第三話
「いらっしゃいませー、バーガージャックへようこそ!」
本日は、ハンバーガーチェーン店のバーガージャックでバイトだ。
鉱石掘りだけじゃ、生活費でかつかつなんだよね。
「何名様ですかー? 四名様ですね、こちらへどうぞ!」
正直お金を稼ぐだけなら、ここのバイトだけで十分に足りてしまうんだよね。
ここの日給は銀貨一枚で、探索者としての稼ぎより良いという事実。かなしみ。
でも、あたしは探索者としてこの迷宮都市に住んでいるので、定期的に迷宮へ潜る必要があるのだ。
「ご注文は何にしますかー? 探索者セットを四つですね、かしこまりました!」
バイト代だけを考えれば、もっと他にも色々とある。
でも、あたしがここをバイト先に選んだ理由は……。
「おう、嬢ちゃん。いつものくれや」
「かしこまりましたっ! 探索者セットを三つですね。でも食べ過ぎではないですか?」
「はっはっは、俺は大食いだからな」
ここは最大手クラン”常闇の光”に近いからなんだよね。
お昼時には、そのクランに所属する探索者や職員が多数、ここへ食べにくるのだ。
もちろん最大手なので、かなり上級の探索者もその中に含まれている。
彼らはお昼を食べながら雑談するんだけど、結構重要な情報を漏らすこともたまにあるのだ。
コンプライアンスという言葉は、この世界にはないらしいよ。
そして、あたしのスパイ活動にはうってつけなバイト先ってこと。
例えばさきほどセット三つも頼んで、一人で食べている人。
あの人は第四級探索者のパンチョさん。クラン常闇の光の幹部なんだって。
見た目は気の良い、ただのおじさんなんだけど、第四級とは恐れ入りました。
「ところで嬢ちゃんも探索者なんだよな」
「はーい、そうです!」
ようやく昼食時のピークを過ぎて、一段落ついたところに、パンチョさんが声をかけてきた。
ナンパはお断りですよ?
「ここでバイトってことは、まだ低級なんだよな」
「八級です!」
「おお、一番苦労する時だな。六級くらいまであがれば、バイトする必要がなくなるぞ」
六級って、まだまだ遠いなぁ。
どうやってあがるんだろ?
正直、十級から始まって九級、八級まであがるのはすぐだった。
それこそ三か月程度だったんだよね。
でもそこからが全く上がらない。
「魔素を貯める器が小さいから、あがらないってよく言われるな」
あたしが首をかしげてると、パンチョさんがヒントをくれた。
「器?」
「そうだ。探索者のランクは、保持している魔素の量で決まる。ところが器が小さいと、貯められる魔素の量も少ないからな」
あたしの持ってるコップが小さいから、入れられる水の量も少ないってことかな?
じゃあコップを大きくすればいいじゃん。
「へー。器ってどうやったら大きくできるんですか?」
「実はそこがまだ、詳しく分かってないんだよ。とにかく自分と同レベル以上の魔物を倒しまくれば、大きくなることがあるんだよな」
へー。そんなことで上がるのか。
でも自分と同レベルの魔物って、何?
「八級なら十二階層くらいの魔物が適正だな。まあソロだときついだろうし、誰か同ランクの仲間を見つけるのが手っ取り早い」
「……あー」
仲間? 無理。
あたしには色々と秘密があるし、誰にも話せない。
「なんだ、お友達いない系かよ嬢ちゃんは」
「むー!」
「ははは、怒るなって。まあ、どうにもならなければ、うちのクランに来ればいいさ」
「それは……考えておきますねー」
クランに入るメリットは多いけど、デメリットも多い。
これは、探索者になるとき色々調べた結果だからね。
特にクランの縛りがあるため、ある程度の制限がかかってしまい、自由が効かなくなる。
あたしにはこれが一番辛いんだよね。
「おう、待ってるぞ。ところで話は変わるが……」
「はい? なんですか?」
「勇者って知っているか?」
「もちろん知っていますが……」
勇者とは、千年前に当時の魔王を倒した転生者だ。
何せお父様が直接、その勇者と戦って楽しかったって言ってたからね。
小さいころから、よく聞かされてたなぁ。
「ここ最近、勇者が迷宮にいたって噂が流れているんだよ」
「ええ!? だって勇者って千年前の人ですよね」
「ああ、噂は噂だから本当かは分からんが、一応迷宮に潜る時は気をつけな。教会のやつらも、何か動いているようだしな」
「分かりました、ありがとうございます!」
パンチョさん、情報ありがとうございます!
それにしても勇者か。千年前の人だし、幽霊みたいなのを見かけたのかな。
噂だから、当てにはならないけど……うーん、どうも気になっちゃう。
でも勇者と迷宮って何も関係がないよね。
どうしようかな。
===
バイトも終わり、いつも通りハムチーを買って帰宅した。
なお、お昼はバイト先で支給されたハンバーガーだ。
あのバイト、日給が高い上にお昼まで貰えるから、ありがたいことこの上ないんだよね。
「もぐもぐ……ところでブラン、聞いてもいい?」
(だから食べながら話すなと……)
「ごっくん、それでね。勇者って知っているかな」
(聞いちゃいないな、この小娘。もちろん知っているぞ)
「迷宮で勇者をみかけた噂があるんだって。それでね、勇者教会も何か動いてるらしいよ」
勇者教会というのは、勇者が魔王を倒した後に設立されたらしい。
何せ当時の魔王って、戦争大好き魔族だったらしく、あちこちに喧嘩を売りまくっていたそうだ。
もちろん人類もかなりやばいところまで追い詰められてたけど、神によって勇者が転生され、魔王を打倒した。
そりゃ感謝感激して、勇者を讃えようって思う人もいるよね。
あたし的には、勇者を転生させた神様を讃えるんじゃないのかな、って思うけどさ。
まあ実際神様がいるかどうかは分からない。
だって、あたしの時は神様なんて存在と、会ったことも話したこともなかったもん。
(ほう、真か?)
「噂だからね。でも何となく気になるんだよ。勇者って迷宮と何か関係ある?」
(ないな。元々勇者はここからはるか離れた、ごく小さな町で生まれ育ったと聞いている)
「うーん、じゃあやっぱり噂なのかな」
でも気になるよね。
ただの幽霊で迷宮にずっと閉じこもっているんだったら、それはそれでいい。
魔族には関係のない話になるからね。
(気になるなら調べてみればよいではないか)
「どこを?」
(教会だろう。勇者関係ならば、あそこが一番だ)
「そうなるよね」
勇者教会が新しい勇者を見つけて、迷宮で何らかの訓練を受けさせている。
これはありえる話だよね。
そしてもし勇者がいるとなると当然魔族と戦うだろうし、そこにはお父様も含まれる。
正直どちらが強いかなんて分かんないけど、それでも万が一、お父様がやられる可能性だってあるのだ。
うん、これはいけない。
魔族のスパイとして、詳しく調べる必要がある。
(さあそれはそれとして、風呂だ)
「はいはい。まったく、お風呂好きの剣なんて、世界広しといえどもブランくらいだと思うよ」
(お前が風呂というものを、教えてくれたことには感謝しよう)
そして今夜もほかほかで、眠りについた。
おやすみなさい。




