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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第二部第一章

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第五話


 フィーリアの住んでいる地域は、探索者協会からさほど離れていない場所にある。

 時間的には、まだ午前中だ。そのおかげで人通りも少ない。

 このため、スムーズにフィーリアの家の前までたどり着いた。

 ここまでずっと走ってきたので、息を整えてから、いざドアを開けようとした途端、勝手に開いた。


「えっ?」

「いらっしゃい、どうしたの?」


 中から出てきたのは、もちろん家主のフィーリアだ。

 その顔は笑みが浮かんでいるものの、何の感情も浮かんでいなく、まるで能面のようだった。


 ――品定めされている。


 そう直感したローゼは、直球で要望を口に出した。


「あの、私を匿ってください!」

「ん? どういうこと? ……まあとりあえず、どうぞ」


 フィーリアの能面のような表情が崩れた。予想外の言葉だったらしい。

 ローゼを部屋に入るよう促した。


 部屋の中は、以前訪れたときと寸分変わっていない。フィーリアのまとっている雰囲気が異なっているだけだ。

 まるで針の筵だ。一言でも失敗すれば、命はないと感じるほどだ。


「それで、匿ってとは?」


 狭い部屋に、ソファーなどはない。

 小さなテーブルが一つ、それに向かい合う形で椅子が二脚あるだけだ。

 そこへ座ると、フィーリアは当然のように意味を尋ねてきた。


「そのままです。いま、私は窮地に陥っています」


 ここで隠し事は言わない。全てをさらけ出す。

 少しでも疑われれば、ローゼはフィーリアの手によって処分されるだろう。


 まず、自身が犯罪組織に属していたこと。

 もともとは弱小だったのが、ナサリオという男が石像魔族を連れて、組織を乗っ取ったこと。

 その後、急速に勢力を伸ばしたこと。


 フィーリアはそれに相槌をうちながら、ローゼを見つめている。


 最後に、謎の剣士を名乗るものが現れ、男が持っているモノクルを奪い、その結果石像魔族が暴走したところまで、話し終わった。


 そこまで一気に話すと、ローゼは一息ついた。


「ふーん。若いのに苦労してきたのね。でも……それがなんであたしのところへきたの?」

「それはフィーリアさんが、ナサリオの持っていたモノクルを奪った張本人ですから」


 その瞬間、凄まじいまでの殺気がフィーリアから溢れた。

 びくっと身体を震わせる。

 だが、ここで怯むわけにはいかない。

 自分を鼓舞して、なんとかフィーリアと向き合った。


「ふーん、なんでそう言い切れるの?」

「……剣技です。あれはフィーリアさんの剣技でした。見間違えることはありません」

「あたしの剣技?」

「はい、間違いありません」


 ローゼの断定する言葉に、フィーリアは驚いて目を大きく開いた。

 それでも意地悪そうに、口を歪めて問いかける。


「でも、話の中で出てきた謎の剣士は火を使っていたって聞いたけど……あたしは水属性だよ? 火は使えないんだけど」

「魔族と何らかの取引を行った、あるいは魔族と関係があるのでしょう? 詳しいことまでは分かりませんが、その結果フィーリアさんは二属性を操れる。違いますか?」


 そもそも最初からおかしかったのだ。

 すぐ側にある風呂釜。内部構造は木だが、なぜか褐色に変化していたのだ。

 単なる水を入れただけでは、その色に変化することはない。暖かいお湯を長時間入れておかないと、変化しないのだ。

 つまり、あとから火を使ってお湯にしていたことになる。

 下に火を付けるような場所もないし、そもそも流しの側で火を使うなんて、火事になるだろう。

 最初は中古でも買ったのかと思ったが、フィーリアが火属性の魔法か何かで、水をお湯にしていたのだ。


「へぇ……なるほど。まさか風呂釜で気が付かれるとは……」


 そう推測を口にすると、思いもつかなかったと言わんばかりに、大きく頷いた。

 そして、諦めたかのように手をあげた。


「じゃあローゼ、貴女は何ができるの?」


 ――勝った。

 そう思ったローゼは、いよいよ交渉の大詰めに入ったと、気を引き締める。


「今の私には力がありません。強さもフィーリアさんに比べると弱い。でも、それ以外のことならできます」

