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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第二部第二章

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第四話



「それを返せ!!」

「では、魔族を操るアーティファクト、頂きました」


 あたしは、カーテシーをして、遁走用のアイテムを発動させた。

 姿が消えた瞬間、ダッシュでその場を離れる。


 うん、誰も追いかけてこない。


 結局急激に大人数となったので、互いの顔なんてしらないだろうから、そこに紛れてなんとか盗む。

 こんな大雑把で安直な作戦に決定したんだけど、なんかうまくいっちゃった。

 あの魔族がブランに対して、あからさまに動揺していたし、ナサリオとかいうボスはあたしでも対応できた。


 スラム街を出たあたりで、遁走用アイテムの効果が切れた。

 ローブを脱いで一般人の格好にした後、何食わぬ顔で堂々と歩いて帰った。

 今回は、文句なしの完全勝利だ。



 帰宅し、今回盗んだアーティファクトを眺めてみる。

 モノクル……だよね。


(単に光るだけの、魔道具だな)


「……えっ?」


 光るだけ? それって、何の目的で作られたの?

 もしかして、眼鏡くいくいしながら、きらっと光らせる、ある意味おしゃれアイテム?


(魔族を操るというアーティファクトなど、聞いたことがなかったからな)


「つまり偽物? じゃああの魔族って操られてなかったの?」


(そうなるな。我を見て、あやつも襲ってこなかっただろう?)


「確かにそうなんだけど、何の目的で、そんなことをしたのかな」


(だから、我も目的が分からぬ、と前に伝えたではないか)


 確かに言っていた。

 でも万が一、このモノクルが本物だったらやばかったし、盗んだことは後悔していない。


「まあとりあえず、今回の件はこれで終了でいいでしょ」


(うむ……ま、問題なかろう)


====


 さて、今日はこのあと迷宮へ潜らないといけない。

 いつもより遅い時間だから、その分稼げるお金も少なくなるけど、それは仕方ない。必要経費と考えよう。


(外に誰かいるぞ)


 つるはしと背負いバッグを用意していると、誰かが来たようだ。

 あたしに、友達はいない。悲しいけど、この部屋に来る人もいない。


 ……誰だ?


(あの小娘だな)


 ローゼちゃんが? なんでここに来たのかな? ……何か勘づいたのか。

 慌ててブランを次元袋へ隠す。

 何やらドアの前で、息を整えているようだったので、先んじて開けた。


「えっ?」

「いらっしゃい、どうしたの?」


 あたしが、ローゼちゃんをにこやかに迎えると、何故だか目を大きく見開いた。

 なんだか警戒されているね。


「あの、私を匿ってください!」


 匿って? あそこから逃げてきたのかな。

 いまいち分かんない。とりあえず、中に入れてあげるか。


「ん? どういうこと? ……まあとりあえず、どうぞ」


 ローゼちゃんを椅子に座らせて、あたしも向かいに座った。

 次元袋は腰につけてある。いつでもブランを抜くことができるようにね。


「それで、匿ってとは?」

「そのままです。いま、私は窮地に陥っています」


 窮地……ね。

 それは本拠地が壊れてなくなって、魔族が暴れてるってことかな。

 いや、ここに来ている時点で、喫緊の危険はなくなっているはず。

 となると、今後命を狙われるような事態になってるってことか。


「私は、実はとある犯罪組織に属していました。ですが、今から二週間ほど前にナサリオという男が石像魔族を引き連れて、乗っ取ったのです」


 おお? 全部話すつもりかな?


 そして、ローゼちゃんが語ったその後の展開は、あたしが予想していたものとほぼ同じだった。

 最後に、謎の剣士と名乗るものが、アーティファクトを奪って遁走。

 その結果、今なお石像魔族が暴れてる、という内容だった。


「ふーん。若いのに苦労してきたのね。でも……それがなんであたしのところへきたの?」

「それはフィーリアさんが、ナサリオの持っていたモノクルを奪った張本人ですから」


 その瞬間、あたしは目を細め、次元袋に手をいれてブランを掴んだ。

 これで、いつでも抜くことができる。


「ふーん、なんでそう言い切れるの?」

「……剣技です。あれはフィーリアさんの剣技でした。見間違えることはありません」

「あたしの剣技?」

「はい、間違いありません」


 ああ、そっかぁ。剣技かぁ。確かに、それはごまかせないや。

 あたしは、お父さまに基本を習い、それに加えてブランのものが混ざっている。

 このため、割と珍しい形になってると思う。

 そもそも、お父さまもブランも魔族であり、あたし以外の人間が使ってることはないだろう。


 それでも……。


「でも、話の中で出てきた謎の剣士は火を使っていたって聞いたけど……あたしは水属性だよ? 火は使えないんだけど」


 この世界では、人間だろうが魔族だろうが、複数の属性を操ることはできない。

 これは絶対的な事実だ。


 確かに魔道具で、ある程度代用はできる。

 ライターの強化版みたいな魔道具を使えば、火を出す事は可能だけど、魔道具を使ってますってバレバレなのだ。

 あたしみたいに、火を全身に纏わせたり、剣から撃ち出したりなんてことはできない。


 でもローゼちゃんは、あたしの言葉に首を振った。


「魔族と何らかの取引を行った、あるいは魔族と関係があるのでしょう? 詳しいことまでは分かりませんが、その結果フィーリアさんは二属性を操れる。違いますか?」


 ブランがあたしの身体を通して、火を使ってるだけで、それは正解じゃない。

 でも、魔族と関係があるところまで推測していたのか。


「風呂釜です。あれは、木で出来ているんですが、色が変化してました。単なる水に漬けているだけでは、あのような色に変わりません。暖かいお湯に長時間漬ける必要があるのです」


 ええ!?

