第二章 42
--- **屈辱の朝** ---
翌朝、ライトの部屋に、柔らかな朝日が差し込んだ。しかし、彼にとって、それは、煩わしいほど、まぶしかった。
彼が目を開けた時、最初に感じたのは、爆発しそうなほどの、頭の痛みと、乾ききった喉だった。「うっ…」
彼が、身を起こそうとすると、昨夜の記憶が、徐々に、蘇ってきた。レックスの声、『溶鉱炉の火』の味、沈んでいく感覚、そして、最後の、ぼやけた光景。マキの、冷たい顔と、自分が、「担がれて」いるような、感覚。
「！！！！！！」
全ての記憶が、完全に、蘇った時、ライトは、壁に、頭を打ち付けて、死にたくなった！猛烈な、羞恥心が、彼に、襲いかかった！彼が、築き上げてきた、冷徹なキャプテンの、イメージが、一夜にして、崩れ落ちたのだ！
コン…コン…コン
ドアをノックする音が、響いた。ライトは、飛び上がった。（誰だ、こんな時に！）
彼は、乱れた髪と、しわくちゃの制服を、できるだけ、整え、そして、できるだけ、平静を装った顔で、ドアを、開けた。
そして、そこに、立っていたのは、エララの一団だった。
「おはようございます、キャプテン」エララが、心配そうな、笑みで、挨拶した。「昨夜は、少し、遅くまで、楽しまれたと、聞きましたので、お水と、お薬を、持ってきました」
「マリアでの、祝賀会は、ずいぶんと、『手荒い』ようですね」サトウが、意味ありげに、言った。
だが、最も、残酷だったのは、ガーだった。彼は、顔を真っ赤にしながら、必死に、笑いを、こらえていた！「いやあ、キャプテン」彼は、もはや、耐えきれなかった。「あんたが、下戸なのは、知っていたが、まさか、『恋人』に、担いで、帰ってもらう、タイプだったとはな！ぎゃはははは！」
ライトの顔が、真っ赤になった！
しかし、彼が、友人たちの顔の前で、ドアを、閉める前に、マキの姿が、エララたちの背後に、音もなく、現れた。彼女は、完全な、戦闘訓練服を、着ていた。その顔は、昨夜のことなど、何も、なかったかのように、無表情だった。
彼女は、全員を、無視し、その視線は、みすぼらしい姿の、ライトに、注がれていた。「キャプテン」彼女は、冷たい声で、言った。「その水を飲むのに、5分やる。その後、訓練室で、会おう」
「昨夜の、貴様の状態は、標準以下だった。我々は、それを、修正しなければならない」
そう言うと、彼女は、踵を返し、即座に、去っていった。
ガーの、笑い声は、即座に、止まった。ライトは、ただ、立ち尽くし、「家族」の、親しげな、からかいと、「パートナー」の、冷たい、圧力の、ただ中に、取り残されていた。今朝は、彼の人生で、最も、気まずい、朝だった。
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ライトは、命令通り、訓練室へと、たどり着いた。
部屋の中央で、マキが、彼を、待っていた。彼女は、彫像のように、静止していた。完璧で、そして、冷徹だった。
「10秒、遅刻だ」彼女は、振り向かずに、言った。
「すまん、道が、混んでいた」ライトは、空気を、和らげようと、ぎこちなく、冗談を、言った。マキは、彼の、冗談には、反応しなかった。彼女は、彼に、向き直り、その二色の瞳が、彼の、頭のてっぺんから、つま先までを、スキャンした。
「貴様の、バイタルサインは、不安定だ」彼女は、報告書を、読み上げるように、言った。「心拍数は、通常より高く、体は、脱水状態で、反応速度は、低下している。全て、過剰な、エタノールの、摂取による、症状だ」
彼女は、一瞬、黙り、そして、最も、冷たい声で、続けた。
「昨夜、貴様の、戦闘効率は、ゼロだった。貴様は、『負債』だ。キャプテンでも、兵士でもない。ただの、役立たずの、『荷物』の一つだ」
彼女の、全ての言葉が、彼の、プライドを、深く、切り裂いた。「今日、我々は、再『調整』を、行う」
その言葉が、終わると、マキは、彼に、襲いかかった！それは、ライトの人生で、最も、屈辱的な、模擬戦だった。彼の、全ての動きは、彼女の目には、遅く、そして、予測可能だった。彼は、何度も、何度も、床に、倒された。
