表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GalacXER 銀河の執行者  作者: Boom
第一章 [解放と希望の団結]
8/63

第一章 7

ガーが去った後、重苦しい雰囲気は徐々に薄れ、気まずい沈黙だけが残った。


サトウとリヒター医師は、エララに軽く頷くと、他の難民たちの世話をするために散っていった。


避難センターの喧騒の中、ライトとエララは二人きりで座っていた。


ライトは、静かにトレーの中のシチューを黙々と食べた。


それはありふれた食事だったが、長い間、温かいものを口にしていなかった彼にとって、その味はまるで高級レストランの料理のように素晴らしかった。


彼は、ほとんどなくなるまで素早く食べ進めたが、エララの視線を感じて、食べる速度を落とした。


「美味い…」


ライトが、最初に沈黙を破った。その声は、ほとんど囁き声のようだった。


「こんな温かいものを食べるのは、久しぶりだ。ありがとう」


エララは、その感謝の言葉には応えなかった。


彼女は、彼の隣の木箱に腰を下ろし、腕を組んで長く息を吐いた。「第7部隊って…本当は、どんなところなの?」


そのあまりにも直接的な問いに、ライトは一瞬、言葉を失った。


彼は、ゆっくりとスプーンを置いた。


「それは…道具だ」彼は、ゆっくりと答えた。


「俺たちは、疑問を持たず、感情を持たず、名前も、顔も持たないように訓練された。あるのは、番号と任務だけだ。『なぜ』という言葉は禁句だった。俺たちが知っているのは、標的が『誰』で、任務を成功させるには『どうするか』だけだ」


「それで、成功したの?人間性を消すことは?」エララは続けた。


彼女の視線は、まだ彼から逸らされなかった。


「いや…」


ライトは首を振った。「本当に成功することなんてない。ただ、抑圧されているだけだ。いつか、崩壊する日を待っているだけ。インワンで、俺に起こったことのようにな」


再び、沈黙が訪れた。


しかし今回は、気まずい沈黙ではなく、互いが互いを理解するための、静かな時間だった。


ライトは、最後の一切れのパンを食べ終え、彼女と向き合った。


「じゃあ、あんたは…どうして、こんなことを?」彼は問い返した。


「あんたは、らしくない…」彼は、それが失礼に聞こえるかもしれないと知り、言葉を濁した。


「あんたは、こんな戦争で銃を取るには、若すぎるように見える」


エララは、かすかに嘲笑した。


それは、彼女の年齢には不釣り合いなほど、悲しく、そして疲れた笑みだった。「生まれながらの戦士なんていないわ、ライト。私たちは皆、状況に追い詰められただけ」


彼女は、避難センターの人々に目をやった。「私の両親は教師だった。連邦が押し付ける歴史ではなく、惑星サムの本当の歴史を教えていた。ある日、彼らは『扇動』の罪で連邦兵に連行され、二度と戻ってこなかった。私は、その日から反乱グループに加わったの」


彼女の物語に、ライトは言葉を失った。


誰もが、連邦によってつけられた傷を、同じように持っていたのだ。


「ジャック司令官から受けた任務は…危険なんでしょ?」エララは話題を変えた。

ライトは頷いた。


「戻ってこられないかもしれない」


エララの眼差しは、明らかに和らいだ。


「もし、連邦のセキュリティシステムに関する情報が必要なら…サトウが、助けになれるかもしれない。彼は、連邦が全てを接収する前は、大企業でネットワークエンジニアをしていたから」


それは、初めてだった。


このグループの誰かが、彼に「容疑者」や「武器」としてではなく、「同盟者」として、助けを申し出てくれたのは。


「ありがとう」


ライトは、短く、しかし深い意味を込めて答えた。


「サムのエララか?」


力強い低い声が、二人の会話を遮った。


ヴァレリウス司令官が、二人の兵士と共に、まっすぐ向かってきた。「ジャック司令官からの命令だ」


彼は言った。「時が来た。君たちにやってもらう任務がある」


ヴァレリウス司令官は、エララだけではなく、近づいてきたサトウやガーにも視線を向けた。今や、惑星サムの生存者たちは、正式に革命軍の一部となろうとしていた。


---


旗艦「ヴィンディケーター」の個室で、数日が過ぎた。


この四角い金属の部屋が、ライトの全世界となった。


それは、息が詰まるほど簡素で、ベッド、テーブル、そして一台の多目的ホログラムプロジェクターがあるだけだった。


しかし彼にとっては、アストレア07収容所の独房に比べれば、天国だった。


腹部の傷は、かなり良くなっていた。


激しく動くたびに、まだ鋭い痛みを感じるものの。毎日、彼は体の回復のために軽いリハビリを行い、そして、彼が遂行しなければならない任務…「プロジェクト・キメラ」の情報を研究して、ほとんどの時間を過ごした。


それは、ほとんど不可能な任務だったが、ライトの心は、不思議と穏やかだった。


少なくとも、今回は、自分が何のために戦うのかを、知っていた。


彼がデータパッドでイージス研究ステーションの換気システムの設計図を調べていると、部屋のホログラムプロジェクターが起動した。


艦隊の中央通信システムからの着信だった。


ジャック司令官のホログラム映像が、部屋の中央に現れた。


艦隊の全兵士と民間人に向けた、アナウンスだった。「自由を愛する同志諸君」ジャックは、力強い声で始めた。「惑星サムからの民衆の避難における勝利は、我々の偉大なる第一歩に過ぎない。しかし、戦争はまだ終わっていない。死の機械の群れは未だ脅威であり、連邦の権力は、このセクターの他の何十もの星を、未だに抑圧している」


