第一話
コンッ……コンッ……。
今日は、八階層でいつもの鉱石掘りの日だ。
いつものように魔眼をさっと使って、鉄などを見つけて、テンポよく掘っていく。
こういうことをずっと続けていると、そのうち虚無になるよね。
流れ作業も慣れれば、無意識でどんどんさばいていく。それに似た感覚だ。
あ、鉄が掘れた。
背負い袋に入れると、また魔眼を使ってさっと探し出す。
コンッ……コンッ……っと。
「そういえば、勇者教会ってどうなったんだろ」
(しらんな)
「なんだかいつの間にか、指名手配もなくなっていたし、でもレオナードは今も見かけるし」
(どうせ探索者協会が手回ししたのだろう? 未熟だが、この迷宮都市最高の探索者なのだろう?)
確かにレオナードは、この迷宮都市に一人しかいない第二級探索者だ。
それを連行されてしまっては、探索者協会として黙っていられないだろう。
これが権力か!
あたしも権力もちたい。
でも権力があるってことは、それだけ責任もあるってことだから、いらないや。
それよりも、レオナードが今でもいるということは、内部で何らか解決したのだろうね。
あたしには、実害がないから、それでいいか。
(見られているぞ)
うん、あたしもさっき気が付いた。ちょっと離れたところで、戦っている音が聞こえたし。
そして今は、戦闘音が止んでいる。たぶん終わったんだろう。
そのあと周りを見渡したら、あたしを見つけたので、様子見ってところかな?
何か用事でもあるのかな? それか、単純に鉱石掘りの場所を探しているのかな。
声をかけてくるまで、放置でいいや。こっちから声掛けなんでいらないでしょ。
……あれ、また戦闘音がし始めたね。
(ほう珍しい。強化種のコボルトだ)
ちらっと、そちらを見ると、赤みがかったコボルトが探索者と戦っていた。
へー、強化種か。初めて見たかも。
うん、確かに普通のコボルトより強そうだ。あの探索者、押されてるし。
(ふむ、あのままでは負けるだろうな)
ふーん。
こっちにくるのなら、相手はするけど、わざわざ助けにいくのもなぁ。
助けて、って言われてるわけでもないし。
それに勝手に助けに入って、いざ終わると、横取りだのなんだの言われることが多いし。
ま、放置でいいでしょ。
(あの探索者、魔族の臭いがしているな)
「えっ、魔族??」
(あのものは人間だが、魔族から何かしらの力を受けているな)
「あたし以外にも魔族の関係者っているんだ」
(どうだろうな。ふむ、あれは、そろそろダメだな。負けるぞ)
うーん、魔族の関係者か。どうしようかなあ。
魔族の関係者なら、とりあえず助けておいたほうがいいよね。
自称とはいえ、スパイですから!
====
間に合った。
コボルトがトドメを刺そうとしてたところ、ぎりぎり腕を掴むことに成功した。
危ないところだった。あと一~二秒遅れてたら、やられてたね。
「助け、いる?」
いらないと言われれば、このまま手を放すだけなんだけどね。
強化種のコボルトは、普通のコボルトより力は強い。
でもコボルトは力ではなく、速度で戦う魔物なので、強化種とはいえ第八級のあたしよりは、力が弱かった。
こくこくと頷く探索者。
あれ、この人、よく見たら若いね。あたしより年下っぽい。
まあいいか。まずはこれ倒さないとね。
ぱっと腕を離したのち、ブランを構える。
(強化種なら良い訓練になるな)
あー、ブランの悪い癖が出ちゃったか。
はいはい、剣の練習ですね。
普通のコボルトならまだしも、強化種ならそこそこいい相手になりそうだし、いいか。
普通に爪で攻撃してきたのを、剣で防ぐ。
攻撃自体は軽い。そもそもあたしより、力が弱いもんね。
でも、攻撃速度が速い。すごいすごい。
相手は素手だから速いのは分かるけど、それでも思ってた以上に速かった。
それをいなし、受け止め、流す。
うん、確かにこれはいい練習になるね。
おっと、蹴りや噛みつきまで混ぜてきたよ。
でもそれは悪手だよ?
足は手の三倍、力が強いと言われるけど、その分速度は落ちる。
どうしても重心を支えなきゃいけないから、手の攻撃より、圧倒的に読みやすいんだよね。
あと、噛みつき。これはもうダメでしょ。
頭を突き出してくるんだよ?
