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GalacXER 銀河の執行者  作者: Boom
第一章 [解放と希望の団結]
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第一章 5 "キメラ計画の罠"

「見つけた」


ライトは躊躇しなかった。携帯用のプラズマカッターを取り出し、金庫のロック機構に狙いを定める。数千度の高熱が金属を真っ赤に溶かしていく。防御システムの警告音が鳴り響くが、機構が作動する前に彼はそれを断ち切ることに成功した。


金庫の扉が開く…


中にはただ一つ、漆黒の量子ハードディスクが収められていた。


彼が手を伸ばし、それを掴み取ろうとした…その指がハードディスクに触れた瞬間…


**<…未許可のデータ移動を検知…キメラ・プロトコルを開始します…>**


冷たい合成音声の女性の声が、ステーション全域に同時に響き渡った!


それまでのサイレンは鳴り止み、この不気味なアナウンスに取って代わられた。


**<…ステーション内の全職員は脅威と見なされます…自爆シークエンスを開始…ステーションはTマイナス10分で爆発します…連邦に栄光あれ…>**


「クソッ!」


ライトは悪態をついた。彼はハードディスクを固く握りしめ、すぐさま踵を返して走り出した。


しかし…ガシャン!ガシャン!ガシャン!


ステーション中の壁と天井がスライドし、無数の隠し自動砲台が姿を現した!


それらの赤い光学レンズが一斉に妖しく光る。


**<…生命体を検知…掃討を開始します…>**


バン!バン!バン!バン!


砲台が狂ったように一斉掃射を開始した!敵も味方も関係なく!


ライトは間一髪で柱の陰に飛び込んだ。彼がいた場所はプラズマ弾に焼かれ、黒い染みとなっていた。通路に目をやると、そこはまさに地獄絵図だった。通路を走ってきた連邦兵の一団が、味方であるはずの砲台に撃たれ、目の前で粉々に吹き飛んだのだ!


「全員殺す気か…この秘密を葬るために!」


そして状況はさらに悪化する。


一体の機械獣が通気口から飛び出してきた。一基の砲台がすぐさまそれに狙いを定めて発砲する。しかしその瞬間、生き残った連邦兵がライトに向かって反撃してきたのだ!


今や、ライトは三つの脅威に同時に直面していた!


1. 脱走し、行く手を阻むものすべてを殺戮する**機械獣の群れ**

2. 依然として彼を侵入者と見なす**連邦兵**

3. 息をしている「**全員**」を排除するようプログラムされた**ステーションの防御システム**!


ステーション全体が内部の爆発で激しく揺れる。ライトは、これが本当の意味での時間との競争であることを悟った。


**<…ステーションはTマイナス8分で爆発します…>**


考える時間はもうない。逃げるしかない!


ライトはデータ室を飛び出し、今や処刑場と化した通路へと突入した。彼は砲台からの弾丸を転がって避け、行く手を阻む連邦兵に応戦し、追ってくる機械獣から瓦礫を盾にして身を守った。


これは戦闘ではない…死の綱の上での舞踏だ!


---


(2分後)


**<…ステーションはTマイナス6分で爆発します…>**


冷たいアナウンスが、今や殺戮地帯と化した通路に響き渡る。


ライトは無我夢中で前方へ突進した。天井の砲台から放たれたプラズマ弾が、彼が通り過ぎたばかりの場所を薙ぎ払い、壁を溶かした。応戦する時間すらない。ただ走り、避け、生き延びるだけだ。


彼は主輸送通路に曲がった瞬間、思わず足を止めた。


目の前には、設置されたばかりの無数の自動砲台が並ぶ長い通路が広がっていた。それは、生き残った全ての生命を抹殺するためにコンピュータが作り出した行き止まりだった。


「これまでか…」その考えが頭をよぎった。


だがその時…


**<「行き止まりですって?私をなめないで、ライト!」>** ライラの苛立った声がコムリンクに割り込んできた。**<「あんたの左側!メンテナンスハッチよ!こじ開けた!5秒だけ!行きなさい!」>**


彼女の声が終わると同時に、ライトが気づかなかった鉄の扉が「プシュー」という音と共にスライドして開いた。暗く狭いメンテナンスシャフトが現れる。ライトは躊躇せず、すぐさまシャフトに飛び込んだ。その直後、扉は閉まり、外ではプラズマ弾が壁に叩きつけられる音が響いた。


