第三話
今日は十三階層へ潜ってみた。
出てくる敵は十二階層と変わらず、ゴブリン一体。
確かにこれは大差ないね。
「緊張してる?」
「は、はい……」
「リラックスしたほうがいいよ?」
緊張感は大切だけど、あまり神経を張りつめっぱなしだと、却って疲れちゃうからね。
そして戦ってみた。
先制して、フェイントをかけるとあっさり引っかかる。
右に行くと見せかけて、左から袈裟斬りに切り裂いた。
うん、やっぱり十二階層と大差ないや。
でもローゼちゃんは、かなり必死だ。
踊るように動いて、ゴブリンを翻弄していた。ダンスでもしているようだ。
その代わり動き回るので、体力を大きく消耗しているらしく、すぐ息切れしている。
体力作りがいるね。
「どうだった?」
「少し敵の耐久が増えてるくらいで、他は十二階層とそこまで大きく差はないです」
へー、耐久が高かったのか。
どちらも、簡単に切れたから分からなかった。それだけブランの攻撃力が高いのだろう。
武器だけチート、だね。
「どうする? 十四階層行ってみる?」
「そうですね……帰る前に一度だけ覗きませんか? もう少しここで戦っておきたいです」
ローゼちゃんは、慎重派だね。
あたしも、少しは慎重にしたほうがいいのだろうか。
最悪ブランの力を解放できるっていう、保険があるから緊張感が薄い。
それにブランに身体を操ってもらえれば、第二級探索者のレオナードですら圧倒できる。
どちらも、あたしの力じゃないけど……。
でも、いざというときの保険は大切だと思う。
そして帰るちょっと前に、十四階層へ潜ってみた。
ここからホブゴブリンが出るようになってきた。こいつは、見た目はゴブリンなのに、あたしより大きい。
その分、力や速度も上がっているようで、なかなかの強敵だ。
でもあたしには、こっちのほうがやりやすい。なぜなら、人と大差ない大きさだからだ。
あたしは、お父さまに剣を習ってきた。つまりは、あたしより背丈の高い人型の相手と練習を重ねてきた。
ゴブリンだと小さいから少しやりにくかったけど、こいつなら、お父さまの背丈とそんなに変わらないからね。
ほいほいっと。
お父さまなら、絶対避けられるような攻撃ですら、簡単に食らってくれる。
これは楽しいわ。
でもローゼちゃんが大変そうだった。
かなり危うい戦い方をしている。なんと相手の足を潜ったりして、足の腱を斬ったりしていた。
あれはあれで、すごいな。
ローゼちゃんの身長が小さいからこそ、出来る芸当だよ。
(相手の意表を突く攻撃とは言えるが、まるで大道芸だな)
でもかっこ悪くても、勝てば正義。
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翌日は八階層で、ローゼちゃんといっしょに鉱石掘り。
ただ、ローゼちゃんはつるはしを持ってなかったので、新しく購入した。
初期投資で赤字だよ……頑張らなきゃ。
コンッ……コンッ……と。
お、鉄見つけた、よしよし。背負い袋に入れて……と。
さて、次はどこかな。
そうやって、次々と鉄を掘っていると、ローゼちゃんが近寄ってきた。
「フィーリアさんって、鉄を見つけるの速いですよね」
あっ、魔眼で探しているの言ってなかったっけ。
そうか、ローゼちゃんの分も探さないといけないね。
「えっと、あの辺りに鉄があるから、掘ってみて」
「……え? なんで分かるんですか?」
「帰ってから説明するよ。さあさあ、時間は有限だよ」
「は、はい……」
さて、あたしも次を探して……と。
掘りながら、ふと思った。
鉱石掘りって定期的に迷宮へ潜らないとダメだったから、やっていたんだよね。
今は迷宮探索で潜ってるから、残りはバイト入れればよかったんじゃない?
鉱石掘りで頑張っても、一日銅貨五枚とかだ。
でもバイトは銀貨一枚になる。
……あれ?
