第一章 6 "冬の同盟"
通信システムを通して響くジャック司令官の声は、ベアトリス提督と彼女の乗組員がここ数週間で初めて感じた、真の希望の合図だった。逃亡、喪失、そして絶望…その全てが、ここで終わりを告げた。
インワン・フリーダムの小型ながらも力強い輸送艦一隻が、旗艦「ヴィンディケーター」から発進し、傷ついたマリアン・コンバイン王室艦隊を秘密の造船所へとゆっくりと導いていった。
--- **一時間後、旗艦「ヴィンディケーター」にて** ---
第3作戦司令室のドアが開く…
ベアトリス提督が、難民という状況にもかかわらず、優雅で威厳のある足取りで部屋に入ってきた。彼女の純白の提督服には、しわ一つなかった。傍らには、まるで彫像のような銀色の装甲服に身を包んだ二人の王室護衛官が控えている。彼らは、高貴で規律正しい王国の姿を映し出していた。
出迎えたのは、ジャック司令官…そしてその隣には、最新任のキャプテン、ライトが立っていた。
両陣営の対面は、実に対照的な光景だった。一方は古き王国の優雅さと規律、もう一方はゲリラ戦から生まれた革命戦士たちの荒々しさと力強さ。
「ベアトリス提督、ヴィンディケーターへようこそ」ジャックが口火を切った。「貴官が生き延びたという噂は、どうやら誇張ではなかったようだ」
「ジャック司令官、それはこちらも同じ言葉を返さねばなりますまい」ベアトリスは落ち着いた声で応じた。「連邦が何十年も葬り去ろうとしてきたにもかかわらず、『インワン・フリーダム』の伝説は、今なお轟いております」
儀礼的な挨拶の後、ジャックはすぐに本題に入った。彼はホログラムテーブルにマリアン・コンバイン艦隊の損害状況を映し出し、そちらへ手を向けた。「貴官の艦隊は甚大な被害を受けている。何があった?連邦の仕業か?」
ベアトリスの瞳に、痛みの色がよぎった。「そうであったなら、と願います。知っている敵の方が、まだ対処は容易いものです」
彼女は一瞬言葉を止め、彼らが直面したばかりの災厄について語り始めた。
「奴らは虚無から現れました、司令官。警告も、宣戦布告もなく…ただ、無数の漆黒の獣と、赤い閃光の群れでした。奴らは対話も、交渉もせず…ただ、行く手を阻むものすべてを『**捕食**』するのです」
静かに聞いていたライトは、固く拳を握りしめた。彼は惑星ザムでの機械獣の群れを、はっきりと覚えていた。
「我々の軌道防衛艦隊は、一日も経たずに壊滅しました」ベアトリスはわずかに震える声で続けた。「我々の故郷、惑星マリアは包囲されています。我々は敗走したのではありません。最後の任務を果たすため…同盟者を探し、貴官らを見つけるために、包囲網を『**突破**』してきたのです」
今や、全てが明らかになった。惑星ザムでの攻撃は単独の事件ではなく、セクター全域にわたる本格的な侵略だったのだ!機械獣の群れは、全人類の敵だった!
