第五章 56 "故郷からの脱出"
静寂の中… 白い灰…それがゼニトールが残した最後の名残であり、あまりにも高くついた勝利の象徴だった。 卑劣な女王は討ち滅ぼされた…しかし、かつて美しかった惑星ファイニトルは、今や炎上する黒い戦場と化していた。この勝利は、敗北に他ならなかった。 ファイタール族には、もはや「故郷」と呼べる場所はなかった。
艦「ヘカトンケイル」の会議室にて
生き残った全ての指導者たちが集結していた。 その場の空気は、深い悲しみと不確実性に満ちていた。静寂を破ったのは、セル・ロードだった。 「栄誉あるファイタールの戦士諸君…ゼニトールを失ったことを、我々は皆、深く悲しんでいる。彼はシンスロイドの女王を滅ぼすために、その命を捧げた…」 「しかし…指導者を失ったシンスロイドが暴れ回り、我々の故郷は瓦礫と化した。高貴なる評議会と我々の大艦隊もまた、多大な損失を被った。ファイタール族の進むべき道は、今や新たに見定められねばならない」
ライキが冷ややかに言い返した。「セル・ロードの言うことは、全て正しい。残ったシンスロイドは、我々が滅びるまで喰らい尽くすだろう。だが幸運なことに、最後の『星間ゲート』はまだ機能している。我々は全員、あのゲートを通り、シンスロイドのいない場所へ避難すべきだ」
「我々に逃げろと申すか!?」セル・ロードが応じた。「失礼ながら、ライキ殿…我らファイタールは、決して敵に背を向けはしない!この故郷こそが、我々の最後の砦となるべきだ!」
「貴公の評議会で死んでいった多くの尊大な者たちは、理よりも傲慢さを重んじたが故に死んだのだ!」ライキは吼えた! 「セル・ロード!過ちから学ぶがいい!その栄誉を記憶する者が誰もいなくなれば、栄誉ある死など無意味だ!今日を生き延びることこそが、明日、亡き同胞たちの仇を討つための道となるのだ!」
彼は全員に向き直った。「よし!我々に残された唯一の避難場所は…惑星『ヴェガナス』…我がササトール族の故郷だ」
「我々が追放した…あのササトール族だと!?」セル・ロードは言い返した。「彼らの目には、我々は裏切り者と映っているだろう!」
「貴公の評議会の老人たちへの執着も恨みも、もはや何もない、セル・ロード」ライキは言った。「そして私は、この運命を貴公らと共に背負うと、ここまで誓ってきたはずだ…違うか?」
その言葉に、セル・ロードは絶句し…やがてゆっくりと頭を下げた。「すまない、ライキ殿…我々は避難する。次元ゲートを通り…貴公の故郷へ」
その時…ズーロが一歩前に出た。 「こんにちは…私の名はズーロ。最近、最高司令官の地位に昇進したばかりの者です。しかし、所属なき戦士だった頃に立てた誓いを、我々は忘れたことはない。私…ズーロが、この惑星を去る最後の者となる。全ての民がワープゲートをくぐるまで、私が見届ける」
ライトとその仲間たちもまた、一歩前に出た。 「どこまでも付き合うぜ!」ライトは力強く言った。「ここまで来たんだ…最後まで協力させてもらう!」
ライキは、それぞれ異なる指導者たちが、今や一つに団結している様を見つめた。 『皆に感謝する…この場に集い、そして戦いで犠牲を払ってくれたことに』
最後の戦いと(故郷との)別れ
ファイタール族の歴史上、最大の避難が始まった。 崩壊しつつある惑星ファイニトルの地表で、ファイタールの戦士たちは、民の脱出路を切り開くために、シンスロイドと激しく戦っていた。
地上部隊の指揮を任されたライキは、今や混成部隊を率いて、混沌の中を進軍していた。進み続けるうちに、一つの都市にたどり着いた。そこはまだ、堂々とそびえ立っていた。
彼らが到着すると、驚くべきことが起こった。この都市を守っていた評議会の戦士たちが、もはやライキを憎悪の目では見ていなかったのだ。彼らはライキを「司令官」として見ていた。 セル・ロードの降伏と、種族の統合の知らせが、ここまで届いていたのだ。彼らは敬意を払い、ライキに挨拶した。
「ライキ殿!西方の防衛ラインが崩壊寸前です!」現地の指揮官が報告した。
「違う!我々の目標はここではない!」ライキは叫び、都市の中心部を指差した。そこには緊急用の次元ゲートが設置されていた。今やその星間ゲートは、シンスロイドで溢れかえっていた!無数のシンスロイドとリーパーが、入り口を塞いでいる! 状況は、戦うことを強いていた!
