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GalacXER 銀河の執行者  作者: Boom
第二章 [反乱軍と同盟の反撃]
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第二章 31

惑星ヴェリディア星系での勝利は、ザン・セクター全域に語り継がれる新たな伝説となった。


ライトキャプテンと「幻影ファントム・ストライク」チームによる「トロイの木馬作戦」は、誰もが予想だにしなかったほどの甚大な影響をもたらした。艦「ヘカトンケイル」へのハッキングと、それに続く機械の群れの制御信号の混乱は、連邦最強の兵器を、自らを滅ぼす災厄へと変えた。強力な護衛艦隊は、制御を失った自らの機械の群れに襲われ、壊滅。そして、ジャック司令官とベアトリス提督率いる連合艦隊が到着した時、彼らが直面したのは、混乱し、指揮系統を完全に失った連邦の残存艦隊だった。宇宙戦争は、連合軍の完全勝利で幕を閉じた。


今や、革命軍はただ強力になっただけではない。彼らは、最強の新たな力、今や完全に革命軍の資産となった母艦「ヘカトンケイル」と、捕虜となった数万の連邦兵を手に入れたのだ。


--- **秘密基地「合流点」、医務室にて** ---


数日が過ぎ、ライトはゆっくりと目を開けた。慣れ親しんだ消毒液の匂い。しかし、彼が見上げた天井は、もはや戦闘艦の金属の天井ではなく、清潔な白い、大きな医務室の天井だった。体はまだ包帯だらけだったが、痛みはずいぶんと和らいでいた。彼は部屋の大きな窓の外を見た。そこには、巨大な整備ドックに静かに佇む「ヘカトンケイル」の姿があった。あの狂気の勝利が、現実であったことを証明する光景だった。


静かに部屋のドアが開き、ウィリアム王子とステラ王女が入ってきた。


「ライトキャプテン…」ステラ王女が、心からの感謝に満ちた声で、最初に口を開いた。「マリアン・コンバインの全国民を代表して、感謝いたします。貴方は、私たちが失われたと思っていた希望を、取り戻してくださいました」


「貴官の行動は、少々型破りであったかもしれんがな、キャプテン」ウィリアム王子が付け加えた。その声は格式ばっていたが、その眼差しには尊敬の念を隠すことはできなかった。「だが、その結果が全てを証明している。貴官は、我々の敬意を勝ち取った」


「任務を果たしたまでです。そして、私には良いチームがいました」ライトは静かに返した。


「しかし、この勝利は始まりに過ぎない」ウィリアムは、真剣な表情で続けた。「今、連邦は混乱している。そして、我々の手には『ヘカトンケイル』がある。連合評議会は、全会一致で決議した。我々の次の目標は…」彼は一瞬言葉を止め、ライトの目をまっすぐに見つめた。「…惑星マリアだ」


ステラ王女が、ライトのベッドに近づいた。その眼差しは、希望と懇願に満ちていた。「貴方が必要です、キャプテン。貴方の能力と経験が。我々の故郷を取り戻すために、『ケルベロスの英雄』の力が必要なのです」


ライトは、希望に満ちた王女の顔と、決意に満ちた王子の顔を交互に見た。ただ生き残るために始めた戦いが、今や何百万もの人々の惑星を解放するための戦いへと変わっていた。彼は、その願いに応えるように、ゆっくりと頷いた。


---


ステラ王女の目が揺らぎ、青い瞳に涙が浮かんだ。それは、心からの安堵と希望の涙だった。「ありがとう…」彼女は囁いた。「本当に、ありがとう…キャプテン」


「では、話は決まったな」ウィリアム王子は、妹を護衛官に任せ、会議の準備のために部屋を出て行った。


「これが、貴方にとって、あまりに重い責務であることは、存じております」ステラは言った。「ですが、どうか、知っておいてください。マリアンの民は、貴方が、彼らのために為そうとしていることを、決して、忘れません」


--- **仲間たちの到着** ---


ライトが、何かを応えようとする前に、医務室のドアが、再び、開かれた。エララを先頭に、ガーとボルクが果物の籠を運び、サトウが続いて入ってきた。


「キャプテン!目が覚めたって聞いて…」ガーが陽気に叫びかけたが、その場の光景に、全員が凍りついた。ステラ王女が、ベッドのそばでライトの手を握っていたのだ!