ベアトリス提督は、ジャックの目をまっすぐに見つめた。「マリアン・コンバインは、我々の誇りを重んじる国。これまで誰かに助けを求めたことはありません。しかし今日、王室艦隊最高司令官として、私はここに『**同盟**』の正式な締結を要請するために参りました」
「単独では、我々の種族はこの宇宙から消し去られてしまうでしょう」彼女は重々しく言った。「しかし、もし我々が手を取り合えば、再び明日の夜明けを見る機会があるかもしれません」
ジャックは、老いた女性提督を尊敬の眼差しで見つめ、ゆっくりと頷いた。
「同盟…それが現時点で最も合理的な道だろう」彼は認めた。「連邦は自らの民を見捨て、新たな敵は我々全員を根絶やしにしようとしている。インワン・フリーダムは、貴官の申し出を受け入れる」
二人の指導者の握手は、ザン・セクターの歴史上、最も偉大な革命軍の始まりの瞬間だった。
「同盟を結んだからには、仕事の時間だ」ジャックはそう言うと、ホログラムテーブルに向き直った。「我々が最初にすべきことは、直面している敵を理解することだ。そして、そのために…」
彼はライトの方を見た。
「…ライトキャプテンが、重要な土産を持ち帰ってくれた」
ジャックがコントロールパネルに触れると、三つ首の獣のシンボルが刻まれたデータファイル、「**キメラ計画**」がホログラムスクリーンに表示された。
今、二つの最も偉大な軍隊の指導者たちが、連邦の最も暗い秘密を共に暴こうとしていた。勝利への鍵となるかもしれない、あるいは、全ての生命の破滅へと繋がるかもしれない秘密を。
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旗艦「ヴィンディケーター」で、緊迫した会議が始まったばかりだった。「キメラ計画」に関する真実が暴かれようとしており、革命家たちの目から見た連邦のイメージは、永遠に変わってしまった。対処可能な敵から、今や奴らは暗く恐ろしい秘密を隠し持つ、宇宙の悪魔となったのだ。
しかしその一方で、静かにドッキングしている母艦「ウィンターズ・クレスト」の雰囲気は、全く異なっていた。
艦内で最も豪華で美しい、王室展望室にて。部屋全体が真珠のような白と銀色で装飾され、磨き上げられた大理石の床が、艦外の景色を完璧に再現する巨大なパノラマスクリーンからの星の光を反射していた。空気は、クリスタルの鉢に植えられた惑星マリアの希少な花の微かな香りで満たされていた。
その静かな美しさの中、マリアン・コンバインの二人の王族が立っていた。
純粋な雪のような白い髪と、氷のように澄んだ青い瞳を持つ美貌の青年が、腕を組んで目の前に広がるインワン・フリーダム艦隊の光景を見つめていた。彼はマリアン・コンバイン第一王位継承者、ウィリアム王子だった。難民という状況にあっても、彼の立ち姿は優雅で威厳があった。
彼の少し離れた場所では、背中まで伸びる美しい白い髪を持つ、白いロングドレス姿の可憐な少女が、鉢植えの花を優しく手入れしていた。彼女はウィリアム王子の妹、ステラ王女だった。彼女の一つ一つの動きは、まるで命を宿した絵画のように美しかった。
「同盟は締結されました、殿下」一人の護衛兵が報告に入った。「ベアトリス提督は、インワン・フリーダムの司令官との会議に参加されております」
「よろしい」ウィリアム王子は短く応えたが、その視線は依然として、荒々しく、戦いの傷跡が残る「ヴィンディケーター」に注がれていた。「ついに、奴らに反撃し、我々の故郷を取り戻すだけの力が手に入ったな」
「それは良い知らせですわ、兄上」ステラ王女が言った。彼女の声は、ガラスの鐘のように澄んで響いた。「でも、ステラはまだ惑星マリアに取り残された民のことを思うと、心配でなりません。そして、それ以上に恐ろしいのは…」
彼女は兄の目を見上げた。その瞳には、かつてないほどの怒りの色が浮かんでいた。「…連邦です。奴らはあの獣たちと共謀していたにもかかわらず、人々が死んでいくのを放置しました。奴らはもはやただの敵国ではありません。悪魔ですわ」
ウィリアム王子は長く息を吐き、妹の頭を優しく撫でた。「心配するな、ステラ。戦争のことは、兄と提督に任せておけ。お前の役目は、我々の民にとっての希望の象徴であることだ」
ステラ王女はゆっくりと首を振った。「希望とは、ただ座して待つことではありませんわ、兄上」彼女は立ち上がり、兄に向き直った。「ステラの役目は民を慈しむこと。そして今、彼らには同盟者が必要です。我々は彼らを、もっと理解しなければなりません。インワン・フリーダムも、そして…あの男も」
