第三章 56
「民間人を先に『ウィンターズ・クレスト』へ移動させろ!急げ!」
ライトの、負傷し包帯だらけの声が、主ハンガーベイの混沌の中で響き渡った。避難任務は始まった。しかし、それは、地獄のただ中で行われる、避難だった。
外では、連邦の主力艦隊が、刻一刻と、近づいてきていた。そして、内側では、真の災厄が、発生していた。
「インワンの者どもは、裏切り者だ!ジャックは、我々を、騙した!」ハンガーベイの反対側から、叫び声が上がった。プラズマライフルの、銃声と共に!サラダー共和国の兵士の一団と、新たに参加したばかりの、他の植民惑星からの反乱分子たちが、インワン・フリーダムの兵士たちに、銃口を向けたのだ!
連邦のプロパガンダと扇動は、功を奏した。惑星インワンのように、見捨てられて死ぬことへの恐怖が、全ての信頼関係を、粉々に、打ち砕いたのだ!
「武器を置け!我々は、同盟軍だ!」ヴァレリウス司令官が、交渉しようとした。
「我々の仲間を、死地に、送った、悪魔との、同盟だと!ありえん!」
内戦が、攻撃されようとしている基地の、心臓部で、勃発したのだ!
状況は、今や、誰が想像しうるよりも、最悪だった。ライトと彼のチームは、依然として忠実なマリアンの兵士たちと共に、その真ん中に、取り残されていた!前には、避難船を奪い、自分たちだけで生き延びようと、撃ってくる、寝返った同盟兵。そして、後ろには、連邦軍が、突入しようとしている、ハンガーベイのドア!それは、完全に、絶望的な、挟み撃ちだった!
「キャプテン!どうします!?」ライラが、爆発音の中で、叫んだ!「我々は、味方同士で、撃ち合っています!」
負傷したライトは、この避難任務が、何としても、成功しなければならないことを、知っていた。だが、彼は、戦友たちが、殺し合うのを、これ以上、見てはいられなかった!
「マキ!レックス!俺を援護しろ!」彼は、一瞬で、決断した。「我々は、あそこへ行く!」彼は、ハンガーベイの、「管制塔」を、指差した!
「牽制射撃!殺すな!奴らを、後退させるように、努めろ!」ライトは、まだ忠実な兵士たちに、命じた。「この狂気を、止めなければならない!」
ライト、マキ、そしてレックス中尉は、「両陣営」からの、弾丸の雨を、突き抜け、管制塔へと、突入した。それは、真の、地獄を、駆け抜けることだった。
管制塔に、たどり着くと、ライトは、基地全体の、放送システムへと、直行した。彼は、マイクを、オンにした。
「こちらは、ライトキャプテンだ!!!」
彼の声が、炎上する基地中に、響き渡り、戦闘が、一瞬、止まった。
「貴様らが、恐れているのは、わかる!混乱しているのもな!連邦が、我々の、頭を、かき乱しているのだ!奴らは、我々に、殺し合いを、させたいのだ!」
彼は、息を切らした。傷からの痛みが、全身を、駆け巡った。
「だが、周りを、見ろ!お前の、目の前に、立っている者は、昨日まで、お前と、共に、戦った、仲間だ!真の敵は、外にいる!」
「俺は、元第7部隊として、俺が、持たぬ、全ての栄誉に、懸けて、誓う。ジャック司令官は、我々を、裏切ってはいない!」
「俺を、信じろ!同盟を、信じろ!そして、武器を、置け!そうすれば、我々は、共に、生き延びられる!!!」
その声が終わると、気まずい、沈黙が、訪れた。
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ライトの、布告が終わると、基地の、戦場に、気まずい、沈黙が、訪れた。しかし、決断の時間は、尽きた。
ドォォォォォォォン!!!
ハンガーベイの、外壁が、爆破され、連邦の、強襲艇が、基地の、心臓部へと、突入してきた!連邦の、重装甲の、上級兵士たちが、雪崩れ込み、そして、見境なく、そこにいる、全員に、発砲した!
「ぐあああっ!」
先ほどまで、躊躇していた、サラダーの兵士が、最初に、倒れた。連邦は、降伏者を、「受け入れる」ために、来たのではない。奴らは、全員を、「殲滅」するために、来たのだ!