「全員!他の防衛ラインは捨てろ!全戦力を次元ゲートに集中させる!」ライキは命じた。彼は漆黒のクリスタルの剣を抜いた。 ゼニトールは、彼らが逃げるための時間を稼ぐために命を落としたのだ!この犠牲を無駄にはしない! ライキとファイタールの戦士たちは、シンスロイドの最後の壁に狂ったように突撃した! 彼らはサイキックパワー、レーザーソード、そして装備してきたネメシス計画の兵器を駆使し、行く手を阻む機械の群れを粉砕した。
突破はできた…だが、多くの戦士を失った。彼らは血を流し、「時間」を購った。次元ゲートへと向かう民と、他の生存者たちのために。 しかし、彼らにとっては、何もしないよりはマシだった。今回を生き延びることこそが…
ライキとファイタールの戦士たちが脱出路を切り開いた後、ズーロは戦場には降りなかった。 彼は避難の中心地に立ち、サイキックパワーで仮設の砦を築き上げ、燦然と輝く次元ゲートへの道を護っていた。 今、ズーロ側は、首都に隠れていた罪なき民を避難させていた。彼の軍は「ダークデス」キャノンと共に周囲を固めている。生き残った全ての戦士が円陣を組み、民が迅速に次元ゲートへ入っていくのを守っていた。 避難は順調に進んだ。シンスロイドの襲撃はなかった。 奴らは、最前線で繰り広げられるライキの激闘によって、足止めされていたからだ。
ズーロは、何万もの人々がワープゲートへ入っていくのを見つめていた。 彼らは助かったのだ。 そして、罪なき民の最後の集団がゲートを通過しようとした時、彼は隣で戦い抜いた戦士たちに目を向けた。
「我々の任務は完了した!」ズーロは叫んだ。「撤退する!」
彼は、次元ゲートへと足を踏み入れる最後の男となった。 彼の背後には、崩壊しゆく惑星ファイニトルが広がっていた。
ズーロはファイタールの民を次元ゲートへと導くことに成功した!何十万もの人々…長老、女性、そして子供たちが、光のトンネルを通り、惑星ヴェガナスの安全な地へと次々と向かっていく。 種族の最後の希望が、この次元ゲートを通じて送られようとしていた。
だがその時…地響きが轟いた!何十万ものシンスロイドの群れが、次元ゲート目指して突進してくる! 奴らは小競り合いには興味がない。奴らが狙うのは、この避難の「心臓部」…次元ゲートそのものだった!
「奴らが来たぞ!」ズーロは叫んだ! ライキはササトールの戦士たちと共に、敵を食い止めるために戦っていた!「お前たちは先に行け!」ライキは次元ゲートに背を向けながら命じた。「俺が奴らを止める!」
脱出路を守るための戦いが始まった! 近接戦闘の達人であるライキとササトールの戦士たちは、最強の黒い壁となった!彼らはバリアを張るのではなく、「攻撃」することで敵の進軍を破壊することを選んだ!ライキは歪んだ次元エネルギーを解き放ち、強力なリーパーを一体また一体と屠っていく。
『我々の目標は勝利ではない…時間を稼ぐことだ』ライキは部下たちに意志を送った。『避難が完了するまで戦え!』
次元ゲートの前に立つズーロは、民を守るために死闘を繰り広げる仲間を見つめていた。彼は戦闘には加わらず、次元ゲートを「制御」し、避難がスムーズに進むよう監視していた。
「あと十分だ!」ズーロはライキに叫んだ。「持ちこたえてくれ!」
避難は…まもなく完了する。しかし、最前線に立つ戦士たちは、シンスロイドの津波から、どうやって生き延びるというのか…
シンスロイドの群れの咆哮が、刻一刻と近づいてくる。最後の避難隊が、急いで次元ゲートへ向かっていた! 今…エラーが率いる最後の避難隊が到着した!彼らはボロボロだった。狂乱したシンスロイドの群れに無差別に襲われ、多くの死傷者を出していた。 だがついに、彼らは民を避難させることに成功した!
今や、残るは評議会と他勢力の一部の艦隊がゲートに入るだけだ!ライキと生き残った戦士たちは、押し寄せるシンスロイドの壁に抵抗していた。彼らは時間を稼ぐために、その命を犠牲にしていた。
そして最後の瞬間… ライト、エラー、そしてゼンラー・ロードが、次元ゲートの前で合流した。 「ライキ!もういい!ゲートに入れ!」エラーが叫んだ!
