第五章 86 "ある者の捕縛"
今や、惑星ビットナリーの軌道上。ホログラムスクリーンに映し出されたのは、真の災厄だった。女王蜘蛛のように軌道の中央に陣取る、シンスロインの方舟艦。そして、その周りを巡回する、無数の機械の群れ。
「指揮官!」士官の一人が報告した。「地表で、戦闘信号を探知!非常に激しいです!」
ズーロが映像を拡大させると、彼の心は、凍りついた。彼が見たのは、破壊された基地の残骸の中で、防衛線を築いている、人間(ウォー・ハウンドの装甲服を着ていた)と、生き残ったファイトールたちだった!彼らは、希望を待ちながら、絶望的な戦いを、繰り広げていた!
今や、彼らは、機械の群れに、完全に、包囲されていた!
「彼らを、助けに行かねば!」若い戦士の一人が、叫んだ。
「ダメだ!」ズーロは、即座に、言い返した!「奴らの数を見ろ!我々の船は、ほんの一握りだ!こんな状態で、むやみに突っ込めば、全滅するだけだ!」
彼は、その絶望的な戦闘の光景を、見つめていた。彼の任務は、「裏切り者」を、暗殺すること。だが、目の前には、死にかけている、同族の「兄弟」たちがいる。
彼は、ついに、決断した。「当初の計画通りに進む。だが、少し、変更する」
「今、我々は、まず、安全な着陸地点を、確保しなければならない」彼は、主戦場から離れた、山脈を指差した。「我々は、そこに着陸し、奴らの探知を避け、そして、奴らと事を構える前に、ここで、拠点を築く」
「我々は、愚かな救世主として、突入するのではない。我々は、『亡霊』となるのだ。影の中から潜入し、そして、このゲームの盤面を、内側から、ひっくり返す」
ズーロの船は、静かに、大気圏へと、降下していった。
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ズーロが、ビットナリーに、一時的な拠点を築いた後、彼は、彼の特殊部隊を率いて、シンスロインの群れを、潜り抜け、そして、救援要請が発信されていた、破壊された基地の中心へと、たどり着いた。
彼が見たのは、絶望的な戦いだった。人間(ウォー・ハウンド部隊)と、生き残ったファイトールが、背中合わせで、絶え間なく押し寄せる、機械の群れを、食い止めていた。そして、その防衛線の中心に、傷だらけの、ゼニソールの姿が、あった。
「もはや、これまでかと、思ったところだ」ズーロが到着したのを見て、ゼニソールが、弱々しく、呟いた。
しかし、ズーロが、応える前に、ゼル=ロスの、巨大なホログラム映像が、戦場の上空に、現れた!
「ゼニソール!」その声が、響き渡った!「ついに、見つけたぞ!貴様を、命令違反、任務中の逃亡、そして、何百万もの同胞を死に至らしめた、罪で、逮捕する!そして、何よりも、重い罪、『ササソール』のような、罪人どもと、手を組んだ、罪でな!」
「私を、逮捕だと?」ゼニソールは、憐れみに満ちた、笑いを、漏らした。「何も、知らぬのだな、長老殿」
彼は、ズーロを、そして、ゼル=ロスのホログラムを、見つめた。「今、巨大な脅威が、迫っている!シンスロインどもが、逃げ出してきた、真の脅威が!貴方と、高等評議会が、恐れるあまり、あのピラミッドを、封印した、『静寂』がな!」
「私は、彼らの、生き方を、学んだ。ライキ長老が、私に、教えてくれたのだ。生きること、適応すること。そして、我々の、時代遅れの伝統こそが、真の災厄であったことを!」彼は、初めて、懇願するような目で、ズーロを見た。「ズーロ指揮官!今は、私の民を、救ってくれ!」
彼は、少し離れた場所で戦っている、ライキの姿を、指差した。「そして、ライキを…彼こそが、我々の、最後の希望やもしれん。彼にも、敬意を。彼もまた、我々と同じ、ファイトールの、同胞なのだ」
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「ズーロ指揮官!命令に従え!今すぐ、裏切り者を、逮捕しろ!」ゼル=ロスの声が、なおも、ホログラムから、響き渡っていた。
しかし、ズーロは、ゼニソールも、ライキも、見ていなかった。彼は、彼ら全員を、粉砕しようとしている、シンスロインの群れを、見ていた。
彼は、決断した。
「了解した、賢者殿」ズーロは、冷徹に、答えた。そして、彼の部隊に、命令を下した。しかし、それは、ゼル=ロスが、聞きたかった、命令ではなかった!
