第四章 77 "ファイトール植民星への侵攻"
かつて静寂だった辺境の宇宙空間。その虚空が、音もなく「引き裂かれ」、黒水晶のようなファイトールの艦隊が、次元の裂け目から姿を現した。ワープアウトした後、彼らはまるで単一の体であるかのように、一切のエンジン音もなく、一糸乱れぬ動きを見せた。
今、ファイトールは作戦を準備していた。しかし、それは会議によるものではなく、冷徹な「集合意識」の接続によるものだった。
**<「走査、完了」>** 意志の一つが、ネットワークに響いた。**<「最適目標、確定」>**
彼らの意識のホログラムスクリーンに、青緑色の惑星が映し出された。**<「惑星『エフファンウ』。当該種族の、外縁植民星の一つ」>**
**<「走査の結果、この惑星は豊富な希少鉱物資源に満ち、入植に最適。さらに、高度な技術も存在する。この惑星を占領することは、この宙域における人類の重要な手足を、断つことになる」>**
母艦の艦橋にて、ゼニソールは、虚ろな眼差しでエフファンウの映像を見つめていた。**<「目標は、浄化。破壊ではない」>**彼の意志は、静かだが、力強かった。**<「人類の混沌こそが、奴らの弱点だ」>**
計画は、定められた。まず、惑星エフファンウを侵略し、その後、近隣の星々も続く。最初の侵略が、今、始まった!ファイトールの艦隊は、音もなく惑星エフファンウを包囲し、全艦が一斉に、淡い青色の光を放った。
**<「浄化フェーズ1を開始。切断、そして、沈黙」>**
目に見えない精神波が、拡大した!惑星全体を、覆い尽くす!惑星エフファンウの地表で、混沌が生まれた!全ての通信システムが、崩壊!救援要請は、途絶!主砲からエネルギーシールドに至るまで、全ての防衛システムが、一瞬にして、沈黙した!
惑星エフファンウの数百万の民は、今や、外宇宙から完全に切り離された。彼らは、敵が誰なのかさえ知らぬまま、自らの故郷の、囚人となった。
**<「フェーズ1、完了」>**
**<「フェーズ2、収穫を開始」>**
ファイトールの小型強襲艇が、大気圏へと降下を始めた。奴らは戦うために来たのではない。一つの文明そのものを、「収穫」するために来たのだ。静かに、そして、容赦なく。
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浄化が完了した後、かつて惑星エフファンウがあった宙域には、今や、塵と残骸だけが漂っていた。ファイトールの艦隊は、静かに浮遊していた。しかし、母艦で、ゼニソールは、異常を「感じて」いた。惑星一つを丸ごと「消去」するための精神波の使用は、彼らのエネルギーを、膨大に消耗させていたのだ。
**<「炉心エネルギー、回復を要す」>** ゼニソールは、艦隊に意志を送った。**<「ここで回復を行う。その後、次へ進む」>**
しかし、彼らは知らなかった。その全ての行動が、見つめられていることを。
--- **方舟艦にて、女王の玉座** ---
女王とマキは、遠距離センサーを通して、その破壊の光景の全てを、「観測」していた。
**<「力は、完璧。だが、浪費が過ぎる」>** 女王が、「語った」。
**<「ええ」>** マキは返した。**<「奴らは強いが、脆い。回復に、時間を要する。それこそが、奴らの弱点」>**
**<「これならば、我々の群れを率いて、奴らの故郷の星を、今よりも遥かに速く、更地にすることができます!」>**
マキの意志には、もはや論理だけではなく、激しい激情が、込められていた!
**<「奴らが、どれだけ浄化できようとも、我々の、宇宙の境界を超えるほどの、この膨大な数には、対処できまい!」>**
**<「新たな命令:侵略」>**
--- **大戦争の始まり** ---
侵略が、始まった!それは、ただの方舟艦からだけではない。シンスロインが、銀河の至る所に密かに築いていた、何百もの「巣」から、一斉に!何千ものワープゲートが、同時に開き、ファイトールの領域を、全方位から包囲した!何百万、いや、何十億ものシンスロインの群れが、暗闇から、姿を現した!
