第一章2
二人の男は顔を見合わせ、頷くと、意識のないライトの体を担ぎ上げた。
ジャケットを着た男の体を運ぶのは容易ではなかったが、彼らは手慣れた様子でそれを行い、これが初めてではないことを示していた。
「こいつは何者だ?」彼らが店の暗い裏路地を移動し、時折差し込む連邦の偵察艇の光を避けながら、サトウが尋ねた。
「分からない。でも、私を助けてくれた」エララは答えた。彼女の視線は、まだ周囲を警戒していた。「でも、兵士たちが彼のことを『ライト』って呼んでた…元第7特殊強襲部隊の」
その言葉に、ライトを担いでいた屈強な男は、わずかに動きを止めた。
「第7部隊だと…連邦の血塗られた手先じゃないか」
「今はもう、そうじゃないかもしれないでしょ」エララは言い返した。「じゃなきゃ、なんで仲間割れなんかするの」
その問いに答える者はいなかった。彼らは静寂の中を進み続け、電子ゴミの山の後ろに隠された鉄の扉を抜け、世間の目から隠された地下のクリニックへと降りていった。
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**地下クリニックにて**
ライトは、消毒薬と微かな血の匂いが漂う部屋の、古い手術台の上に寝かされた。
汚れた白衣を着た白髪の老人が現れた。彼は、反乱分子を助けたために連邦に免許を剥奪された、腕利きの外科医、ドクター・リヒターだった。
「出血は多いが、幸いにも重要な臓器は外れている」リヒターは、手術器具を準備しながら、淡々と言った。
「だが、傷は確実に感染している。彼の体が耐えられるかどうかだ」
手術は緊張の中、進められた。
エララは、不安な気持ちで外で待っていた。一時間近くが過ぎ、リヒターが小さな金属トレーを持って出てきた。
「ナイフは取り除いた。傷も縫合済みだ。後は、意識が戻るのを待つだけだ」
老医師はそう言って、小さな光る物体を挟んだ鉗子を彼女に見せた。
「だが、彼の体をスキャンしている時に、おまけを見つけてな。うなじのところだ」
それは、皮膚の下に埋め込まれた、極小のマイクロチップだった。
「これは…」エララは呟いた。
「連邦の旧式軍用データポートだ」リヒターは答えた。
「機能は停止しているが、中のデータは残っているかもしれん。この男、我々が思うより多くの秘密を抱えているようだぞ」
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**数時間後**
ライトはゆっくりと意識を取り戻した。
彼が最初に聞いたのは、微かな話し声だった。
「…どうやって信用するんだ!奴は元第7部隊だぞ、エララ!」
一人の男の声が、不満げに響いた。
「でも、彼は私の命の恩人よ、リーダー!それに、皆の前で連邦と戦ったじゃない!」エララの声が言い返した。
「それは芝居かもしれないだろう!今、連邦はあらゆる形でスパイを送り込んできている。危険は冒せない!」
ライトは目を開けようとした。彼のまぶたは鉛のように重かったが、ついに彼はそれを成し遂げた。
目にした光景は、古い金属の天井で、一つの電球が点滅していた。
彼は見慣れないベッドの上に横たわっており、腹部の痛みはまだ残っているが、かなり和らいでいた。
体を動かそうとすると、丁寧に包帯が巻かれていることに気づいた。
横に目をやると、ベッドの脇の椅子にエララが座っていた。
彼女の手には、バーで持っていたような給仕トレーではなく、手際よく手入れしているコンパクトなピストルが握られていた。
太もものホルスターは、伊達ではなかったのだ。
彼女は彼の視線に気づいたのか、顔を上げて目を合わせた。
彼女の眼差しは複雑だった。心配、感謝、そして不信感が入り混じっていた。
「どうやら…戦場で仲間を見殺しにした人間は、自分も簡単には死なないみたいね」
エララが最初に口にしたのは、その言葉だった。彼女の声は平坦だったが、その言葉はリヒター医師のメスのように鋭かった。
エララの鋭い言葉が、地下室の静寂を切り裂いた。
ライトは、彼女の言葉よりも何倍も激しい、手術の傷の痛みを感じていた。
彼はゆっくりと瞬きし、天井で点滅する光に目を慣らそうとした。
衰弱のため、彼は言葉を発することができず、ただじっと横たわり、ベッドの足元に立つ人々を見つめることしかできなかった。
エララの他に、リヒター医師、修理店のサトウ、そして彼を運んできた二人の屈強な男がいた。
全員が、彼を一つの目で見つめていた。その視線は、不信感に満ちていた。(こいつらは…)ライトは心の中で思った。(…政府が言っていた反乱グループか…サム解放戦線?)
