第二話
コンッ……コンッ……。
今日は迷宮で鉱石掘り。いつものように魔眼でさっと周囲を確認して、鉄などを掘り当てていく。
石を掘っていると、つるはしの端っこの部分が少し欠けてしまった。
つるはしもそろそろ買い替えかな。
これだけしょっちゅう使っているから、すぐ耐久が無くなってしまうのが痛い。
名のある鍛冶屋が打った高品質なつるはしだと、従来の三倍は長持ちするらしい。
でもお値段は十倍。ちょっとコスパ悪くないですか?
切れ味というか、掘り味は全く違うらしいんだけどね。
前世では結局、消耗品は百均で十分だと思ってたけど、まさか今世でもそう思うようになってしまったとは……。
どこの世界でも、変わらないね。
おっと、鉄が掘れた。袋に詰め込んで……と。
さて、次だ。
「おい、そこの君」
コンッ……コンッ……。
「おいってば!」
以前にもこんなことがあった気がする。デジャヴ……ではないよね。
でも無視だ。いちいち対応していたらキリがない。
ハンバーガー店員だ、と声をかけられるのも面倒だけど、そちらはまだいい。
時間は取られるけど、悪意はないからね。
するとどうだろう。
絡んできた奴が、わざわざあたしの真横まできて覗き込んできた。
うっわ、きも。
「君は一人か?」
そう言いながら肩を捕まれそうになり、思わず避けてしまった。
そして改めて声をかけてきた男たちを見る。
うわぁ……四人の男たちが教会の服を着ているよ。
雰囲気は、あたしと同じくらいの探索者だけど、なんで教会の服なんか着ているんだろう。
探索者なら鎧着ろよ!
(こいつら、変な波動を感じるぞ。教会で遭遇した人工勇者と同じだな)
えぇ……。
昨日噂話しやパンチョさんが言っていた人工勇者が、まさか絡んでくるとは……。
まったくツイてないよね。
「……なに?」
思いっきり、あたしは不機嫌です、という態度で返事をする。
多少ひるんだみたいだが、それでも話しかけてきた。
「女の子が一人で迷宮に潜るなんて危険だ」
「そうだな」
「俺たちが護衛してやる」
うっわ、うっざ。
昨日誰かが雑談で、うざいとか言ってたけど、確かにこれはうざいわ。
そもそもこんな怪しい人たちの護衛なんて、いつ何時、背後から襲われるか分からない。
申し出た人がよほど有名な人物でもない限り、普通は受ける人なんていないだろう。
「いらない。邪魔。どっか行って」
こっちは生活費がかかっているし、たくさん鉱石を掘らないと、今日も夕飯はハムチーになっちゃう。
たまにはカレー食べたい。
高いんだよね、カレー。香辛料の殆どは熱帯地域でしか育たないから、輸送費とかかかってるんだろうけど。
「大丈夫だ! 俺らを信じろ!」
「俺たちは教会とは違う。ちゃんと護衛してやるよ」
初対面の人間を信じろだなんて、笑い種だ。
仕方ない、逃げるか。
「あっ、魔物!」
「何!? どこだ!」
八階層は鉱石ばかりで、魔物は殆ど出現しないけど、湧かないわけではない。
指さして叫ぶと、男たちが一斉にそちらを向く。
その瞬間、あたしは遁走用のアイテムを使って姿を消した。
「え? 消えた?」
「さっきまでここに」
「どこだっ!?」
男たちの言葉を尻目に、猛ダッシュでその場を離れた。
ある程度離れたところで、アイテムの効果を切る。
あーあ、一日一回しか使えないのに使っちゃったよ。
このままここで掘り続けると、次に見つかったとき面倒なことになりそうだし、今日は帰ろうかな。
(殴ればよかろう?)