「全部隊!目標は、裏切り者ではない!シンスロインの、『信号塔』だ!奴らを、根絶やしにしろ!」
「何を、している!それは、命令ではない!」
「これこそが、私なりの、『捕縛作戦』だ」ズーロは、言い返した。「『目標』が、死体と化してしまっては、捕縛のしようもない!私の任務は、まず、この場を、『制圧』することだ!」
それは、完璧な、命令の、曲解だった!今、彼らは、ゼニソール、ライキ、そして、「ウォー・ハウンド」部隊を、救出しなければならない。しかし、それは、「命令に従う」という、隠れ蓑の下で、秘密裏に。
ズーロの部隊が、戦場へと、突入した!しかし、彼らは、生存者たちの、グループへは、向かわず、回り込んで、シンスロインの巣の、様々な場所に隠された、「信号塔」を、攻撃した!
一つの、また、一つの塔が、破壊されるたびに、ゼニソールたちを、包囲していた、シンスロインの群れが、動きを止め、そして、倒れていった!彼らが、包囲網を、突破するための、活路が、開かれたのだ!
「今だ!退却する!」ゼニソールが、叫んだ!全ての生存者たちが、ズーロの部隊と、合流した。
「貴様、私の命令に、背いたな!」ゼル=ロスが、ホログラムを通して、絶叫した。
「私は、任務を、成功させたまでです」ズーロは、答えた。「私は、目標の身柄を、『確保』しました。だが、今、我々には、より緊急の任務がある。生き残ることです」彼は、ゼル=ロスとの、通信を、一方的に、切断した!
安全な、一時的な、拠点にて、ゼニソールが、ズーロの前に、立ちはだかった。「お前に、命の、借りを作ってしまったな、指揮官」
「借りの話をしている、場合ではない」ズーロは、言った。「我々は、行かなければならない。今、我々は、星の外にいる、仲間たちを、救いに行かなければならない。私の仲間も、そして、ライキの、仲間も」
彼は、レックス中尉を、見た。「そして、生き残った、全ての人類も」
今や、忌まわしき、政治任務は、より偉大な、新たな旅路へと、変わっていた。全ての種族の、「見捨てられし者たち」を、集結させ、名誉のためではなく、真の、「生存」のために、戦う、軍を、創るための、旅路へと。
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「私は、貴様らを、裏切ってはいない、ズーロ。私は、我々全員を、殺そうとしていた、『規則』を、裏切っただけだ」
ゼニソールは、語り始めた。「遠い昔、私は、高等評議会の、賢者の一人だった。そして、サイキックの、教官でもあった。私は、君を、よく覚えている、ズーロ。君は、私の、最も優秀な、生徒だった。そして、エラーも、覚えている。彼が、まだ、新入生だった頃のな」
その言葉に、ズーロは、驚愕した!
「ライキの、ササソール派が、数年前に、シンスロインの、最初の波に、襲われた時、彼らは、助けを、求めた。しかし、高等評議会は、それを、拒否した。奴らは、『伝統』を、口実に、我々の、兄弟を、見捨てたのだ」
「私は、それを見過ごすことが、できず、命令に背き、私の、私兵を率いて、ライキを、助けに行った。その日、私は、『裏切り者』の、烙印を、押された」
「そして、その日に、私は、理解したのだ。慈悲のない、伝統こそが、真の災厄なのだと」
「だから、私は、彼らの、側に、いることを、選んだのだ。『見捨てられし者たち』の、側に。今のお前たちのように」
今や、全ての、真実が、明かされた。ズーロは、ゼニソール、彼の師を、見た。ライキを、見た。そして、彼らの隣で、戦う、人間、レックスを、見た。
「ならば」ズーロは、言った。その眼差しには、新たな、決意が、宿っていた。「我々の、新たな、授業を、始めようか」