緊張が高まる中、鋭いサイレンが鳴り響き、部屋の中央にある古いホログラムプロジェクターが勝手に起動した。連邦の放送局の女性アナウンサーの映像だった。
彼女の顔は、明らかに緊張していた。
『…全サン・セクター植民地の市民へ、最高レベルの緊急警報。現在、所属不明の機械化部隊が我々の宇宙領域に侵入しました。初期報告によれば、奴らは攻撃的な行動を取り、全生命体の破壊を目的としていることが確認されています』
ホログラム映像は、連邦の戦闘艦を八つ裂きにする機械化戦闘機の映像に切り替わり、そして、小惑星が「喰い尽くされ」、地表が黒く変色していく映像へと移った。
『…市民の最大限の安全を確保するため、ブラッドムーン連邦司令評議会は、以下の非常措置を発令します。第一に、全植民地セクターの市民は、惑星間の移動を一切禁止し、住居に留まること。第二に、異常な物体または機械化部隊を発見した場合、独断での戦闘または反撃を禁じ、連邦に通報し、増援を待つこと。第三に、情報は連邦の公式チャンネルからのみ得ること』
ニュースは終わったが、映像は切れず、屈強で友好的に見える連邦兵のプロパガンダ映像に切り替わり、「連邦を信じよ。我々が、あなた方を守る」というキャッチコピーが表示された。
放送が終わると、サトウが悪態をついた。「守るだと!奴ら、明らかに好機と見てやがる!」
「これは、戒厳令そのものじゃないか…」屈強な男の一人が、苦々しく言った。
「あの機械どもを口実に、俺たちを完全にロックダウンして、誰も身動き取れないようにする気だ」
部屋にいる全員が、驚愕と怒りの表情を浮かべていた。
エイリアンの脅威を恐れているのではなく、この状況を利用して、彼らをさらに厳しく管理し、抑圧しようとする連邦の行動に対してだった。
その混乱の中、ライトはありったけの力を振り絞り、体を起こそうとした。
傷の痛みが全身を走り、彼は再び意識を失いかけた。
しかし、混乱とパニックの方が勝っていた。(ここはどこだ…連邦に捕まったのか?)恐怖が心に押し寄せる。
過去の過酷な戦場の光景が、目の前の古い金属の天井と重なる。
彼は毛布を押しやり、ベッドから降りようとした。その体は、酔っ払いのようにふらついていた。
ガチャン!
部屋の扉が開き、エララが仲間たちと共にちょうど入ってきた。彼女はライトの体勢を見ると、すぐに駆け寄った。
「やめて!馬鹿なことしないで!」彼女は叫んだ。「そんな体勢になったら、縫ったばかりの傷が開いちゃうでしょ!今すぐ横になって!」
エララは彼の体を支えた。
彼女の声は厳しかったが、その手つきは、注意深さに満ちていた。
抵抗する力もないライトは、彼女ともう一人の男に支えられ、素直にベッドに戻った。
彼は、自分を助けてくれた女性を見つめた。
先ほど、言葉で彼の心を抉ったのと同じ女性を。
混乱が、再び彼の頭の中を駆け巡った。
エララの、厳しくも心配の念が込められた声が、ライトのパニックを一時的に鎮めた。
彼は、彼女ともう一人の男に支えられ、素直にベッドに戻った。
しかし、彼の視線は、再び心を乱す光景を捉えた。
リヒター医師、サトウ、そして二人の屈強な男…エララを除く部屋の全員が、手に武器を握っていた。
密造ブラスター、空中で振動するヴァイブロブレード、そして古いながらもまだ使えるライフル。
銃口は直接彼に向けられてはいなかったが、その準備態勢は、叫び声のように明確だった。
(奴らは俺を助ける気じゃない…殺す気だ)その考えが、ライトの脳裏をよぎった。彼は、喉に粘りつく唾を飲み込み、恐怖を抑え、楽観的に考えようとした。
「あ…りがとう…助けてくれて」ライトは言った。彼の声は嗄れており、か細かった。
「どうやってお礼をすればいいか…」
彼が言い終わる前に、最も血の気の多そうな屈強な男が、素早くベッドの脇に立った。
「礼だと?」彼は冷たく言い、装甲に覆われた手袋をはめた手で、ライトの腹部の包帯を強く押さえつけた!
