第二章 30 "血月連邦の旅路を阻む計画(4)"
彼女は、チームの共有チャンネルを開いた。「マキより、報告」彼女の声は、何事もなかったかのように、冷徹だった。「スペクターは、排除した。繰り返す。主たる脅威は、排除した」
彼女は、一瞬、黙った。「…キャプテンは、重傷。意識不明。私は、これより、任務を続行する。『資産』と共に」
「ライラ、艦橋の座標を、私に送れ。今すぐにだ」
そうだ。彼女は、彼を、置き去りにするつもりはなかった。そして、彼女は、任務を、放棄するつもりも、なかった。彼女は、意識のない彼の体を、「背負い」、そして、一人で、艦橋へと、突入することを、決意したのだ!
これこそが、マキなりの、「気遣い」だった。甘い言葉ではなく、涙でもなく、ただ、彼女のパートナーを、地獄から、引きずり出すか、あるいは、共に死ぬかの、最も無謀で、そして、断固とした、行動。
マキは、意識のないライトの体を、支えた。血と、痛みと、引き換えに得た、勝利。しかし、今は、休む時ではなかった。スペクターの死は、この艦に、一時的な、「権力の真空」を、生み出した。そして、これこそが、彼らの、唯一の、好機だった。
**<「マキ!状況は!?キャプテンは、どうしたの!?」>** ライラの、切迫した声が、コムリンクから、響いた。
「スペクターは、排除した」マキは、疲労を隠しながら、平坦に、返した。「だが、キャプテンは、重傷だ。意識を、失っている」
**<「まずいぞ!これから、どうする?艦中の兵士が、こっちへ、向かってくるに、違いねえ!」>** ギデオンの声が、割り込んできた。
マキは、周りを見回した。暗い、通路と、彼女の、保護下にある、ライトの体。「計画は、変わらない」彼女は、決然と、言った。「だが、今や、ライラが、この任務の、心臓部だ」
--- **場面転換:サーバーセンターにて** ---
ライラは、彼女が、艦のシステムへと接続した、ケーブルの、ただ中で、座っていた。「わかったわ…」彼女は、自分に、囁いた。「スペクターの死で、奴らの、指揮系統は、完全に、混乱している!今、普通の艦長が、状況を、制御しようとしている。彼は、計画の、全貌を、知らない!」
「これこそが、私たちの、チャンスよ!」彼女は、コムリンクを通して、全員に、言った!「ギデオン、サイラス!もう、隠れている必要はないわ!今すぐ、『エレクター=カイ』の、制御室へ、突入して!破壊するんじゃないわ!ただ、『占拠』するのよ!奴らに、我々が、奴らの心臓部へと、たどり着こうとしていることを、知らしめるのよ!」
**<「ハッ!了解だ!ようやく、本番の、出番と、きたか!」>** ギデオンが、意気揚々と、応じた。
--- **場面転換:マキの元にて** ---
「そして、私は…」マキは、ライトの体を、近くに隠された、小さなメンテナンス室へと、引きずり込みながら、続けた。「…キャプテンを、安全な場所へ、隠す。そして、一人で、艦橋へと、突入する」
**<「正気か!一人で、だと!?」>** ギデオンが、抗議した。
「心配は、いらない。正面からは、戦わん」マキは、言った。「ライラ、ギデオンが、エレクター=カイの、制御室に、到着すると、同時に、『欺瞞作戦』を、開始しろ」
**<「了解。ご武運を、マキ」>**
マキは、ライトの体を、真っ暗な、物置に、隠した。彼女は、再び、彼の、バイタルサインを、確認した。それは、弱々しいが、まだ、脈打っていた。「ここで、待て、キャプテン」彼女は、小さく、囁いた。「すぐに、迎えに、戻る。我々の、新しい艦と、共にな」彼女は、踵を返し、闇の中へと、消えていった。艦橋を、目指して。
--- **「ヘカトンケイル」艦橋にて** ---
艦橋は、極限の、混乱状態に、あった!「司令!侵入者が、キメラ研究室へ、向かっています!」「兵を送れ!奴らを、食い止めろ!」「不可能です!下層の、エンジン室で、爆発が!兵士の、大部分が、そちらへ、向かっています!」
突如、フッ!
艦橋の、全てのモニターと、通信システムが、途絶した!空っぽの、映像へと、変わり、そして、冷徹で、無機質な、合成音声が、艦全体に、同時に、響き渡った!
**<「ヘカトンケイルの、全乗組員へ告ぐ。貴様らの、指揮官、スペクターは、死亡した」>**
艦橋の、誰もが、驚愕した!
**<「今この時より、我々の部隊は、『エレクター=カイ』の、制御室を、完全に、掌握した」>** 艦橋の、メインスクリーンが、閃光を放った!それは、エレクター=カイ制御室からの、「ライブ」映像だった。そこには、ギデオンの、ロボットに、銃を向けられている、光景が!(それは、ライラが、創り出した、偽の映像だった)
**<「60秒後、我々は、エレクター=カイを、起動し、そして、艦外にいる、全ての、機械の群れに、命じる。貴様らを、攻撃しろ、と。貴様らは、自らの、兵器の味を、知ることになるだろう」>** 映像は、戦闘艦を、引き裂く、機械の群れの、クリップへと、切り替わった!
