第五章 83 "都市アンフリンへの進軍"
高等評議会の生き残りの指揮艦の艦橋にて。傲慢なる賢者の一人、ゼル=ロスが、他の士官たちと議論した後、散り散りになった全部隊に向けて、通信チャンネルを開いた。
「誇り高きファイトールの同胞諸君!」ゼル=ロスは、再び、大げさに宣言した。「我々の防衛線と砦は、今、より強固なものとなりつつある!多くの同胞の犠牲こそが、我々の、最高の栄誉なのだ!」
「忘れるな!我々は、高貴なる種族!下等な機械の群れに、頭を下げることは、決してない!もし、任務が失敗したならば、戦士として、死ぬまで戦うがいい!もし、後退したり、逃亡したりする者がいれば、その者は、臆病者と見なす!」
その、綺麗事で、しかし、何の戦略もない、宣言が終わった。
今、高等評議会は、まだ、ズーロとエラーのことを、何も知らなかった。なぜか?答えは、簡単だ。ズーロが以前出会った、あの「高等評議会の兵士」が、「勇敢に抵抗する、生存者の一団を発見した」としか、報告しなかったからだ。彼は、敵の弱点の発見や、禁断のピラミッドへの旅については、報告しなかった。なぜなら、それは、彼自身の、状況を制御できなかったという「失敗」を、意味するからだ。
--- **同時刻、砦「エル=シレス」にて** ---
ズーロ、エラー、そして、彼らが集めた戦士たちは、その放送を、静寂の中、聞いていた。しかし、それは、怒りに満ちた、静寂だった。
「またか」エラーは、吐き捨てた。「我々を、死地へと送る、綺麗事だ」
「奴らは、決して変わらん」ズーロは、冷たく言った。彼は、都市アンフリンのホログラム地図を見つめていた。(その、くだらん名誉の話をする時間があるなら、奪われた故郷の問題を、先に解決してはどうだ?)彼は、心の中で、思った。
「奴らは、我々が何を発見したか、知らない。我々に、勝つための道があることを、知らない」ズーロは、全員に言った。「奴らは、これからも、我々の同胞を、無意味に死なせ続けるだろう。自らの、偽りの『名誉』を、守るためだけに」
彼は、今や、その眼差しが変わった、戦士たちと、向き直った。彼らは、もはや、ズーロを、「冒涜者」とは見ていない。真の、「指導者」として、見ていた。
「我々は、もはや、奴らの命令を、待たない」ズーロは、宣言した。「我々は、我々自身の、新たな名誉を、築き上げる。『生存』と、『勝利』によってな!」
「準備をしろ。都市アンフリンへの進軍は、今、始まる!」
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都市アンフリンへ進軍する前、今や革命家たちの拠点となった砦「エル=シレス」で、ズーロは、彼が鼓舞したばかりの戦士たちの前に、立っていた。
「諸君が、都市アンフリンへ進軍したいことは、わかっている。復讐したいこともな」彼は、力強い声で、切り出した。「だが、今、我々全員で、敵の最強の拠点へ攻撃を仕掛けることは、自殺行為だ」
彼は、ホログラム地図を開き、大陸中に散らばる、小さな青い点を、表示した。「まだ、多くの、我々の同胞が、隠れている。市民も、そして、生き残った戦友たちも。彼らは、絶望し、助けを待っている」
「故に、我々の最初の任務は、破壊ではない。『集結』だ。今、我々は、彼らを、一人でも多く、救出しなければならない!」
--- **救出任務の始まり** ---
ズーロの、小規模だが、決意に満ちた部隊が、砦から、出撃した。それは、都市アンフリンへ向かうためではなく、様々な生存者たちの隠れ家へと、向かうためだった。
彼らがたどり着いた、全ての場所で、戦いが始まった!
古代の神殿の残骸で、彼らは、年老いた僧侶の一団を追い詰めていた、シンスロインの群れと衝突した!ズーロがサイキックバリアで防御し、その間に、エラーが、敵を、素早く殲滅した!
水晶の谷で、彼らは、洞窟に隠れていた、鉱山労働者の一家を、救出した!
彼らが救出した、全ての命が、士気となり、新たな仲間となり、そして、彼らの未来を築くための、新たな煉瓦となった。
しかし、その順調に見えた救出任務は、最大の障害に、直面した。水晶の湖のほとりの、漁村で、彼らは、最大規模の生存者の一団を、発見した。だが、そこには、最も恐るべき「守護者」もまた、待ち構えていたのだ。
それは、「リヴァイアサン」。深海の怪物のごとき、巨大なシンスロインユニットだった。それは、湖の中心から、その姿を現し、その生体金属の触手が、行く手を阻むもの全てを、なぎ払った!
