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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第二部第一章

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第三話



「うーむ。一週間程度じゃ、あまり変わらんな」

 

 犯罪組織カルダーラを乗っ取ったナサリオは、戦闘員を集めて一目みるなり、残念なことを言い放った。

 戦闘員は第六級から第八級であり、さすがに一週間ではそこまで大きく成長することはない。

 ローゼ自身は、戦闘のカンを多少なりとも戻せたかな、という程度だ。


「まあいい。まず近隣の弱小組織を二~三個潰す。ただし、これはテストだ。あまりにお粗末であれば、本格的に戦力をあげることも検討しなければならないな」


 ナサリオの言っていることは、内容はともかく戦略的には正しい。

 実際に戦闘を行い経験を積ませ且つ、いくつかの組織を吸収すれば戦力も増える。

 出だしと考えれば、正解だろう。


 そうして、一番近くにあった、長年友好関係を結んでいる組織を急襲した。


「これ、私たちって必要なんでしょうか?」

「戦闘だけなら、いらんな」


 ローゼが、そばにいた戦闘員の一人に声をかけると、向こうもあきれ顔だった。


 相手の組織とは友好関係を結んでいた、とはいえ仲良しこよしという訳ではない。

 互いに喧嘩を売らない、という程度だ。不戦条約みたいなものである。

 だからローゼも、そのあたりは気にしていない。


 だが石像魔族があまりにも強すぎる。

 相手の組織も戦力的にはカルダーラと同程度だ。

 だが、カルダーラは第六級が最高戦力なのに比べ、相手には第五級探索者が一人いた。

 それでも石像魔族一体で、敵を殲滅したのだ。


 一応、ローゼ含めた戦闘員たちは、相手が逃げ出さないよう見張ってはいたが、石像魔族は誰一人として逃がさなかった。


「これではテストにならんな」


 ナサリオが、つまらなさそうに、うそぶいた。

 だがローゼも同意見だ。

 カルダーラを壊滅したときと同じで、相手は何も抵抗できなかった。

 第五級ですら圧倒する石像魔族の力は本物だ。


「では次へいくぞ」


 ナサリオの掛け声とともに、他の組織へと攻撃を始めた。


====


 そして一週間が経過した。

 カルダーラは急速にその勢力を伸ばし、いつの間にか中規模まで成長していた。

 当初、人員は二十名ほどだったが、今では二百名に達していた。


 そして問題となったのが、誰も管理するものがいないのだ。

 組織は大きくなれば、中間管理職が必要になる。トップ一人では到底まとめきれない。


「この中で、文字の読み書きができるものはいるか?」

「「はい」」


 ナサリオの言葉に、三人が手を挙げた。その中の一人がローゼだ。

 彼女は元々それなりの家出身であり、家を追い出される前まではきちんとした教育を受けてきた。


「……少ないな。まあ殆どがスラム出身だから仕方ないか」


 中間管理職の仕事は、現場をまとめるだけではない。

 誰がどのような能力を持っているのか、一覧にして見やすくまとめたり、戦闘に関しての配置場所や戦略戦術を練ったりと、多岐にわたる。

 人数が増えれば、その分仕事も増えていく。


 トップのナサリオは、組織の運営についてはほぼ何も言ってこない。

 彼が考えるのは次にどこを攻めるのか、それだけだ。



 二百人が三百人になり、いつしか一千人という大規模組織になるのに、時間はそうかからなかった。


 迷宮都市のスラム街にも、多くの人が住んでいる。

 全員が組織に属しているわけではないが、それでも万に近い人が住んでいるだろう。

 それだけ落ちぶれた探索者や浮浪者、流れ人がたくさんいるのだ。


「……疲れた」


 スラムの三大組織が四大組織になるのに、わずか一か月。

 組織の構成人数も一千人を越え、今もなお急速に拡大している。

 しかし中間管理職の人数は、そうそう増えない。文字の読み書きや算術が出来るものの人数が極端に少ないからだ。

 元々スラムに落ちるような人の殆どは、それらが出来ないから仕方がないとはいえ、その負担はローゼに重くのしかかっていた。


「なんで誰もできないのでしょうか……」


 文字の読み書きは元より、算術や文章のまとめまでできるものは、今のところローゼしかいない。

 このため、ナサリオから組織の運営を一手に任されていた。

 ローゼも第八級探索者であり、体力は一般人に比べれば多いが、精神的にはきつかった。

 十三歳の子どもが数百人の組織を運用するのだ。無理があるだろう。


「商人でも雇わないと、正直私一人では無理があります」

「その辺はお前に任せる。好きにしろ」

「あっはい」


 限界に近づいたローゼは、ナサリオに相談するも、やはり丸投げだった。

 仕方なく、内部に商人の伝手があるか聞いてみたが、結果は芳しくなかった。

 まあ普通はないだろう。

 なにせこちらは犯罪組織なのだ。まともな商人が付き合うはずがない。


 そして大手の犯罪組織ならばともかく、吸収した組織はカルダーラと同じ程度の弱小組織だ。

 誰も中間管理職をやったことがない。そもそも必要のない規模だったからだ。


 本当にこれで良いのでしょうか。


 ローゼももちろんやったことなどない。

 これが正解なのかさっぱり分からないのだ。


 それはともかく、そろそろ迷宮へ潜らないといけない。

 月に三回のノルマをこなさないと、探索者資格が取り消されてしまう。


(たまには身体を動かさないと、鈍ってしまいますからね)