---


**ライラの視点:通信制御室にて**


ライラは、稲妻の嵐のように明滅するホログラムスクリーンに囲まれて座っていた。彼女の指は、仮想キーボードの上を超人的な速さで舞っていた。一つのスクリーンにはステーションの設計図とライトの位置を示す青い点、もう一つのスクリーンには自爆装置のカウントダウン、そして他の何十ものスクリーンは、彼女がステーションの防御システムと戦っているプログラムコードで埋め尽くされていた。


「鬱陶しい…ここの防衛AI、思ったよりしぶといわね」彼女はロックダウンシステムをバイパスするコマンドを打ち込みながら独り言を言った。「でも、私の手には及ばないけど」


彼女はハンガーベイに向かうライトの位置を確認した。「メインルートは全部封鎖された…でも、予備のエネルギー供給パイプラインを使えば…」


彼女の指が再び動き出す。「ギデオン!聞こえる!?あんたが補助パワーステーションに仕掛けた爆弾…起爆して!電力サージが必要なの!」


---


**ギデオンの視点:補助パワーステーションにて**


「ハハハ!その言葉を待ってたぜ!」


巨漢のギデオンは、彼が立てこもる部屋に侵入しようとする連邦兵と機械獣の群れに、重機関銃を乱射していた。彼は狂戦士のように戦い、爆発の一つ一つが彼の笑い声だった。


ライラの命令を聞くと、彼はにやりと笑い、爆弾のリモコンを取り出した。


「花火の時間だ、てめえら!」


彼がボタンを押すと、密かに爆弾を設置していた補助パワーステーションが巨大な火の玉となって爆発した!


その振動でステーション全体が大きく揺れ、主電源が一瞬落ちた。予備電源が作動するまでの、その一瞬の隙こそが、ライラが必要としていたものだった。


---


**ライトの視点:メンテナンスシャフト内にて**


突然、シャフト内の電気が一瞬消え、再び点灯すると同時に、いくつかの扉のロックが解除される音がした。


**<「さっきの電力サージで一部のロックシステムが一瞬ダウンしたわ。ハンガーベイへの最短ルートを確保した。リセットされる前に急いで!」>** ライラの声が再び響く。


ライトは開かれた道を進んだ。今、自分の一歩一歩が、まだよく知りもしないチームメイトの働きによって切り開かれていることを、彼は痛感していた。


**<…ステーションはTマイナス2分で爆発します…>**


彼はハンガーベイの入り口に到着した。しかし、目の前の光景に再び足を止めざるを得なかった。


生き残った連邦兵が、彼がいる入り口に重砲を向けて待ち構えていたのだ!


彼がどうすべきか決断するよりも早く…


フッ!フッ!フッ!


ほとんど聞こえない音が三度連続で響き、重砲を操作していた兵士たちの体が、ヘルメットに開いた小さな穴と共に崩れ落ちた。


---


**サイラスの視点:ハンガーベイ上部の鉄骨にて**


サイラスは、床から数十メートル上の鉄骨の闇に身を伏せていた。彼の目は、高出力エネルギー・スナイパーライフルのスコープを覗いていた。彼は誰にも見えない亡霊…道を掃き清める死神だった。


彼はライトがドアに到着するのを見た。待ち構える重砲も。「目標、砲手…ロックオン」彼は自分に言い聞かせるように呟いた。彼の呼吸は、凪いだ水面のように静かだった。「…地獄へ送る」


彼の指が三度、連続で引き金を引いた。


音もなく銃口から放たれた高速エネルギー弾が、三人の砲手の装甲を完璧に貫いた。


「ルートクリア。急げ、ライト。時間は無限じゃない」


---


**ライトの視点:ハンガーベイ入り口にて**


重砲の兵士が謎の死を遂げたのを見て、ライトは即座に理解した…サイラスだ。


彼は躊躇わず、遮蔽物から飛び出し、ハンガーベイの広大な空間を全力で駆け抜けた。前方にはステルス艦「ナイトフォール」が待機し、後部ランプが彼を待って開いている。


**<…ステーションはTマイナス30秒で爆発します…>**


ステーションが、引き裂かれるかのように激しく振動する。天井の金属板が剥がれ落ちてくる。


「急げ、ライト!」


ランプで待っていたギデオンの声が叫んだ。


ライトは走った…人生でこれほど速く走ったことはなかった。彼は最後の瞬間に、「ナイトフォール」の船内へと飛び込んだ。


**<…5…4…3…2…1…>**


後部ランプが閉まる。そして、その瞬間…


アイギス研究ステーションが閃光を放ち、宇宙の暗闇の中で、静かに爆発する新たな太陽となった。


---


ステルス艦「ナイトフォール」は、かつてアイギス研究ステーションがあった場所から最高速度で離脱した。後には、真空の中で静かに拡大していくエネルギーの塊と金属の破片だけが残された。それは破壊された秘密の記念碑だった。


