第三章 68 "偉大なる原動力(1)"
混乱と敗北に打ちひしがれたザン・セクター全域に、ジャック司令官からの緊急ホログラム信号が、受信可能な全ての艦船へと送られた。そこに映し出されたのは、疲弊しきってはいるが、断固とした決意に満ちたジャックの顔だった。
「連合軍の同志諸君」彼は、悲痛な声で切り出した。「今日、我々は、最大級の損失に直面した。惑星サイプラスダリンは、破壊された」
「それは、罠だった。連邦が、我々の真の敵と共に仕掛けた罠だ。機械の群れは、我々が勝利を収めようとした、その瞬間に、奇襲を仕掛けてきた。奴らはこの機を利用し、我々の艦隊を粉砕し、惑星そのものを破壊したのだ」
彼は、言葉を切った。「我々は、最も勇敢な英雄たちを失った。ライトキャプテンと、マキ。彼らは、この災厄を食い止めようと、その身を犠牲にした。彼らの犠牲を、決して無駄にはしない」
「私の最後の命令、散開しての撤退は、貴官らの命を守るための、唯一の道だった。だが、もはや、逃亡の時は終わった!戦力を再集結せよ!最も近くにいる同盟者を探せ!そして、私からの次の命令を待て!我々は、亡き同志たちの仇を討ち、機械の群れを根絶やしにするのだ!」
その演説は、悲しみと、怒りと、そして、押し付けられた新たな目標だけを残して、終わった。
--- **「ヴィンディケーター」艦橋にて** ---
先ほどの悲痛なホログラムは消え、ジャック司令官の顔は、元の無表情で、冷徹なものに戻っていた。彼は、手にしたグラスを、隣に立つケイレン将軍のグラスと、軽く合わせた。
「見事な演説だった、『皇帝』殿」ケイレンは、嘲笑を込めて、しかし、その眼差しには尊敬の色を浮かべて言った。
「これは、演説ではない、将軍」ジャックは、グラスを傾けながら答えた。「歴史の、第一章の執筆だ」
ヴァレリウス司令が、ためらいがちに口を開いた。「司令官、本当に、よろしいのですか…この、裏切りは…」
「無論だ」ジャックは、微笑んだ。「ヴァレリウス、見たか?連邦は分裂によって弱く、同盟は無意味な同情によって弱かった。だが今、私は、完璧な『共通の敵』を創り出したのだ。誰もが恐れ、そして、最強の『守護者』を求めるようになる、敵をな」
ジャックは、彼自身の真意を、誇らしげに語った。「全ては、完璧な計画通りだ。我々は、連合の艦隊を『囮』として利用し、奴らが連邦と戦っている間に、ライトとマキを『配達人』として、敵の心臓部へ、災厄を送り届けさせた。そして今、我々は、連邦と、そして、将来、邪魔になりかねなかった『英雄』を、一度に始末することができたのだ」
「何と、非情で、美しい計画だ」ケイレンは、感嘆した。「次の段階は?」
ジャックは、星々を見つめた。その目は、無限の野心に燃えていた。「次の段階は、散り散りになった全てのものを、『再集結』させることだ。新たな旗の下に。ただ一つの、私の旗の下にな」
「ライト、エララ、ステラ。奴らは火花に過ぎん。だが、私は嵐だ。そして、嵐は、全ての火花を飲み込む」
---
ジャックは、彼の最も信頼する者たちだけを集め、新たな戦争評議会を招集した。
「民は、信じた」ジャックは言った。「今や誰もが、機械の群れが敵であり、我々が唯一の希望だと、信じている。次の段階へ移る時が来た」
彼は、ホログラムに、恐るべき、血のように赤い惑星を映し出した。「ブラッディ・プラネット」。連邦の首都惑星だ。「次の任務は、ブラッディ・プラネットへの侵攻だ。そこを更地にし、エレクター=カイを送り込んで、このゲームを終わらせる」
「お待ちください、司令官」ケイレンが、進み出た。「首都防衛艦隊は、奴らの最強戦力です。我々は、『金槌と鉄床』戦術によって、粉砕されるでしょう」
ケイレンは、にやりと笑った。「故に、我々の最初の任務は、奴らの艦隊の『心臓部』を、先に破壊することです!奴らを誘い出し、背後から、その旗艦を叩き潰す!」