 他の中間管理職に、迷宮へ潜ってくることを伝えて、拠点を出た。

 もちろん、例の石化の呪いは受けている。この辺り、ナサリオはしっかりチェックしていた。


====


「そうなんです! まったく、みんな私のところばかり押し付けてくるのです!」


 ローゼが迷宮へ潜って敵を倒していると、以前強化種のコボルトから助けられたフィーリアを名乗る剣士と、偶然出会った。

 同性で且つ年が近いということと、ここ最近鬱憤が溜まっていたからか、思わず愚痴がいくつも飛び出てしまった。

 迷宮を出てもその愚痴は止まらず、結局流されるままに買い物をして、フィーリアの家へとたどり着く。

 そこは探索者協会が提供している、格安の賃貸だった。

 実に狭い。だが、一人で暮らすだけならば、十分な広さだ。

 そして不自然なまでに、鎮座している風呂釜。流しの側にあるので、井戸から水を汲んできて、使い終わったらそこへ水を捨てるのだろう。


 そんな狭い部屋の中で夕飯のハムチーに齧りつきながら、フィーリアと話を続けた。


「ローゼちゃん十三歳なんだよね。それでそんなに仕事押し付けられているんだ」

「そうなんです! 私みたいな子どもが、そんなことをしてもいいのか、常々疑問に思ってるんですよ」

「うーん。文字の読み書きができて、算術にも詳しく、資料の要点をまとめられる人って、そんなにいないからね」


 探索者協会の職員や、商店で働く人ならば、きちんと勉強しているだろう。

 しかし探索者の半数は、算術どころか文字すら読み書きできない。

 食いぶちを求めて、最終的に行き着く先が探索者なのだ。教育を受けられる生まれのものが少ない、という理由が大きい。

 もちろん、騎士や兵士の家系で武を求めて潜るものや、一般市民がたまたま探索者になった、というものもいる。

 それらは、ちゃんと教育を受けているので、読み書き、簡単な算術などはできる。


「みなさん、勉強すればいいだけですのに」


 貴族や商人と契約した探索者は、必ず文字の読み書きを覚えなければならない。

 依頼内容は紙で送られてくるのだ。文字が読めなければ、依頼すら受けられない。

 このような例は少ないが、あとから勉強する人もいる。


 しかし勉強するにも金がかかるのだ。

 低いランクの探索者が、そのような金を出せるはずがない。


「そうなんだよねー。でもさ、あたしもそうだけど、お金がないから勉強できないんだよね」

「そうなのですか」

「たぶんローゼちゃん、いいところの出なんでしょ? そうじゃない人は、勉強なんてできる環境にいないからね」

「そう……ですね」


 ローゼは理由があって家を追い出されたが、それでも高水準の教育を受けている。

 だからこそ、それを見抜いたナサリオも、ローゼに全て任せている。


「それよりフィーリアさん! それって、お風呂ですよね?」


 ハムチーを食べ終わってから、とうとう気になっていた風呂釜へ話題を振った。

 ローゼが水浴びするのは二~三日に一度、桶に貯めた水を使ってタオルでこする程度だ。

 たまに街の外へ出かけて、川の水で流すこともある。

 しかし自宅に風呂釜を置いてまで、入ることはない。井戸から汲んでくるのが大変だからだ。


「うん、入ってみる?」

「ぜひ! 入らせてください! お金は払いますし、水汲みもお手伝いします!」

「いやいや、お金はいいよ」


 そう言いながら、フィーリアが水魔法で水を生みだし、風呂釜へと入れていく。

 それを見たローゼは、目をまん丸にして驚いた。

 この風呂釜に水を貯めるのは、かなり魔力が必要となる。それだけフィーリアの魔力量が多いという証拠になる。


「フィーリアさんは、水属性なんですね」

「うん、そうだよ」

「これだけの水を作るの、大変じゃないですか?」

「迷宮では滅多に魔法を使わないからね」


 そうして、風呂釜七割程度まで水が入った。

 今の季節はそこまで寒くはないし、これでも魔素を貯めた探索者だ。多少寒さに対する抵抗力はある。


「これで身体をこすりながら、汗を流してね」

「はい! ありがとうございます!」


 さっそく服を脱いで、水に浸かる。

 やはり川で洗い流すのとは気分が違う。

 風呂釜の中で、身体を綺麗にするというのは初体験だ。この狭い部屋では、風呂釜以外に洗う場所がないという理由だが……。

 一点、風呂釜の木の色がおかしいことに気が付いたものの、中古でも買ったのだろうと、思い直した。


 十分洗って綺麗になったところで、風呂を出ると、ちゃんと綺麗な布を渡してくれた。

 身体についた水をふき取ると、心身共にさっぱりとした。


 フィーリアが、風呂釜を持ち上げて流しから水を捨てる。

 水が入った風呂釜は非常に重い。というより、一般人では一人じゃ持ち上げることはできないだろう。

 それを軽々と持ち上げるのだから、魔素を吸った探索者というのは常識外だ。


「じゃあ、寝ようか」

「あれ、フィーリアさんは入らないのですか?」

「明日入るよ」

「あっ……」


 おそらく、フィーリアの分まで水を出す魔力が足りないのだろう。

 申し訳ない、と思いつつその日はフィーリアと一緒に就寝した。


 そして翌日、日が昇ると慌てて組織の拠点へ戻った。

 呪いの効果は二十四時間なので、朝までに戻らないと石になってしまうのを、すっかり忘れていたからだ。



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