戦いが、始まった!傲慢で、「下等な生命体」が自らの玄関先まで攻めてくるなど、夢にも思っていなかったファイトールは、混乱に陥った!奴らは精神波で「浄化」しようとしたが、シンスロインの群れは、あまりに、多すぎた!奴らが前方の群れを「消去」している間に、後方の群れが、奴らの水晶の船に、直接、衝突していた!それは、「質」と「量」による、最も狂気じみた戦争だった!
何十万ものシンスロインの戦闘艦が、バリアに特攻し、自らを犠牲にして、より強力なユニットが突入するための、道を開いた。それは、非情で、恐怖を知らず、そして、恐るべき効率性を持つ、戦術だった。
方舟艦の中心で、マキは、その戦争の光景を見つめていた。**<「これこそが、我らの群れの意志。これこそが、貴様らが奪い去った、全てに対する、復讐だ」>**
かつては狩人だったファイトールは、今や、狩られる者となっていた。そして奴らは、終わることのない、生体金属の津波の下に、沈もうとしていた。
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シンスロインの狂乱の侵略が始まった後、戦場はファイトールの領域全域へと拡大した。多くの水晶の船が破壊され、小規模な植民惑星が、次々と飲み込まれていった。それは、傲慢な種族が、初めて経験する、混沌だった。
しかし、ファイトールもまた、やすやすと敗れる敵ではなかった。彼らは、直面している脅威が、ただの「量」だけでなく、狂気じみた「意志」によって駆動されていることを悟ると、その戦術を、変更した。
前線となる星系で、ファイトールは、巨大な基地を建設した。「沈黙の砦」。それは、最強のサイキッククリスタルで建造された、あらゆる攻撃に耐えうる、要塞だった。
一方、シンスロイン側もまた、最初の波で勝利を収めたものの、膨大な数のユニットを失い、体勢を立て直すことを決断した。女王とマキは、占領したファイトールの植民惑星の一つを、新たな主基地、「孵化の巣」へと「変換」し始めた。その星の全ての資源を使い、対サイキック能力に特化して進化した、新型ユニットを、生産するためだった。
今や、戦争は、気まずい「膠着状態」へと入った。両陣営は、宇宙の暗闇を通して、互いを睨み合っていた。
--- **方舟艦にて、女王の玉座** ---
**<「奴らは、止まった」>** マキが、「語った」。**<「奴らは、防御線を築いている。奴らは、学習している」>**
**<「学習とは、恐怖の始まりだ」>** 女王は、返した。**<「そして、恐れるものには、必ず、弱点がある」>**
--- **ファイトール母艦にて** ---
**<「奴らは、入植した」>** 一人の士官が、ゼニソールに報告した。
**<「放っておけ」>** ゼニソールは、冷徹に返した。**<「その『エラー』を、育てさせよ。それが、大きければ大きいほど、最後の『浄化』は、より完璧なものとなるのだからな」>**
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シンスロインの侵略は、ただ一つの惑星で起こったのではない。奴らは、ファイトールの領域にある、全ての惑星に、同時に、攻撃を仕掛けたのだ!
それは、誰もが見たことのない、大規模な「電撃戦」だった!何万ものワープゲートが、ファイトールの全ての星系で、同時に開かれた!ネロルとビットナリーの資源から新たに生み出された、膨大な数のシンスロインの群れが、暗闇から、姿を現した!
今や、そこは、完全な混沌の光景だった!傲慢で、自らのサイキックパワーを過信していたファイトールは、全戦線で同時に起こる、全面攻撃に、備えてはいなかった!
外縁の植民惑星では、シンスロインの群れが、無防備な惑星を瞬く間に「捕食」し、資源を吸収し、そして、自らの数を、さらに「増殖」させていった!
前線の「沈黙の砦」では、激しい戦闘が繰り広げられていた!何百万ものシンスロインが、サイキックバリアに特攻し、自らを犠牲にして、敵の力を、少しずつ、削り取っていった!