彼女の視線は、再びヴィンディケーターに向けられた。「ライトキャプテン…元連邦第7部隊…最も重要な秘密を盗み出した人物。彼は、一体何者なのでしょう」
ウィリアム王子は、妹の視線を追って、傷だらけの戦闘艦を見つめた。この新たな戦争において、鍵を握るのは、強大な軍事力ではなく、ほんの数人の人間なのかもしれない。
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「ヴィンディケーター」の艦橋で、二つの軍の指導者間の緊迫した会議は終わった。しかし、本当の戦争は始まったばかりだった。
「キメラ計画」のデータファイルは、最高の暗号解読チームに送られたが、全工程には数日かかるかもしれなかった。彼らに残された時間はない。ジャック、ベアトリス提督、そして新任のライトキャプテンは、ホログラムテーブルを囲み、次の段階を計画していた。
「キメラのデータ解読を待つだけでは、死を待つのと同じだ」ジャックが言った。「我々の敵は連邦と機械獣の二つ。それに対して、我々の同盟者はあまりにも少ない。戦力を増強する必要がある」
彼は星図に触れ、「無法宙域」と呼ばれる灰色の領域を映し出した。「ここは宇宙海賊の住処だ」ジャックは説明した。「奴らは誰の支配下にもなく、連邦にも忠誠を誓わない。奴らが信じるのは金と力だけだ。だが利点もある。奴らはザン・セクターの隅々まで知り尽くしている。連邦さえ知らない秘密の航路もな」
彼は別の小惑星群をズームアップした。「そしてここには、セクターで最も腕の立つ傭兵たちの巣窟がある。十分な金があれば、小規模な軍隊を雇うことも可能だ」
「しかし、その金はどこから?」ベアトリス提督が尋ねた。
「ここからだ」ジャックは連邦支配下の一つの惑星を指差した。「惑星ネロル。最も重要な鉱物『ネオ・タイベリウム』の産地だ。この鉱物は兵器のアップグレードに不可欠な原料であり、闇市場での需要も非常に高い。ここを奪取できれば、我々は資金と技術の両方を手にすることができる」
「だが、連邦の支配下にある」ライトが反論した。
「惑星一つを解放するには、莫大な戦力が必要だ」「その通り。だが幸いなことに、ネロルの住民は連邦を骨の髄まで憎んでいる。我々が彼らを解放すれば、必ずや我々に加わるだろう」ジャックは言った。「したがって、我々の次の任務は三つだ。海賊との交渉、傭兵の雇用、そして惑星ネロルの解放だ」
彼はライトに目を向けた。「そしてこれは、繊細さを要する任務だ。交渉、潜入、ゲリラ戦…特別な人間が必要となる」
「一人で行かせるつもりはないぞ、キャプテン」ジャックは口の端を上げた。「私の『右腕』を同行させよう」
会議室のドアが静かに開いた。一人の女性の姿が現れた。彼女はまるで虚無から現れたかのようだった。
ツインテールに結んだ長いブロンドの髪。彼女の瞳は、不思議なほどに色が異なっていた。片方は空のように澄んだ青、もう片方は血のように鮮やかな赤。体にフィットした、機動性の高そうな漆黒の戦闘服を身に纏い、背中にはスナイパーライフルと高出力のエネルギーカタナが交差して背負われていた。彼女は、美しさと死が一つに融合したかのような存在だった。
ライトは目を見開いた。彼は彼女から放たれる、かつて自身の上官から感じたことのある、最高レベルの暗殺者の殺気を感じ取った。
「皆、紹介しよう。マキだ」ジャックが紹介した。「私の右腕であり、情報部長だ」
彼はライトに向き直った。「そして彼女は、かつて『ゴースト』部隊の最高位メンバーだった。お前のいた第7部隊を、さらに一段階上回る秘密作戦部隊だ」
「ゴースト」という言葉に、ライトは息を呑んだ!第7部隊が悪魔なら、「ゴースト」は「伝説」。誰もその実体を見たことすらない亡霊部隊だ!
「数年前、私の部下が瀕死の彼女を発見した。頭には連邦が埋め込んだ思考制御チップが埋まっていた。我々は彼女を救い、今、彼女は我々のために働いている」
マキはライトと目を合わせた。彼女の二色の瞳が、まるで彼の思考を全て読み取るかのように、心の奥深くを見つめてきた。「第7特殊強襲部隊…」彼女が初めて口を開いた。その声は平坦だが、氷のように冷たかった。「お前たちのファイルは読んだことがある。興味深いな」
ライトは、まるで蛇に睨まれたかのような感覚に陥った。この女は、危険すぎる。
「ライトキャプテン、マキ…」ジャックが締めくくった。「君たち二人がこの任務のリーダーだ。準備にかかれ。革命の未来は、君たちの手にかかっている」
