第一話
「何となく雰囲気が違うね」
「はい、十一階層より下は人型の魔物が多くいるそうです」
本日は迷宮探索だ。
そう、迷宮といえば八階層で鉱石掘りがメインだったのに、今日は探索をしに潜っている。
ローゼちゃんという仲間が増えたため、ランクをあげようと思ったからだ。
場所は十二階層。以前パンチョさんから、第八級探索者なら、この辺が適正と聞いたからだ。
(久しぶりに、我の出番だな)
ブランも久方ぶりに剣として使われることを喜んでいた。
一応強化種のコボルトにも使ったんだけどね。
ここから二十階層までは、人型の魔物が数多く出現するようだ。
そしてその先にいるのがエリアボス。ものすごく強いらしい。
これを倒せば、晴れて第六級となるみたい。
まあ、あたしの目標はまず第七級へあがること。収入を増やして、生活をもう少し楽にすることだ。
せめて、バイトの日給よりも儲けたい。
そのために、がんばるぞ!
さて、十二階層から登場するのはゴブリン。初めての魔物だ。
でも正直、強くなかった。
十二階層だと、ゴブリンはほぼ一体しか湧かなく、囲まれることもない。
首をかしげながら五~六体ほど倒すも、やはり手こずることはなかった。
これで、本当に第八級の適正なのかな?
というか、ローゼちゃんが実に暇そうにしてる。
あたしが全部やっちゃってた、ごめんね。
「次、ローゼちゃんやってみて」
「えっ? 私がですか? 自信ありませんけど……」
「ちゃんと見ておくから」
「は、はい」
ローゼちゃんは、ダガーを両手に持ってスピードで攻撃するタイプだ。
ゴブリンは、完全にローゼちゃんの速度についていけてない。
しかしゴブリンの肌は割と硬く、ローゼちゃんの力だと大きなダメージも与えられない。
ダガー自体が軽いから、結構力が必要なんだよね。
ゴブリン一体に数分かけて、ようやく倒せた。
これはあたしが完全に前衛にたって、ローゼちゃんはけん制に徹してもらったほうがよさそうだ。
特に敵が複数でてきた場合、一匹でも良いので受け持ってもらえれば、かなり楽にはなるだろう。
十二階層は結構広く、道中で他の探索者と遭遇することも少ない。
それでも、あたしたちと、さほど変わらないだろう探索者たちをごくたまに見かけた。
彼らは、一体のゴブリン相手に結構苦戦していた。
四人組だったのだが、盾を持った戦士が攻撃を受け、その隙に残りの三人が攻撃している。
しかし、ローゼちゃんと同じく対したダメージを与えていない。
ローゼちゃんも苦戦していたけど、あれは武器に攻撃力がないからだと思っていた。
そうじゃなく、あたしが強い?
いや、ブランという魔剣が強いのだろう。
そうだよね、魔剣なんて使ってる時点で、あたしの攻撃力は高いと思うし。
そう思いながらも、振った一太刀がゴブリンをあっけなく一刀両断にする。
確かにこれは武器がチートだ。
(ふむ、相手にならんな)
「ブランもそう思う?」
(もう少し深く潜ってもいいだろう)
「でも、ローゼちゃんがついてこれなくなるかも」
「……えっと、ブランさんとお話ししているんですよね?」
「あ、そうそう。ごめんね」
ブランのことはすでにローゼちゃんには、伝えている。
たまに独り言をいうけど、ブランと会話しているから、深くは突っ込まないでって、お願いもした。
他の人から見れば、一人でぶつぶつ呟く変なやつに見えちゃうからね。
(その娘は圧倒的に力が足りないからな。無理して攻撃に振るよりも、速さで押したほうがよかろう)
「でも、多少なりともダメージを与えられないと、困らない?」
(ペアの場合は、それぞれの役目が大事だ。お前は攻撃、そいつは攪乱。各自役割に徹し、互いに言葉を発しなくても、やりたいことを把握できるようにしろ。カバーし合え)
「難しいことを言うね」
(さすがに、今日一日で連携を取れとは言わん。一月ほど訓練することだな)