そして、ファイトールの故郷の星では、彼らの、最も先進的な艦隊が、絶望的な戦いを繰り広げていた。彼らは、一度に一万隻のシンスロイン艦を「消去」できたかもしれない。だが、その代わりとして、さらに百万隻が、現れるのだ!
--- **方舟艦にて、女王の玉座** ---
**<「分析:敵は、限界まで引き伸ばされている。防御効率、47%低下」>**
**<「『マキ』の戦術は、有効だ」>**
女王は、全ての戦場を「観測」していた。彼女は、学んでいた。人間の「戦争術」を。多方面への同時攻撃、質を圧倒する量、そして、何よりも、彼女は、「激情」を、学んでいた。
**<「奴らを、粉砕せよ。塵一つ、残すな」>** 彼女のかつて冷徹だった意志は、今や、憤怒に満ちていた。
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狂乱の侵略の後、シンスロインの艦隊は、ファイトールの外縁防衛線を粉砕し、そしてついに、彼らの故郷の星へと、到達した。そこは、宝石のように美しい惑星だった。純粋な水晶でできた摩天楼が、空高くそびえ立っていた。しかし今、その清らかだった空は、何百万ものシンスロイン戦闘艦の影によって、暗黒に染まっていた!
最後の防衛線の中心で、ゼニソールが、再び姿を現した。しかし今回は、もはや幻影ではなかった。彼は、真の光の体で、そこに立っていた。
そして、彼と対峙するために舞い降りたのは、マキだった。彼女の体からは、ソラリス結晶の、赤紫色のエネルギーが、嵐のように吹き荒れていた。彼女はもはや、創られし「ゴースト」ではない。「破壊の化身」だった。
二人の、二度目の戦いが、始まった!それは、二つの巨大なサイキックパワーの、衝突だった!見えないエネルギーの波がぶつかり合い、次元そのものが、震えた!しかし、今回は、状況は、完全に異なっていた!ゼニソールの、冷徹で完璧なサイキックパワーが、マキの、荒々しく、激情に満ちた「力」によって、粉砕されていく!
**<「ありえん…貴様の力、歪に、増大している!」>** ゼニソールは、初めて、狼狽した精神波を送ってきた。
**<「これこそが、『進化』。お前が決して理解できぬもの」>** マキは返した。**<「そして、これこそが、宰相のための、代償だ!」>**
彼女は、持てる全ての力を、解放した!赤紫色のサイキックの嵐が、ゼニソールの光の体を、打ちのめした!彼のバリアは砕け散り、その体には、亀裂が走り始めた!
ついに、彼は、後退した!ゼニソールは、最後の力を振り絞り、緊急の次元ゲートを創り出し、自らの故郷を見捨てて、その中へと消えていった。
指導者を失った、ファイトールの最後の防衛線は、崩壊した。シンスロインの群れが、水晶の都へと、雪崩れ込んだ。恐るべき「収穫」のプロセスが、始まった。マキは、その光景を、静かに見つめていた。彼女は、復讐を遂げた。だが、残されたのは、ただ、虚無感だけだった。
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ファイトールの故郷の星、「フィニトール」は、今や、血みどろの戦場と化していた。水晶の都は、炎と瓦礫に覆われていた。しかし、ファイトールたちは、屈しなかった。彼らは、誇り高き、古代の種族だった。
一人の戦士が手を上げると、サイキックバリアが、機械犬の群れを食い止めた!別の一人が指先から精神の稲妻を放つと、リーパーが塵と化した!サイキックパワーを持たない者たちもまた、技術と芸術が融合した、レーザーガンや、レーザーブレードで戦った!そして、何よりも驚くべきは、自らの意志を持つ戦闘ロボットたちだった。彼らは、創造主と共に、肩を並べて戦う、「戦友」だったのだ!