薄暗いコックピットの中、しばしの沈黙が流れた。エンジンのハミング音と、人生で最も過酷な戦いを乗り越えた四人の荒い息遣いだけが響いていた。


ライトは船の壁にもたれて座り込んだ。古傷と新しい傷の痛みが全身に広がり始めていた。しかし、彼の手の中には量子ハードディスクが固く握られていた。ほとんど全てを代償にして得た勝利の証だ。


やがて、その沈黙は破られた。


笑い声によって!


「ハッ…ハハハハ!最高だぜ!あんなに綺麗な花火は見たことがねえ!」


巨漢のギデオンが、狂ったように笑い出した。アドレナリンがまだ彼の体を駆け巡っていた。「それに、お前だよ、ライト!古いダチに会ったんだってな?俺にも挨拶させろよな!」


航法システムをチェックし、追跡者をスキャンしていたライラが、平坦だが尊敬の念が込められた声で言った。「システムオールグリーン。追跡者なし。取得したデータも完全です」彼女はライトに目をやった。「あなたの連邦のプロトコルに関する知識のおかげで、弾薬をかなり節約できました。正直…感心しました。連邦の人間にしては」


少し皮肉が混じってはいたが、それは紛れもない賞賛だった。


最も寡黙なスナイパー、サイラスが、短くも意味のある言葉を発した。


「お前の動きは亡霊のようだった。第7部隊の噂通りだ」


これは彼らが初めて、本当の意味で「チーム」として会話した瞬間だった。ライトは全員の顔を見渡し、静かに返した。


「ギデオン…すまないな、彼が急いでいたもんでね」彼は冷たいジョークを言った。「ライラ…あんたのハッキングこそが俺の命を救った。時間の節約どころじゃない」彼は心から認めた。「そしてサイラス…ハンガーでの腕前、あんたがいなければ、俺は今ここに座っていない」


かつて不信感に満ちていた雰囲気は和らぎ、プロの兵士同士の敬意へと変わっていった。


「それで…結局、これは何なの?」ライラが沈黙を破って尋ねた。「この中のデータは、ステーションごと破壊するほど重要なものなの?」


ライトは窓の外の星々へと視線を向けた。


「詳しくはわからない。だが俺は見た…研究室に閉じ込められた機械種族を。そしてメインデータ室は、侵入ではなく、虐殺のように見せかけられていた」彼は一瞬言葉を止めた。「キメラ計画…連邦が奴らを制御しようとする試みと関係があるはずだ。奴らの最も暗い秘密だ」


彼の言葉に、室内の全員が息を呑んだ。この戦争は、彼らが想像していたよりも遥かに複雑で、恐ろしいものだった。


---


**艦隊への帰還**


「ナイトフォール」は無事にインワン・フリーダム艦隊へ帰還した。巨大な造船所の影に整然と並ぶ数百隻の艦隊の光景が、彼らの帰還を歓迎した。それは故郷の光景、希望の光景だった。


旗艦「ヴィンディケーター」のハンガーベイに着艦すると、ヴァレリウス司令官自らが彼らを待っていた。


「おかえり、幻影打撃チーム」彼は敬意を込めて挨拶した。「君たちは不可能を成し遂げた」


---


**ジャック司令官の執務室にて**


ジャックは、巨大な窓から艦隊全体を見渡せる執務室で待っていた。実質的な現場指揮官として、ライトが一歩前に出て報告した。


「任務完了しました、司令官。データを確保し、アイギス研究ステーションは完全に破壊されました」


彼はホログラムテーブルへ歩み寄り、漆黒の量子ハードディスクを置いた。何十億もの運命を握るかもしれない、小さな物体を。


ジャックはそれを静かに見つめた。彼の目には深い思索の色が浮かんでいた。彼は喜びの表情を一切見せなかった。「よくやってくれた。私の予想を遥かに超える出来だ」彼は言った。「この恩は、革命軍全体が君たちに負うものだ」