戦闘は、瞬く間に、終わった。ライトは、床に、仰向けになり、荒い息を、ついていた。一方、マキは、彼の体の上に、立ち、そのつま先で、彼の胸を、軽く、踏みつけていた。彼女は、汗一つ、かいていなかった。
「これこそが」彼女は、言った。「…貴様が、私情と、酒と、そして、偽りの、『平和』に、支配された時の、貴様の、姿だ」
彼女は、身をかがめ、彼の顔に、近づいた。「私が、貴様を、あのバーから、引きずり出したのは、心配などという、感情からではない、キャプテン。私は、誤作動を、起こしている、『資産』を、回収しに、行っただけだ。貴様の命は、この任務が、終わるまで、この任務のものだ。貴様に、弱くなる、権利など、ない」
彼女の声が、彼の耳元で、囁かれた。不気味なほど、冷たく。
「王女は、貴様に、穏やかな未来を、約束できるだろう。エララは、貴様に、仲間の暖かさを、与えられるだろう。奴らには、それができる。なぜなら、奴らは、貴様と共に、地獄へは、行かない、パートナーでは、ないからだ」
「そして、私だ。私が、貴様に、与えられるものは、ただ一つ。『約束』だ。貴様の、弱さが、我々、二人を、死へと、導く、その前に、この、私の手で、貴様を、殺してやるという、約束をな」
それは、最も、残酷な、言葉だった。しかし、同時に、それは、彼女なりの、最も、深い、忠誠の、誓いでも、あった。
彼女は、足を、どけ、そして、手を、差し伸べた。ライトは、その手を、掴み、立ち上がった。全ての、屈辱は、消え去っていた。後に残されたのは、真剣さと、決意だけだった。彼は、彼女が、伝えたかった、メッセージの、全てを、理解したのだ。
「わかった」彼は、短く、言った。
マキは、頷いた。今や、彼らの、気まずく、複雑な関係は、再び、「リセット」された。彼らは、影の中の、「パートナー」へと、戻ったのだ。以前よりも、さらに、冷たい炎によって、鍛え上げられた、パートナーへと。
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その後、ジャック司令官からの、命令が、届いた。
基地「合流点」の、最高作戦司令室にて。ジャックは、緊急の、戦争評議会を、招集した。
「同志諸君」ジャックは、厳粛な声で、切り出した。「新たな情報が入った。そして、それは、全てを、変えた」
ホログラムスクリーンに、見慣れた、砂漠の、オレンジ色の惑星が、映し出された。「惑星インワン」だ。
「我々が、ヘカトンケイルから、鹵獲した、エレクター＝カイは、ただの、『移動式制御装置』に、過ぎなかった。このセクターの、全ての、機械の群れを、制御する、『主司令部』は、我々の、故郷の星、そのものに、隠されていたのだ」
「連邦は、奴らが、我々から、奪った、家の、中心に、その、究極兵器を、築いたのだ」ジャックは、続けた。「それは、我々への、平手打ちであり、そして、最も、悪辣な、戦略だ」
「主司令部が、存在する限り、惑星マリアへの、攻撃は、自殺行為だ。奴らは、いつでも、無数の、機械の群れを、呼び出せる」
「故に、『冬の烈風作戦』は、延期する。我々の、新たな、最優先任務は、『作戦名：ホームカミング』。惑星インワンの、解放だ！」
「連邦が、防衛艦隊を、交代させる、その隙を、我々は、突く！全員、準備に、取り掛かれ！」
「しかし、司令官！」ウィリアム王子が、抗議した。「我々の目標は、惑星マリアです！なぜ、我々が、全戦力を、貴方の故郷を、助けるために、投入しなければならないのですか？」
「なぜなら、これは、もはや、『私の星』か、『貴方の星』かという、問題では、ないからです、王子」ジャックは、答えた。「惑星インワンの、『エレクター＝カイ』が、存在する限り、いかなる星も、安全では、ありえません。インワンの解放は、ただ、故郷を、取り戻すだけではない。それは、毒蛇の、『頭を、断つ』ことなのです。それこそが、惑星マリアと、他の星々の、解放を、可能にする、唯一の道なのです」