「奴とは、戦えん!」エラーが叫んだ!「大きすぎる!退却するしかない!」
しかし、ズーロは、首を横に振った。彼は、逃げ惑う村人たちを見ていた。「もし、我々が退却すれば、彼らは、死ぬ!」
今や、彼は、困難な決断に、直面していた。戦力を温存するために、後退するか、それとも、自らの命を、犠牲にしてでも、罪なき人々を守るために、立ち向かうか。
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彼らが、村人たちを無事に逃がした後、「リヴァイアサン」との戦いは、傷跡を残したが、同時に、貴重な「報酬」も、もたらした。ズーロは、その残骸を、無駄にはしなかった。彼は、破壊されたリヴァイアサンや、他のシンスロインユニットの残骸を、解体し、生体金属、動力炉、そして兵器の部品、その全てを、資源として、回収した。
数週間が過ぎ、ズーロは、多くの人々を救出した。「悪魔狩り」の出現と、シンスロインの弱点の発見というニュースは、生存者たちの間に広まり、散り散りになっていた戦士たちが、次々と、彼のもとへ、集結し始めた。時折、高等評議会からの増援もあったが、彼らの来訪は、傲慢さと、対立も、もたらした。
今や、砦「エル=シレス」は、一握りの戦士ではなく、救出された、巨大な軍勢の、集結地となっていた。それは、希望だった。しかし、それは、分裂の始まりでも、あった。
--- **戦闘前の会議** ---
「我々の計画は、明確だ」ズーロは、集まった部隊長たちの前で、言った。「我々は、都市アンフリンへ、進軍する」
しかし、高等評議会から来た、多くの戦士たちは、依然として、傲慢な目で、他の者たちを、見下していた。
「進軍だと?」護衛部隊の、年老いた部隊長の一人が、嘲笑した。「貴様は、この寄せ集めの軍で、奴らの最大の巣と、戦うつもりか?自殺行為だ」
「我々は、ここで、防御を固めるべきだ!」別の一人が、反論した。「砦を、より強固にし、そして、高等評議会からの命令を、待つのだ!それこそが、我々の名誉だ!」
ズーロは、彼らを、冷たい目で見つめた。「貴方たちの名誉は、我々全員の死体の下に、埋もれた時、何の意味もなくなる!」彼は、吼えた!
「貴方たちが、遠く離れた高等評議会からの命令を待っている間に、我々の同胞は、毎日、殺されている!貴方たちは、古い戦いの『やり方』に、固執している!その間に、我々の敵は、『進化』しているのだ!」
彼は、ホログラム地図を指差した。「私は、貴方たちに、死ねと命じているのではない。私には、計画がある!我々が発見した、『信号塔』の知識を、利用するのだ!我々は、正面から戦うのではなく、奴らの心臓部を、破壊するために、潜入する!」
彼は、傲慢な部隊長の目を、深く見つめた。「私は、伝統のために、戦っているのではない。生き残った、『命』のために、戦っているのだ!命のために戦いたい者は、私に、従え!偽りの名誉のために死にたい者は、高等評議会からの命令を、待っているがいい!」
その宣言が終わると、ズーロとエラーは、踵を返し、会議室を、去っていった。後に残されたのは、沈黙と、そして、この戦いの運命を決定づける、重大な決断だけだった。
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ズーロの、激しい宣言が終わると、会議室は、静まり返った。高等評議会からの、傲慢な部隊長たちは、驚愕と怒りで、立ち尽くしていた。
ズーロは、返事を待たず、会議室を、即座に、後にした。「どちらにせよ、目標は、アンフリンへの進軍だ。私と共に行く者は、ついてこい」彼は、ホールに、響き渡る声で、宣言した。
「彼らが、我々の計画を信じない」エラーが、合流した。
「私には、計画がある。だが、奴らは、決して、私を信じなかった」ズーロは、苦々しく答えた。「だが、どちらにせよ、この星が、シンスロインに、少しずつ、喰われていくのを、見ているよりは、ましだ」
今、ズーロが発見した情報は、まだ、漏れてはいなかった。彼とエラーこそが、ピラミッドに封印されていた、全ての秘密を、知る、唯一の二人だった。
集会場で、ファイトールの戦士たちは、躊躇に満ちた目で、ズーロとエラーを、見ていた。しかし、その時、一人の若い戦士が、列から、進み出た。そして、二人目、三人目と、続いた。彼らは、新世代の戦士たち、戦争の残酷さを、その目で見た者たち、高等評議会の、美しくも、無益な命令に、絶望した者たちだった。
「我々は、貴方と共に行きます!」
ついに、ファイトールの軍は、二つに分かれた。一つは、伝統に固執し、遠く離れた指導者からの命令を待つ者たち。そして、もう一つは、目の前にいる、新たな「指導者」に、従うことを、選んだ者たち。