彼は四人のチームに視線を向けた。「休め。全員だ。君たちは十分な休息に値する」


ライトのチームが敬礼して部屋を出ていくと、ジャックは部屋の隅に立っていたヴァレリウスに話しかけた。


「このデータを最高の暗号解読班に送れ。今すぐにだ」彼の声は切迫していた。「夜が明ける前に、『キメラ計画』が何なのかを知りたい」


---


ライトは自分がどれだけ眠っていたのかわからなかった。それはただの睡眠ではなく、悪夢さえも訪れない無の深淵へと沈んでいくような感覚だった。何年もの間、彼の心と体が真に休息したのは初めてのことだった。


彼は療養室の静寂の中で目を開けた。柔らかな照明が、外が艦内の「夜」であることを示していた。かつて激しく痛んだ傷は、今やわずかな張りを感じる程度になり、彼が通り抜けてきた地獄を思い出させる薄い傷跡だけが残っていた。


彼はゆっくりと体を起こした。戦闘による疲労は消えていたが、心の重圧はまだ残っていた。量子ハードディスク、キメラ計画、そして塵と化したアイギス・ステーションの光景。


「エララたちはどうしているだろう…」不安が心をよぎった。「今頃、彼女たちの任務はどうなっている?成功したのか?それとも、まだ帰還していないのか?」


彼が考えに沈む暇もなく、インターホンが鳴った。ジャック司令官直々の声だった。


**<ライト…食事を済ませて艦橋へ来い。話がある>**


その声色は命令ではなく、対等な者への呼び出しのようだった。


---


**旗艦「ヴィンディケーター」艦橋にて**


艦橋は作戦司令室よりも遥かに壮大だった。何十人もの士官が、明滅するコントロールパネルの前で静かに任務を遂行していた。前方の巨大なホログラムスクリーンには、威容を誇るインワン・フリーダム艦隊の陣形が映し出されていた。


ジャックは、そのホログラムスクリーンに背を向けて立っていた。


「エララのチームのことが知りたいのだろう」ジャックは振り向かずに言った。まるで彼の心を読んだかのようだった。彼が軽く手を振ると、スクリーンの映像は惑星クラスの地図に切り替わった。そこには、革命軍のシンボルである緑色の点が、惑星全土に点在していた。


「彼らはまだ帰還していない。任務がまだ終わっていないからだ」ジャックは言った。「そして、我々の予想を遥かに超える成果を上げている。エララには信じられないほどのリーダーシップの才能がある。彼女はただ物資を運んだのではない。『希望』を人々に届けたのだ。今や惑星クラスの連邦軍は、各地で同時に発生する小規模な破壊工作と住民の蜂起に頭を悩ませている。エララはただの戦士ではない、ライト。彼女は革命の『象徴』になろうとしている」


ライトは静かに聞いていた。あの少女の能力に、彼は感嘆していた。


ジャックが彼の方へ向き直った。彼の眼差しは真剣だった。「君の任務も見事に成功した。今、我々の解読班が『キメラ』のデータに全力で取り組んでいる。だが、アイギスでの任務は…テストに過ぎなかった。君の腕前と、そして忠誠心を試すためのな」


彼は近づいてきた。「私には有能な司令官はいるが、心から信頼できる『リーダー』が足りない。特に、かつてその一員だったがゆえに、敵の考えを読めるリーダーがな。私は特殊作戦部隊全体を指揮する人間が必要だ。影で動き、第7部隊の思考を理解できる人間が。なぜなら、彼自身がかつて第7部隊だったからだ」


ジャックはライトにデータパッドを差し出した。そこには新しい階級章が表示されていた。「キャプテン」。


「君を『キャプテン・ライト』に任命する。特殊部隊『幻影ファントム・ストライク』の指揮官だ。君は自身のチーム(ライラ、ギデオン、サイラス)及び、一部の支援部隊の指揮権を持つ。そして、私にのみ直属する」


ライトは手の中のデータパッドを見つめた。「キャプテン」という言葉が、山のように重く感じられた。彼はジャックの目を見て顔を上げた。「司令官…俺はリーダーではありません。ただの武器です。最後に俺についてきた者たちは…全員死にました」惑星インワンでの悪夢を思い出し、彼の声はわずかに震えた。