**<「貴様らの、選択肢は、二つ。おとなしく、降伏するか、それとも、自らの、ペットの、餌と、なるかだ。選べ」>**
本物の、艦長は、青ざめた、顔で、その映像を、見つめていた。彼は、キメラ研究室の方向から、聞こえてくる、戦闘音を、聞き、そして、敵が、彼の、最も、恐るべき兵器を、手に入れた、(偽の)映像を、見た。彼に、他に、選択肢は、なかった。
「こ…降伏する!」彼は、震える声で、命じた!「全乗組員、武器を、捨てろ!我々は、降伏する!」
その命令が、終わると、全ての警報は、静まり、そして、艦橋のドアが、開かれた。マキが、そこに、立っていた。その手には、血に濡れた、刀が、握られていた。彼女は、床に、崩れ落ちる、艦長を、見つめた。
「賢明な、判断だ」彼女は、平坦に、言った。
不可能に、見えた、任務は、戦闘と、犠牲と、そして、戦争史上、最大の、欺瞞によって、成功したのだった。
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艦長の降伏命令が、響き渡ると、艦「ヘカトンケイル」中の、警報と、戦闘音は、徐々に、静まり、気まずい、沈黙だけが、残った。
マキは、艦橋のドアに、静止したまま、立っていた。その手の、刀は、まだ、エネルギーの、オーラを、まとっていた。
「全ての、外部通信システムを、遮断しろ」彼女は、冷たい声で、命じた。「私の、確認キーで、降伏コードを、全艦隊に、送信しろ。全ての、兵器庫を、ロックしろ。抵抗する者は、誰であろうと、即座に、殺害して、構わん」
驚愕状態にある、艦橋の乗組員たちは、慌てて、その命令に、従った。死神のように見える、この女に、逆らう勇気を持つ者は、誰も、いなかった。
艦橋の、状況が、制御下に、置かれると、彼女の、目標は、即座に、変わった。彼女は、床に、崩れ落ちる、艦長に、向き直った。
「この艦で、最高の、医務室は、どこだ?」
艦長は、困惑して、顔を上げた。「い、医務室…第12層に、ありますが…」
マキは、近づき、彼女の、カタナの刃を、彼の首筋に、そっと、当てた。「私の、キャプテンは、死にかけている。もし、彼が、死ねば、この艦橋にいる、全員が、彼と共に、死ぬ。私を、案内しろ。今すぐにだ」
それは、脅迫ではない。冷たい、約束だった。
やがて、ギデオンと、サイラスが、艦橋に、突入してきた。「マキ!ここを、制圧したぞ!」「ギデオン、私と来い」マキは、命じた。「サイラス、この艦橋を、固めろ。誰一人、出入りさせるな」
信じられない、光景が、繰り広げられた。恐怖に震える、連邦の艦長が、「ゴースト」と、「巨人」が、意識のないライトキャプテンの体を、運ぶのを、先導しなければならなかったのだ。恐怖と、不信の目で、見つめる、何千もの、乗組員たちの、間を、通り抜けて。
彼らが、最も先進的な、医務室に、突入した時、連邦の、主任医官が、立ちはだかろうとした。「ここは、非武装地帯だ!貴様らに、権利は…」
彼の言葉は、ギデオンが、彼の顔に、重機関銃を、突きつけ、そして、マキが、彼の首に、刀を、置いた時、喉の奥へと、消えていった。
「彼は、深刻な、内出血と、プラズマによる、火傷を、負っている」マキは、平坦に、言った。「貴方は、彼を、救うか、それとも、私が、この医務室を、死体安置所へと、変えるのを、望むか。貴方から、始めてな」
主任医官は、青ざめ、そして、慌てて、彼の、医療チームに、叫んだ!「自動手術台を、準備しろ!プラズマと、安定剤、そして、ナノ縫合キットが、必要だ!急げ!」
--- **数時間後** ---
今や、完全に、革命軍の、制御下に置かれた、艦「ヘカトンケイル」の艦橋にて。ジャック司令官の、ホログラム映像が、メインスクリーンに、映し出された。**<「状況は、素晴らしいぞ、マキ。この艦を、奪取したことは、この戦争における、最大の、転換点だ」>**
「了解しました、司令官」マキは、返した。「艦『ヘカトンケイル』は、我々の、制御下にあります」
その時、艦橋のドアが、開かれた。体中に、包帯を巻き、患者服を着た、ライトの姿が、ライラに支えられながら、ゆっくりと、入ってきた。弱々しく、青ざめてはいたが、彼は、生き延びたのだ。
ジャックは、安堵の笑みを、浮かべた。**<「生者の世界へ、ようこそ、キャプテン。どうやら、君のパートナーは、ずいぶんと、『交渉上手』の、ようだな」>**
ライトは、艦橋の、静かな隅に立つ、マキを、見た。彼女もまた、彼を、見ていた。彼は、何も言わず、ただ、どんな言葉よりも、深い感謝を込めて、彼女に、小さく、頷いた。
彼は、前方の、スクリーンへと、向き直った。そこには、彼の、「新しい艦」の周りに、陣形を組む、連合艦隊が、映し出されていた。セクターで、最も強力な、戦闘艦。この日の、勝利は、完全なものだった。