「王女殿下!」エララは慌ててお辞儀をした。「お、お邪魔するつもりは!」


その気まずい雰囲気の中、最後の人物が姿を現した。リクター医師と、彼の後ろに静かに続く、マキだった。彼女は、エララたちとは別に、偶然同じタイミングでライトを訪ねに来たようだった。


彼女の二色の瞳が、部屋の全体像を素早く捉えた。ベッドの上のライト、親しげに彼のそばに立つ王女、そして、一団となって固まるザムからの生存者たち。彼女の顔は無表情だったが、室内の空気は、即座に数度、冷え込んだ。


今、ライトに関わる全ての重要人物が、一つの部屋に集結した。そして、その気まずい沈黙の中心には、これから巻き起こるであろう新たな嵐の中心、ライトがいた。


---


「病人は休息が必要だよ」リクター医師が、その空気を和らげるように言った。その言葉を合図に、人々は次々と部屋を辞去していった。


ついに、部屋には再び静寂が訪れた。しかし、マキは、まだ帰っていなかった。


彼女は、ドアが閉まるのを待ち、そして、ゆっくりとライトのベッドへと歩み寄った。


「マキ、何か?」


彼女は答えず、その視線は、王女が先ほどまで触れていた、ライトの手に注がれていた。やがて、その視線は、彼の肩の傷へと移った。そして、彼女は手を伸ばした。


グッ!


彼女の細く、しかし鋼鉄の万力のような指が、彼の傷口を容赦なく握りしめた!


「ぐあああああっ!!」


ライトは、刺された時以上の激痛に絶叫した!マキは、身を乗り出し、彼の耳元で冷たく囁いた。


「王女が、貴様の手に触れていたな。感動的な光景だ。暖かく、希望に満ちていた」彼女は、さらに力を込めた!「だが、そのような感触は、人を油断させる。人を『弱く』する」


彼女の声は、不気味なほど低くなった。「だが、この痛みこそが真実だ。これこそが、『我々』が生きる世界の真実だ、キャプテン。傷と、裏切りと、生存競争に満ちた、私の世界、そして、お前の世界だ」


彼女は、痛みと驚愕に見開かれたライトの目を見つめた。「次に、あの王女の優しい感触が貴様に痛みを忘れさせようとした時は、私が、お前に現実を思い出させてやる。わかったか?」


そう言うと、彼女は手を離し、静かに部屋を出て行った。


---


ライトは、肩の傷を抱え、身をかがめていた。彼は、怒りと混乱に満ちた目で、部屋の中央に立つマキを見つめた。「一体、何の真似だ、マキ!」


「真実だ」彼女は、平坦な声で答えた。「貴様は、私情が、戦闘効率を低下させるのを、許している」


「それが、お前と、何の関係がある!」


「全てだ!」マキは、初めて、激情を露わにして、言い返した!「なぜなら、貴様の過ちの後始末をするのは、私だからだ!」


彼女は、檻の中の虎のように、部屋を歩き回り始めた。「スペクターと最初に戦った時、貴様は、疲れすぎていた。貴様のタイミングは、コンマ数秒、遅れた。もし、私が、あの攻撃を、代わりに受けなければ、あのレーザーフレイルは、貴様の頭蓋骨を、粉砕していただろう」


「トンネルが爆発した時、熱波で、貴様のスーツは、誤作動を起こした。生命維持システムが、停止しかけていた。あの炎の中から、貴様を引きずり出したのは、私だ」


彼女は、再び、彼の前に立ち、その目を、覗き込んだ。「そして、先ほど、貴様が、王女といた時、貴様の自己防衛レベルは、ゼロまで、低下していた。貴様の眼差しは、空虚で、弱々しかった。もし、そこに、ただ一人の暗殺者が、隠れていたら、貴様は、死んでいた」


彼女は、一瞬黙り、そして、最も心を抉る、言葉を放った。「もし、私が、常に、貴様が作り出す、隙間を、埋めていなければ、貴様は、とうの昔に、死んでいるのだ、キャプテン」


それは、傲慢で、侮辱的な言葉だった。だが、ライトは、彼女の、震える二色の瞳の奥に、彼女が、口にしなかった、言葉を、聞いていた。


(彼女は、恩を、売っているのではない)彼は、心の中で、思った。(彼女は、俺を、見下しているのではない。彼女は、自分が、どれだけ、『有用』であるかを、示しているのだ。彼女は、俺が、弱いと、言っているのではない。彼女は、恐れているのだ。もし、俺が、他の誰かを、頼り、他の誰かから、安らぎを、得てしまったら…)


(…彼女自身の、存在意義が、なくなってしまうことを)


ライトは、即座に、理解した。これは、恋人同士の嫉妬ではない。これは、見捨てられることを恐れる、「兵器」の、心の底からの、恐怖だ。


マキは、ライトの眼差しが、怒りから、「理解」へと変わったのを、見て、まるで、裸にされたかのように、感じた。彼女は、またしても、心を、読まれたのだ。


「貴様の、不安定な精神状態は、私が、引き続き、監視する、負債だ」


彼女は、踵を返し、素早く、部屋を出て行った。ライトを、傷の痛みと、そして、彼が、今しがた、知ってしまった、彼のパートナーの心の、より深い痛みの中に、残して。

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