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任務開始の数時間前、旗艦「ヴィンディケーター」主ハンガーベイにて。
雰囲気は金属のぶつかる音と、来るべき任務のために新しいステルス艦を準備する技術者たちの指示の声で満ちていた。しかし、比較的静かなハンガーの一角で、ライトキャプテンは一人で座っていた。彼は愛用のライフルを丁寧に分解し、清掃していた。全ての部品が整然と並べられている。それは彼の心を落ち着かせ、目の前の任務に集中させるための日課だった。
彼が一人でいる時間は、長くは続かなかった。
「FNX-5プラズマライフルか。旧式だが信頼性は高い。連射速度は遅いが、破壊力は申し分ない」
背後から聞こえた平坦な声に、ライトはわずかに動きを止めた。足音さえ聞こえなかった。マキが、いつの間にかそこに立ち、腕を組んで装備品の箱にもたれかかっていた。彼女の動きは「ゴースト」の名にふさわしく、不気味なほど静かだった。
「長く使っている」ライトは手元の部品から目を離さずに答えた。「裏切られたことはない」
「お前は第7部隊の歴史上、最高の狙撃手だったと言われているな」マキは続けた。「経歴書によれば、『ステーション・ゼロ』での適性試験で満点を記録したとある。前例のないことだ」
「ステーション・ゼロ」という言葉に、ライトの手が一瞬止まった。彼は初めて彼女と目を合わせた。そこは、連邦の最も過酷で、極秘の戦闘訓練施設。彼らのような悪魔を創り出す場所だった。「なぜその名を?」
「私もそこにいたからだ」マキは答えた。彼女の二色の瞳には感情がなかった。「お前の期の五年後だ。そして、お前の記録は私が破った」
その言葉には、自慢の色は微塵もなかった。それは冷たい事実の告知だった。ライトは、自分と彼女の間にある、目に見えない力の差を感じた。彼らは同じ特殊部隊員ではない。彼女は、彼よりもさらに上の段階にいた。
「ならば、お前も…」ライトは尋ねるのを躊躇した。
「首筋に制御チップが埋め込まれていたか、だと?」マキは彼の言葉を遮った。「ああ、あった。『ゴースト』の全員がな。我々は兵士ではなかった。生きた操り人形だ。ジャック司令官が私の『糸』を切るまではな」
会話は、彼らがこれまで誰にも語ったことのない領域へと踏み込んでいた。兵器として創られた者たちの物語。
「噂は本当だったんだな。奴らはお前たちを本当に制御できたのか」ライトは呟いた。
「試みていた、と言うべきか」マキは訂正した。「手綱は、主人が握っていてこそ意味がある。ジャックは私の手綱を切った。お前はどうだ、第7部隊。誰がお前の手綱を切った?」
その問いに、ライトは言葉を失った。なぜなら、彼自身が、自らの手綱を切ったのだから。逃げ出すことによって。
重い沈黙が場を支配しようとした、その時。
親しみのある警報音が、ハンガーベイ全体に鳴り響いた。
**<艦「希望の使者」、着艦許可を求める!>**
ライトの心臓が跳ねた。彼は即座に立ち上がった。戦闘で傷ついた小型輸送艦が、ゆっくりと緊急着艦ポートに降りてくる。後部ランプがゆっくりと下がり、見慣れた姿が最初に現れた。エララだ。
彼女は疲れ、薄汚れていたが、その瞳には決意と勝利の色が宿っていた。続いて、同じような状態のサトウとガーも現れた。惑星クラスでの扇動任務は、見事に成功したのだ。
「ライト!」
エララは彼を見つけると、嬉しそうに叫んだ。彼女は駆け寄ってきた。「あなた…キャプテンになったのね!」彼女は彼の制服の新しい階級章に気づいた。
ガーが近づき、彼の肩を揺さぶるほど強く叩いた。「ハッ!宇宙ステーションを爆破してきたんだってな!次回は俺たちの分も残しておけよな…キャプテン殿」
その声色にもはや憎しみはなく、戦友としての認め合いだけがあった。
「無事でよかった」ライトは心から言った。ここ数日で初めて、彼の顔に微かな笑みが浮かんだ。
闇の中からその様子を見ていたマキは、何も言わなかった。彼女はただ、冷たい視線で全てを観察していた。エララと話すライトを、元第7部隊の兵士と元ウェイトレスの間に存在する見えない絆を。
彼女にとって、これは興味深い新たな「**変数**」。そして、彼女の新しいパートナーの、最も危険な「**弱点**」となるかもしれないものだった。
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ガーの冗談めかした言葉に、ライトの顔に珍しい微かな笑みが浮かんだ。それは彼が長い間感じていなかった感覚、「**仲間**」がいるという感覚だった。