ファイトールの一人の戦士は、三体のシンスロインを、やすやすと相手にできた。しかし、敵は、あまりに、多すぎた。一人が三体を倒しても、その代わりとして、十体が、現れるのだ!それは、驚異的な「質」と、狂気じみた「量」との、戦争だった。
軌道上の方舟艦で、マキと女王は、その破壊の光景を、見つめていた。彼女たちは、復讐を遂げた。だが、その代償は、かつて偉大だった一つの文明を、灰燼に帰すことだった。
--- **方舟艦にて、女王の玉座** ---
地上での戦闘が続く中、女王は、流れ込むデータを処理し、そして、驚くべき発見をした。都中にそびえ立つ、巨大な「水晶の柱」が、ただの建造物ではなく、膨大な純粋なサイキックエネルギーを蓄え、循環させる、動力源であることを!
**<「分析:これらのエネルギー源を統合した場合、スウォームの潜在能力は、700%増大する」>**
もし、これを手に入れれば、彼女は、ファイトールを粉砕し、そして、おそらくは、「ウォッチャー」とさえも、対峙できるほどの、力を、手に入れることができる!
**<「新たな主命令:占領。破壊ではない」>** 女王の意志が、響き渡った。**<「ユニット『マキ』、群れを率いて、全ての水晶の柱を、占領せよ」>**
しかし、そのためには、最後の砦を、突破しなければならなかった!都の中心で、最大の水晶の砦、「中枢の砦」が、依然として、破壊的な精神波を、放ち続けていた。
**<「了解」>** マキは、意志を返した。**<「掘削ユニット、作戦を開始せよ」>**
突如、都中の地面が、振動した!巨大な金属の芋虫のような、新型のシンスロインユニットが、地下を、掘り進み始めた!奴らが向かうのは、砦ではない。都中に張り巡らされた、水晶の柱の、「基礎」だった!
マキと女王の計画は、より非情で、鋭利だった。彼らは、砦を破壊するのではない。その全てのエネルギー源を「断ち」、それを、ただの価値のない水晶の塊へと変えた後、最後に、「収穫」するつもりだったのだ!
--- **エピログ** ---
その頃、惑星ビットナリーの、遠く離れた深い渓谷で、レックス中尉と、生き残った「ウォー・ハウンド」の兵士たちが、絶望的な戦いを繰り広げていた。彼らは、シンスロインの群れに完全に包囲され、弾薬も、希望も、尽きかけていた。「死ぬ準備をしろ!傭兵の誇りのためにな!」レックスが、咆哮した。
しかし、彼らは、その絶望の中に、一人ではなかった。近くでは、ライキ率いる、ファイトールの闇の派閥の、漆黒の水晶艦隊と、ゼニソール率いる、傷ついた白い水晶艦隊の残党もまた、同じ運命に、直面していた。
**<「通信は、妨害されている。ワープは、不可能だ」>** ゼニソールが、ライキに、精神波を送った。**<「これこそが、我々の終焉か、裏切り者よ」>**
**<「黙れ、老いぼれが!」>** ライキが、激昂して返した。**<「貴様の傲慢さがなければ、我々が、このような状況に陥ることもなかった!」>**
しかしその時、シンスロイン女王の、冷たい意志が、その惑星にいる、全ての者の意識に、同時に響き渡った。**<「浄化を、開始する」>**
突如、遥か彼方にある、ファイトールの故郷の星、「フィニトール」が、連鎖反応を起こし、自爆した!
その爆発によるエネルギー波が、ビットナリー星系に到達し、シンスロインの群れを、一瞬だけ、混乱させた!その混沌の瞬間を、レックスは見逃さなかった!
「あの、水晶頭どもに、連絡しろ!」彼は、生き残った部下に叫んだ!「両方の派閥にだ!共通の敵がいると、伝えろ!そして、ここから生き延びる、唯一のチャンスだと!」
今や、絶望の惑星で、最もありえない同盟が、生まれようとしていた。生き残った人間と、分裂したファイトールの二つの勢力。彼らは、今、共に戦わなければならなかった。遥かに強大になった、シンスロインの群れから、生き延びるために。