自ら致命傷になる部分を、敵に突き出してどうするの。
超接近戦で意表をつく、或いはトドメに使うのならまだしも、攻撃途中で混ぜるのは減点だね。
(なんだこいつは。素早さがあるからと、技術の向上を怠っているな)
まあ、さっきポップしたばかり。文字通り生まれたての魔物ですから、技術はないと思う。
ちょっと煽ってみるかな。
水魔法で水をかけて煽ると、面白いように、攻撃が単調になる。
そんなに怒らなくても……。
ほらほら、足元が疎かになってるよ。
軽く足を出すと、見事に転んだ。赤い体毛が、より一層赤くなってる。
(遊んでないで、そろそろやれ。もう得るものはないだろう)
そうだね、そろそろ飽きてきた。
それに、あたしは魔族の関係者に、ちょっとお話しを聞きたかっただけだった。
すっと目を細めて、攻撃の軌道を読んでカウンター気味にはじき返す。
さっきまでの攻撃パターンと違い、予想外だったのか、コボルトの体勢が崩れた。
そこへ首を狙って、剣を叩きつけた。
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「ありがとうございます!」
「いえいえ」
互いに自己紹介したあと、軽く世間話をした。
ローゼと名乗った子は、十三歳で第八級なんだって。すごいね、あたしと同じじゃん。
でもこれくらいのランクだと、魔素の影響はそこまで大きくないので、元々の力量差だろうね。
一応これでもお父さまに剣を習っていたから、その辺の人よりは強いと思ってる。
「フィーリアさんは、どこかで剣を習ったりしていましたか?」
「うん、お父さまに習ったよ」
「御父上ですか。さぞかし名のある剣士なのでしょうね」
「うーん、たぶん有名? だと思う」
勇者と戦ったらしいし、ブランもお父さまに負けたからね。
剣士なのかはわかんないけど、強いことは間違いないと思う。
「お店でバイトしているからね。常闇の光っていうクランの人がよく来ていただけるので、割と顔は知られちゃってるかも」
「常闇の光って、最大手のクランですよね? すごいですね!」
あたしがすごいわけじゃないから、自慢できることじゃ無い。
元々は情報収集するために、近づいていたからね。
(だいたい分かったぞ)
そんな感じで世間話に花を咲かせていると、ブランから解析が終わったと言われた。
何か言いたそうな雰囲気だったけど、深入りはブランの解析を聞いてからだ。
「じゃあ、そろそろいくね」
「あっはい、ありがとう……ございました」
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コンッ……コンッ……。
再び鉱石掘りを再開する。ちゃんとお金稼がないとね。
ローゼちゃんが、ある程度離れてから、ブランに声をかけた。
「それでどうだったの?」
(ああ、石化の呪いを受けているな)
「石化? でも石になってないよ?」
石化って、身体全体が石になっちゃう呪いだ。
前世だと、メドューサとかコカトリス、バジリスクなんかが、石化してくるモンスターで有名だね。
でも、この世界にいるのかは知らない。
(何らかのトリガーが発動すると、石になるようだな)
トリガーが発動すると、石になるのって……。
あ、もしかして。
「脅かされている?」
何らかの秘密を話したり、変な行動をすると、石化する。
ありえそう。
でもそんな呪いをかけるほど、ローゼちゃんは有能なんだろうか。
使えないやつ、と思われれば、そんな呪いをかけるより、さっくり処分したほうがいい。
呪いをかけてまで縛るくらい、何かしら有能なんだろう。
少なくとも、強さではない。強化種と言えど、コボルトに負けそうだったし。
頭がいいとか?
うーん、今のところ分かんないや。
少なくともこの町か近辺に魔族がいて、ローゼちゃんはその魔族に石化の呪いを受けている、ということだ。
「どうしたらいいと思う?」
(魔族がいるなら、接触してもいいが……関わらない……いや、ある程度の情報は必要か)
珍しくブランが悩んでいる。
あたし的には、接触してみたいな。
少なくとも、見てみたい。魔族ってお父さましか見たことないし、他の魔族がどんな姿をしているのか、気になる。
「魔族がいるなら、見てみたい!」
(うーむ……まあ、いずれにせよ、情報は必要だろう)
そうだね、情報は必要だ。
問題は、どこから手に入れるか。
探索者協会かなぁ。