「その首都艦隊など、我が『タイラント』艦隊の敵ではありません。私は、奴らの指揮官を、よく知っている。用心深く、教科書通りの男だ」
「この軍は、私が率いましょう」ケイレンは宣言した。「私の忠誠を証明し、そして、死んでいった我が部下たちの、仇を討つために!」
「そして、残りの連合艦隊は?」ジャックが尋ねた。
「彼らには、『囮』の役目を果たしてもらいます」ケイレンは、冷酷に答えた。「我々が蛇の頭を断つ間、彼らには、攻撃し、自らを守ってもらいましょう」
ジャックは、その完璧で、しかし非情な計画に、ゆっくりと頷いた。「素晴らしい。君の計画通りに進めろ、将軍」
今や、まだ信頼を寄せる同盟者たちを、死地へと送られる、ただの駒として利用する、最後の破壊計画が、始動したのだった。
--- **影の中の再集結** ---
その頃、ライトは、連合の輸送船の一隻で、「名もなき整備兵」として、静かに生きていた。彼は、ジャックによって「殺された」、影の中に潜む亡霊だった。
しかし、その待機の時は、終わった。
ある夜、彼は、放棄された予備通信室に忍び込み、ただ一人の人間にしか解読できない、最高レベルの暗号化メッセージを、送信した。
**<ナイチンゲールへ。狼は助けを求めている。状況を報告せよ>**
(「ナイチンゲール」は、ライラの古いコードネームだ)
一時間も経たないうちに、忘れ去られたメンテナンスシャフトで、ライラが彼の前に姿を現した。「キャプテン!生きていたんですね!」
「静かにしろ。ギデオンとサイラスに連絡を。30分後、ここで、極秘に会う」
そして、闇の中で、「幻影」は、再集結した。「一体どういうことだ、キャプテン!?」ギデオンが、焦燥に駆られて尋ねた。「なぜ、死んだふりなんか!」
ライトは、ジャックとケイレンが、連合軍を「囮」として利用し、皆殺しにしようとしている、秘密の会議の記録を、彼らに見せた。
「あの…クソ野郎どもめ!」ギデオンが、最初に壁を殴りつけた!「奴は、俺たち全員を、エララを、ステラ王女を、死地に送るつもりだ!」
「これが、裏切りだ」サイラスが、平坦に言った。
「だから、司令官は貴方を艦に残したのね」ライラが言った。「この艦が、彼の手に直接渡っていない、唯一の切り札だから」
「その通りだ」ライトは言った。「そして、我々が、この切り札で、盤面をひっくり返す」
(レックス中尉、アリステア司令、エヴァ司令との秘密会議の場面が、ライラによる監視カメラのハッキング支援を受けながら、秘密裏に、そして危険に満ちた状況で進行する)
「全て、準備は整った」ライトは、隠れ家で、彼のチームに言った。「ジャックとケイレンが、自らの指揮艦へと移動し、軍を率いた、その瞬間に、我々は、作戦を開始する」
「ライラ、お前が、この計画の、心臓部だ。俺の合図と同時に、この艦の、全ての通信を、ジャックのネットワークから、切断しろ。そして、我々の、新たなネットワークへと、接続するのだ。『ヘカトンケイル』の、制御を、完全に、奪取する」
「残りの、我々は…」彼は、全員の顔を見た。「…まだ、連邦と、ジャックに、忠誠を誓っている、乗組員たちを、『招待』しに行く。平和的に、この艦から、出て行ってもらうか、あるいは…そうではない、やり方でな」
これは、名もなき、一人の整備兵から、始まった、反乱の、上書き、最大の、賭けだった。
---
「報告!ケイレン将軍の、『フューリー』強襲艦隊が、連邦の指揮艦『オーバーロード』の破壊に、成功しました!」「首都防衛艦隊の、指揮系統は、崩壊!奴らは、混乱しています!」
ジャックの、艦橋へと、勝利の、報告が、殺到していた。ケイレン将軍は、計画通り、連邦艦隊を、破壊したのだ。
ジャックは、満足げに、微笑んだ。彼の、最終幕のための、時間が、来たのだ。
「連合艦隊、全艦への、通信チャンネルを、開け。今すぐにだ」




