エピローグ
ここは人類が住む大陸から遠く離れた列島だ。
この列島は人類が言うところの魔族の国であり、その中心都市に建つ城には魔王と呼ばれる存在がいる。
人類が見れば、魔王城と呼ぶに相応しい城構えだ。
その一番高い天守閣の一室に魔王とカイン、二人の高位魔族がミニテレビの魔道具を見ながら会話をしていた。
「はははははっ! 見たかカイン! 迷宮都市の教会上層部、全員左遷だってよ!」
「暴走した結果が、これとはな。勇者は良いやつだったのに、それを拝んでる奴らは呆れしかないな」
「さてさて、面白いことになってきたなあ」
魔王はにやにやと笑いながらも、画面を見つめ何やら思考していた。
彼が目にしているのはフィーリア、ではなく彼女が持つ魔剣ブランだ。
「あの剣さ、絶対こっちに気が付いてたよな」
「奴なら気が付くだろ。気配を読むことに関しては、俺より遥かに上だ」
「ふーん。実はさ、ブランのことあまり知らないんだよ。ぜひカインにご教授してもらいたいね」
魔王は三百歳少々と魔族としては若く、侮られることが多かった。
このため、カインという魔族でも古参でかつ、実力が非常に高い者を側近にしていた。
ただカインは、かなり放浪癖が多く、実際ふらっと居なくなったと思えば、人間の子を育てていたりもする。
魔王にとっては扱いづらい人物だ。
「なんだ、気になるのか?」
「気になるさ。だってブランが死んでから八百年も経っているのに、未だ信奉者がいる。それが信じられないんだよ」
「ふーん。そうだな……あいつはな……強かったぞ」
「そんなこと、分かるわっ!」
一千年前、先代魔王が勇者に倒されたのち、急速に勢力を伸ばしたのがブランだ。
実力もさることながら、洞察力や観察力に長けており、面倒見も良く数多くの魔族を支配していた。
そんなブランを倒したのがカインだ。
もっとも、ほぼ相打ちに近い状態ではあったが、それでも勝ちは勝ちだ。
「なんでお前は、ブランに喧嘩を売ったんだ?」
「やることがなかったから」
「は? 暇だったから喧嘩売りに行ったのか?」
勇者と戦ったときは、楽しかった。幾度となく敗北し、幾度となく勝利もした。
互いに止めを刺すことはなかった。
勇者が先代魔王を倒した後も戦い続けた。
しかし結局勇者も人間だった。数十年も経てば老いてしまう。
勇者が四十代後半を超えたころには、すでにカインは負けなくなっていた。
結局そのあとは魔族領に戻り、暫く何もやらなかった。
それから二百年、ブランという魔族が台頭してきた。
強敵に飢えていたカインは、すぐさま飛びついた。
ただブランは、当たり前だが勇者ではなかった。
ほぼ相打ち状態となったとき、自ら魔剣へと変化したのだ。
互いに命を奪わないと思っていたカインは、それで驚いてしまった。
「失敗だった。勇者と長年戦っていたせいか、感覚が狂っていたわ。魔族同士の戦いは、互いに命をかけて当たり前だ。ブランは勝者に対し、自分を使えと言ったのだ」
「何をよくわからんことを……」
気が付けば、いつの間にかカインはぶつぶつと独り言を呟いていた。
ブラン亡き後は、敵もいなくなった。
目の前にいる魔王は力で治めるタイプではなく、様々な知略で魔王の座を勝ち取った。
このため、カインは魔王の武力に興味はない。魔王の側近になったのは、単に魔王という地位に敬意を表していたからだ。
「ああ、すまん。で、ブランの話だっけ?」
「いや、それはもういいわ。何となく分かったから」
魔王はあきれ顔で、カインの言葉を否定した。
彼は彼で、単に武力だけでは、今後魔族は生き延びられないと考えている。
それは、勇者というものを生みだした超常的な存在がいるからだ。
そんな存在が人類に力を貸せば、単に力だけの魔族は負けてしまう。
ブランもカインと同じく武闘派だ。
ブランには今でも信奉者がいるものの、現状の勢力がひっくり返るほどではないことが分かれば、それで十分だ。
そちらよりも……。
「なあカイン」
「なんだ? ブランか?」
「いや違う。ちょっとお前が育てた人間、借りていいか?」
魔王は、レオナードとフィーリアの戦いを見ていた。
あの程度ならば借りるほどではないが、ブランがフィーリアの身体を操ってからは違った。
以前カインは、ブランが本気を出せば面倒になる、と言っていたが、確かに面倒そうだった。
しかし、それならそれで使い道はある。
「何を考えている? あれは俺が丹精込めて育てたやつだ。無論ダメだ……と言いたいが」
「言いたいが?」
「なんだあの情けなさは。あの程度の敵に後れを取るとは、今度会ったら徹底的に扱いてやる」
ブランが操る前まで、レオナードに押されていた。
あのまま戦い続ければ、フィーリアは負けていただろう。
カインとしては、あまりにも弱すぎる。
修行もせず、のんびり鉱石掘りなどやりおって。
「修行という名目ならば、貸してやろう」
「よし。じゃあちょっと俺の策に組み込むわ」
「死なせるなよ?」
「ブランがいるから大丈夫さ。たぶんね」
ある程度強く無ければ、策に組み込めない。フィーリアだけなら、魔王も使わなかっただろう。
しかしブラン込みならば、十分使える駒だ。
さてさて、自称魔王軍のスパイは楽しんでくれるかな?
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「はっくしゅん!」
一瞬、背筋に寒気が走って、くしゃみをしてしまった。
あれ? 風邪でも引いたかな?
(なんだ? 湯冷めでもしたか?)
「ブランがお風呂長すぎるんだよ!」
(久しぶりに剣として使ったからな。やはり運動のあとは、ゆっくり風呂に浸かって、のんびり楽しむのだ)
……なんだよ、この風呂好き魔剣め!




