プロローグ
ここは迷宮都市にある一角、人気が少なく、落ちぶれた探索者や孤児たちが住まう区画だ。
いわゆるスラムと呼ばれる場所である。
そのスラムでもひと際古く、大きな民家に三十人ほどの男たちが集まっていた。
彼らは勇者教会の手によって造られた人工勇者たちだ。
元々は教会の地下室に閉じ込められていたが、制御されていたために、鍵などはかかっていなかった。
ところが、ある日突然制御が外れ、自由となった。
そこから自分たちの境遇を思い出し、何故か騒ぎになって手薄だった教会を抜け出して、一旦スラムへと逃げ込んだ。
そして、今後どうするのか全員で相談していたのだが……。
「いったい教会は何なんだよ!」
「俺らは実験体だったってことか」
「はっ、教会なんてぶっ潰せばいいんだよ」
みな教会への愚痴ばかりで、何も進んでいなかった。
元々彼らはソロ活動していた低ランクの探索者や、流れてきた者、行く宛がなくなったものなど、居なくなっても問題のないものたちばかりだ。
自分一人で生きてきていたためか、誰もまとめるものがいなかった。
だからこそ、各自勝手に今までの不満をぶちまけていた。
そうして一頻りわめいて、ある程度発散したのか、次第に落ち着いてくる。
「なあ、俺たちって何のために攫われたんだ?」
男が一人、疑問に思っていたことを口に出した。
途端、みなが次々と口を開いていく。
「そりゃ無理やり勇者にされるためだろ」
「勇者ってもさ。魔王はいるって聞いたことがあるけど、魔族なんてもの一度も見たことがないんだが」
「いざ魔王が攻めてきたときに備えた、実験体じゃねーのか?」
「腹立つよな」
男たちの中の一人は、次第に怒りを抑えきれなくなってきた。
なぜ俺は無理やり攫われて、変な魔道具で改造され、あげくゴーレムのように使われたのか。
確かにろくでもない人生を送ってきたが、人様に迷惑をかけたことは殆どない。いくらなんでも不条理ではないか。
一度実験と称されて、自分の意思とは無関係に力を解放したことがある。
しかし今回は自らの意思で解放するのだ。
「お、おいやめろ馬鹿!」
「それやると、一気に年を取るんだぞ!!」
慌てて周囲の男たちが、力を解放しようとしていたものを取り抑えた。
だが男は数人に抑えられたまま、叫ぶ。
「だって許せねぇよ!! お前らもそうだろ!?」
それに感化されていく男たち。
「そ、そうだよな。教会の奴ら許せねぇ!」
「俺たちが一体何をしたっていうんだよ!」
「そうだそうだ!!」
次第に熱をもっていく集団。
その中の一人が、いかにも名案を思い付いたかのように、手を打った。
「そうだ! なあお前ら、教会に嫌がらせをしてやらないか?」
「何の嫌がらせだよ?」
「俺たちは教会の人間だ。服だってそうだろ? なら、この格好で迷宮とかに潜って探索者たちの邪魔をしてやるんだよ」
「あっ……なるほど」
「やったのは教会だと思われるだろ?」
「お前、あったまいいな!」
次第に同調していく男たち。
正直、せこいやり方だ。
ただ中には、それに同意できないものも一部いた。
「嫌がらせしてどうするんだよ。それよりも、逆に探索者たちを助けて恩を売って、教会の奴らが悪だということを知らせたほうがよくないか?」
「確かに」
「うんうん、そっちのほうが正義だよな!」
こうして三十人の男たちは、二つのグループへと分かれていった。
やり方は違えど、結局どちらも教会へ何か復讐したい、との思いからきている。
だが迷宮は例外はあるものの、基本は自己責任だ。
探索者協会も、探索者同士の争いを禁じていたり、アーティファクトを発見した場合は連絡を入れる、などのルールを設けているが、かなり緩い。
このため、探索者同士で独自のルールが設けられている。暗黙の了解というものだ。
他の探索者を無理に助けたり、邪魔したりするのは、その暗黙の了解から外れる行為である。
それがどう転がるのか、トラブルしか見えない。