「えぇ……それはそれで面倒なんだもん」
明確に悪いことをした訳じゃないからね。下手に手を出したら、こちらが悪者になっちゃう。
それに教会の服を着ているし、万が一教会が裏で何かやっていた場合、もっと面倒になる。
(人間社会は面倒だな……っと、さきほどの男が何やら揉めているぞ)
「あたしとは別の人に絡んでるんじゃないの?」
(いや、この声は以前ミサで人工勇者を捕まえていた男だな)
「……まさかレオナード?」
人工勇者たちとレオナードって、それは絶対絡まれたくない。
でも気になるよね。
ちょっとだけ遠くから様子を見てこようかな。
それにしてもブランって、なんでそんな遠くの声が聞こえるんだろ。
===
「なんだお前は!」
「いきなり襲い掛かってきやがって。俺らが何をしたっていうんだよ!」
男四人たちは、フィーリアがいきなり消え失せたあと、どうしようか迷っていたところ、突然何者かに殴られたのだ。
二人は昏倒したが、意識のあった残りの二名が、襲ってきたものを見て驚く。
着ている装備や佇まいが、どうみても高位探索者だったからだ。
「黙れ、僕は探索者協会の巡回員だ。最近この辺りで迷惑行為を働いているのはお前らだな」
「巡回員……だと?」
協会長が打った手は、この迷宮都市にたった一人いる、第二級探索者へ依頼することだった。
彼は極度の勇者オタクであり、且つ勇者教会の熱心な信徒だ。
教会の服を着た怪しいやつらを捕まえてくれ、と言えば二つ返事で引き受けてくれるだろう、との読みだったが、まさしくそれは正しかった。
「聞いてくれ! 俺らは教会に無理やり勇者にさせられたんだっ!」
「そ、そうだ!」
「攫われて眠らされて、気が付けば身体自由を奪われたんだ!」
慌てて言い訳をする男たち。
それに怒りを覚えるレオナード。
「何を言っているんだお前らは。教会の服を盗んだ上に、虚偽まで? ゆるさんぞ!」
第二級探索者の覇気は、力を解放していない人工勇者が受ければ、ただでは済まない。
怯んだ男たちは、腰を抜かしながら後ずさりする。
「現にお前らは迷宮で悪さをしていたじゃないか」
「わ、悪さ? やってねぇよ!」
「そうだ! 俺らとは違う別のグループがやってるんだ!」
「俺らは善意で護衛や、戦ってるやつらに加勢しただけだ!」
教会の悪口を広めるのがきっかけだったとはいえ、彼らの中では善意の行為だ。
なぜ自分たちが責められているのか、理解できていない。
「は? 善意? 迷惑行為だ」
「なんで!?」
「お前ら探索者じゃないのか? それくらい常識だぞ」
人工勇者の中には探索者も含まれている。
ただし暗黙の了解、というものは基本的に人づてで聞くか、周囲の雰囲気を読んで分かるものだ。
親切に教えてくれる人など、そうそういない。
ずっとソロで、人との付き合いがほぼ無ければ、なかなか難しいだろう。
なおフィーリアはソロだが、元日本人だからか空気を読むことに長けており、またバイト先の雑談などでこれらの情報を得ていた。
「相手の了承を得ず、勝手に加勢するなど、善意の押し売りだ」
レオナードの言葉に沈黙する男たち。
ただ釈然としていない一人の男が、反論する。
「俺らのやってたことが迷惑だってことは分かったが、それでも死にかけてるやつを助けるのは悪いことなのか?」
「助けがいるか、と一言、声をかければ分かるではないか」
「……あっ」
「確かに死にかけている、全滅しかけている、という場合なら返事すらできないこともあるだろう。ただそんなものは、見れば一目で分かる」
沈黙する男たちを見下ろすレオナード。
なぜ迷宮でこのような行為を行ったのかは、何となく理由が分かった。
レオナード自身も勇者に憧れ、強くなるために探索者となった。
実際低ランクのころ、他の探索者たちを助けようと割り込んだことがあった。もちろん横やりだと騒がれ、非難されたが。
その経験があるためか、彼らの考えは理解できる。
完全な悪ではない。
自分と同じように、探索者協会で思いっきり絞られれば、それで済むだろう。
ただし、どこで教会の服を手に入れたのか、それは聞かなければならない。
「お前らを探索者協会に連行する。抵抗すれば、腕の一本や二本は覚悟することだ」
そして男四人を連れて行くレオナード。
そのやり取りを遠目から見ていたフィーリアが、思わず呟いた。
「空気くらい読めよ……」




