第一話
「いらっしゃいませ! バーガージャックへようこそ!」
本日は、ハンバーガーチェーン店のバーガージャックでバイトだ。
お店のドアが開くと勝手に言葉が出てしまうようになるくらい、手慣れたバイトになってしまった。
「よぉねーちゃん、三人だが席空いてるか?」
「はい、開いております! 三名様ご来店でーす!」
窓際の席が開いていたので、そこへ案内する。
ご注文は? あ、メニュー見てから考える? 承知しましたー!
さすがに半年も続ければ、手慣れたもんよ。
問題は探索者としてよりも、ここのバイト店員のほうが知名度は高くなってるところだね。
鉱石掘りしていると、「あ、ハンバーガーの店員だ」などと声をかけられることがあるし。
なお、そこから始まる恋はありません。
お父様に許可を貰ってからどうぞ。
「最近、自称勇者が迷宮にたくさん沸いたって聞いた?」
「ああ、知ってる知ってる。低層階だけって聞いたな」
ハンバーガーを席に運んでいると、高位の探索者たちが雑談をしていた。
それだけなら普通だけど、内容がちょっと聞き捨てならないものだった。
勇者?
それってミサの時暴れたやつだよね。
やっぱり人工勇者って複数人いたんだ。
「鉱石掘りしている連中の邪魔をしたり、逆に手助けしてるらしいぜ」
「手助けってなんだ? 石掘りを手伝ってくれるのか?」
「いや、勝手に周りを固めて、いつ魔物が来ても怖くないぞ、ってガードしてるらしい」
「なんだよそれ。鉱石掘りって八階層だろ? あそこあまり魔物湧かないよな」
「すっげーうざいらしい」
ものすごく同意、それはうざそう。
しかも鉱石掘りって、そのうち遭遇しそうで怖いんですけど。
っと、お客さんだ。
「いらっしゃいませー!」
「おう嬢ちゃん、いつもの頼むわ!」
いつものように、パンチョさんが来店された。この人、もう常連だよね。
でもごめんね、さっきの三人でちょうど満席になっちゃった。
「申し訳ございません。ただいま満席でして……」
「ああ、じゃあ持ち帰りでいい。店の外で食うわ」
「では、探索者セット三つ、お持ち帰りで!」
出来上がるのを待っていると、パンチョさんが小声で話しかけてきた。
「そういや嬢ちゃん」
「はい?」
「なんでも八階層近辺に、偽物勇者が現れたらしい。気をつけろよ」
「あー、ありがとうございます。出会ったら逃げます」
「そのうち協会も何らか対応するだろう。それまでは潜らないほうがいいぞ」
でもあたし探索者ですし……。
探索者としてこの町に登録しているので、月に規定日数以上潜らないとだめなんだよね。
ハンバーガーをパンチョさんに渡しつつ、心の中で溜息をついた。
===
ここは探索者協会の最上階にある会議室。そこには協会長をはじめとした幹部が揃っていた。
協会長は元第二級探索者だ。
その知名度の高さから、十年前に探索者協会の長に神輿として祭りあげられた。
会議では、まず協会長の一言から始まる。
幹部全員がそろったことを確認した協会長は、挨拶を省いていきなり直球を投げつけた。
「それで、例の件はどうだ?」
元探索者ということもあり、前置など不要とばかりに、物事を進めていく。
幹部たちも、とっくに慣れてしまった。
「はい、主に六階層から十階層に多く現れる模様です」
「勇者が出たと一時期噂になってたときは、三十階層以降の下層だったのに、今回は上層だな」
「見た者によると、おおむね八級~九級あたりではないか、と」
「確かにその辺なら、上層が適正だ。単なるごっこ遊びか?」
勇者は有名だ。そのため子どもが勇者ごっこをすることもある。
まさか、その延長戦にあるとは思えないが、と考え直した。
「それでも、迷惑行為が何度も発生していますね」
「ああ、鉱石掘りを邪魔したり、魔物と戦ってるやつらから横やりしたりとは聞いた」
そのどこが勇者なのだ、と問い詰めたい。
これだけなら、単なる迷惑行為で解決する。
人数が多いというのは問題があるものの、ちょっとしたクランが総出でやれば可能だ。
だが問題なのは、全員勇者教会の司祭服を着ていた、ということだ。
盗んだものだとしても、さすがに人数分を揃えるは難しいだろう。
当然教会に説明を求めたが、何の返事もない。
あの教会が反論もせず、沈黙を保っているのは、いかにも怪しい。
「巡回員はどうなってる?」
「以前の噂で、こちらから出す強制依頼の規定回数を超えてしまいまして……現在人数不足ですね」
「ふぅ、善意で集まってもらうしかないか」
「もう少し報酬をあげて貰えれば」
「出来るはずがないだろう? 既に今期は予算の使い道が決まっているんだ。そんな金などない」
探索者協会は国立だ。
当然、金は国の予算から出ているが、なかなかにしょぼい額だ。
迷宮からの富を吸い上げているくせに、予算が少ないのは、協会に力を持たせたくないのだろう。
全く、どうしようもない。協会長なんてものに、なるものじゃない。
そう思ってしまう協会長だった。
なお、予算以外にも万が一に備えた金をプールしてある。
ただし、これは基本的に使えない金だ。
「緊急時でもなく、人命がかかっているわけでもないことに、プールされてる金は使えん」
「しかし下級探索者にとって、鉱石掘りは生活費がかかっています。放置すれば、治安の悪化につながります」
探索者が迷宮で生活できなくなれば、当然犯罪行為に走るものも増える。
それは治安悪化につながるのだ。
「それくらい分かっている。だが、手がないのだ。それとも俺が行こうか?」
「そんなこと、出来るはずがないでしょう! それに協会長お一人だけで回っても、迷宮は広く焼け石に水です」
元第二級とはいえ、たった一人で迷宮を巡回することは不可能だ。
それ以上に協会長が不在なのは、非常にまずい。
彼は万が一に備えた戦力でもあるからだ。
「取り合えず、善意で集まってもらって、見回りを強化するしかないだろう」
「何人集まりますかね」
「俺なら受けないがな」
元探索者の彼だからこそ、探索者の内情を詳しく知っている。
こんな金額では誰も受けないだろう。
さて、どうするべきか。
そう頭を悩ませる協会長だった。