「ぐあああああ!」
ライトは絶叫した。
雷に打たれたかのような激痛が全身を走った。彼の目は見開かれ、知らず知らずのうちに目尻から涙が流れた。
「真実で礼をしろ!」
男はライトの顔に怒鳴りつけた。「お前は連邦のスパイだろう!俺たちに潜入するために送り込まれたんじゃないのか!」
「サムの民が滅びたのは、お前の軍のせいじゃないのか!」
彼は続けた。その眼差しには、憎しみが燃え盛っていた。「俺の兄貴は、お前の『第7部隊』が第5セクターを『解放』した日に死んだんだ!感謝の言葉だけで、全てが帳消しになると思うな!」
ライトは、顎が震えるほど固く歯を食いしばった。
彼は否定したかった。スパイではないと叫び返したかった。
しかし、それが無駄であることを、彼はよく知っていた。このような状況では、真実も哀れな言い訳にしかならない。そして何より、
彼自身にも答えがなかったのだ。(第7部隊…第5セクター…)フルフェイスのヘルメットを被った彼の部隊の兵士たちは、決して素顔を明かさなかった。
彼は、その日、そこにいたのかもしれない。
彼が、この男の兄を殺した引き金を引いたのかもしれない。
彼には、何も答えられなかった。
震える唇から漏れた、ただ一つの言葉を除いては。
「…すまない」
その言葉は、まるで火に油を注いだかのようだった。
男は、残忍に笑った。「すまない?お前の『すまない』で、俺の仲間が生き返るのか!俺たちの故郷が元に戻るのか!」
彼は、固く握りしめたもう一方の手を振り上げた。
「真実を言わない気か…いいだろう!」
しかし、その拳がライトの顔に叩きつけられる前に…
「もうやめて、ガー!」
エララの、鋭い声が響いた。
彼女は、ガーとライトのベッドの間に割って入った。その手には、先ほど手入れしていたピストルが握られていた。
それは誰にも向けられてはいなかったが、その固い握り方は、明確な意思表示だった。
「どけ、エララ!お前には関係ない!」ガーは怒鳴り返した。
「彼は私の命の恩人よ!」エララは即座に言い返した。
「そして今、彼は私の保護下にある!情報を聞き出したいなら、彼が死にかけていない時にやりなさいよ!今彼が死んだら、何も得られないわ!」
「彼女の言う通りだ」
リヒター医師が、静かに付け加えた。「私の患者を休ませてやれ。少なくとも、傷が塞がるまではな」
ガーは、誰も自分に同意しない皆の顔を見渡し、不満げに拳を下ろした。「分かったよ…」
「だが、こいつが裏切り者だと分かったら、俺がこの手で始末してやる」
彼はそう言い残し、もう一人の仲間と共に、足音荒く部屋を出て行った。
部屋には、ライト、エララ、リヒター医師、そしてサトウだけが残された。
ライトは、激しく息をしていた。冷や汗が噴き出している。
彼は、自分をかばってくれたエララを見つめた。彼女もまた、まだ彼を信用していないというのに。彼の今の状況は、
まさに虎口を逃れて竜穴に入る、というものだった。




