第二章 28
「全員聞け!」ライトは、決然とした指揮官の声で叫んだ。「元の計画は失敗した。だが、我々はもっと良い計画を見つけた!」
彼は、徐々に彼らを引き寄せる「ヘカトンケイル」を指差した。「あれはただの指揮艦じゃない。奴らの『心臓』だ!エレクター=カイも、そして、おそらくは『スペクター』も、あの艦にいる!」
「我々は逃げない」彼は、全員を驚愕させながら続けた。「奴らに、引きずり込ませる!」
「正気か!」ギデオンが怒鳴り返した。
「聞け!」ライトは言い返した。「もし我々がスペクターを仕留め、あの艦を奪取できたとしたら!?我々は、技術も、最強の戦闘艦も手に入れ、奴らの戦力を完全に無力化できる!」
それは、最も無謀で、最も危険で、そして、一度に戦争をひっくり返す唯一の方法かもしれない、計画だった。
「これが我々の新しい任務だ。『トロイの-木馬作戦、フェーズ2』」ライトは宣言した。「ドッキングに備えろ。我々は、狩られる者から、狩る者へと変わる!」
チームの全員が顔を見合わせ、そして、その絶望の眼差しは、狂気の輝きへと変わった。彼らは、彼らのキャプテンを、信じていた。
傷ついた「ナイトフォール」は、「ヘカトンケイル」の巨大なハンガーベイへと、ゆっくりと引きずり込まれていった。後部ランプが、徐々に下りていく。その先に広がるのは、彼らを待ち受ける、連邦の上級兵士の軍隊。そして、その軍勢の中心に、静かに佇む、第7部隊の装甲服をまとった影がいた。不気味なほどの、殺気を放って。「スペクター」。本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
ガキン!
「ナイトフォール」の後部ランプが「ヘカトンケイル」のハンガーベイの床に激しく叩きつけられた。その先に広がるのは、彼らを待ち受ける、連邦の上級兵士の軍隊。そして、その軍勢の中心に、静かに佇む、第7部隊の装甲服をまとった影がいた。彼らがこれまで出会ってきた、他のどの第7部隊兵よりも、冷たく、そして古い、殺気を放って。「スペクター」。
「幻影」の五人は、艦を降りた。彼らは、降伏のポーズで、ゆっくりと手を上げていた。しかし、その全員の眼差しは、いつでも爆発する準備のできた、決意に満ちていた。
「ようやく会えたな、『裏切り者』」スペクターの声が、ヘルメットの通信機から響いた。それは、合成音声ではなく、何の感情も含まない、冷たい人間の声だった。「自らの足で、我が巣へと入ってくるとはな。その勇気には、感心する」
「我々は、死ぬためにここに来たのではない」ライトは平坦に返した。「全てを終わらせるために来た」
彼は、チームに最後の合図を送った。
「ライラ、ギデオン、サイラス!」ライトが叫んだ!「奴らに地獄を見せてやれ!」
命令と同時に、計画が始まった!ギデオンは、にやりと笑い、艦のランプに仕掛けておいた小型爆弾を起爆させた!ドォン!ランプは爆発し、金属片を四方八方へと撒き散らした!それは、即座に混乱と目くらましを作り出した!
ライラが最寄りのコントロールパネルへ突進し、彼女の装置を母艦のシステムへと接続した!「この船を、頭痛で沈めてやるわ!」
ギデオンとサイラスは、その隙を突き、混乱する警備兵に攻撃を開始した!彼らは、防御線を形成し、全ての注意を、ライトとマキから、逸らした!
「頭を叩きに行け!」ギデオンが叫んだ。「残りはこっちで引き受ける!」
警備兵の大部分が、その混沌に対処するために散開した。ただスペクターだけが、静かに立っていた。
「愚かな」彼は呟き、恐るべき速さでライトとマキに襲いかかった!2対1の戦いが始まった!
それは、ライトが経験したことのない戦いだった。彼とマキの全ての動きが、完全に「読まれて」いた!ライトが死角から撃とうとすれば、彼が引き金を引く前に、スペクターは装甲化された腕でそれを弾いた!マキが背後から攻撃しようとすれば、スペクターはまるで背中に目があるかのように、紙一重で彼女の刃をかわした!
「短期戦闘予測演算システム!奴は、俺たちの動きを0.5秒前に見ている!」囚人の言葉が、ライトの頭の中で響き渡った!
「これじゃ、らちが明かん!」ライトは、プライベートコムリンクでマキに言った。「奴を、攻撃できない!」
「ならば、攻撃するな」マキが、短く返した。「消耗戦に、引きずり込め。奴のシステムを、過負荷にさせるのだ!」
ライトは、即座に理解した。(もし、お前が、奴を、90秒以上、高速かつ、連続的な戦闘に、引きずり込むことができれば、奴のシステムは、オーバーヒートし、一時的に、『クラッシュ』する。お前には、わずか3秒の時間がある…)
「計画変更!」ライトは、マキに叫んだ!「隙を探すな!奴を、常に『動かし』続けろ!90秒、時間を稼ぐんだ!」
今や、戦闘の目的は、完全に変わった。「勝利」のためではなく、「生存」のための戦いへと。
ライトとマキは、即座に、攻撃パターンを変えた。彼らは、もはや急所を狙わず、スペクターにあらゆる方向から、狂ったように、弾丸と刃を、浴びせかけた!
