、全く効果がない。これは……どうしよう。
その場を飛び跳ねて、距離を取る。
強化種オーガが忌々しそうに、背後にいるローゼちゃんを睨みつけた。
「ローゼちゃん、何か手はある?」
「ないこともないですが……正直おすすめできません」
「……ちなみにどんなの?」
「尻尾を巻いて逃げます」
確かに。逃げられるのなら、逃げたい。
しかし強化種オーガは、さっきのあたしの攻撃で怒ったのか、土魔法を使ってきた。
それは土を固めて自身を纏う、ごくありふれた防御魔法だったが、これで攻撃がさらに通らなくなった。
魔法まで使ってくるなんて、卑怯な!
うん、逃げよう。
そう思った時だ。背後の通路が、突然土壁で埋まっていった。さらに相手の後ろにも同じように塞がれる。
うわっ、逃げられないようにしやがった、こいつ。
「GRUUUUU!」
再び雄たけびを上げた。
さっきよりも、はるかに迫力が増した。いよいよ本気を出したってことか。
あたしの攻撃が、それなりに痛かったのだろう。
「ねぇ、ブラン……助けて」
これはもうダメだ。そう思って、ブランに助けをお願いした。
ブランの力を借りれば、勝てる。
――しかし。
(ダメだな。お前たちだけで倒せ)
「なんで!?」
(最近、お前は腑抜けておる。この程度の敵すら倒せないなら、そのまま死ね)
ひっど!
でも腑抜けてる?
ブランから見れば、そう見えるのか。
あたしとしては、生活できるようこの一年間頑張ってきたと思ったんだけど……。
そう言ってる間にも、強化種オーガが向かってきた。
ただ、背後が土壁になっているので、後ろへは逃げられない。
「ローゼちゃん左!」
通路、とはいえ横幅はそれなりにある。相手の身体は大きいが、一体だけで通れなくなるほど狭くはない。
あたしは正面で迎え撃ち、ローゼちゃんが左に回り込む。
ところが、オーガは左に回っていくローゼちゃんを見逃さなかった。
走ってる途中でハンマーを振り回して、ローゼちゃんを狙う。
目つぶしされたことを、警戒しているのだろう。
やばい。
慌てて、あたしが突っ込んでいく。
だが強化種オーガは、あたしを無視してローゼちゃんを攻撃した。これは、攻撃してもダメージが通らないと認識されたのだろう。
事実あたしの攻撃は、さっきと同じように弾かれた。
まずい!
ローゼちゃんに迫るハンマー。
何とか体勢だけでも崩そうと、足をひっかけるものの、丸太のような勢いでぶつかり、あたしのほうが崩された。
そしてハンマーがローゼちゃんに命中する。彼女の身体が砂のように吹き飛んだ。
いや、比喩表現ではなく、本当に砂だった。
これ、ダミーだ!
土属性の囮魔法。自身にそっくりな人形を作って、操るもの。
不意に左ではなく、右方向から足音が聞こえた。囮を左側に出して、自分は右側から通っていったのか。
本気で焦った。
(こんな力だけの敵に、なぜ苦戦する? 我にはそれが理解できぬ)
ブランは黙ってて!
でもブランはさらに、言葉を投げる。
(お前は一年前まで、カインという強敵と戦ってきた。あれに比べれば、こいつなんぞ赤子同然だ。昔のほうが強かったぞ)
確かにそうだ。
お父さまは強い。天というレアな属性を持ち、魔族でも最上位に位置する。
遥か昔、勇者と戦い引き分けたとも聞いた。
そんなお父さまに訓練して貰っていたときは、本気で死ぬ思いを何度も経験した。
この迷宮都市にきてから、そのような戦いとは無縁だったのは事実だ。
ブランからすれば、これが腑抜けている、と感じたのだろう。
「確かにそうだよね。お父さまに比べれば、こいつなんて赤子同然だよね」
むしろ比べること自体が、失礼だと怒られそうだ。
その強化種オーガは、囮だったのに気が付いたのか、忌々しそうにこちらを向いてきた。
「そっかー、なるほど。ふふっ」
不敵に笑みを浮かべながら、あたしは立ち上がった。




