第一章3 "失われた希望(1)"
地下クリニックで数日が過ぎた。
ライトは、ただ退屈そうに古い金属の天井を見つめていた。
傷の痛みはまだ残っていたが、それ以上に彼を苦しめていたのは、無力感だった。(こうして、ただ寝ているだけでは、何の役にも立たない…)彼は心の中で思った。(どうすれば、こいつらに認めさせ、信用させることができる?)
そして、その日は来た。
ホログラムプロジェクターから、再び緊急警報が鳴り響いた。
『…最新状況を報告します。機械化部隊が惑星サムの大気圏に侵入しました。小規模な部隊ではありますが、連邦司令部であるDECビルへの攻撃を開始しました。現在、全ての通信は遮断されています。全市民は冷静に行動し、増援の到着を待ってください』
「増援だと!」
ライトは、思わず声に出していた。「ここまで来て、まだ待てと言うのか!これは、ただ事じゃないぞ!」
彼の頭の中の光景は、明確だった。
連邦は、誰も助けに来る気はない。奴らは、この惑星を「見捨てる」気なのだ!
「やってやる…やるしかない」ライトは固く決意した。「あのクソみたいな司令部に行って、まだ生き残っているかもしれない奴らを助け、そして、こいつらに俺がスパイじゃないことを証明してやる!」
その考えが、彼を即座に行動させた。
彼は、地下の倉庫で使えそうな古い武器を探し出し、誰にも知られずに隠れ家から抜け出した。彼の目標は、DEC司令部を破壊し、機械どもの通信を断ち切り、奴らの巣作りを遅らせること。
可能な限り、時間を稼ぐのだ。
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**DEC司令部にて**
ライトが目にした光景は、悪夢から抜け出てきたかのようだった。
路上は、血痕と恐ろしい死体で埋め尽くされていた。
一部の人々は、うなじに小型の機械を付けられ、ゾンビのように魂なく歩かされていた。
ライトは、身を守るために、躊躇なくブラスターの引き金を引いた。
彼は、機械化ゾンビの群れを突破し、ビルの中へと侵入することに成功した。
そして、医務室へと直行した。
彼は、隠されていた大量の薬品と化学物質を盗み出し、即席の爆弾を組み立て、それをビルの通信システムの中心部に設置した。
ドォン!
DECビルは、内部から外部へと爆発した。
ライトは、間一髪で飛び出して逃げ延びた。しかし、彼が安堵する間もなく、眩い白い光が空から降り注いだ。数隻の連邦戦闘艦が、素早く降下してきたのだ。
「増援だと!なんで今頃になって現れるんだ!」
その考えが終わる前に、完全装備の連邦兵が押し寄せ、ライフルの銃床が彼のうなじに激しく叩きつけられた。
彼が見た最後の光景は、回転しながら近づいてくる路面だった。
彼が意識を取り戻した時、彼の腕は背中に回されていた。
頭上に浮かぶ旗艦から、威厳のある声が植民地全体に響き渡った。
『…これは、連邦将軍からの声だ!テロリストは植民地法を破り、連邦の財産を破壊した!命令を待たずに行動する者は、反逆者であり、安全保障への脅威と見なす!武器を置け!』
家々に隠れていたサムの民は、その声をはっきりと聞いた。
彼らは、過酷な真実を悟った。連邦は、助けに来たのではなく、奴らの「財産を破壊した」者を、逮捕しに来たのだと。
『…法は、法だ!』将軍の声は、冷ややかに続けた。『…これより、再び騒乱を起こす者は、重罪と見なす。私は、全部隊に惑星サムからの撤退を命じる。お前たちを孤立させ、そこで朽ち果てさせる。この田舎者の星め!』
宣言が終わると、全ての戦闘艦は空へと飛び去り、惑星サムを、死の機械の群れと、ただ二人きりにさせた。
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**地下クリニックにて**
エララと残された仲間たちは、ホログラムスクリーンを通じて、ライトが連行される様を、様々な感情で見ていた。
驚き、混乱、そして絶望。「彼…彼は、何のために…」
しかし、連邦の信号が消えると同時に、これまで現れなかった割り込み信号が鳴り響いた。
それは、一人の男の映像だった。