今、ズーロ、エラー、そして、彼らに従う一部の軍勢が、出撃した。その数は、多くはない。だが、誰もが、「名誉」ではなく、「命」のために戦う、決意に、満ちていた。都市アンフリンへの、旅路。最も、偉大な賭けが、今、始まった。
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出撃した後、ズーロの小規模な軍は、希望の象徴と、なっていた。彼らが、都市アンフリンの郊外に到着した時、彼らが見たのは、本当の地獄だった。
彼らは、多くの、同胞の戦友たちと、高等な戦士たちが、激しく戦っているのを、目撃した!その戦場の中心で、ひときわ目立つ、一人の戦士がいた。彼は、おびただしい数のシンスロインを、相手に、サイキックと魔法の嵐を、巻き起こしていた!それは、勇気の、名誉の、光景だった。だが、ズーロにとって、それは、無意味な死の光景だった。
「奴らは、戦っているのではない。死にかけているのだ」
「彼らを、助けに行かなければ!」エラーが、焦って言った。
「いや」ズーロは、首を横に振った。その眼差しは、冷徹だった。「彼らは、名誉のために死ぬよう、教えられてきた。彼らは、後退はしない。そして、信号塔を破壊するという、我々の『卑怯な』計画を、聞き入れることは、決してないだろう。今、彼らを助けに入ることは、我々全員を、無駄死にさせることと、同じだ」
彼は、決然と、そして非情に、決断した。「我々は、ここを、通り過ぎる。そして、我々の、次の目標へと、向かう」
ズーロと彼の部隊は、その血みどろの戦場を、静かに、通り過ぎていった。死にゆく同胞たちの、断末魔の叫びを、より偉大な、そして、より痛みを伴う、任務のための、ただの、背景音として、残して。
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同胞たちの断末魔の叫びが、ズーロの聴覚神経に、響き渡っていた。その全てが、古いやり方が、彼らを、破滅へと導いたという、証拠だった。
「彼らは、死にかけている」エラーが、小さく言った。
「ああ」ズーロは、答えた。「彼らは、高等評議会が与えた、『名誉』のために、死んでいる。だが、我々は、『勝利』のために、生きるのだ」
彼は、彼に従ってきた、戦士たちと、向き直った。「我々が、逃げていると、思っているのだろう。だが、貴様らは、間違っている。我々は、奴らよりも、劣っているのではない。我々は、奴らよりも、賢いのだ!」
ズーロは、都市アンフリンのホログラム地図を開いた。「高等評議会の計画は、全兵士を、正面から、突撃させることだ。そのような、人海戦術は、自殺行為に等しい!だが、我々は、そうはしない。我々は、我々が得た知識を、利用する。我々は、『亡霊』となるのだ」
「我々は、戦力を、三つに分ける」「ナイトブレード隊、エラー、お前が率い、西の発電所を攻撃しろ。陽動部隊だ」「ブラックナイト隊、通信塔を破壊しろ」「そして、私だ。私が、チャーリー隊を率いて、巣の中心へと、突入する。戦うためではない。ただ一つの、目的のために」
彼は、巣の中心にそびえ立つ、「信号塔」の映像を、拡大した。「奴らの、心臓部を、破壊するために」
「我々は、名誉のために、戦わない。勝利のために、戦う。生き残るために、戦う。そして、我々は、皆に、見せてやる。『生存者』の道こそが、ファイトールの、真の道であることをな」
その宣言が終わると、かつて恐れていた戦士たちの眼差しは、今や、決意の炎に、燃え上がっていた。革命は、もはや、戦場で起きているだけではない。それは、彼らの、心の中で、起きていたのだ。
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戦闘は、その後、始まった!エラーのナイトブレード隊が、西の発電所を攻撃し、シンスロインの主力の、注意を、引きつけることに、成功した!その間、ブラックナイト隊が、通信塔を、破壊した!
しかし、ズーロのチャーリー隊は、予想以上の数の、シンスロインに、襲われた!
「数が、多すぎる!信号塔に、近づけない!」
「ならば、我々が、我々の道を、創り出すまでだ!」ズーロが、咆哮した!彼は、これまで使ったことのないレベルの、サイキックパワーを、解放した!彼は、行く手を塞いでいた、何十体ものシンスロインを、同時に、宙へと持ち上げ、即席の「機械の盾」を、創り出した!「今だ!突入しろ!」
そしてついに、彼らは、都市アンフリンの、主信号塔を、破壊することに、成功した!その瞬間、都中で戦っていた、全てのシンスロインの群れが、動きを止め、そして、糸の切れた人形のように、崩れ落ちた!
