第四話
「それを返せ!!」
「では、魔族を操るアーティファクト、頂きました」
あたしは、カーテシーをして、遁走用のアイテムを発動させた。
姿が消えた瞬間、ダッシュでその場を離れる。
うん、誰も追いかけてこない。
結局急激に大人数となったので、互いの顔なんてしらないだろうから、そこに紛れてなんとか盗む。
こんな大雑把で安直な作戦に決定したんだけど、なんかうまくいっちゃった。
あの魔族がブランに対して、あからさまに動揺していたし、ナサリオとかいうボスはあたしでも対応できた。
スラム街を出たあたりで、遁走用アイテムの効果が切れた。
ローブを脱いで一般人の格好にした後、何食わぬ顔で堂々と歩いて帰った。
今回は、文句なしの完全勝利だ。
帰宅し、今回盗んだアーティファクトを眺めてみる。
モノクル……だよね。
(単に光るだけの、魔道具だな)
「……えっ?」
光るだけ? それって、何の目的で作られたの?
もしかして、眼鏡くいくいしながら、きらっと光らせる、ある意味おしゃれアイテム?
(魔族を操るというアーティファクトなど、聞いたことがなかったからな)
「つまり偽物? じゃああの魔族って操られてなかったの?」
(そうなるな。我を見て、あやつも襲ってこなかっただろう?)
「確かにそうなんだけど、何の目的で、そんなことをしたのかな」
(だから、我も目的が分からぬ、と前に伝えたではないか)
確かに言っていた。
でも万が一、このモノクルが本物だったらやばかったし、盗んだことは後悔していない。
「まあとりあえず、今回の件はこれで終了でいいでしょ」
(うむ……ま、問題なかろう)
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さて、今日はこのあと迷宮へ潜らないといけない。
いつもより遅い時間だから、その分稼げるお金も少なくなるけど、それは仕方ない。必要経費と考えよう。
(外に誰かいるぞ)
つるはしと背負いバッグを用意していると、誰かが来たようだ。
あたしに、友達はいない。悲しいけど、この部屋に来る人もいない。
……誰だ?
(あの小娘だな)
ローゼちゃんが? なんでここに来たのかな? ……何か勘づいたのか。
慌ててブランを次元袋へ隠す。
何やらドアの前で、息を整えているようだったので、先んじて開けた。
「えっ?」
「いらっしゃい、どうしたの?」
あたしが、ローゼちゃんをにこやかに迎えると、何故だか目を大きく見開いた。
なんだか警戒されているね。
「あの、私を匿ってください!」
匿って? あそこから逃げてきたのかな。
いまいち分かんない。とりあえず、中に入れてあげるか。
「ん? どういうこと? ……まあとりあえず、どうぞ」
ローゼちゃんを椅子に座らせて、あたしも向かいに座った。
次元袋は腰につけてある。いつでもブランを抜くことができるようにね。
「それで、匿ってとは?」
「そのままです。いま、私は窮地に陥っています」
窮地……ね。
それは本拠地が壊れてなくなって、魔族が暴れてるってことかな。
いや、ここに来ている時点で、喫緊の危険はなくなっているはず。
となると、今後命を狙われるような事態になってるってことか。
「私は、実はとある犯罪組織に属していました。ですが、今から二週間ほど前にナサリオという男が石像魔族を引き連れて、乗っ取ったのです」
おお? 全部話すつもりかな?
そして、ローゼちゃんが語ったその後の展開は、あたしが予想していたものとほぼ同じだった。
最後に、謎の剣士と名乗るものが、アーティファクトを奪って遁走。
その結果、今なお石像魔族が暴れてる、という内容だった。
「ふーん。若いのに苦労してきたのね。でも……それがなんであたしのところへきたの?」
「それはフィーリアさんが、ナサリオの持っていたモノクルを奪った張本人ですから」
その瞬間、あたしは目を細め、次元袋に手をいれてブランを掴んだ。
これで、いつでも抜くことができる。
「ふーん、なんでそう言い切れるの?」
「……剣技です。あれはフィーリアさんの剣技でした。見間違えることはありません」
「あたしの剣技?」
「はい、間違いありません」
ああ、そっかぁ。剣技かぁ。確かに、それはごまかせないや。
あたしは、お父さまに基本を習い、それに加えてブランのものが混ざっている。
このため、割と珍しい形になってると思う。
そもそも、お父さまもブランも魔族であり、あたし以外の人間が使ってることはないだろう。
それでも……。
「でも、話の中で出てきた謎の剣士は火を使っていたって聞いたけど……あたしは水属性だよ? 火は使えないんだけど」
この世界では、人間だろうが魔族だろうが、複数の属性を操ることはできない。
これは絶対的な事実だ。
確かに魔道具で、ある程度代用はできる。
ライターの強化版みたいな魔道具を使えば、火を出す事は可能だけど、魔道具を使ってますってバレバレなのだ。
あたしみたいに、火を全身に纏わせたり、剣から撃ち出したりなんてことはできない。
でもローゼちゃんは、あたしの言葉に首を振った。
「魔族と何らかの取引を行った、あるいは魔族と関係があるのでしょう? 詳しいことまでは分かりませんが、その結果フィーリアさんは二属性を操れる。違いますか?」
ブランがあたしの身体を通して、火を使ってるだけで、それは正解じゃない。
でも、魔族と関係があるところまで推測していたのか。
「風呂釜です。あれは、木で出来ているんですが、色が変化してました。単なる水に漬けているだけでは、あのような色に変わりません。暖かいお湯に長時間漬ける必要があるのです」
ええ!?
