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第二章 32

マキが去った後、ライトの医務室から、エララたちの一団も、徐々に、姿を消していった。彼らのキャプテンには、一人になる時間が必要だと、わかっていたのだ。


数時間後、食堂に、ザムからの生存者たちが、再び集結した。


「そんで、俺が、現地の予備役に言ってやったのさ。『狭い道と、弾さえ、用意してくれりゃ、それでいい!』ってな!」ガーが、身振り手振りを交えて、熱く語った。「俺たち、十数人だけで、連邦の哨戒部隊を、三時間も、足止めしてやったんだ!奴らは、何が起こったのか、全く、わかってなかったぜ!」


「ガーの言う、狭い道というのは、素晴らしい計画だった」サトウが、飲み物を一口飲みながら、付け加えた。「だが、町の者たちを、蜂起させたのは、エララのスピーチだった。君も、見るべきだったよ、リクター。真の、指導者だった」


静かに聞いていたボルクが、平坦に、割り込んだ。「彼は、町の、重要人物の像も、壊していたな。偶然に、だが」その言葉に、全員が、笑い出した。


「お前たち全員が、三十二人、まあ、だいたい、無事に戻ってきてくれれば」リクター医師が、上機嫌で言った。「私は、それで、満足だ」


それは、戦友たちの、和やかな雰囲気だった。しかし、その雰囲気は、変わった。


ステラ王女が、二人の王室護衛官と共に、優雅に、食堂へと、入ってきたのだ。ざわついていた話し声は、徐々に、静まり返った。


しかし、彼女は、上級士官たちの、ゾーンへは向かわず、彼らのテーブルへと、まっすぐ、歩み寄ってきた。


「ザムの火花」ステラは、エララに、微笑みかけた。「そして、クラスの勇者たち。私も、ご一緒しても、よろしいかしら?」


テーブルにいた全員が、驚きと、緊張で、慌てて立ち上がった。


ステラは、ザムでの出来事や、クラスでの任務について、心からの、関心を持って、尋ねた。彼女が、彼らの、喪失と、勇気の物語に、共感に満ちた眼差しで、耳を傾けるにつれ、「王族」と、「平民」との間の壁は、少しずつ、崩れていった。


そして、彼女は、話題を変えた。「彼が、私に、あるものを、分かち合ってくれました。歌を。悲しい、子守唄を。ヒーローになることを、約束し、そして、悪魔になることをも、覚悟した、迷子の、少年の歌を」


!!!


その言葉に、テーブルにいた全員が、凍りついた!ガーは、口を開けたまま、サトウは、信じられないというように、眉をひそめ、そして、エララは、心が、ずしりと、重くなった。あの、冷たいキャプテンが、誰にも、心を開かなかった、男が、彼の、最も深い、脆さを、数回しか、話したことのない、王女に、明かしたというのか?


「だからこそ、私は、彼に、約束を、求めたのです」ステラは、希望に満ちた声で、続けた。「この戦争が、終わった時には、彼が、武器を、置き、そして、あの、迷子の少年に、再び、穏やかな生活を、送る、機会を、与えてくれるように、と」


ステラ王女は、最後に、彼らに、微笑みかけ、そして、その場を、去っていった。ザムの生存者たちを、静寂と、そして、様々な感情の中に、残して。


「歌…子守唄だと?」ガーが、信じられないというように、繰り返した。


「どうやら、王女殿下は、我々が、これまで、一度も、見たことのない、彼の、一面を、見たようだ」サトウが、思案深げに、言った。


しかし、エララにとっては、それは、ただの驚きではなかった。心の、奥深くで、彼女は、わずかな、「痛み」を、感じていた。なぜ、彼は、彼の、「家族」ではない、他の誰かに、心を開いたのだろうか?だが、同時に、彼女は、「理解」もしていた。おそらく、彼女のように、戦争の闇に、共に、浸かってきた人間と、話すよりも、王女のような、「光」のような存在と、話すことこそが、ライトが、必要としていたものだったのかもしれない。


そして、最後に、溢れ出てきた感情は、これまで以上に、深い、「心配」だった。今や、彼女は、理解したのだ。ライトが、戦っている、「悪魔」とは、ただの、連邦や、機械の群れではない。彼自身の、心の中にいる、悪魔なのだと。そして、それこそが、最も、恐るべき、戦争なのだと。


---


「さっき、王女は、言っていた。我々の、キャプテンが、彼女に、悲しい、『子守唄』を、歌って聞かせたと?」


「ただの、子守唄ではない」サトウが、思案深げに、訂正した。「彼の、人生を、語る、歌だ。ヒーローに、なりたかったがために、悪魔になることをも、厭わなかった、少年の、物語だ」


「それは、多くのことを、説明してくれる」リクター医師が、付け加えた。「私が、彼を、最初に、手術した時、彼の、全身に、古い傷跡を、見た。それは、ただの、戦闘の傷ではない。想像を絶するほど、過酷な、訓練によって、刻まれた、傷だ。その歌こそが、それらの傷の、由来の、答えなのだ」


