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GalacXER 銀河の執行者  作者: Boom
第二章 [反乱軍と同盟の反撃]
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第二章 45

--- **任務報告会議室にて** ---


基地「合流点」にて、「幻影ファントム・ストライク」チームとレックス中尉が、ジャック司令官の前で任務報告を行っていた。しかし、室内の空気は張り詰めていた。


会議が終わると、ギデオンが沈黙を破った。「キャプテン、話がある」その声は、いつになく真剣だった。「あそこで何があった?あんたは動かなくなり、指揮を放棄した。もしマキがあんたを正気に戻さなければ、俺たちは全滅していた」


「俺の部下は、あんたを信じている、キャプテン」レックスが付け加えた。「だが、あの一瞬、あんたは俺たちの知る指揮官ではなかった。俺たちは、あんたを信頼できるか、知る必要がある」


ライトは、俯いた。彼に、弁解の言葉はなかった。しかし、彼が何かを言う前に、「もういい」と、マキの冷たく、断固とした声が響いた。彼女は、ライトの隣に立っていた。


「キャプテンは、彼の過去のトラウマに起因する、ある種の心理攻撃を受けていた」彼女は言った。「私は状況を修正するために『対抗措置』を実行した。彼は指揮権を回復し、我々を勝利へと導いた。話はそれだけだ。最終結果は、任務成功。それが、唯一重要なことだ」


その感情のない軍事報告のような言葉は、ライトを全力で「庇う」ものだった。その場にいた全員は、まだ疑念を抱きながらも、沈黙した。


--- **星空の下、二つの影** ---


その夜、マキはライトを静かな展望室へと連れ出した。二人きりで、全てを「清算」するために。


「ありがとう。会議室でのこと、そしてインワンでのことも」ライトが、口火を切った。


「任務に必要なことをしたまでだ」マキは、振り返らずに答えた。「支配された指導者は負債だ。私は、問題を修正したに過ぎない」


「ただの問題修正か、マキ?」ライトは問い返した。「お前が使った言葉、『リーナは死んだ』。お前は、ただ俺を正気に戻そうとしただけじゃない。お前は、その痛みを、分かち合っていた」


マキは、長い間黙っていた。やがて、彼女は初めて、自らの真の感情を吐露した。「ゴースト計画は、ただ訓練するだけではない。奴らは、全てを『消去』する。名前、記憶、感情、任務以外の全てが、何も残らなくなるまで」


彼女は、小さく囁いた。「貴様がその名を口にした時、『リーナ』と。それは、空のはずのドライブの中で、破損したデータファイルを見つけたようだった。彼女が誰なのか、それがかつての私だったのか、わからない。だが、貴様が感じていた痛みは、私が毎日感じている虚無感と同じものだと、わかった」


「私が貴様に叫んだ時、それは戦術ではなかった。それは、『怒り』だ。私にはもう何も残っていないのに、貴様にはまだ、失うべき『何か』が、貴様を破壊できる『何か』が、残っていることへの怒りだ」


ライトは、彼女の隣に歩み寄り、立った。二人は、静寂の中、共に星々を見つめた。


「お前は間違っている」彼は、静かに言った。「お前にはチームがいる。お前には、俺がいる。我々は、ただの資産ではない、マキ。我々は、パートナーだ」


その言葉に、マキは息を呑んだ。今や、彼らの間にあった見えない壁は、崩れ落ちた。それは愛に取って代わられたのではなく、それよりも遥かに深い「理解」、ついに互いを見つけ出した、二つの壊れた魂の、絆によって。


---


インワンでの勝利は、ライトにとって、彼の心の中の地獄の扉を開くことになった。彼は基地に戻った後、誰とも話さず、食事にも手をつけず、自室に閉じこもった。幼少期に去った地へと再び足を踏み入れたことは、彼の全ての忌まわしい記憶を蘇らせたのだ。


