第二話
「いらっしゃいませー、バーガージャックへようこそ!」
本日はバイトだ。
ここ最近、平和な日々が続いていて、実にいいことだと思う。
「はーい、探索者セット二つですね。かしこまりましたー」
昨日は図らずも、強化種コボルトなんていうレアと戦えたし、あれは良い経験の糧になったと思う。
半年以上八階層に潜っているけど、強化種と会ったのは初めてだからね。
八階層という上層階だから、あたしでも十分対応できたけど、たぶん下の階層だと一人は無理だろう。
そう考えると、やはり一人じゃなく、複数人でパーティを組んだほうが良いんだろう。
第八級からあがるには、十二階層辺りにいる敵を倒しまくる。
以前、パンチョさんから聞いた話だ。
だいたいそのあたりの階層に沸く敵が、第八級と同等くらいの敵だそうで……。
でもソロだと、自分と同じくらいの強さの敵と戦うんだから、正直無理げー。
複数人が推奨されるわけだ。
ランクを上げるためには、一時的にでもどこかのパーティに入ったほうがいいのかなぁ。
でもどこまでお付き合いする? 第五級くらい? そこまで上げるのに、一体何年かかるのだろうか?
パーティに属すると、どうしても自分の時間が取りにくい。
その間、盗みや情報収集が疎かになってしまう。スパイのあたしとしては、それは本末転倒だ。
やっぱり、パーティを組むのは無理かな。
でもランクをあげないと、この貧乏生活から抜け出せない。
なんだろう、このジレンマ。
ちょっと自分の将来が不安すぎる。
「いらっしゃいませー!」
「嬢ちゃん、いつもの頼むわ!」
「はい、探索者セット三つですね。かしこまりましたー」
いつものように、パンチョさんが来店された。
この人、いつも探索者セット三つも買っていくけど、ちゃんと栄養バランス考えてるのだろうか。
絶対野菜類が足りないと思う。
まああたしも、ハムチーが主食だから野菜足りないんだけどさ……。
これも貧乏生活のせいだ。
「おい、嬢ちゃん」
「……ん、あ、はい! なんでしょうか」
「ぼーっとしてるな」
「あー、ごめんなさい。ちょっと考えごとしちゃって」
あ、ちょっと憂鬱になってて、ぼーっとしてた。
やばい、バイト中なのに、やっちゃったなぁ。
「じゃあ、有意義な話をしてやろう。実はだな」
そんなあたしを見て、パンチョさんが声を潜めた。
そして聞かされた内容は、スラム街に魔族が現れたという話しだった。
「……魔族?」
「ああ、そうだ。だから嬢ちゃんも、迂闊にスラム街へ近づくなよ?」
つい先日、ローゼちゃんも魔族に石化の呪いをかけられてたよね。
どう考えても、関連してるよねぇ……。
「へー、じゃあ探索者協会が魔族を倒すんですか」
「まだ分からんな。下手に倒せば、今まで大人しくしていた魔王が出張ってくる可能性もある。捕まえて話を聞くのが、妥当なところだ」
「でも魔族が人間と手を組むなんて、あるんですかね」
「さあなぁ。もしかすると、魔族に似せた別の魔物って線もあり得るからなぁ」
そうか、そういうこともあり得るのか。
でもブランが、魔族の呪いって断定していたから、そっちの線はなさそうだけどね。
「ま、とにかくだ。スラムには近づかないようにな」
「はい! ありがとうございます!」
パンチョさん、いつも本当にありがとう。
おかげで、重要な情報が得られました。
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(ほう、スラム街に魔族か)
「パンチョさんが知ってるってことは、すでに探索者協会や大手クランには情報が行ってるよね」
パンチョさんは、最大手クラン常闇の光の幹部だ。
そこに情報が入っているなら、他の大手クランにも行っているはずだし、それをまとめている探索者協会だって、当然知っているはずだ。
(まあそうだな。それにしても、魔族か)
「なに、ブラン。言いたいことあるなら、はっきり言って」
(目的が分からぬのだ。推測はできるが、あくまで推測だからな)
「もしかして、スパイ!?」
あたしと同類?
