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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第一部第三章

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エピローグ


 ここは人類が住む大陸から遠く離れた列島だ。

 この列島は人類が言うところの魔族の国であり、その中心都市に建つ城には魔王と呼ばれる存在がいる。

 人類が見れば、魔王城と呼ぶに相応しい城構えだ。

 その一番高い天守閣の一室に魔王とカイン、二人の高位魔族がミニテレビの魔道具を見ながら会話をしていた。


「はははははっ! 見たかカイン! 迷宮都市の教会上層部、全員左遷だってよ!」

「暴走した結果が、これとはな。勇者は良いやつだったのに、それを拝んでる奴らは呆れしかないな」

「さてさて、面白いことになってきたなあ」


 魔王はにやにやと笑いながらも、画面を見つめ何やら思考していた。

 彼が目にしているのはフィーリア、ではなく彼女が持つ魔剣ブランだ。


「あの剣さ、絶対こっちに気が付いてたよな」

「奴なら気が付くだろ。気配を読むことに関しては、俺より遥かに上だ」

「ふーん。実はさ、ブランのことあまり知らないんだよ。ぜひカインにご教授してもらいたいね」


 魔王は三百歳少々と魔族としては若く、侮られることが多かった。

 このため、カインという魔族でも古参でかつ、実力が非常に高い者を側近にしていた。

 ただカインは、かなり放浪癖が多く、実際ふらっと居なくなったと思えば、人間の子を育てていたりもする。

 魔王にとっては扱いづらい人物だ。


「なんだ、気になるのか?」

「気になるさ。だってブランが死んでから八百年も経っているのに、未だ信奉者がいる。それが信じられないんだよ」

「ふーん。そうだな……あいつはな……強かったぞ」

「そんなこと、分かるわっ!」


 一千年前、先代魔王が勇者に倒されたのち、急速に勢力を伸ばしたのがブランだ。

 実力もさることながら、洞察力や観察力に長けており、面倒見も良く数多くの魔族を支配していた。

 そんなブランを倒したのがカインだ。

 もっとも、ほぼ相打ちに近い状態ではあったが、それでも勝ちは勝ちだ。


「なんでお前は、ブランに喧嘩を売ったんだ?」

「やることがなかったから」

「は? 暇だったから喧嘩売りに行ったのか?」


 勇者と戦ったときは、楽しかった。幾度となく敗北し、幾度となく勝利もした。

 互いに止めを刺すことはなかった。


 勇者が先代魔王を倒した後も戦い続けた。

 しかし結局勇者も人間だった。数十年も経てば老いてしまう。

 勇者が四十代後半を超えたころには、すでにカインは負けなくなっていた。


 結局そのあとは魔族領に戻り、暫く何もやらなかった。

 それから二百年、ブランという魔族が台頭してきた。

 強敵に飢えていたカインは、すぐさま飛びついた。


 ただブランは、当たり前だが勇者ではなかった。

 ほぼ相打ち状態となったとき、自ら魔剣へと変化したのだ。

 互いに命を奪わないと思っていたカインは、それで驚いてしまった。


「失敗だった。勇者と長年戦っていたせいか、感覚が狂っていたわ。魔族同士の戦いは、互いに命をかけて当たり前だ。ブランは勝者に対し、自分を使えと言ったのだ」

「何をよくわからんことを……」


 気が付けば、いつの間にかカインはぶつぶつと独り言を呟いていた。

 ブラン亡き後は、敵もいなくなった。

 目の前にいる魔王は力で治めるタイプではなく、様々な知略で魔王の座を勝ち取った。

 このため、カインは魔王の武力に興味はない。魔王の側近になったのは、単に魔王という地位に敬意を表していたからだ。


「ああ、すまん。で、ブランの話だっけ?」

「いや、それはもういいわ。何となく分かったから」


 魔王はあきれ顔で、カインの言葉を否定した。

 彼は彼で、単に武力だけでは、今後魔族は生き延びられないと考えている。

 それは、勇者というものを生みだした超常的な存在がいるからだ。

 そんな存在が人類に力を貸せば、単に力だけの魔族は負けてしまう。


 ブランもカインと同じく武闘派だ。

 ブランには今でも信奉者がいるものの、現状の勢力がひっくり返るほどではないことが分かれば、それで十分だ。


 そちらよりも……。


「なあカイン」

「なんだ? ブランか?」

「いや違う。ちょっとお前が育てた人間、借りていいか?」


 魔王は、レオナードとフィーリアの戦いを見ていた。

 あの程度ならば借りるほどではないが、ブランがフィーリアの身体を操ってからは違った。

 以前カインは、ブランが本気を出せば面倒になる、と言っていたが、確かに面倒そうだった。

 しかし、それならそれで使い道はある。


「何を考えている? あれは俺が丹精込めて育てたやつだ。無論ダメだ……と言いたいが」

「言いたいが?」

「なんだあの情けなさは。あの程度の敵に後れを取るとは、今度会ったら徹底的に扱いてやる」


 ブランが操る前まで、レオナードに押されていた。

 あのまま戦い続ければ、フィーリアは負けていただろう。


 カインとしては、あまりにも弱すぎる。

 修行もせず、のんびり鉱石掘りなどやりおって。


「修行という名目ならば、貸してやろう」

「よし。じゃあちょっと俺の策に組み込むわ」

「死なせるなよ?」

「ブランがいるから大丈夫さ。たぶんね」


 ある程度強く無ければ、策に組み込めない。フィーリアだけなら、魔王も使わなかっただろう。

 しかしブラン込みならば、十分使える駒だ。


 さてさて、自称魔王軍のスパイは楽しんでくれるかな?


====


「はっくしゅん!」


 一瞬、背筋に寒気が走って、くしゃみをしてしまった。

 あれ? 風邪でも引いたかな?


(なんだ? 湯冷めでもしたか?)


「ブランがお風呂長すぎるんだよ!」


(久しぶりに剣として使ったからな。やはり運動のあとは、ゆっくり風呂に浸かって、のんびり楽しむのだ)


 ……なんだよ、この風呂好き魔剣め!




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