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魔王軍のスパイ(自称)、迷宮都市で冒険者をやってます  作者: にしはじめ
第一章

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プロローグ

新連載です。よろしくお願いします。

なお、お試しで、当該作品をなろうチアーズというものに参加設定してみました。




──明日の夜、宝具を頂戴しに参る……かもしれません。

                ──謎の剣士。




「なんだこのふざけた予告状は!!」


 ここは迷宮都市にある勇者教会の幹部が集う会議室だ。

 会議室には七人の男たちが座っている。

 そして彼らの視線は、テーブルの中央にある一枚の薄っぺらい紙に集まっていた。


「かもしれません、ってなんだ!!」

「大司教、そうお怒りにならなくとも……」

「これが冷静でいられるか!!」


 どん、とテーブルを強く叩く大司教。


 彼は長年この教会支部で大司教を務め上げた男だが、今回のようなふざけた内容の紙が送られてきたのは初めての経験だ。


「それに宝具とはどれのことだ?」


 この支部は迷宮都市にあるため、実験場所として最適なこともあり、いくつかの魔道具を保有している。

 その数は十数個。

 本国より重要指定されているものから、ありふれたものまで様々だ。


「宝具ですから、普通に考えるなら重要指定されているものになります。しかしそれで目を逸らして、普通の魔道具を狙っている可能性も否めません」

「ならばどうすればいい?」

「どれか分からないのであれば、全ての魔道具を対象とすべきでしょう」


 それに頷きながらも大司教の頭には、一つの魔道具……アーティファクトが浮かんでいた。

 勇者を人工的に生みだすアーティファクト。


 勇者教会にとって、勇者は必須だ。

 特にこのアーティファクトは本国から、この成否によって今後の教会の行方が決まると念を押されていた。

 失敗は許されない。


「一か所に集めたほうがいいか?」

「数か所で別々に分けるよりも、まとめたほうが守りやすいと考えます」

「そうだな。探索者協会にも依頼を出すか」


 探索者協会は国立の組織であり、教会とはそこまで仲はよろしくない。

 しかし教会だけで守り切るほどの人員を出すことも不可能だ。


「そもそもこの謎の剣士とは何者だ?」

「ここ半年ほど、一部界隈で有名になっている者です。今まで数回魔道具を盗み出したとか……」 

「ふん、ただの盗人ぬすっとか」

「しかし第二級探索者のレオナードも出し抜かれたことがあるようです。油断は禁物かと」

「あれか……」


 この国にいる第二級探索者は、たった二人だ。そのうちの一人がレオナードである。

 そしてレオナードは極度の勇者オタクであり、教会主催のイベントでも毎回多額のお布施を納めているので、実にありがたい存在でもある。


「そうだな。そいつにも頼もうか」


 彼ならば、教会を狙った盗人がいる、と聞けば必ず受けてくれるだろう。


「明日の夜……か。ふんっ」


 明日は眠ることができなさそうだ。

 たかが紙きれ一枚に踊らされるとは、教会の権威も地に落ちたな。


 そう呟く大司教だった。


===


「はぁ!? 盗まれただとぉ!?」

「は、はい! 今懸命に探索者たちが追っておりますが……何分相手が非常に素早いやつで……」


 翌朝、探索者協会へ依頼をかけ、昼過ぎに集まった探索者たちに事情を説明していたときだ。

 突如、探索者たちの中から深くローブをかぶった人物が現れ、混乱の隙にまんまと魔道具を一つ盗まれたのだ。


「それで、何が狙われた?」

「はっ、人工勇者製造アーティファクトです」

「やはりそれだったか! レオナードはどうした!」

「何せ緊急の依頼でしたので、今駆けつけてるようです」

「ちっ、使えんやつめ! 儂も出るぞ!」


 そう言うが早いか、大司教は駆け出した。




「あははっ」


 大司教が駆けつけたとき、場所はすでに教会の出口付近だった。

 そこには深くローブをかぶった怪しい者が、炎をまき散らしながら駆けていた。


「ちっ、まてぇ!!」

「おっと、お偉いさんだね。こんにちは、初めまして。謎の剣士です」

「そんなことどうでもいいわっ! 盗んだものを返せ!」

「盗人に盗んだものを返せだなんて、もしかして偉い人ではなく芸人の方ですか?」

「やかましいわっ!!」


 大司教が謎の剣士を捕らえようとするも、軽々と避けられる。

 さらに追い打ちをかけるように、大司教の背中を押した。


「うわっ」

「もういい年なんだから無茶はだめだよ」


 そしてそのまま出口まで行こうとしたときだ。

 突然、剣撃が謎の剣士へと襲い掛かった。


「おおっと」


 しかしそれすらも、まるで予知したように軽々と避けていく。

 その謎の剣士の前に、二十代半ばの男が立ちふさがった。


「そこまでだ曲者!」

「やあレイナード君、久しぶりだね……名前合ってた?」

「レオナードだ! 今度こそ君を捕まえて見せる」


 瞬間、雷を纏うレオナードだったが、謎の剣士も腕輪を突き出した途端、姿が消えた。


「はっ、いつもの姿消しか! 甘いっ!!」


 纏った雷を四方八方へとまき散らす。

 ただ、手ごたえは……ない。


「むっ? どこへ消えた?」


 きょろきょろと周りを見渡すも、謎の剣士の姿は見えない。

 そこへ空から一枚の紙が、ひらひらと舞い降りてきた。



──宝具は頂きました。夜じゃなくてごめんね。



 思わずその紙を破り捨てるレオナードだった。



===


 姿を消したまま教会から遠ざかる謎の剣士。

 その手にはまんまと盗み出したアーティファクトを持っていた。


(夜に盗むんじゃなかったのか?)


 どこからともなく、謎の剣士の頭に直接、男の声が響いた。

 しかし慌てることなく、彼女・・は答える。


「かもしれません、って書いておいたもん。油断するほうが悪い」



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