「でもローゼちゃんがダメージを与えられないと分かったら、敵はローゼちゃんを無視するんじゃない?」
(無視されない為に魔法があるのだろう? まあ武器を新調しても良いが……安物を買ったところで、意味はないぞ)
武器は高いからね。
あたしはブランを持っていたから、その辺のお金は不要だったから良かったけど、普通の探索者はまず武器が必要になる。
安い武器ですら銀貨数枚。そこそこの奴なら銀貨数十枚は楽にかかる。
そしてレオナードが持っているような、特注の武器であれば、それこそ金貨が何百枚もかかる。
絶対手に届かない値段だよね。
「ローゼちゃん。その武器を高いのに変えたら、どう思う?」
「今より重さが変わると、動きが変わってしまいますから、重さ次第ですね」
「そっか、そうだよね」
速さで戦うから、重さってのは重要だ。重いと力が必要になってくるし、逆に軽いと動きすぎてしまう。
慣れの問題でもあるけどね。
さらにそこそこの奴を買ったところで、そこまでダメージに期待はできない。
ゲームで例えるなら、十ダメージが十三ダメージになった。ただし敵のHPは五百ある。
正直、大きな差はないだろう。
あたしが攻撃したほうが手っ取り早い。
それなら、武器を新調せずランクをあげて、より力を強くしたほうがいい。
安物買いの銭失いになってしまう。
「難しいね」
「もっと鍛えます!」
そのあとは、ローゼちゃんに数回戦闘を任せてみたが、やはり時間はかかった。
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今日一日、かなりゴブリンを狩ったものの、正直ランクがあがる気配は無かった。
それでも、たった一日で、ランクがあがるなんてことはないだろう。
数日は様子見かな。
「いいお風呂だねぇ」
(うむ、しっかり磨け)
帰宅後、ハムチーをローゼちゃんと食べてから、お風呂に入った。
久しぶりに探索したせいか、何となく身体が汚れた気分になったので、徹底的に洗った。
ブランの刀身も、たわしでごしごし磨く。今日はゴブリンを斬ったからね。
それでも、刀身には一切の汚れがついていない。
どういう構造をしているんだろうか。魔剣には、自動汚れ落としとか、そんな機能がついているのかな?
(何を考えておる。鞘に入っている間に、炎を出して熱で汚れを落としていただけだ)
え?
そんなことをしてたんだ。知らなかった……。
(我は綺麗好きだからな。太陽の光に反射し、美しく光る魔剣。素晴らしきかな)
あー、はいはい。
そのあと、ローゼちゃんもお風呂に入れさせた。
「どうして魔石を売らないんですか?」
お風呂に入ったローゼちゃんが、疑問を投げてきた。
まあそうだろうね。
普通の探索者は、魔石を売って収入を得ている。でもあたしは、今日拾った魔石を一切売っていない。
「魔石は色々と使い道があるのよ」
お父さまから頂いた数々の魔道具。これらは魔石が電池になってるものが多い。
特に遁走用の魔道具は、毎度お世話になってるくらい使用頻度が高いけど、燃費も悪いんだよね。
一回使うだけで、魔石が数個必要になる。
だから、貯めておきたいのだ。
「それだと、生活費はどうするんですか?」
「数日くらいなら、潜らなくてもなんとかなるよ。あとバイトもしているし」
「……バイト??」
ローゼちゃんが首を傾げた。
あれ? ランクの低い探索者は、バイトもしていると思ったんだけど、違ったのかな?
「日給銀貨一枚だよ」
「えっ? そんなに貰えるんですか?」
「うんうん。バーガージャックっていうハンバーガー屋なんだけどね。ローゼちゃんもやる?」
「はい! 魔石がないと、生活費が心もとないので」
あ、そうか。そうだよね。
あたしはまだ貯金があるから大丈夫だけど、ローゼちゃんは身一つでスラム街から逃げてきたもんね。
それに、さすがにあたし一人の収入で、ローゼちゃん分の生活費は稼げない。
生活費を稼ぐルーティンにしないと……。