--- **旗艦「ヴィンディケーター」艦橋にて** ---
「報告!敵、ハンガー7及び9に、突入!」
「艦『ウィンターズ・クレスト』、激しい攻撃を受けています!避難、中断!」
ジャック司令官は、艦橋の、混沌の、ただ中で、静止していた。彼の顔には、悲しみも、パニックも、恐怖も、なかった。そこには、氷のように、冷たい、復讐の炎だけが、燃え盛っていた。
彼は、艦隊全体への、通信チャンネルを開いた。その声は、不気味なほど、静かだった。
「こちらは、ジャック司令官。我が、最後の、命令を、聞け」
「全避難船に、命じる。可能な限り、進み続けろ。戦闘は、気にするな。振り返るな。受け取った、合流ポイントへと、向かえ」
「…今は、ただ、生き延びろ」
その命令が、終わると、彼は、ヴィンディケーターの、乗組員に、向き直った。「残りの、全部隊、準備しろ。我々が、殿を、務める。我々が、彼らのための、時間を、稼ぐのだ。我々が、持つ、全てでな」
--- **ハンガーベイにて** ---
連邦の、非情さを、目の当たりにした、かつて、躊躇していた、兵士たちは、再び、正気を、取り戻した!「撃て!連邦を、撃て!」
今や、敵は、再び、一つとなった。かつて、殺し合おうとしていた、同盟軍の兵士たちが、再び、肩を、並べて、戦い、背後の、避難船を、守るための、最後の、防衛線を、形成した!
「奴らを、食い止めろ!避難船を、守るんだ!」
激しい、戦闘が、続いた。しかし、その時、母艦「ヘカトンケイル」と、「ウィンターズ・クレスト」の、エンジンが、咆哮した。
**<「ライトキャプテン!民間人は、全員、乗船しました!もう、限界です!」>**
ライトは、崩壊寸前の、防衛線と、死にゆく、戦友たちを、見た。「全員!退却だ!船へ、戻れ!行け!行け!行け!」
ライトは、最後の一人として、援護射撃を、続け、そして、閉まりゆく、最後の、降下艇の、ランプへと、飛び込んだ。彼が、最後に見たのは、連邦軍に、完全に、制圧された、ハンガーベイの、光景だった。
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そして、ライトが、最後に見た、光景は、たった一隻で、全連邦艦隊に、立ち向かう、旗艦「ヴィンディケーター」の、姿だった。彼は、再び、仲間を、そして、指導者を、見捨てなければならなかった。歴史は、繰り返されていた。
ジャックの、最後の通信が、コムリンクに、響き渡った。
**<「生きろ。新たな、軍を、築け。そして、我々の、仇を、討て」>**
その通信が、途絶えた。
--- **「ヴィンディケーター」艦橋にて** ---
「司令官!連邦艦隊、間もなく、射程内に!」
「奴らは、『キルゾーン』に、入ったか?」彼は、静かに、尋ねた。
「敵の、先遣偵察艦が、ちょうど、我々が、望んだ、位置に、入りました」
ジャックは、にやりと、笑った。狼の、笑みだった。
「いいだろう」彼は、砲手たちに、向き直った。「目標は、敵艦隊ではない。『合流点』基地の、『原子炉心』だ。我々が、持つ、全てを、撃ち込め。我々の、古巣にな!」「そして、俺の、命令と、同時に、緊急の、短距離ワープの、準備をしろ!」
--- **ライトの視点** ---
ライトと、避難船団の、全員が、信じられない、光景を、目撃した。ヴィンディケーターは、敵艦隊ではなく、自らの、基地へと、全火力を、集中させていた!
そして、音のない、何千もの、太陽よりも、明るい、白い閃光。革命軍の、心臓部であった、秘密基地「合流点」が、内部から、自爆したのだ!
膨大な、エネルギーの波が、四方八方へと、広がり、到着したばかりだった、連邦の、先遣艦隊を、飲み込んだ!何十隻もの、戦闘艦が、一瞬で、蒸発し、そして、ヴィンディケーターの、姿もまた、その光の中に、消えていった。
--- **連邦艦隊艦橋にて** ---
「報告!何が、起こった!」
「将軍!反乱軍の、基地が、自爆しました!先遣部隊は、甚大な、被害を!『ヴィンディケーター』は、信号消失!爆発に、巻き込まれたものと、推定されます!」
「あの、キツネめ!」将軍は、忌々しげに、吐き捨てた。「残存部隊に、避難船団を、追わせろ!一隻たりとも、逃がすな!」
--- **最後の光景** ---
しかし、その戦場から、何百万キロも離れた、暗い小惑星帯の、影から、大破し、火花を散らす、「ヴィンディケーター」が、ゆっくりと、姿を、現した。
艦橋で、ジャックは、まだ、狼の、ような、笑みを、浮かべていた。「損害報告」
「艦体損害、70%。ですが、ワープエンジンは、かろうじて、機能します。我々は、脱出に、成功しました」
ジャックは、混乱する、連邦艦隊の、映像を、見つめていた。彼の、犠牲は、壮大な、芝居だったのだ。彼は、自らの、古い基地を、敵の、先遣部隊のための、「墓場」として、利用し、そして、全宇宙に、彼が、英雄的に、「死んだ」と、信じ込ませた。
今や、彼は、自由な、「亡霊」。敵が、最も、予期しない時に、最も、予期しない場所で、再び、姿を、現す、準備が、できていた。