輸送船へと引きずられていく「リーナ」の姿が、彼の現在のパートナーである「マキ」の姿と重なる。(彼女は、本当にリーナなのか?この既視感は、一体何なんだ?)その考えが、彼の罪悪感を呼び覚ました。リーナを守れなかった罪悪感、第7部隊の仲間を見捨てた罪悪感。


そして、人生で初めて、鋼鉄の兵士であるライトは、一人、静かに泣いた。それは、17年間溜め込んできた、痛みの涙だった。「リーナ…」彼は、その名を、繰り返した。「…なぜだ…」


---


コンコン、とドアをノックする音がしたが、彼には応える気力もなかった。ドアが開き、エララが入ってきた。暖かい食事のトレーを持っていた。しかし、部屋の隅で肩を震わせ、うずくまる彼の姿を見て、彼女はすぐにトレーを置いた。


彼女は何も言わず、彼の隣に静かに座り、その震える背中に手を置き、優しく撫でた。それは、最もシンプルで、最も真摯な慰めだった。


「俺は…」ライトは、かろうじて声を絞り出した。「俺は、無力だ。誰も、守れなかった」


エララは、ゆっくりと首を振った。「私は、『リーナ』が誰なのか、貴方の過去に何があったのか、知りません」彼女は、この上なく優しい声で言った。「でも、私が今、目にしているものは、わかります」


「あの夜、バーで、私を守るために立ち上がってくれた男性が見えます。私たちのために、たった一人で敵の巣窟へ突入してくれた男性が見えます。そして、ケルベロスとマリアの地獄を、私たち全員を導き、無事に連れ帰ってくれた、キャプテンが見えます」


彼女は、彼の痛みに満ちた目を、深く見つめた。「ヒーローが何か、知りたいですか、ライト?ヒーローとは、どれだけ自分が傷ついても、他人を守ることを諦めない人です。そして、それこそが、貴方がずっとやってきたことじゃないですか」


「守れなかった人を悼むのは、悪いことじゃない。でも、貴方が『守り抜いた』人たちのことを、忘れないで」


「私たちは、ここにいます。そして、どこへも行きません」


その言葉が終わると、エララは、兄を慰める妹のように、そっと彼を抱きしめた。その抱擁の中で、ライトの心の中の全ての壁が、崩れ落ちた。彼は彼女を抱き返し、そして、声を上げて泣いた。17年間、たった一人で背負ってきた、全ての痛みを、解き放つかのように。


--- **過去の光景:連邦指揮艦にて、第一次インワン戦役後** ---


血に濡れた第7部隊の装甲服を着た若き日のライトは、上官に「キメラ計画」のデータコアを差し出した。「任務完了しました。しかし、部隊は、私を除き全滅です」


上官は、彼に見向きもせず、データコアだけを受け取った。「彼らの犠牲は、認められる。情報こそが最重要だ」彼は、冷たく言い放った。「ライト軍曹を『ブラックサイト・オメガ』へ移送し、『再調整と新任務の付与』を行え。彼は知りすぎた。彼の名を、第7部隊の全名簿から抹消しろ」


その言葉に、ライトの世界は崩壊した。彼は、英雄として称賛されるのではなく、「消去」されようとしていたのだ!兵士たちが彼を拘束しようとした瞬間、彼の中で、二度と裏切られはしないという、最後の生存本能が爆発した!彼は、人生で初めて命令に背き、戦った。そして、小型脱出艇を奪い、宇宙の闇へと姿を消した。その日、彼は、真の「裏切り者」となった。


--- **現在** ---


ライトは、ゆっくりとエララから腕を解いた。彼の涙は、もう止まっていた。その眼差しは、静かで、冷徹だったが、そこには、全てを乗り越えた「理解」が宿っていた。


「…大丈夫か?」エララが、心配そうに尋ねた。


「今は、大丈夫だ」ライトは、答えた。彼は、彼女の顔を見て、薄く微笑んだ。「ありがとう、エララ」


彼は立ち上がった。その立ち姿は、再び、揺るぎないものとなっていた。彼は、再び「キャプテン」に戻ったのだ。過去の鎖から、完全に解放された、新しいキャプテンとして。

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