『もう手遅れだ…馬鹿者どもめ』血に濡れたライキの声が、か細く響いた。 「ならば…手遅れのままでいさせてやる!」 冷たく、しかし威厳に満ちた声が背後から響いた。 『ライキ!今だ…行け!』ゼンラー・ロードの、より年長に見える声が、全員の意識に響き渡った!『生き延びろ…それが最後の命令だ!』 「我らが…奴らを食い止める!」
ズーロとゼンラー・ロードが、殿となった。ライキが逃げるための道を切り開くべく、絶大な力を解き放つ。
「ライト!」ズーロは叫んだ。「チームと我々の艦を連れて行け!」
ライトは、命を捧げようとする仲間を見つめ、そして、ボロボロになったライキの体を支えながらゲートへ向かうエラーに目をやった。 彼に選択肢はなかった。 惑星上空に浮かぶ艦「ヘカトンケイル」がワープエンジンを起動させ、人間の裏切りから生き残った、最後の生存者グループを収容した。
ライト、エラー、ゼンラー・ロード、そして一部の軍(人間の兵士とファイタールの戦士)は、時間を稼ぐために絶望的な戦いを繰り広げた。 ゼンラー・ロードの最後の命令は、全員に逃げろというものだった。そして今、彼らは避難民が全ていなくなったことを確信するまで戦い続けた。
ライトは、次元ゲートへ足を踏み入れようとするズーロを見つめた。 「ズーロ!」ライトは叫んだ。「もういい!ゲートを閉じろ!後は俺たちが食い止める!」彼はエラーと残った兵士たちに目をやった。
「何を馬鹿なことを言っている!?」ズーロは信じられないといった様子で問い返した。「自らを犠牲にするというのか!?」
「これが俺の最後の命令だ!」ライトは吼えた!「今お前がゲートを閉じなければ…奴らが生存者全員を追って虐殺するだろう!お前は種族の指導者だ!お前の役目を果たせ!」
ズーロはライトの瞳に宿る断固たる決意を見つめ、わずか5秒先に迫るシンスロイドの群れを見た。彼は反論しようとしたが、シンスロイドが目前に迫っており、最後には行かざるを得なかった!
「やめろぉぉぉ!!!」 ズーロは苦痛に叫び、ありったけの力で制御パネルに拳を叩きつけた! ゴゴゴゴゴ!!!星間ゲートが閉じていく…歪んだ青いエネルギーの輪と化し、全ての通信を遮断した。
ライト…エラー…ゼンラー・ロードは、打ち負かされた戦場に、ただ独り立っていた。彼は振り返り、押し寄せる機械の群れと対峙した。 彼には何も残されていなかった。しかし、彼は「未来」を守り抜いたのだ。
ファイタール族の難民艦隊が、次元ゲートから現れた。彼らは目的地に到着したのだ。 惑星ヴェガナス…ササトール族の新たな故郷。今、彼らは目標通りに到着した。
しかし、ブリッジに歓喜の声はなかった。誰もが、消え去った次元の裂け目を見つめていた。そこは、ライト、エラー、そしてゼンラー・ロードが戦い抜いた場所だった。 「通信を開け!信号を探せ!」ズーロは命じた。しかし、返ってきたのは…ノイズだけだった。 次元ゲートが閉じた後、通信は途絶えた。 ライト、エラー、ゼンラー・ロード…今も応答はない。
艦内は静寂に包まれていた。 ライトのチームのメンバーは、明らかに不安な表情をしていた。ライラ、ギデオン、そしてサイラスは、必死に信号を回復させようとしていた。彼らはマキを失ったばかりだ。そして今、彼らはキャプテンをも失おうとしていた。
一方、ズーロは…床に崩れ落ちた。 罪悪感が彼を襲った。彼は戦友たちを想い、悲しんでいた。エラー…最も忠実だった仲間。裏切りから生還した男が、いるべきではなかった戦場で命を落とした。
『心を落ち着けよ、若者よ』静かだが力強いライキの声が、ズーロの意識に響いた。 『彼らの犠牲は…無駄にはならない。我々はたどり着いたのだ…そして、我々は種族の『未来』を守り抜いた』
ズーロは顔を上げた。目の前には、美しい惑星ヴェガナスが広がっていた。そうだ…彼らはたどり着いたのだ。 しかし、奪還のための旅は…




