プロローグ
ここは迷宮都市ではない、他の寂れた迷宮だ。
その地下二十八階層……迷宮都市の探索者でいえば、第五級が推奨とされる深度だ。
第五級といえば、中級クラスであり実力はかなり高い。
そしてそこには一人の男が、大剣を持って息を荒げていた。
男の目の前には、巨人が血を流して倒れており、ぴくりとも動いていない。
また男もかなり傷を負っており、着ていた鎧も一部破損している。相当な激戦だったようだ。
男以外に人はいなく、ソロである以上普通ならもう引き返すべきだろう。
それでも男は、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべていた。
「は……ははっ」
倒れた巨人は迷宮に吸収され、死体が消え去った。
そしてその代わりに現れたのが――宝箱だ。
部屋の一番奥には、羽の生えた奇妙な生き物の形をした石像が台座の上に座っており、その前に突然宝箱が沸いたのだ。
それに近づいた男はためらいなく、その宝箱を開ける。
鍵もかかっていなかったのだろう、あっさり開くと中にはモノクルのような魔道具が一つだけ入っていた。
男はそれを取り出し左目に付けて、石像を左目で視た。
するとどうだろう。
その石像が、微かな音を立てて動き出す。
――魔族。
ここには強力な魔族が封印されており、その部屋を守る魔物を倒せば、魔族を操れるという。
そして宝箱から出たモノクル、これが魔族を操るアーティファクトだ。
「さあ、動け!」
男が命令すると、石像の魔族はゆっくりと立ち上がる。
身長は三メートルほどあり、決して小さくない男が見上げるような大きさだ。
石像は身震いすると、背中に生えた翼を大きく広げ、まるで運動するかのように空へ浮いた。
その大きさに一瞬怯んだが、石像はただ浮いているだけで、一切男を襲うような仕草はしなかった。
それに安心した男は、大きく息を吐いた。
「やはり本当だったか……はっははは」
あとはこの石像の魔族が、どの程度強いのかを確認する必要がある。
だがここは迷宮の二十八階層だ。地上へ帰るまでに、いくらでも確認ができる。
「はははははっ! やったぞ! さあいくぞ石像よ!」
男の掛け声に応じて、石像があとを浮きながらついていく。
その迫力は並みの魔物では太刀打ちできないほどある。
おそらく自身が戦っても、全く歯が立たないだろう。
男とて第五級の探索者だ。それが勝てるビジョンが浮かばないということは、少なくとも第三級クラス、いや第二級も倒せるはずだ。
「くくくくっ、これで迷宮都市を支配してやる。ようやく俺にも運が巡ってきたか」
高笑いをしながら、部屋から出ていく男。
それについていく石像の魔族。その顔は何かしら嘲笑っているような表情だった。