それは、最も激しい、死の舞踏だった!ライトが遠距離から圧力をかけ、マキが近距離で衝突する。二人は、絶え間なく、位置を入れ替え、スペクターに、一つの目標に、集中する暇を、与えなかった!
秒数が、永遠のように過ぎていく。20秒…40秒…60秒…ライトとマキの体に、疲労が蓄積し始める。しかし、彼らは、止まらなかった!
だが、スペクターは、依然として、完璧に、動き続けていた。
75秒…80秒…ライトが、しくじった!彼は、スペクターに脇腹を蹴られ、吹き飛ばされた!85秒…マキが、彼の前に立ちはだかったが、地面に叩きつけられた!
状況は、絶望的だった。90秒という時間は、あまりに長かった。
しかし、89秒目、スペクターが、床に倒れるマキに、とどめを刺そうとした、その時。
ピッ!
彼のヘルメットから、小さな電子音が鳴った。彼の動きが、ほんの一瞬、止まった。
89秒目。スペクターが、負傷したマキに、プラズマピストルの引き金を引こうとしていた。敗北と死が、ほんの一瞬先にあった。
しかし、その時、ピッ!スペクターのヘルメットから、甲高い電子音が鳴り響いた。彼の全ての動きが、停止した。彼の光学レンズの赤い光が、激しく明滅し、そして、一瞬、消えた。彼の、予測演算システムが、「クラッシュ」したのだ!
3秒。永遠の3秒が、始まった!
ライトとマキに、言葉は不要だった。彼らの体は、本能のままに、動いた!
1秒目: 地面にいたマキは、逃げるのではなく、その機会を、利用した!彼女は、スペクターの膝裏を、力強く蹴り上げ、その完璧なバランスを、崩した! 2秒目: 離れていたライトは、ピストルを構えた!彼の頭の中には、ただ一つの、明確な目標だけがあった!彼は、引き金を引いた!狙うは、装甲の厚い心臓や頭部ではない。この型番の装甲服にあることを、彼が、よく知る、弱点。右肩の、「補助動力装置」だ! 3秒目: 高出力のプラズマ弾が、スペクターの肩アーマーに、直撃した!火花が爆ぜ、スペクターの体は、衝撃で前のめりになり、膝から、崩れ落ちた!
そして、3秒は終わった。
スペクターの光学レンズの赤い光が、再び、灯った。予測演算システムは、再起動した。だが、それは、もはや、以前と同じではなかった。スペクターの右腕は、力なく、垂れ下がっていた。
今や、「未来」を見ることができた「神」は、彼らと、同じレベルへと、引きずり降ろされたのだ。
しかし、それでも、スペクターは、スペクターだった。彼は、「ゼロ・ナイン」。第7部隊の、伝説。
彼は、ゆっくりと、立ち上がり、右手の、重いライフルを、捨て、そして、左手で、腰から、ヴァイブロブレードの、コンバットナイフを、引き抜いた。
「よくも…」彼の声が、再び、響き渡った。しかし、今回は、冷徹さではなく、本物の、「怒り」が、込められていた。「…私を、本気に、させてくれたな」
今のスペクターは、以前よりも、遥かに危険だった。彼は、もはや、コンピュータシステムで戦うのではない。彼が、その人生で、培ってきた、純粋な本能と、生の経験だけで、戦おうとしていたのだ!本当の戦いは、まだ、始まったばかりだった!
ライトとマキは、即座に、体勢を立て直した。今や、彼らが対峙しているのは、予測可能な機械ではなく、真の、「獣」だった。
スペクターは、もはや、冷静には、動かなかった。その一歩一歩は、激情に満ち、その全ての攻撃は、狂乱した破壊力に、満ちていた!彼は、残された片手のヴァイブロブレードを、嵐のように、振り回した!
たとえ、ライトとマキが、全力で、連携しても、その狂気に、対処することは、極めて困難だった。
「クソが!速すぎる!」ライトは、空気を切り裂く刃を、避けながら、悪態をついた。
ライトが体勢を崩した、その隙を突き、スペクターは、即座に、マキを、攻撃した!彼女は、辛うじて、その刃を、刀で防いだが、その凄まじい衝撃に、数歩、後退させられた!
スペクターは、その好機を、逃さなかった。彼は、追撃し、そして、マキの、膝裏を、力強く蹴り、彼女を、膝まずかせた!そして、その瞬間、彼のナイフが、振り下ろされた!
ザクッ!
「ぐっ!」マキが、苦痛に、声を上げた。刃は、彼女の軽装甲を切り裂き、その上腕に、深い傷を、刻んだ!
スペクターは、とどめを刺すために、ナイフを、振り上げた。しかし、その瞬間、ライトが、彼らの間に、割り込んだ!それは、攻撃ではない。その攻撃を、自らの体で、「受け止める」ための、突進だった!
ズブリ!!!
スペクターのヴァイブロブレードが、ライトの肩アーマーを、柄まで、深く、貫いた!
「アアアアアア!」ライトは、激痛に、咆哮した!彼は、ありったけの力を込め、スペクターのヘルメットを、殴りつけ、彼を、後退させた!
ライトは、膝から、崩れ落ちた。肩からの出血が、止まらない。彼の片腕は、もはや、動かなかった。彼らの状況は、完全に、絶望的だった。