それならば、先輩として挨拶しなきゃね。
(スパイが、目立ってどうするのだ)
そうだよね、目立っちゃだめだよね。
じゃあ、何が目的なんだろう?
魔族領って、海を越えた先の大陸にあるんだよね。そんな遠くから、ここまで来るのってすごく大変だ。
飛行機とかあるなら別だけど……って、あれ? お父さまも空を飛んでたし、自分で飛べる魔族もいそうだ。
それなら、簡単に来れる……のかな?
「じゃあ何らか目的があって、ここまでやってきた。でも街で活動するなら、人間と協力関係を結ぶのが手っ取り早いから、スラムにお住まいの方々と仲良くなった」
うーん、と悩む。
どうやって仲良くなるの?
「人間と協力関係がある魔族っているの?」
(我とお前も協力関係だが?)
「あたし、魔族側だし! スパイだし!」
それにブランも魔族というより、魔剣じゃん。
(正直なところ、脆弱な人間に力を貸すような魔族は、ほとんどいない)
だよね。
お父さまだって、あたし以外の人間とは接してないし。
そもそも、人間が住んでいないような場所だったけどね。
(ただし、何らかの対価、もしくは上位の魔族の命で、暗躍することはあるだろう)
お金を積んだとか、上から命令されたとかかな。
それで人間と仲良くして……ん? 仲良く、というのは石化の呪いをかけて、仲良くしようってこと?
俺たち友達だよな、もちろん断ったら……分かるよな? とか言って近づいてきてる感じ。
全然、仲良くない関係だね。
それにローゼちゃんも巻き込まれた。
何か言いたそうにしてたのは、魔族のことだろうけど、それを話すと石化の呪いが発動するので、話せなかった。
うん、これなら筋が通る。
(結局は情報を集める必要がある……が、深入りする必要はあるのか?)
「そうなんだよね」
今のところ、あたしには深入りする理由がない。魔族だし、気になるのは気になるけどさ。
挨拶くらいならしてもいいけど、邪魔はしたくない。
うーん、どうしたものか。
(気になるなら、呪いをかけられたものに、接触すれば良いではないか)
直接魔族と会うのではなく、間接的に情報を得るってことね。
呪いで詳しいことは話せないけど、何かしらヒントくらいは分かるか。
「そうだね。ローゼちゃんにもう一度接触してみようか」
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「そうなんです! まったく、みんな私のところばかり押し付けてくるのです!」
バイトの数を減らして、迷宮へ潜る回数を増やして一週間くらい経過したところ、ようやくローゼちゃんと会うことができた。
ところが、やけにローゼちゃんのうっぷんがたまってるようで、愚痴ばかりが出てくる。
今日もしっかり呪いはかかっているのに、この調子でぺらぺらと話してたら、まずいところまで話しそうで、怖い。
目の前で石化してしまったら、さすがのあたしも罪悪感を感じちゃう。
どうしたものか。
しかしうっぷんの溜まってる子が吐く愚痴には、うんうんそうだね、と流すのが正解なのだ。
「うんうん、そうだね」
「私はまだ十三歳なんですよ!? ずっと机に齧りついて、夜まで延々資料作りばかり!」
彼女のそんな言葉と共に、コボルトが一体袈裟懸けに切られる。
うっぷん晴らしに、魔物狩りか。
よくそんな短い剣で切れるよね。ちょっと感心しちゃった。
(勢いだけの力任せだな)
全力で殴ってストレス解消しているだけだからね。
それでも、ローゼちゃんの戦闘は二度目だけど、やけにトリッキーな戦い方をする。フェイントを多く混ぜて、素早さで戦うタイプだ。
さらに魔法で生み出した小石を投げて、意表をついたりもする。
土属性だね、この子。
そして得られた情報は、どこかの組織で情報の整理やらまとめをやっているようだ。
スラム街だし、おそらくどこかの犯罪組織に属しているんだろう。
そして、急激に組織が拡大した影響で、抱える人数も増えて、それを管理する必要が出てきたわけだ。
ただ、これ以上の情報は出なかった。
さすがに自重しているのだろう。
ここは一つ、家に誘ってもう少し口を滑らせてもらおうかな。




