第四話
コンコン……と。
よし、鉱石が掘れた。
「よっ……と」
背中の袋が重い。でもこれは鉱石がたくさん入っている証拠だ。
なんだか久々に誰にも邪魔されず、思う存分鉱石を掘った気がする。
ちょっと前は単調作業ばかりで飽きちゃうから、刺激が欲しいって言ったような気がするけどさ。
やはり世の中、平穏無事が一番だね!
「これだけ掘れば十分だね。さて帰ろうか」
今日の稼ぎはいくらになるか、楽しみだ。
「銅貨五枚だな」
「……はい」
あれ? 悪くはないけど、良くもない。
平穏無事ってことは、平均くらいの稼ぎってことになるのか。
うーん、世の中厳しいね。お金が欲しいよ。
まあ愚痴を言ってても仕方がない。
買い出しして帰るか。
「ブラン、何かいいお金稼ぎないかなぁ」
探索者協会からの帰り道、ブランと小声で雑談しながら、買い出しに向かった。
裏道を通るルートなので割と人通りが少なく、雑談するにはもってこいなのだ。
(もっと深くまで潜ればよいではないか)
「そうなんだけどね」
前にパンチョさんから聞いたけど、ランクをあげるには、自分と同レベル以上の魔物を倒しまくることだ。
でもさ、自分と同じくらいってことは、ソロだと五分五分の勝率ってことだよね。
それを倒しまくるなんて、できるはずがない。
やはり仲間が必要なのかな。
一人では無理でも、二人三人いれば勝率はぐっと上がる。
まあブランの力を借りれば倒せるだろうけど、あの姿はスパイ活動しているときのみと決めている。
それに、あれはあくまでブランの力であって、あたし本来の力じゃないからね。
それであがっても、ずるだ。よくない。
……仲間かぁ。
どこかに、あたしのことを全然詮索しなくて、それでいてあたし以上に強くて、あたしの秘密を知ったとしても黙認してくれる人っていないかな。
そんな都合のいい人なんて、いないよね。
===
あたしの平穏無事を返してほしい。
それは帰りに寄った買い出しで、なぜか教会の演説場面に出くわしたのだ。
この辺の区画は当然お店が多いし、時刻も夕方。一日で一番混雑する時間帯だ。
人が多いので、演説するには良い場所だとは思うんだけどさ。
何もちょうど買い出しにきていた時に、やらないでほしい。
「だから、我々勇者教会は! 魔王に対抗するため、絶対に勇者の力が必要だと考える!」
うるさいなぁ。
箸にも棒にも引っかからない程度の勇者なんて、いらないんじゃないの?
勇者教会って名前だから、勇者が大事なのは分かるけどそこまで必要なの?
「現在の魔王は力を貯めている時期だ。いずれ我々人類に攻め込んでくるに違いない!」
今日は何にしようかな。
ハムチーは飽きたし、カレーとか奮発したいところだけど、今日の稼ぎから考えると厳しいよね。
他に候補といえば、自炊。
生前なら冷蔵庫という便利なものがあったけど、この世界にはお金持ちしか持っていない。電気なんてないからね。
ただの箱に氷属性の人が作った氷と食材を入れて閉めるだけ。
映画で見たけど、日本も昭和初期から中期の頃だと、冷蔵庫はこんな感じだったらしいよ。
「その時、勇者がいなければ人類は滅びを迎える! 我々勇者教会はいずれ訪れる破滅に対し、備えなければならない!」
ああ、そうだ。ランプ用の油も買っておかないと。
獣油は安いんだけど、臭いがきついんだよね。植物油は、高いから普段使いには到底買えないし。
たぶんゴマとかオリーブの生産量が少ないから、高いんだろうけど、一大生産地とかどこかで作ってくれないかな。
「それ以上に勇者が現れれば、こちらから打って出ることも出来る! 先に災いの種を潰すのだ!」
(そろそろ、たわしと布も買い替えろ)
はいはい。ブラン専用の磨き道具ね。
贅沢な剣め!
ブランは魔剣なだけあって、研ぐ必要はないので楽なんだけど、本人が風呂好きになったせいか、たわしの消耗が激しい。
使ってないから汚れてもいないのに、無駄だよね。
以前そう反論したら、お前も汚れていないのに風呂に浸かるではないか、と言われた。
そりゃお風呂があるなら、毎日入りたいです。
そして結局、夕飯のハムチーとランプの油に、たわしと布を買った。
えっと、買い出しはこんなものかな?
全部で銅貨四枚と鉄貨八枚。今日分の稼ぎをほぼ使い切った。
かなしい。
「やかましい!」
「教会のやつらを許すな!」
「俺らの青春を返せ!!」
そして帰宅しようとしたときだ。
教会の人たちが演説していたところへ、突然複数の人が乱入してきた。
ん? あの人たちってもしかして。
(人工勇者たちだな)
うわー、対立してるとは思ったけど、直接殴りこむほどとは思わなかったよ。
そして人工勇者と教会の大乱闘となった。
しかしここは探索者教会から、探索者たちが数多く住む居住区画の間にある場所だ。
当然周りにいるのも探索者が多いし、中には血の気たっぷりな人や、鬱憤がたまってる人なども参加し始めた。
もうお祭り騒ぎになってる。
(巻き込まれたくなければ、逃げることだな)
「分かってるよ!」
あたしは、いち早く遁走用のアイテムを使って、姿を消した。
幸い周囲はお祭り状態だし、あたしが突然消えたところで誰も気が付いていなかった。
まさかこんなところで、一日一回しか使えない遁走用のアイテムを使うとは思わなかったよ。
取り合えず、ある程度の距離を取ったところで建物の影に隠れた。
そこでアイテムの効果が切れる。
「さて、どうしようかな」
(どうなっているかは見ておいたほうがいい)
「だよね」
人工勇者と教会が対立した、ことの発端は、あたしが盗んだアーティファクトのせいだからね。
でも教会が無理やり人工勇者を作ったのが悪いので、あたしはきっかけを作ったに過ぎない。
それでもブランの言う通り、結果くらいは見ておいたほうがいいかな。
そして近場の建物の屋根に飛び移り、そこから乱闘騒ぎになっているところを遠目で確認した。
もちろん声は届かないけど、こちらには超高性能の耳を持っているブランがいる。
さあ、ブラン先生。解説をどうぞ!
(便利な道具扱いされているな)
だって剣だし……道具じゃん。
(まあよい。ふむ、乱闘騒ぎは人工勇者側の勝ちだな。教会にも護衛はいたが、人工勇者は三十人近くいる。数の暴力というものだな)
「へー、死人は?」
(今のところいないな。誰も武器を使っていないからな)
「なるほど。殺しちゃったら、あとあとが大変だからね。最低限の自制心は持っていたんだ」
死人が出てしまうと、探索者協会が出てくる。協会は警察のような仕事も兼ねているからね。
しかも国立であり、裏には国がついているのだ。
(ふむ? 人工勇者たちは、どうやらこの後、教会にも殴りこみするようだな)
「えっ? まじで!?」
(演説をしていたものを縄にかけて、意気揚々としておる)
あーあ。
町中の大乱闘でも、死人が出なければ注意を受ける程度だが、さすがに教会にまで殴りこみかけたら、探索者協会だって黙ってはいないだろう。
「どうしたらいいと思う?」
(当然、静観だな。これは教会と人工勇者の問題であり、我々がそこに割り込んだとしても何の意味もない)
そうだよね。
まあ夕飯は既に買ってあるし、食べながら観戦するか。