そうなの? 知らなかった。
そういや、買った時はぴかぴかだったのに、そのうち自然と変色してたっけ。
「へぇ……なるほど。まさか風呂釜で気が付かれるとは……」
全然気が付かなかったよ。
ローゼちゃんって、頭がいい……というより、観察力、洞察力が高いんだ。
そして、ここまであたしのことを分析しているにも関わらず、ここへやってきた。
ということは、何かしら取引をしたいんだよね。
「じゃあローゼ、貴女は何ができるの?」
ローゼちゃんの要望は、匿ってほしい。
それじゃ、あたしの要望は何だろう。
「今の私には力がありません。強さもフィーリアさんに比べると弱い。でも、それ以外のことならできます」
「例えば?」
「情報収集。元々私はスラム街にいましたので、そちらの情報を持ってこられます」
今回のように、スラム街を起点とする何かが起こることもあり得る。
情報収集できる場所を増やすのは、今後スパイ活動をする上で必要だよね。
でも匿ってほしいのに、そんなところへ、のこのこと出歩いたら捕まらない?
「匿うのに? わざわざ情報収集しにスラムへ行くの?」
「……はい。忍び込むのは割と得意ですので」
できるのかなぁ……危ないよね。
匿うといっておきながら、捕まったら意味がない。
「それと、フィーリアさんは第七級にあがりたいけど、魔族の関係があるので、下手な仲間を入れることはできませんよね? 私ならその点をクリアできると思います」
「そうだね。火を使えば、たぶん上がれるとは思うんだけど、人目があるところで迂闊には使えないからね」
(その小娘の目的はなんだ? 匿うのは、手段であって目的ではない)
そうだ。
匿うのは手段、じゃあ目的はなんだろう。
「うーん……ローゼは何が目的なの?」
「え? 死にたくないからですが……当たり前ですよね。探索者協会に捕まれば、魔族絡みですし、最悪王都まで連行されて公開死刑、なんて事もあり得ます」
そういえば、犯罪組織でまとめ役みたいなのをやってたね。壇上にあがってたし。
幹部扱いだから、捕まればタダじゃすまないか。
「ローゼって本当に十三歳? なんでその年で、これだけ推測できるのかな」
「生まれが、そういった家系でしたので……追放されましたけどね」
自嘲気味に呟くローゼちゃん。追放系のシナリオを進めてたのか。
これだけ頭が回るのなら、色々とあったのだろう。
仕方ないなぁ。
確かに、あたしも迷宮へ潜ってランクをあげたいものの、ソロだと厳しい。
もう一人いれば、かなり楽になるだろう。一応、あたしと同じランクだし。
「うん、いいよ。匿ってあげる」
「!! はい、ありがとうございます!!」
「まだ喜ぶのは早いよ。まず差し当って、あの石像魔族がどうなったか、確認してこないとね」
そうなれば、まず現状を把握しなければならない。
これはローゼちゃんじゃなく、あたしがいかないとダメだ。
「じゃあ行ってくる。ローゼはここでお留守番」
「はい……ありがとうございます」
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あの後スラム街へ行くと、そこは探索者協会が派遣しただろう探索者たちが、うろうろしていた。
でも一口にスラム街といっても、門があるわけでもないので、自由に出入りは可能だ。
隙をついてこっそり入ってみて、色々と探ってきた。
その結果、魔族の姿は見えなく、けが人は複数いたけど、死亡者は一人だけだった。
その一人がナサリオ……あの魔族を操ってると思い込んでた男だ。
肝心の魔族は姿が見えなく、ブランによればどこかに隠れているそうだ。
うっすら気配はするものの、特定まではできない。スラムのどこかに隠れて、様子をうかがってるってところか。
目的を知りたいとは思うものの、そこまで深入りする必要もない。
何かしら不都合が出そうな時に、対策を練ろう。
またパンチョさんがいたので、多少情報を得られた。
いつもありがとうございます! もう足を向けて寝られません!
彼によると、探索者協会は魔族対応でここを訪れたそうだ。
ただし、あくまで目的は魔族と、それを操っていたナサリオであり、それ以外の人は対象外らしい。
それなら、ローゼちゃんも大丈夫かな?
以上の情報を持って帰って、ローゼちゃんと共有した。
そして、今後は迷宮で一緒に潜ることとなった。
そういえば、今日は結局迷宮に潜れなかったな。
今日分の稼ぎをどこかで挽回しなくちゃ。