「あなた、なんだか…良くなったみたいね」エララが口火を切った。彼女は彼を頭のてっぺんからつま先まで見つめた。「キャプテンの階級章、似合ってるわ」
「君もな」ライトは返した。「ずいぶんと歴戦の勇士に見える」
「彼女が作戦全体を指揮したんですよ、キャプテン」サトウが誇らしげな笑みを浮かべて付け加えた。「今やクラスの住民は、彼女のことを『ザムの火花』と呼んでるんですよ」
「驚かないさ」ライトはゆっくりと頷いた。彼女が初めて銃を手にした日から、彼はそれを見て取っていた。普通の少女の仮面の下に隠された、決意に満ちた眼差しと勇気を。
四人は、互いに経験した出来事を夢中で語り合った。ライトはアイギス・ステーション襲撃を簡潔に、エララは惑星クラスでの住民扇動の困難さと成功を語った。それは、暖かく、生命力に満ちた短い時間だった。過酷な戦争の中の、小さな光のようだった。
だがその時、氷のように冷たい声が、その暖かい会話を容赦なく断ち切った。
「ライトキャプテン」
全員が振り返った。マキが、いつからそこにいたのか誰も知らなかった。彼女は漆黒の戦闘服に身を包み、彫像のように静かに立っていた。
「出撃前の艦体チェックは完了した。5分後に出発する」彼女は平坦な声で続けた。「お前の懇親会は待てるが、任務は待たない」
その言葉は鋭く、冷たく、先ほどまでの暖かい雰囲気は一瞬で消え去った。そして、これが初めて、エララがライトの新しい「**パートナー**」をまともに見た瞬間だった。
彼女の心に最初に浮かんだ感情は、人間離れした美しさへの「**驚愕**」だった。黒い装甲服と対照的なブロンドのツインテール、不思議な二色の瞳、そしてガラス人形のように無表情な顔。
しかし次の瞬間、戦場で目覚めた戦士としての本能が、激しく警鐘を鳴らした。これはただの美しい女性ではない。エララは、その体から放たれる「**プレッシャー**」を感じ取ったのだ。それは冷たく、静かな殺気。まるで、空で静かに獲物を狙い、容赦なく襲いかかる鷹の王に直面した子ウサギのような感覚だった。
エララは戦闘モードのライトを見たことがあった。彼は傷ついた狼のように、獰猛で、危険だった。しかし、この女は違う。彼女は野生動物ではない。彼女は、殺戮のためだけに完璧に創り上げられた「**兵器**」そのものだった。
エララの驚愕は、「**衝撃**」へと変わった。このような人間が存在することへの衝撃、そして、これほど危険な人物が、ライトと命懸けの任務に赴くことへの、さらなる衝撃。
「あなたは…?」エララは気を取り直して尋ね返した。その声は丁寧だったが、わずかな挑戦の色が滲んでいた。
マキはすぐには答えなかった。彼女の二色の瞳が、エララを頭のてっぺんからつま先まで見つめた。それは冷たく、何の感情も含まない評価だった。
「マキ」彼女は短く答えた。「彼のパートナーだ。そして我々の任務は…最優先事項だ」
二人の女性の間の空気は、静電気が走るかのように、一瞬で張り詰めた。
状況を察したライトは、すぐに二人の間に割って入った。「2分後に合流する」彼はマキに告げ、エララのグループに向き直った。「ヴァレリウス司令官に報告して、休め。よくやってくれた」
彼は最後にエララと目を合わせた。「また後で話そう」
そう言うと、ライトはマキと共に踵を返し、歩き去った。エララ、サトウ、そしてガーは、様々な感情を抱きながら、その後ろ姿を見送った。
エララは、マキという名の「**影**」と並んで歩くライトの背中を見つめた。彼女の心の中で、激しい不安が湧き上がった。この戦争で最も恐ろしい敵は、連邦や機械獣だけではないのかもしれない。
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同盟が結ばれ、作戦計画が立てられると、革命軍は電光石火の如く動き出した。
ステルス艦「ナイトフォール」が再び主力艦隊から分離した。しかし今回、艦に乗っているのはライトキャプテンと、電子戦の専門家であるライラだけだった。彼らの目標は、「スクラップ・クイーン」の名で知られる最も有名な宇宙海賊団の巣窟、「ポート・スクラップヤード」だ。
時を同じくして、マキ、ギデオン、そしてサイラスが率いる複数の高速強襲艦が、惑星ネロル星系へとワープした。彼らの任務は、連邦の司令官の首を刎ね、革命の火蓋を切るための道を切り開くことだった。惑星に潜入しているマキの「ゴースト」部隊が、既に情報を提供している。