第五話
「てめぇらよくもやってくれたな!」
「いくぜ!!」
教会に殴りこんだ人工勇者三十人弱。
対する教会は総勢百人くらい。
それを近くの建物の屋根から観戦するあたし。
もぐもぐ。
夕飯用に買っておいたハムチー、正直食べ飽きたはずなんだけど、場所を変えるとおいしく感じるのはなぜかな。
さて、人工勇者側の勢いが凄い。積年の恨み、ここで晴らさん、って感じ。
教会はその勢いに完全に負けて押されまくっている。たださすが教会、回復できる人が非常に多い。
回復かぁ。あの人たちって、あたしと同じ水属性かな?
一言で属性とは言っても、その種類は様々だ。もちろん、得意なもの不得意なものに分かれるけどね。
例えば火属性は攻撃型。もう攻撃以外できないんじゃないかってくらい、ほぼ攻撃特化型だ。
そして水属性は、基本的にサポート型だ。
霧を発生させたり回復が得意なんだけど、あたしは、お父様に戦闘面だけ教わったので、ほぼ攻撃型しか使えない。
他に回復できる属性は光があるらしいけど、非常にレアなんだって。この属性を持っていると、勇者や聖女と呼ばれるようになるらしいよ。
さて、戦況は人工勇者が優勢だ。
力を解放している人もちらほらいるし、戦闘面では教会のほうが分は悪い。
でも回復役が多いためか、いわゆるゾンビアタックみたいになっている。
ゲームではよくやったけど、実際リアルで見てると気味が悪いね。
あんなに怪我を負ったのに、すぐさま復帰していくんだもん。
確かにゾンビアタックだ。
このため教会側は押されて戦線を徐々に下げてはいるけど、瓦解まではしていない。
耐えるね。
そして人工勇者には十分というタイムリミットがある。
三十人近くもいるから、一人二人ずつ順番に解放していけば、長持ちしたとは思うんだけど、さすがに連携を求めるのは無理のようだ。
勢いで殴りこみするほどだからね。
開始後三十分も経過すると、人工勇者側がヘロヘロになっていた。
戦ってるのは、すでに五人くらいまで減っていて、ここで教会側が攻勢をかければ一気に決まると思う。
でも教会側も回復が大変だったみたいで、かなりの人数が倒れているし、更に戦う人も、何度も回復を受けていたせいか、かなりふらふらになっている。
泥沼試合だ。
これって、もしかして相打ち状態?
===
そうして更に十五分経過したときだ。
すでに立っているものはなく、両者ノックダウン状態だった。
どうするんだろうね、これ。
と、そこへようやく探索者協会が仲裁として入ってきた。
前にあたしを助けてくれた巡回員のサモエルさんや、レオナードの姿も見える。
そしてなんだかレオナードが驚いている様子だ。
(倒れた人工勇者を見て、年を取っているのに驚いているようだな)
え? 今さら?
あ、でもそうか。レオナードがまともに人工勇者たちと対峙したのって、あたしに絡んできた四人組くらいだ。
ミサの時は既に力を解放してた人工勇者だったし、だから知らなかったんだ。
そして自分が捕まえた四人組だけど、今回の乱闘騒ぎに加わっていて、なぜか以前見たときより随分年を取ってて驚いたと。
なるほどね。レオナードってば、第二級なのに情報を一切知らなかったのか。
それか協会が知らせなかったか。どっちかな?
そして探索者協会の偉そうな人とレオナードが会話している。
(これはどういうことだ協会長! と食い掛っているな)
「あの偉そうな人って協会長だったんだ。へー」
(勇者教会が人工的に勇者を作り出したようだ。そしてその力を使えば一定の年を取ってしまうということだな)
ブラン、通訳ありがとう。
……ん? 通訳で合ってるのかな。
まあいいや。
協会長に事情を説明してもらったレオナードが、なんだか怒りのまま教会の人に殴りかかろうとした。
それを見た協会長が、その腕を掴んだ。
おや?