 そうなの? 知らなかった。

 そういや、買った時はぴかぴかだったのに、そのうち自然と変色してたっけ。


「へぇ……なるほど。まさか風呂釜で気が付かれるとは……」


 全然気が付かなかったよ。

 ローゼちゃんって、頭がいい……というより、観察力、洞察力が高いんだ。

 そして、ここまであたしのことを分析しているにも関わらず、ここへやってきた。

 ということは、何かしら取引をしたいんだよね。


「じゃあローゼ、貴女は何ができるの?」


 ローゼちゃんの要望は、匿ってほしい。

 それじゃ、あたしの要望は何だろう。


「今の私には力がありません。強さもフィーリアさんに比べると弱い。でも、それ以外のことならできます」

「例えば?」

「情報収集。元々私はスラム街にいましたので、そちらの情報を持ってこられます」


 今回のように、スラム街を起点とする何かが起こることもあり得る。

 情報収集できる場所を増やすのは、今後スパイ活動をする上で必要だよね。

 でも匿ってほしいのに、そんなところへ、のこのこと出歩いたら捕まらない?


「匿うのに? わざわざ情報収集しにスラムへ行くの?」

「……はい。忍び込むのは割と得意ですので」


 できるのかなぁ……危ないよね。

 匿うといっておきながら、捕まったら意味がない。


「それと、フィーリアさんは第七級にあがりたいけど、魔族の関係があるので、下手な仲間を入れることはできませんよね? 私ならその点をクリアできると思います」

「そうだね。火を使えば、たぶん上がれるとは思うんだけど、人目があるところで迂闊には使えないからね」


(その小娘の目的はなんだ? 匿うのは、手段であって目的ではない)


 そうだ。

 匿うのは手段、じゃあ目的はなんだろう。


「うーん……ローゼは何が目的なの?」

「え? 死にたくないからですが……当たり前ですよね。探索者協会に捕まれば、魔族絡みですし、最悪王都まで連行されて公開死刑、なんて事もあり得ます」


 そういえば、犯罪組織でまとめ役みたいなのをやってたね。壇上にあがってたし。

 幹部扱いだから、捕まればタダじゃすまないか。


「ローゼって本当に十三歳? なんでその年で、これだけ推測できるのかな」

「生まれが、そういった家系でしたので……追放されましたけどね」


 自嘲気味に呟くローゼちゃん。追放系のシナリオを進めてたのか。

 これだけ頭が回るのなら、色々とあったのだろう。

 仕方ないなぁ。

 確かに、あたしも迷宮へ潜ってランクをあげたいものの、ソロだと厳しい。

 もう一人いれば、かなり楽になるだろう。一応、あたしと同じランクだし。


「うん、いいよ。匿ってあげる」

「!! はい、ありがとうございます!!」

「まだ喜ぶのは早いよ。まず差し当って、あの石像魔族がどうなったか、確認してこないとね」


 そうなれば、まず現状を把握しなければならない。

 これはローゼちゃんじゃなく、あたしがいかないとダメだ。


「じゃあ行ってくる。ローゼはここでお留守番」

「はい……ありがとうございます」


====


 あの後スラム街へ行くと、そこは探索者協会が派遣しただろう探索者たちが、うろうろしていた。

 でも一口にスラム街といっても、門があるわけでもないので、自由に出入りは可能だ。

 隙をついてこっそり入ってみて、色々と探ってきた。


 その結果、魔族の姿は見えなく、けが人は複数いたけど、死亡者は一人だけだった。

 その一人がナサリオ……あの魔族を操ってると思い込んでた男だ。


 肝心の魔族は姿が見えなく、ブランによればどこかに隠れているそうだ。

 うっすら気配はするものの、特定まではできない。スラムのどこかに隠れて、様子をうかがってるってところか。

 目的を知りたいとは思うものの、そこまで深入りする必要もない。

 何かしら不都合が出そうな時に、対策を練ろう。


 またパンチョさんがいたので、多少情報を得られた。

 いつもありがとうございます! もう足を向けて寝られません!


 彼によると、探索者協会は魔族対応でここを訪れたそうだ。

 ただし、あくまで目的は魔族と、それを操っていたナサリオであり、それ以外の人は対象外らしい。


 それなら、ローゼちゃんも大丈夫かな?


 以上の情報を持って帰って、ローゼちゃんと共有した。

 そして、今後は迷宮で一緒に潜ることとなった。



 そういえば、今日は結局迷宮に潜れなかったな。

 今日分の稼ぎをどこかで挽回しなくちゃ。





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