ジャックの背後の映像が、緑豊かで平和に見える惑星の画像に変わった。「ここは、惑星クラス。この地域の連邦の穀倉地帯である、農業の世界だ。あの惑星の民は、未だに伝統的な方法で農業を営んでいる。彼らは、何十年もの間、連邦に資源と労働力を搾取されてきた、農民たちだ」


映像は、広大な黄金色の麦畑、働くトラクター、そして農民たちの疲れた笑みを示す、短いビデオクリップに切り替わった。


そしてその映像は、非情な税の取り立てを行う連邦兵の映像に取って代わられた。


「今日、我々は、彼らを解放するための作戦を開始する!」ジャックは続けた。「私は、既に小規模な特殊作戦チームを惑星クラスに潜入させた。彼らの任務は三段階ある。第一に、必要な物資を秘密裏に住民へ輸送すること。第二に、あの惑星にある連邦の拠点を攪乱し、混乱させること。そして第三に、噂を広め、民衆を内側から蜂起させることだ!」


ライトは、ホログラム映像を真剣に見つめた。(こんな諜報任務に適任なのは、一体誰だ?)


そして、ジャックの映像がズームアウトし、この重要な任務を任されたチームが明らかになった。ライトの心臓が、跳ね上がった。


黒い軽偵察アーマーを着て、中央に立っているのは、他の誰でもない…エララだった。彼女の隣には、電子制御パネルをいじっているサトウと、決意に満ちた眼差しでライフルを確認しているガーがいた。


「民衆が蜂起する準備ができた時、我が艦隊が、あの惑星を制圧するための切り札となる!」ジャックは高らかに宣言した。「惑星クラスの解放は、連邦の権力を揺るがすだけでなく、我が革命軍に、安定した食料供給をもたらすだろう!皆、この任務を信じよ!」


ホログラムは途切れ、部屋は再び静寂に包まれた。


ライトは、椅子に背をもたせかけた。


様々な感情が、心に押し寄せてきた。エララたちが、これほど重要な任務を任されたことへの驚き、他の者たちが戦っている間に、自分がここで療養していなければならないことへの焦燥感、そして何より、心配。


潜入と心理戦は、正面からの戦闘よりも、何倍も危険だ。


しかし、やがて彼は理解した。


ジャックは、最適任者を選んだのだ。


抑圧された民の気持ちを、惑星サムからの難民たちほど、よく理解できる者はいない。


彼らは、ただの兵士ではない。歩く、希望の象徴なのだ。


ライトは、手の中のデータパッドに目を戻した。


イージス研究ステーションの設計図。彼は、かすかに笑った。


(どうやら、皆、それぞれに戦うべき戦争があるようだな)


今、彼は自分の役割を、はっきりと理解した。


エララが、地上で「信念」の戦争を戦っている間に、彼の任務は、星々の中で、「影」の戦争を戦うこと。


そして彼は、それを必ず成功させてみせる。


---


エララたちの任務の知らせを知った後、彼は再び、静かな個室で物思いに沈んでいた。


彼は、スクリーンに映し出された「イージス研究ステーション」のデータを見つめていた。


その光景が、過去の血塗られた記憶と重なる。


(結局、俺は、また同じことを繰り返すのか)


その考えが、冷たい囁きのように、湧き上がってきた。


潜入、隠密、情報奪取…これらは全て、彼がかつて葬り去り、逃げ出そうとしてきた、「第7部隊」の役割そのものだった。


再びこのような任務に戻ることは、まるで、自分自身に言い聞かせているようだった。


どれだけ遠くに逃げようと、彼は未だに、戦争の、あの「道具」のままだと。


躊躇と恐怖が、心の中に芽生え始めた。(もし、俺たちが成功したら、連邦は、間違いなく狂乱するだろう)彼は、かつての上官の非情さを、よく知っていた。


奴らは、彼を追うだけではなく、インワン・フリーダムの全艦隊を追うだろう。


奴らは、我々全員を粉々にするために、全戦力を送り込んでくるかもしれない。


俺たちの行動が、さらに何千人もの人々の死を、招くかもしれない。


だがその時、ライトは、その否定的な考えを振り払った。


(違う…)彼は、心の中で反論した。(奴らに、あの秘密兵器を完成させることこそが、皆に死をもたらすのだ)


彼は、再び「プロジェクト・キメラ」のデータを見つめた。それは、ただの兵器の設計図ではない。


それは、戦争の盤面全体を、一度にひっくり返す可能性のある、「切り札」かもしれないのだ。


それを盗み出すことができれば、それは革命派の勝利を意味するかもしれない。


そしてそれは、戦争をより早く終わらせることを意味する。何百万人もの人々の命を、救うことを意味する。


(そうだ…)決意が、再び彼の眼差しに戻ってきた。


(これは、代償だ)彼は、自分に言い聞かせた。(たとえ、過去が再び俺を苛もうとも、たとえ、再び影の中の『亡霊』に戻らなければならなくとも、これは、自分自身に証明する機会なのだ)


彼は、誰かに証明しようとしているのではない。


エララでも、ジャックでもない。彼が、証明したいのは、「自分自身」にだった。


この、忌まわしい第7部隊のスキルが、人々を守るためにも使えるのだと。虎は、その縞模様を消すことはないかもしれない。しかし今回、この虎は、もはや抑圧者のためには、狩りをしない。


(俺たちの、今回の行動が、何百万人もの人々の希望になるかもしれないのだ)


その考えが、彼の肩にかかる責任を、さらに重くした。


しかし同時に、それは、彼の目標を、これまでになく明確にした。


ライトは、データパッドを閉じた。


彼は立ち上がり、補給部隊が用意した武器と装備の点検を始めた。


彼の心は今、氷のように静かで、冷徹だった。


彼は、準備ができていた。


肉体も、精神も。


今や、残されたのは、ただ一つ。


ジャック司令官からの、最後の命令を待つことだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