第二話
さて、今日も十二階層へとやってきた。
昨日と変わらず、ゴブリン相手だ。
「やっぱり歯ごたえがない」
試しに二~三体、倒したものの、特段身体に変化はない。
これは、自分には合って無いなぁ。
(小娘の動きが昨日に比べ、僅かに変わったな)
その代わりローゼちゃんは、昨日よりちょっぴり動きが良くなったらしい。
あたしには、全く変わりないように見えるけどさ。
昨日と同じく、二本のダガーを操り、ゴブリン相手に立ち回っている。
倒せなくはないけど、時間をかけすぎているので、その間に他の魔物が湧いちゃうんだよね。
ほら、そう言ってたらゴブリンが一体湧いちゃった。
ローゼちゃんを横目で見つつ、湧いた敵を処理した。
(まあ微々たるものだ。大差ないと言えばない……が、一日でこれだけ成長するのは、伸びがよい。一月もすれば、それなりに戦えるようになるだろう)
よくそんな変化がわかるね。
ゲームなら、キャラのスピードが一、伸びたって感じなんだろう。
それでも、一か月やればちりつもってことね。
そしてローゼちゃんに比べ、あたしは成長していると、感じられないんだよね。
(昨日も言ったが、ここの敵は、お前では相手にならん。弱い敵と戦っても得られるものは、ほぼない)
作業になっちゃう、ってことなんだろう。
十三階層へ降りるべきか。
でもローゼちゃんは成長しているんだから、もう少しだけここに留まったほうがいいかもしれない。
さらに翌日、再び十二階層へとやってきたものの、昨日とほぼ同じだった。
====
「パンチョさん、全然強くなってる気がしないんですけど……」
本日はバイトの日だ。
さすがに連続で迷宮に潜ってると、そろそろお金の心配が出てきたからね。
まだまだ貯金はあるものの、ローゼちゃんが全く稼げてないので、一旦ローテを考えてみた。
そして結局、迷宮探索、鉱石掘り、バイトの順番で行うことにしたのだ。
お休みは?
この世界に日曜日なんてないのだ。身体が休みを欲したら、お休みにする。
江戸時代って、こんな形で生活していたんだってさ。
そしてお店に来たついでに、ローゼちゃんを紹介して雇ってもらうことにした。
なおローゼちゃんは研修中……という名目で、バックヤードにいる。
あの子、賢いからね。色々とデスクワークやらされてるよ。
「ようやく中間管理職から解放されたと思ったのに、なぜ!?」
そういえば、ローゼちゃんは犯罪組織でも色々と書類作業やってたね。
ご愁傷様だ。
じゃなくって!
全然強くなってる気がしない話だったんだ。
そんな感じでパンチョさんに不満をぶちまけたら、困った顔をされた。
「いや、俺に言われてもな」
まあそうなんだけどさ。
探索者バーガーを三セット買って、次々に食べるパンチョさん。
お食事中にごめんね。でも困った顔をしたいのは、あたしのほうなんだよね。
「でもパンチョさん、以前第八級は十二階層辺りが目安って言ってましたよね」
「そうだな。大体そんくらいだ」
「ここ数日潜っているのに、全然強くなってる気がしないんですよ」
「何日潜ったんだ?」
「えっと……三日」
あたしがそういうと、パンチョさんはあきれ顔になった。
首を振りつつ、探索者バーガーにかぶりつく。そして水を飲んだ後、あたしに再び困った顔を向けてきた。
「三日? そんな短期間で強くなれるわきゃないだろ。ランクをあげるには数か月、上位になれば数年かかる。俺だって第五級から第四級へあがるのに、五年もかかったんだよ」
確かにあたしも、十級から八級へあがるのに半年かかった。
三日で成長なんて、できないかぁ。
でもあの頃は、とにかくお金稼ぎに夢中になってたからね。無一文だったから、必死で生活費を貯めてたら、いつの間にか上がってた。
でも魔物を狩るだけじゃお金はたまらず、結局バイトと鉱石掘りになっちゃったのだ。
「そうですか……」
「ま、気長にやっとけ。嬢ちゃんはまだ若いんだ。十代のうちに第六級まで上がれば、十分だろ」
十代で第六級は平均以上のペースだ。偏差値で言えば六十くらい?
