第二章 50
ジャックへの疑念が、彼の頭の中で、渦巻いていた。しかし、その時。静寂の中、彼は、声を聞いた。それは、コムリンクからでも、艦内からでもない。彼の、「頭」の中に、直接、響いてきた、声だった。古く、性別もなく、そして、人間のものではない、声。
**＜…一つの火から生まれた灰は、次の火のための熾火となる…灰の子よ、お前の戦は、訪れんとする静寂の前にあっては、ただの囁きに過ぎぬ…＞**
「誰だ！」ライトは、振り向いた！しかし、誰も、その声を、聞いた様子はなかった！
その時、「キャプテン？」と、彼を呼ぶ、女性の声がした。彼が、振り向くと、そこに立っていたのは、サラダー共和国の、エヴァ司令だった。
「申し訳ありません、驚かせてしまって、キャプテン」彼女は言った。「先ほど、貴方は、遠くを、見ておられました」
「少し、考え事を、していただけです、司令」ライトは、答えた。「何か、ご用でしょうか？」
「貴官の、第7部隊捕虜への、尋問に関する、初期報告書を、拝見しました」エヴァは言った。「貴官の、やり方は、少々、型破りかもしれませんが、非常に、効果的でした」
彼女は、一つのデータパッドを、彼に、差し出した。「貴官が、得た、心理学的データを、我が情報部が、持つ、連邦内部の、指揮系統構造のデータと、比較したいのです。『内部の人間』であった、貴官の、視点からの、理解は、非常に、有用なものと、なるでしょう」
ライトは、データパッドを、受け取った。彼は、再び、戦争の現実へと、引き戻された。だが、あの、謎の囁き声は、彼の、心の、最も深い場所で、依然として、響き続けていた。
「どうかなさいましたか、キャプテン？」彼の、異常な様子に気づき、エヴァが、尋ねた。
「司令…」ライトは、ためらいがちに、言った。「私は、ただ、少し、ストレスが、溜まっているだけなのかもしれません。ですが、先ほど、私は、声を聞いたのです。私の、頭の中に」
彼が、その謎の声について、全てを話すと、エヴァの、表情は、一変した。彼女は、彼が、正気を失ったとは、見なさなかった。だが、その眼差しは、この上なく、真剣なものとなった。
「その言葉を、全て、覚えていますか、キャプてン？」
エヴァは、彼が復唱した、謎の言葉を、素早く、彼女のデータパッドに、記録した。「この件は、我々、二人の間の、最高機密です、キャプテン」彼女は言った。「ジャック司令官にも、誰にも、まだ、このことは、話さないでください」
「一体、何なのですか？」
「まだ、確信は、ありません」エヴァは、答えた。「ですが、それは、サラダー情報部が、数年前に、傍受した、いくつかの、謎の『報告書』と、一致します。出所不明で、誰も、解読できなかった、信号。彼らは、それを、『虚空の囁き』と、呼んでいました」
彼女は、顔を上げ、彼を、見つめた。「今は、惑星インワンの解放任務に、集中してください。この件については、私が、秘密裏に、調査を、引き受けます」
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エヴァ司令との会話が終わった後、ライトは、彼の、私室へと、戻った。彼は、エヴァから、渡された、データパッドを、手に、ベッドの縁に、腰掛けた。彼の頭の中は、謎の声と、考えで、混乱していた。
彼は、思考を、より重要なこと、先ほどの、尋問室で、起こったことへと、強制的に、向けた。彼は、あの、第7部隊兵との、対話を、何度も、反芻した。そして、彼は、ある、重要なことに、気づいた。あの兵士の、心の壁を、破壊したのは、「証拠」ではなかった。彼が、「ケンおおじさん」の話をし、自らの「傷」を、分かち合った、その瞬間だったのだ。
（これか…）ライトは、心の中で、思った。（…これこそが、第7部隊が、決して、持たず、そして、対処法を、訓練されてこなかった、武器、『共感』だ）
連邦は、彼らを、悪魔として、創り上げた。殺すことを、教え、命令に、従うことを、教えた。だが、まだ、残されている、「人間性」への、対処法を、教えることは、決して、なかった。
この、気づきは、ライトの中の、何かを、変えた。彼の目標は、もはや、ただ、エレクター＝カイを、破壊することでも、戦争に、勝つことでもなくなった。彼は、もはや、ただ、かつての同僚を、「殺害」したいと、思ってはいなかった。彼は、彼らを、「解放」したいと、思っていたのだ。
彼の、個人的な、復讐心は、より、偉大な、決意へと、変わっていた。彼のような、悪魔を、創り出す、「システム」そのものを、根絶やしにするという、決意へと。
--- **第一話：炎と化した火花 – エララの武勇伝** ---
惑星クラスにて、エララの任務は全面的な革命へと発展した！彼女はもはや連絡員ではなく、被抑圧者の真の「指導者」となった。連邦の戦車の残骸の上に立ち、市民を鼓舞する彼女のホログラム映像が、サトウの手によって惑星全土に拡散された！彼女の言葉は、人々の心に火をつけた！「ザムの火花」は、燃え盛る「革命の炎」となったのだ。
--- **第二話：影の戦争 – ステラの交渉** ---
宇宙ステーション「オアシス」にて、ステラ王女とエヴァ司令は、カイアス元老院議員と極秘に接触していた。「我々は、貴殿に武器を取れとは言いません」エヴァは言った。「しかし、元老院における貴殿の『声』が欲しいのです。我々が外から攻撃している間に、内側から、真実を以て亀裂を生じさせてください」
闇の中、ホログラムの光だけが、ステラの冷徹で鋭い戦略家の顔を照らし出していた。
--- **第三話：記憶の墓場 – ライトの帰郷** ---
インワンでの大戦が終結した後、ライトは祝賀会には参加せず、一人、全ての始まりの場所、焼き払われた孤児院の跡地へと戻っていた。彼は、瓦礫の中に、座り込み、そして、焼け焦げた、金属のロケットを、見つけ出した。
やがて、一つの影が、彼の隣に現れた。マキだった。彼女は何も言わず、ただ、彼の隣に静かに座った。
夕日が、瓦礫の中に座る、二つの黒い装甲のシルエットを、長く照らし出していた。帰る場所のない二つの魂。しかし、彼らには、互いがいた。インワンを解放するための戦争は終わったのかもしれない。だが、彼らの心の傷を癒すための戦争は、まだ始まったばかりだった。