鉱石掘りは卒業しようかな。
でも、つるはし買っちゃったからね……。
せめて元を取るまではがんばろう。
「……うーん」
ローゼちゃんが、納得いかないような顔をしてる。
そうだよね。ローゼちゃんは銅貨四枚、あたしは銅貨五枚だもんね。
二人合わせても、一人分のバイト代にすらならない。
「せっかく、つるはし買ったからね……」
「それは分かってます……でも……」
せめてつるはし代までは、稼ごう。
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バイトをして、再び十四階層へとやってきた。
あたしは楽しいけど、ローゼちゃんがすごくきつそうだ。
そして、とうとうローゼちゃんが魔法を解禁した。
彼女は土属性持ちだ。
でも土って、防御力をあげるというイメージが強かったけど、砂を投げつける目つぶしを多く使ってた。
それで、怯んだ隙に攻撃の繰り返し。
それ以外だと、床を凹ませてバランスを崩したり、逆に隆起させて転ばしたりと、とにかく直接的な攻撃ではなく、隙を作るために使っていた。
まあ攻撃力が低いせいか、やっぱり時間はかかっていたけどね。
それでも安定性は増した。危うい場面が、ほぼなくなったのだ。
見ていてハラハラするような戦いがなくなるのは、あたしとしても精神的に助かる。
「土属性って、他属性みたいに纏わせると防御力があがるんですが、その分重くなるんですよ」
あー、そうか。
ローゼちゃんは速度で圧倒する戦法だから、重くなるのはダメってことか。
さらに目つぶし程度なら、魔力の消耗が少ないらしい。
ヘマして逃げるときに、便利だったんですよね。
とはローゼちゃんのセリフ。
昔、何をやってたんだろう……。
「攻撃系の魔法は使わないの?」
「威力が低いんです」
一般的に魔法使い、と呼ばれる人たちは、総じて魔力が多い。
あたしは剣士だから分かんないけど、大規模魔法を何発も連続で使うそうだ。
それに今までソロだったから、魔力はなるべく温存しておきたかった、というのもあって、滅多に使わなかったんだよね。
攻撃系の魔法は、使えば使うほど、徐々に威力が増してくる。
剣だって、使えば使うほど、だんだん使い方が分かってくる。たぶん、それと同じなんだろう。
そしてローゼちゃんは、攻撃魔法を今まで使ってこなかったので、使ったとしても大した威力がでないんだと思う。
あたしもどちらかといえば、怪我したときの簡単な治癒以外には、水を纏って少しずつ回復させるくらいだ。
敵を煽るときに、水をぶっかけたりはするけどね。
まあ、暫くはこの階層で腕を磨こう。
こうして、十四階層に潜り始めてから二か月が経過した。
さすがに二か月も同じところに潜っていたからか、ローゼちゃんも随分と慣れた。
最初に戦った時より、敵を倒せる速度があがっていたからだ。
攻撃力があがったのかと思ったけど、どうやら首やら心臓といった弱点を、積極的に狙ったためらしい。
(そろそろ良いのではないか?)
ブランがそう言ったのも、理解できる。
ローゼちゃんも、この階層で得られるものが、無くなってきたからだ。
つまりは、十五階層へ行けってことだ。
ただ懸念点はある。
パンチョさんが、十五階層は登竜門だから、仲間を集めてしっかり準備を整えてから行け、と言ってたこと。
でも現状、あたしとローゼちゃんの二人しかいない。
せめてもう一人……回復が出来る人を増やしたいなぁ。
特にローゼちゃんの体力が少ないので、彼女のスタミナを回復できる人がいれば、かなり楽になると思う。
まあ、無いものねだりしても仕方ないんだけどね。
「ローゼちゃん、そろそろ十五階層へ行ってみる?」
「そうですね。でも、大丈夫ですか?」
「潜ってみないとわかんないよ」
いざとなれば、ブランを使えば済む話だ。
奥の手があるからこそ、安心して次へいける。
「確かに一度戦わないと、分かりませんよね」
「うん、今日はこのままで、次回潜った時に十五階層へチャレンジだ」
それは、あたしが迷宮都市にきてから一年が経とうとしていたときだった。