そう考えれば、確かに十分だと言える。
でもレオナードは十代で第四級まであがったんだって。そして二十五歳で、とうとう第二級になったそうだ。
そんな彼でも、第四級から第二級へあがるのに五年くらいかかってる。
それだけ、器の拡張って大変なんだろう。
なおパンチョさんは、同じ五年で第五級から第四級だ。
それを考えるとレオナードって単純馬鹿だけど、才能があったのか。
「十二階層と十三階層の敵って、変わりますか?」
「ん? 十二と十三は、ほぼ変わらん」
変わらないんだ。
じゃあ次は十三階層へ行ってみようかな。
ローゼちゃんも、何だかんだで十二階層でも対応できているのだ。十三階層へ行っても問題はないだろう。
「そして十四階層には、ホブゴブリンが出てくる。こいつは、ちょっと力が強く体格も大きくなっているゴブリンだが、動きは単調だ。大して強くはない。問題は十五階層からだ」
「何が出てくるんですか?」
「オーガだ。しかも、ここから敵も徒党を組んでくる。この階層が初級ランクの登竜門、と呼ばれてる」
オーガ。でかくて力の強い鬼だ。
とにかく力が強くて、下手に盾とかで攻撃を受けると、盾ごと吹き飛ばされるらしい。
探索者バーガーを食べ終わったパンチョさんが、真剣な顔で見てきた。
「いいか、十五階層へ行くならきちんと仲間を数人集めて、準備をしてから行け。初級の探索者が下手に潜れば、あっという間にお陀仏だからな」
過去何人犠牲になったか。
そう呟くパンチョさんには、なんだか寂寥感がにじみ出ていた。
パンチョさんも、既に四十代くらいだ。しかも第四級探索者である。
ベテランといってもいいだろう。
若い人たちが焦って準備もなく迷宮へ潜り、そして死んでいったのを見届けたのかな。
「分かりました。まずは十三階層へ潜ってみます」
「ああ、あんま無茶すんなよ。命あっての物種だ。十二階層で問題なく戦えてるなら、十四階層にでも行っとけ。ただ十五階層へは行くなよ」
あたしだって、無茶はしたくない。
でも何の成果もでていないことに、焦ってるのも確かだ。
帰ったら、ブランにでも不満をぶちまけようかな。
====
(……強敵と戦え)
「そんな投げやりにならないでよ……」
ローゼちゃんは相当お疲れだったようで、帰宅後すぐに寝ちゃったので、起こさないよう静かに入浴中だ。
そしてブランに愚痴ったら、投げやりに言われてしまった。
しかし強敵強敵っていうけど、どれと戦えばいいのか、分からない。
(深く潜ればよかろう?)
「いやいや、無茶して死にたくないです」
命は一つしかないのだ。勇気と無謀は違う。
まあ最悪、ブランの力を借りれば何とかなると思うけどね。
(ふむ、そうか……あと柄の根本もしっかりと磨け)
はいはい。全く煩い魔剣だな。
それにしても、十五階層が登竜門ね。
「ブランってさ、オーガって知ってる?」
(ああ、力でゴリ押すやつだな。正直単調すぎて、つまらん相手だ)
だめだ。
ブランに聞いたら、全部が全部弱い敵に聞こえてしまう。
「それって、あたしが戦っても勝てるかな?」
(まあ油断さえしなければ、十分勝てる相手だな)
そっかあ。一体なら問題ないのか。
でも敵が複数現れるっていってたし、それはまずいんじゃないかな。
「敵が複数いても?」
(それなら、お前一人ではきついだろう。小娘が数体受け持って、その間に倒せ)
それは、ローゼちゃんがやばい。
うん、結論。
十三階層から十四階層辺りで、しばらくローゼちゃんの成長を待とう。焦っても仕方ない。
(まあ十四階層で腕を磨け。ついでに我ももっと磨くのだ)
それ、意味違うからね。