静かに、聞いていた、ボルクが、短く、しかし、深い意味を込めて、言った。「彼は、戦っているのだ。我々が、彼のようにならぬように、と」


その言葉に、全員が、再び、静まり返った。そして、エララの頭の中に、ライトと、初めて会った日からの、記憶が、溢れ出してきた。


「覚えているわ」彼女は、語り始めた。「あの夜、『宇宙の果て』のバーで、彼を、初めて、見た時、彼の眼差しは、この上なく、空虚で、絶望していた。まるで、生ける屍のようだった。でも、あの兵士たちが、私に、絡んできたのを、見た時、彼の中の、何かが、変わったの。それは、まるで、再び、灯された、火花のようだった」


「奴が、DECビルに、単独で、突入した時」ガーが、付け加えた。「あの時、俺は、ひどく、腹を立てていた!最も、愚かで、無謀な、行動だと、思っていた!だが、今は…」


「…今なら、わかる」サト-ウが、続けた。「彼は、無謀だったのではない。彼は、彼なりの、やり方で、『ヒーロー』に、なろうとしていたのだ。彼は、我々、全員を、危険に、晒すよりも、自分、一人で、危険を、冒すことを、選んだのだ」


今や、全ての、ジグソーパズルが、組み合わさった。冷徹で、断固として、そして、時には、非情に見えた、キャプテンの姿が、全世界の、痛みを、その肩に、背負い、そして、彼が、見つけたばかりの、小さな光、つまり、彼ら自身を、守るために、必死に、戦う、一人の青年の、姿へと、変わっていった。


「クソが…」ガーが、小さく、悪態をつき、そして、力強く、自分の顔を、こすった。「つまり、ずっと、奴は、俺たちを、連邦から、守っていただけじゃなく、俺たちが、奴自身のように、汚れてしまわぬようにも、守ってくれていた、というわけか」


エララは、ライトが、マキと、共に、去っていった、通路の方向を、見つめていた。彼が、彼女たちではなく、王女に、心を開いたことへの、小さな痛みは、完全に、消え去っていた。後に残されたのは、心からの、共感と、同情だけだった。


(もう、貴方は、悪魔になる、必要はないのよ、ライト)彼女は、心の中で、思った。(なぜなら、今回は、もう、貴方は、一人で、戦っているわけでは、ないのだから)


---


翌日、ライトの、病室のドアが、再び、開かれた。ウィリアム王子と、ステラ王女が、個人的に、見舞いに、訪れたのだ。


「私は、提督との、会議に、戻らねばならん」しばらく、話した後、ウィリアムが、言った。「十分に、休むのだぞ、キャプテン」


「兄上」ステラが、口を開いた。「もう少しだけ、キャプテンと、二人きりで、お話を、させていただいても、よろしいでしょうか?」


ウィリアムは、驚いたが、頷き、そして、護衛官と、共に、部屋を、出て行った。


しかし、一日中、続いた、激しい戦闘と、尋問の後、ライトの体は、もはや、限界だった。彼の、まぶたは、ゆっくりと、閉じられ、そして、彼は、疲労困憊のあまり、眠りに、落ちてしまった。


ステラは、眠る、ライトの、顔を、見つめていた。そこには、厳しさも、痛みも、なかった。それは、ただの、一人の、青年の、顔だった。彼女は、ベッドのそばの、椅子に、腰掛け、そして、再び、そっと、彼の手に、自らの手を、重ねた。


「貴方は、あまりに、多くのものを、背負いすぎています、ライトキャプテン」彼女は、眠る体に、囁いた。「ですが、もう、一人では、ありませんわ。私が、ここに、います。全てが、終わった時、貴方は、安らぎを、得るのです。貴方自身の、花畑を。お約束しますわ」


しかし、その時、眠っている、ライトの眉が、ひそめられ、彼の唇が、夢の中で、小さく、名前を、呟いた。


「…エララ…気をつけろ…」


ステラの、心臓が、ドキリと、跳ねた。そして、彼は、さらに小さな、風の囁きのような声で、二番目の名前を、漏らした。


「…マキ…」


彼の手を、握っていた、ステラの手が、その場で、凍りついた。彼女の、優しい笑みは、ゆっくりと、消えていった。最初の、瞬間、それは、始まる前に、拒絶されたかのような、小さな、「痛み」だった。


しかし、次の、瞬間、彼女の、聡明さと、他者への、理解力が、働いた。


(エララ…ザムの火花。彼の、新しい人生の、最初の絆。そしてマキ…過去からの、亡霊。彼が来た、過酷な世界を、理解する、唯一の、パートナー)


彼女は、静かに、息を、吐いた。その眼差しは、悲しげだが、理解に、満ちていた。(では、私

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