「第二級のレオナードを止めるなんて、あの協会長も強い人なのかな」
(ふむ……見た感じ、同じくらいだろう。ただ暫く前線から遠ざかっているようだな。キレがない)
見ただけで分かるとか、ブランすっご。
(現役の、しかも第二級探索者が教会の人間を殴れば、それは問題となる。堪えろ)
「協会長、大人だ」
(教会はうちの国以外に、他国にも影響力を持っている。対立するのはまずい)
勇者教会と探索者協会。
勇者教会は宗教団体であり、本拠地は別の国にある。
そして探索者協会は国立で、国の一部だ。
「下手をすれば、国同士の争いになっちゃうってことか。それはまずいね、戦争はだめだよ」
(ふむ? 同族同士で争い、力を競うのも良いではないのか?)
「戦いたい人だけが戦うのなら、いいと思うけどさ。戦いたくない人も巻き込まれるもん。ダメだよ」
(なるほど。弱きものを甚振るのは、確かによくないな。成長がないし、何より楽しくない)
そういう意味じゃないんだけどな。
===
人工勇者と教会の対立は、ほぼ痛み分けとなった。
探索者協会の長である、元第二級探索者ドニは、それを見計らって仲裁に入った。
死人が出るほどの対立や、町に被害を及ぼすのならば止める必要がある。
ただ人工勇者も教会の人間であり、今回のこれは内部抗争に当てはまる。
このため、探索者協会としては極力手を出せなかった。
「ふん、人工勇者か。先日の尋問で情報は手に入ったが……まさか事実とはな」
ドニが倒れている人工勇者たちを見る。
確かに力は手に入る。
一般人に近い程度の探索者ですら、ドニの見立てでは、第四級~第五級程度まで身体能力があがっていたのだ。
その代わり、代償としておおよそ十年ほどの寿命を差し出す。事前の情報通りだ。
いったいどんなアーティファクトを使ったのか。
そして、それを奪ったあの謎の剣士とやらは、どうするつもりなのか。
部下に指示を出しながら、ドニが考え事をしていると、レオナードが詰め寄ってきた。
「協会長。これは……この人たちは先日、僕が捕まえた四人だけど、なぜこんなに年を取っているのですか。ほんの数日前まで僕とそう変わらない年だったはずなのに、十歳は年上じゃないですか」
「ああ、お前は知らされてないのか」
確かこの四人組の尋問を担当したのはサモエルだ。
自分のところには、尋問した内容は届いているが、レオナードには言ってなかったのか。
サモエルめ、レオナードは勇者に憧れすぎているから知ったが最後、教会へ詰め寄るに違いないと考え、敢えて知らせなかったな。
ちっ、面倒なことを押し付けやがって。
そして協会長のドニは、レオナードにこれまで得た情報を共有した。
予想通りレオナードは憤り、教会のやつらを殴ろうとしたが、それを止めた。
「何故止めるんですか協会長!!」
「手を出せば、我々が不利になる」
「で、でも! こいつら、人を何だと思ってるんだ!!」
確かにレオナードの言っていることは理解できる。
だが第二級探索者、つまり探索者協会の顔であるレオナードが勇者教会の者を攻撃すれば、後々非常に厄介なことになってしまうのだ。
「人道的には許されないだろうな。ただ勇者教会は、魔王に対抗する組織だ。その一環としてならば、考える余地はある」
一般人程度のものが、第四級ほどの探索者レベルまで強くなる。
となれば、自分やレオナードがそれを使えば、もしかすると魔王にも対抗できる可能性はある。
力を使えば十年もの寿命を代償とするが、万が一の備えにはなるだろう。
ただ……。
「無論、罪なき人々を犠牲にした今回の件は、俺も憤りを感じている」
実験として、なんら罪を侵していない人間を使うのは、いくらなんでも問題すぎる。
しかもこれまで百人近く実験していたと聞いた。
これが事実ならば、探索者協会としても何らか対応すべきだ。
「協会長! なら!」
「ただこの件に関しては、国に指示を仰ぐ。我々では判断できない。いいな、お前も堪えろ」
そうなのだ。
これほどの問題は、探索者協会という国の一部署だけでは判断ができない。
国に問う必要がある。
「問題を起こせば、俺もお前もただでは済まないぞ」
「くっ……分かりました」
レオナードは納得していなさそうだ。
国からの回答によっては暴発しそうだな。
そう思うドニだった。