ジャックはライトの目を深く見つめた。「それこそが、君がリーダーにふさわしい理由だ。指揮権という代償を恐れる者こそが、それに値する。私は君に将軍になれと頼んでいるのではない。部下を無事に家に連れ帰る、良きキャプテンになれと頼んでいるのだ」


「過去が今日の君を決めるのではない、ライト。君の決断こそが君を決めるのだ」ジャックは最後に言った。「そして、これが君の決断だ」


ライトはその場に立ち尽くしていた。彼は窓の外の無数の星々を見た。この艦隊に希望を託す多くの人々を見た。遠い惑星で戦うエララのことを思った。彼はもはや孤独ではなかった。


ライトは深く息を吸い込み、最も優雅な姿勢で直立した。長い間、彼の体から失われていた兵士としての立ち姿が、今、蘇った。彼は力強く敬礼した。


「拝命いたします、司令官」


---


遥か彼方の宇宙空間…


連邦の星図には記されていない、ザン・セクターの一角。


静寂な虚空が音もなく引き裂かれ、オーロラのような青緑色の光を放つ次元の裂け目が現れた。その裂け目から、巨大な戦闘艦隊が亡霊のように姿を現した。


それは、この宙域で誰も見たことのない艦隊だった。全ての戦闘艦は純白に塗装され、輝く金色のラインで縁取られていた。そのデザインは、殺戮兵器というよりは、空飛ぶ城のような優雅さと高貴さを備えていた。しかし、その規模と威容は、連邦艦隊に決して劣るものではなかった。


陣形の中央には、インワン・フリーダムの旗艦「ヴィンディケーター」の数倍もの大きさを持つ超巨大母艦が鎮座していた。その名は「ウィンターズ・クレスト」。両脇には上級戦艦と、完璧な規律で護衛飛行する戦闘機部隊が控えていた。


これは、**マリアン・コンバイン**の権力の象徴だった。


しかし、純粋で美しいはずの艦隊の姿は、戦争の傷跡に覆われていた。多くの艦には黒く焼け焦げた跡が走り、一部の艦には内部構造が露出するほどの巨大な穴が開き、護衛艦の中には、深手を負った獣のように不安定に飛行するものもいた。


彼らは狩りのためにここに来たのではない。それよりも遥かに恐ろしい何かから、「**逃げて**」きていた。


---


**母艦「ウィンターズ・クレスト」艦橋にて**


艦橋の雰囲気は、厳粛で緊張に満ちていた。全てが清潔で整然としていたが、士官たちの顔には疲労と喪失の色が浮かんでいた。


白い提督の制服を着た一人の老婆が、巨大な窓の前に静かに立っていた。彼女は穏やかだが、痛みを湛えた眼差しで自らの艦隊を見つめていた。彼女こそが、マリアン・コンバイン王室艦隊最高司令官、ベアトリス提督だった。


「損害報告」彼女は短く言った。


「戦艦『メイデンズ・ファング』、装甲損害40%、主推進システムが機能不全です!」一人の士官が報告した。


「第3護衛艦隊との通信が途絶。ワープ離脱中に全滅したと推定されます」別の士官が震える声で報告した。


「提督、秘密座標の合流ポイントに到着しました」航海士が報告した。


ベアトリスはゆっくりと頷いた。「よろしい…」彼女は目の前の虚空を見つめた。「協定通りの信号を送れ。我々が耳にした『伝説』が、真実であることを願うばかりだ」


暗号化された秘密信号が闇の中へ送られた。


一秒が永遠のように感じられた。沈黙が再び艦橋を支配した。誰もが固唾を飲んで待っていた。


そして、突然…


メインホログラムスクリーンに応答信号が現れた。見慣れない紋章…交差する剣と翼。


**<こちらインワン・フリーダム、司令官ジャック>** 威厳のある冷たい声が通信システムを通して響いた。**<お待ちしておりました、提督>**


その声が終わると同時に、小惑星帯に潜んで待機していた数百隻のインワン・フリーダム艦隊が、一斉にステルスを解除し、その姿を現した。


ベアトリス提督の疲れた顔に、初めて安堵のかすかな笑みが浮かんだ。


彼らの逃避行は終わった。そして、彼らが最も必要としていた同盟者が、今、目の前に現れたのだ。

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