第一話
コンッ……コンッ……。
金属が固い石を掘る音が洞窟内に木霊する。
疲れた。
つるはしを振りかぶって、石に叩きつける。
コンッ。
それでようやく、石から鉱石がころんと落ちた。
それを無造作に、背負った袋の中へと詰めていく。
朝から数時間、鉱石掘りをしていたおかげで、だいぶ重くなってきた。
「あーもう、飽きた!」
(飽きるのが早いぞ)
「だって、飽きたんだもん! まいにちまいにち同じ作業の繰り返し。もっと刺激が欲しい!」
(仕事とはそのようなものだ)
あたし、フィーリアは迷宮を探索する第八級探索者だ。
探索者といえば、迷宮へと潜り強敵と戦いつつ、そのドロップ品や隠されたお宝を手に入れる。
そう思っていたけど、現実は違った。
こうして、迷宮の壁からはみ出ている石を割って、中にある鉱石を掘りだすのが日課だった。
しかも鉱石って買取価格が安いんだよね。日銭程度しか稼げない。
生活がカツカツすぎるよ。
「ブランももっとお金欲しいよね?」
(剣が金を手に入れて、何に使うというのだ?)
「ブランだって、もっとかっこよくて綺麗な鞘に入りたいでしょ?」
(鞘に入れられると、我の美しい刀身が見えなくなるではないか。鞘などいらぬ)
「抜き身で剣を持つのは危ないよ」
ブラン……インテリジェンスソードというしゃべることの出来る魔剣と、雑談を交わしながら鉱石を掘る。
本当にブランが話せられてよかったよ。
一人でもくもくと鉱石掘りなんて、あたしには絶対無理だ。
「いつになったらランクあがるんだろ」
(さあな。人間のシステムは理解しにくい)
あたしは十六歳であり、若手の部類に入る。若手どころか子ども扱いされているけどね。
でもこの年で第八級というランクは、それなりに高い。
高い……んだけど、全体からすればかなり下だ。
高ランクの探索者は儲かる。それはもう、ものすごく儲かる。
でも低ランクの探索者は、こうして迷宮にある鉱石を掘って日銭を稼ぐくらいには、困窮しているのが現状だ。
「どこの世界も、おかねおかね。世知辛い世の中だよ」
(人間社会は不便だな。力こそ正義が単純であり、唯一無二だ)
「それじゃ世紀末世界になっちゃうよ。殺伐とした世界はもっと嫌」
ブランはお父様から頂いた魔剣だ。
あたしは気が付いたら、この世界のスラム街のような場所に捨てられていた。
あの時、本当に生前の記憶が戻ってよかった。そうでなければ死んでいたもんね。
そしてお父様に拾われた。血のつながりはないけど、あたしにとって唯一無二の家族だ。
まあ問題は、お父様が人間ではなく魔族だったってところだけどさ。
カンカン、とリズムよく石を割り、鉱石を取っていく。
ここ数か月、この繰り返しだ。正直飽きる。
でもやらなければ、生活することができない。
全く、何が楽しくて十六のうら若き乙女が、鉱石掘りなんてやらなければならないのか。
しかもソロで。
お友達なんていない。みんなライバルだ。
ソロなのも鉱石掘りでパーティを組む必要がないし、スズメの涙ほどの収入を人数分で割ると、それこそ生活すらできなくなる。
はぁ……美味しいものを食べたい。
可愛い服を着たい。
おーっほっほっほ、と高笑いしながら、高いものを買い……たくはないかな。それは普通に買えればいいや。
おかねおかねおかね。はぁ、辛いよ。
(そろそろ袋もいっぱいになったのではないか?)
「うん、そうだね。これ以上掘ると重すぎて動きが鈍くなるかな」
(マジックバッグは使わないのか?)
「使わない。あんな目立つものを使ってたら、絶対絡まれる。断言しちゃう」
第八級探索者が、マジックバッグから大量の鉱石を出せば、絶対何か言われる。
それくらいマジックバッグは希少価値の高いものだ。
そしてブランもマジックバッグも、それ以外にもいくつかあるが、全てお父様から頂いた大切な力だ。
もうお父様大好き、愛してる。
でもね、あたしが十五歳になった時だ。
ちょっと呼ばれたのでお前は適当に暮らせ、と言われて放置されました。
お父様、それはいかがなものかと思います。
おかげで、こうして迷宮都市までやってきて、日銭を稼ぐ生活になってしまった。
それにしても探索者って儲かると聞いたんだけどなぁ。
「じゃ、戻りましょ」
(今夜も風呂を所望する。我が刀身を常に磨いて綺麗にするのだ)
「お風呂は剣を綺麗にするものじゃないんだけど……」
(お前だって体を綺麗にするために、風呂へ入るのだろう? 剣が刀身を綺麗にしてもよいではないか)
「そうかな? 何か違う気がするけど……」
(細かいことは気にするな)
「はいはい、分かりましたよ」
帰り際、あたしと同じように鉱石掘りをしている人を見かけた。
ソロでもくもくと掘っている姿は、何かしら哀愁を誘う。
あたしも他人から見ると、あんな感じなんだろうね。
はやくこの生活から卒業したい、ランク上がらないかなぁ。