その光景を、都市の郊外で、絶望的な戦いを繰り広げていた、他の同胞たちが、目撃した!彼らは、その目で、見たのだ。彼らが、命を賭して戦っていた、その戦いが、彼らが、これまで、全く、関心を示さなかった、「建造物」の破壊によって、一瞬にして、終わるのを。
その後、ズーロは、もはや無防備となった、多くの巣や基地を、次々と破壊し、ついに、都市アンフリンを、完全に、奪還した!
全てが終わった時、全ての戦士たちが、ズーロを、見る、目が、変わっていた。今や、彼は、ただの戦士ではなく、真の、「指導者」として、認められていた。
そして、前代未聞の戦術による、都市アンフリン奪還のニュースは、隠れ潜んでいた、高等評議会の、耳にも、届いた。今や、ズーロは、もはや、「冒涜者」でも、「異端者」でもない。彼らの、古い権力と信仰に対する、「脅威」と、なっていた。
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高等評議会は、ズーロとエラーの武勇伝を知った後、彼らを、弾圧するのではなく、より狡猾な、手を、打ってきた。
「戦士ズーロ、エラー、貴様らの武勇伝、実に、見事であった」ゼル=ロスが、再び、ホログラムで、現れた。その顔には、作り物の笑みが、浮かんでいた。「高等評議会は、貴様らの、指導者としての、潜在能力を、認めた」
「故に、高等評議会は、全会一致で、決議した。ズーロ、貴様を、『特殊前線部隊指揮官』に、任命する!そして、エラー、貴様の、勇敢さと忠誠心に、最高の栄誉を、与え、『評議会護衛部隊』への、入隊を、許可する」
それは、公衆の面前での、命令だった。拒否することは、完全な反逆を、意味する。
ズーロとエラーは、顔を見合わせた。(指揮官だと?それは、俺を、奴らの命令下に、縛り付けるための、ただの、綺麗事だ)(護衛部隊だと?これは、名誉ではない。『追放』だ。奴らは、俺を、ズーロから、引き離し、彼の、手足を、断つつもりだ)
彼らは、高等評議会の、狡猾な計画を、即座に、理解した。奴らは、「冒涜者」を、罰するのではなく、自らの権力への、脅威となりうる、新たな英雄を、「制御」しようとしているのだ。
「光栄の至りです、賢者殿」ズーロは、答えた。その声は、平坦だったが、その眼差しは、冷徹だった。「我々は、全力で、その命令を、遂行いたします」
高等評議会の、司令部への旅が、始まった。それは、英雄の、凱旋ではなかった。見えざる、金の檻へと、歩みを進める、囚人の、旅路だった。
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「自分の身は、自分で守れ」ズーロが、出発するエラーに、言った。
「貴方も、です、指揮官殿」エラーは、皮肉を込めて、返した。
「奴らは、俺たちを、引き離そうとしている」
「わかっている。だが、今、拒否すれば、我々が築き上げてきた、全てが、崩壊する」エラーは、ズーロの肩に、手を置いた。「今日、我々は、別々の道を、歩むことになるだろう」
「どちらに進もうが、お前は、常に、俺の戦友だ」
「そして、貴方は、常に、俺の師です」エラーは、薄く笑った。「気をつけてください。奴らは、貴方を、信頼してはいない。ただ、制御できる、『象徴』として、利用したいだけだ」
「わかっている」
「そして、忘れないでください。我々が、何者であるかを」エラーは、最後に言った。「我々は、誰の、僕でもない。今、我々は、生き残るために戦う、戦士なのだ」
彼は、ズーロの肩を、最後に一度だけ、軽く叩き、そして、二度と、振り返ることなく、船へと、乗り込んでいった。
ズーロは、空へと消えていく輸送船を、見送った。今や、彼は、指導者という、地位へと、押し上げられた。しかし、彼は、かつてないほど、孤独だった。彼の、新たな戦争は、もはや、戦場だけではなかった。策略と、裏切りに満ちた、政治の戦争が、彼を、待っていた。
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「指揮官」という地位は、名誉ではなく、足枷だった。ズーロは、指令室で、八方塞がりの、感覚に、陥っていた。彼には、名目上の権力はあったが、高等評議会からの、不信の目に、囲まれていた。
しかし、地図の上で、散り散りになった、生存者たちの、青い生命反応の信号が、弱々しく、点滅し、そして、一つ、また一つと、消えていく。
(このまま、何もしなければ、奴らは、皆、喰われてしまう!)