ライトがかつて連邦のプロパガンダ映像で見たのと同じ男。しかし今、彼は連邦将軍の制服を身に着けてはいなかった。
『…こんにちは。自由を愛する惑星サムの市民諸君。私の名はジャック。惑星インワンの反乱グループ「インワン・フリーダム」のリーダーだ』
彼の声は、力強く、そして希望に満ちていた。
『…連邦が今日、あなた方にしたことは、かつて我々にしたことと同じだ。しかし、我々は屈しない!そして、あなた方もそうだ!私は、機械の群れに抵抗するあなた方を助けるために、増援を送っている。あと30分で、我々の輸送船が合流地点に到着する。あなた方には…可能な限り、奴らを引きつけておいてもらいたい!』
放送は終わり、サム解放戦線は静寂に包まれた。
消えかけた希望が、予期せず、再び灯された。
『…あなた方には…可能な限り、奴らを引きつけておいてもらいたい!』
ジャックの声が終わると、ホログラムは途切れ、冷たい地下室には、ザーッというノイズと静寂だけが残った。エララ、サトウ、リヒター医師、そして生き残った二人の屈強な男は、かつて反乱グループのリーダーの決意に満ちた顔が映っていた、何もない空間を見つめていた。
誰も言葉を発しなかった。まるで、何かを口にすれば、その希望の光景が夢のように消えてしまうのを恐れているかのようだった。
修理店の店主であるサトウが、最初に沈黙を破った。
彼の声は、わずかに震えていた。
「一体、どういうことだ…インワン・フリーダムだと。奴らは、十年前に連邦に掃討されたと思っていたが」
「連邦の罠かもしれない」ガーという名の屈強な男の一人が言った。
彼の眼差しは、まだ不信感に満ちていた。「俺たちを戦いにおびき出し、一網打尽にするつもりだろう」
「時間の方はどうなんだ!」
もう一人が付け加えた。「30分だと!上の音を聞いてみろ!3分もつかどうかすら、分からんぞ!」
その言葉は、過酷な真実だった。
プラズマ銃の音、爆発音、そして人々の悲鳴が、まるで地獄からの声のように、時折、上から聞こえてきていた。
消えかけた絶望が、再び皆の心に忍び寄り始めていた。
しかし、エララは違った。
かつて涙に濡れていた少女の瞳は、今や、挑戦的な光で燃え上がっていた。彼女は、指の関節が白くなるほど、固く拳を握りしめていた。
「これが本当か、罠かなんて、私には分からない…」
彼女は言った。その声は、はっきりと、そして力強かった。
「でも、今の私たちにどんな選択肢があるの?この穴の中で死を待つ…あの機械どもがドアを破って、一人ずつ殺しに来るのを待つって言うの?」
彼女は、皆の目を見つめた。
「あの人…ライトは、奴らの巣を破壊するために、一人で突っ込んでいったのよ!彼が連邦に捕まったのは、私たちがここで希望を失って座っているためじゃない!彼の行動が、この最後のチャンスを得るための、十分な時間を稼いでくれたのかもしれないのよ!」
彼女の言葉が、皆を物思いから覚醒させた。
そうだ。DECビルの爆発が、機械の群れの連携を一時的に麻痺させたのだ。
それが、奴らがまだここまで来ていない理由だった。
「30分…それは、不可能かもしれない」エララは続けた。「でも、戦わずに諦めるなんて、もっとありえない!私は戦う!私と一緒に戦う人は!?」
彼女の声が終わると、最も絶望的に見えた屈強な男、ガーが、鉄のテーブルに拳を叩きつけた。
「バン!」
「ああ!やってやるさ!死を待つより、よっぽどマシだ!」
サトウはゆっくりと頷いた。
彼の眼差しに、策略家の光が戻ってきた。「あるだけの武器を準備しろ!生き残っている我々のネットワーク全員に連絡しろ!西方の古い貨物船の船着き場に集まるように伝えろ。そこには遮蔽物があり、輸送船が着陸するには十分な開けた場所だ!」
「私は、できるだけ多くの応急処置キットと興奮剤を準備しよう」
リヒター医師が付け加えた。
絶望は、生存への闘争のアドレナリンに取って代わられた。
外の戦争の音と競うように、武器の点検と装備の準備の音が響き渡る。
30分。
そして、惑星サムの全ての未来が、一本の糸にかかっていた。
最後の生存を懸けた戦いが、始まった。