「例えば?」

「情報収集。元々私はスラム街にいましたので、そちらの情報を持ってこられます」

「匿うのに? わざわざ情報収集しにスラムへ行くの?」

「……はい。忍び込むのは割と得意ですので」


 そうだ。

 スラムへ、のこのこと顔を出せば、必ずカルダーラの面々に情報が届くだろう。

 そうなれば、どうなるか分からないし、最悪捕まる可能性も高い。

 何せローゼ自身は、強くないのだ。

 だから、次の案を口に出した。


「それと、フィーリアさんは第七級にあがりたいけど、魔族の関係があるので、下手な仲間を入れることはできませんよね? 私ならその点をクリアできると思います」

「そうだね。火を使えば、たぶん上がれるとは思うんだけど、人の目があるところで迂闊には使えないからね」


 フィーリアは一息入れて、目を塞いだ。何となく、誰かと会話しているような感じだった。

 そして暫く経ったのち、口を開いた。


「うーん……ローゼは何が目的なの?」

「え? 死にたくないからですが……当たり前ですよね。探索者協会に捕まれば、魔族絡みですし、最悪王都まで連行されて公開死刑、なんて事もあり得ます」

「ローゼって本当に十三歳? なんでその年で、これだけ推測できるのかな」

「生まれが、そういった家系でしたので……追放されましたけどね」


 自嘲気味に呟くローゼ。

 幼少の頃から教育を受けてきた。文字や算術どころか、人との関わり方やら接し方などまで……。

 幼いローゼにとって、それが日常だったのだ。


「うん、いいよ。匿ってあげる」

「!! はい、ありがとうございます!!」

「まだ喜ぶのは早いよ。まず差し当って、あの石像魔族がどうなったか、確認してこないとね」


 確かにそうだ。

 石像魔族が暴れまくって、スラム街に被害を及ぼしたとなれば、探索者協会も黙ってはいられない。

 高位の探索者を何名も派遣して、討伐するだろう。


 今後のローゼをどう扱うのか、その動向を調べる必要がある。


====


 ところ変わって、こちらは犯罪組織の跡地だ。

 そこには石像魔族と呼ばれていたものが、一人立っていた。

 彼の足元には十人ほどの人間が転がっている。一人を除き、残りは全員気絶させただけだ。


「ふぅ、まさかブラン殿がいらっしゃるとは……全く、魔王様も困ったお方だ」


 彼はガーゴイル族の副族長だ。

 上位に位置する魔族であり、特に長距離転移魔法が使えることで、あちこちの任務についていた。

 今回、彼は迷宮都市の潜入任務を魔王に命じられて、はるばる魔族の国から転移してきたのだが、予想外のことが起こった。


「しかしモノクルを奪っていくとは……あれで計画が前倒しになったな。これも魔王様の計画の一つか」


 これから気絶させた人間を使って、やるべきことがある。

 いくつも組織を潰したおかげで、拠点となる場所の候補はたくさんあるのだ。

 あとは人間を操り、皮をかぶっていくだけである。


 そこまでやれば、彼の任務は終わりだ。残りは、魔王が後続を送ってくれるだろう。

 正直、十年はかかると思っていた。

 彼にとって十年は短いが、それでも退屈な日々を暮らさなければならないのは、憂鬱となる。


「まずは隠れなければならないな。適当な跡地の地下でいいだろう」


 そういった途端、石像魔族は翼を広げて低滑空し、自身が壊滅させた建物を適当に選んだ。

 その跡地へついたあと、自身の拳を地面へ突き刺すと、遥か下に空間が出来る。

 その中へ転移を行い、地上への隠し階段を作り、さらには壊した建物を直した。

 彼は土属性であり、この手の作業はお手の物だ。


「ん? 遠くに人の気配がするな」


 おそらく探索者協会の手の物だろう。

 自分が暴れてから三十分ほどで、調査が来たということは、かなり重要視されている。

 しかし建物はすでに修復し、隠し階段も地下も作った。

 調査は、壊れた建物を中心に行われるだろうから、ここまで見ることは、おそらくないだろう。


「ふむ、地下に潜って、警戒が薄くなるまで暫く寝るとするか」


 気絶させた人間を、次々と転移で地下まで運んだのち、ナサリオと一番始めにあったときのように、石像のような姿となった。


 そうだ、その前に魔王様へ連絡を入れる必要がある。



――魔王様、万事つつがなく終了しました。



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